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 しかし、ムーの言う通りなのだ。ムーが言う通り彼らはクワド島へ行き、宙船に乗って、『滅亡と再生の大陸』にあるアルトフールへ行くだけなのだ。金の心配は当面必要はないだろう。
 ルルを仲間にして、ハワイ島での最後の夜を過ごす。
 最後の夜はホテルの屋外ラウンジで豪華ディナーを食べた。ハワイ島でとれる新鮮な海の幸や果物、豪華な肉料理などに舌鼓を打ち、終始リラックスした時間を過ごすことが出来た。途中ハワイ島伝統の踊り『フラ=ダンス』が行われ、飛び入りでニタやディレィッシュも参加して、実に楽しい時間となった。ディナータイムの最後には沢山の打ち上げ花火が夜空を彩鮮やかに覆った。
 ドーンと腹に響く音を上げて、派手に散り行く花火を見ながら、クグレックはこの平穏を幸せに感じた。
「クク、花火、綺麗だな。」
 ハッシュが話しかけて来た。
「うん。ずっと見てられる。」
「まさかクク達とこんな風に過ごすことになるとは、思わなかったな。」
「どういうこと?」
「俺達はポルカで出会ったけど、まさか、一緒に旅をするとは思わなかった。そもそも、国を追い出されるなんてことも思ってはいなかったけどな。」
 と、言うハッシュにクグレックは押し黙った。ハッシュたちトリコ兄弟の平穏をぶち壊したのはクグレックの黒魔女としての力なのだ。彼らが楽しんで過ごしているのならば良いのだが、本心はどう思っているのか分からない。
「でも、こういうのも意外と悪くないもんだな。楽しい。トリコに居た時もそれなりに外遊はしていたけど、自由に過ごせたわけではないからな。常に仕事の一環だった。山に登ったり、ドラゴンに遭ったり、魔物をやっつけたり、見知らぬ土地へ足を踏み入れたり。全部自分の足だ。面白いもんだな。」
 まるで少年のように目を輝かせてハッシュは話を続ける。
「最初にお前たちに会った時は、ただの子供が危ないな、と思ってたけど、今は出会えて良かったと思うよ。生きてるって感じがする。この先何が起こるか分からないけど、頑張っていこうな。」
「うん。」
 クグレックは静かに頷く。
 ドーンという重低音が連続する。クグレックも言葉を返したかったが、花火がその隙を与えない。
 やがて、二人で話していることに気がついたニタが二人の間に割って入って来た。
「むむむ、ハッシュ、ククに変なこと、吹き込んでないでしょうね!」
 と言ってクグレックの膝の上にうつぶせになり、ハッシュを睨み付けるニタ。
「ニタ、もう、大丈夫だってば。」
 度々こうやってニタは無理矢理ハッシュとクグレックの間に入ってくるものだから、クグレックもイラッとして、じゃれついて来るニタの頭を少し強めにぽんぽんと叩いた。
「たーまやー。花火が上がる時にたーまやーって言うんだって。」
 ニタが言った。
「なんで?」
「知らない。」
 その時、再び打ちあがる音が連続する。夜空に炸裂する光の花。これでもかと花火が連続で打ち上げられ、ニタは狂ったように「たーまやー」を連発した。クグレックもニタの真似をしようと花火が打ちあがるタイミングを計るが丁度花火が途切れてしまった。が、一際大きい重低音が放たれると、今度は今までの2倍くらいの大きさの大輪が夜空に広がった。
「た、たーまやー」
 クグレックはこの言葉の意味を知らないが、何となく気分が高揚してくるのを感じた。
 もう一度言ってみたいとクグレックは思ったが、花火は今ので最後だったらしい。再び夜空に大輪の花が浮かぶことはなかった。
 やがて観客たちは花火の時間が終了したことを理解したのだろう。再び元のディナー会場へと戻って行った。


********

 そして翌日。一行はハワイ島を後にした。
 再び船の旅である。
 やはり、船は黒雲に襲われた。もともとは年に1回あるかないかの黒雲だが、おそらくクグレックの魔の力が呼び寄せているのだろう。
 しかし、行きとは異なり、クグレックも安定して魔法が使えるようになったし、守りの名手のルルもいる。船はバリアによって守られ、黒雲とその魔物はあっという間に駆逐された。船乗り達からは大変賞賛され、就航中の用心棒をやらないかと誘われたが、本当にお金が必要になった時に考えておくということにして保留にした。
 行きよりも安全な船の旅だったが夕日が沈むころ、船内がざわめいた。
 どうやらどこかで船が難破したらしく、ボートの様な小型の木船に乗っていた海難者を救助したらしい。救助されたのは14歳くらいの少年と少女だった。少年の方は意識がなく、少女の方は衰弱しきっていたが意識はあった。
 クグレックとニタも救助された二人のことが気になり、甲板に上がってみたところ、その意外な人物に吃驚した。
「え、あれ、クライドじゃん。」
 と、ニタが言う通り少年の方はあのクライドだった。そのため、先に甲板に出ていたディレィッシュが焦った様子で少年の容体を確認していた。さらにニタは少女を見て眉根を寄せる。ニタは少女をどこかで見たことあるのだが、それはどこなのか思い出せないのだ。
 ニタとクグレックは少女に近付く。すると、それに気が付いた少女は、小さく微笑みを浮かべた。
「あぁ、ニタちゃん…。港町での夜ぶりね…。」
 と、少女に言われて、ニタはハッとした。
「あの時の女!?」
 ディレィッシュがアルドブ熱に侵された際に、白魔女の隠れ家に関する情報をニタに教えてくれた女性だった。その際にニタは彼女からしこたま酒を飲まされ、酷い酩酊状態になってしまったが、彼女のことを思い出すことが出来た。
「どうしてここに?」
「…ちょっとね…。でも、…あなたたちに会えて良かった…。」
 少女はそういうと、安心したのか突然意識を失い、眠りについた。
「…一体どういうこと?あの女、随分と若返っちゃったみたいだし、クライドもいるしなんだかよくわかんない…。」
 そう呟くニタに、クグレックも同じ気持ちだった。
 クライドは白魔女に実験体にされ、少女と同様に若返ってしまったうえ、記憶を失くしてしまっていた。あれからまだ1週間が経つか経たないかというのに、白魔女とクライドの間で一体何が起きたのか。
 突然の出来事にただただびっくりするばかりの一行はとりあえず少女と少年の目が覚めるのを待つこととなった。




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 2019_11_03



********


――なんで皆私のこと嫌いなの?

――ククはいい子なのにね。村の人達はなかなか気づいてくれないんだ。でも時間さえかければきっとみんなククのことを好きになってくれるから。大丈夫だよ、クグレック。

――みんな忌まわしい魔女って言うの。私おばあちゃんよりも全然魔法使えないのに、どうして魔女って言うの?

――そうだねぇ、それはおかしいねぇ。

――魔女って言うだけで虐められるなら、私魔女になりたくない。

――そうかい。それならそれでいいんだよ。無理にやりたくないことをやらなくたっていいんだよ。こうやってシチューを作ったり、お花を育てたり、縫物をしたりするだけでも良いんだよ。

――わたし、そっちの方が良い。クッキーとかパイとかも一人で作れるようになりたいな。そしたらおばあちゃんも食べてね。

――おやおや、ありがとうね。


 クグレックは目を覚ました。ハワイ島のホテルのスイートルームのふかふかのベッドの上だ。
 身体を起こして、ニタを探してみるがどこにもいない。
 ムーは無事にルルの元へ辿り着いたのだろうか。クグレックは不安になり、すぐに身支度を整えようとした。が、サイドボードにニタからの書置きが残っていた。

『ククへ
 無事にルルと接触することが出来たよ!
 ディッシュもムーも皆元気になって、みんなで海で遊んで来るから、起きたらフィンに電話してみて。お腹空いてたらご飯も用意してくれるって。
 ニタより』

 クグレックはほっと安堵のため息を吐いた。無事にムーはルルの元へ辿り着くことが出来たのだ。
 生死をかけた賭けを行ってしまったが、皆無事で本当に良かった、とクグレックは心の底から思うのだった。
 それにしても、随分懐かしい夢を見た。小さいクグレックと祖母が対話していた。
 これはクグレックにも覚えがある話だった。
 クグレック自身から祖母に魔女になりたくない、と言ったのだ。だから、その時以降祖母は積極的にクグレックに魔法を教えることはしなかった。それ以前に勝手に祖母の魔導書を読み、習得した魔法もあったが、祖母から教わった魔法は殆どないと言っていい。
 今考えればもったいなかった。高名な魔女であった祖母から魔法を教わっていたら、今の旅がもっと楽になったのかもしれない。薬の作り方は教わっていたが、薬を煎じる機会は今はない。
 そもそも祖母はクグレックが魔法を使うことに関してはあまり良く思っていなかったように思えた。祖母はクグレックを『普通の女の子』にしたがっていたように、今では思えた。
 と、その時、クグレックのお腹がぐうとなった。外を見れば明るい。最低でも1日は眠り続けていたのだろう。生きている限りお腹は空く。
 クグレックはコンシェルジュであるフィンに電話し、食事を依頼した。
「おはようございます。無事目を覚まして良かったです。」
 そう言ってフィンが持って来てくれたのはおかゆと果物だった。
 クグレックはのんびりと席についておかゆを口にした。
「2日間も眠ってたので、心配してましたよ。本当に無事で良かったです。」
「2日間も。」
 クグレックが思っていた以上に眠っていたようだったので、吃驚した。それはお腹が空く。
「昨日は皆さんクグレックさんのことを心配してて、全く外に出なかったんですよ。このままだと精神も摩耗してしまうと思って、気晴らしに皆さんには外に出てもらいました。一応皆さんにはクグレックさんが目覚めたことはお伝えしたので、時期に戻って来ると思いますよ。」
 クグレックは起き掛けの頭でぼんやりとしながらフィンを見つめる。ふわふわとしたセミロングのパーマはおしゃれで可愛い。普通の女の子として過ごしていたら、クグレックもこんなふうにお洒落を楽しんだりしたのだろうか。
 フィンはにっこりと微笑むと、寝起きでぼさぼさのクグレックの髪を一束取って手櫛で梳いた。故郷の村にいた時は、耳の下あたりの短さだったクグレックの髪の毛も今や肩に着くぐらい伸びて来ていた。
「ご飯食べたら、髪、整えましょうか。クグレックさんの髪の毛、真っ黒でつやつやしていて綺麗ですよね。」
「え、ぜんぜん。」
 目の前の美人から言われてもクグレックはあまり嬉しくなかった。
 そんなクグレックの気持ちを察してかフィンは少しだけ寂しそうに微笑んだが、クグレックが食事を摂り終えると、フィンは宣言通り寝ぐせでぼさぼさのクグレックの髪を整えた。


********

 ムーの友人、基い、恋人であるカーバンクルと呼ばれる種族のルルは緑色のふかふかした毛で覆われ、猫のようにすらりとしたしなやかな体躯を持ち、額には紅い宝石が埋まっていた。大きさは大型犬ほどあり、ニタよりも少し背が低いくらいだった。ニタと異なるのは二足歩行が得意ではなく、四足の方が得意だが、後ろ足で立ったり座ったりすることは出来るので動き方はウサギに似ている。耳はニタと同じようにぴんと立っていて大きい三角形型。また、尻尾は狐のように長くモフモフしていた。瞳は茶色がかった黒色で可愛らしい。ディレィッシュは「少しふっくらとした緑色のフェネックギツネ」と言っていた。
「どうもおせわになりました。」
 と後ろ足で立ったまま頭を下げるルル。勿論言葉は喋れる。傍にはぴったりとムーが寄り添う。
「ムー、お前、彼女がいたんだな。隅に置けない奴め。そりゃぁ、あんなに一生懸命になるわな。」」
 と、ディレィッシュがニヤニヤしながら言った。
「…もう。」
 ムーは少し照れた様子でディレィッシュから視線を逸らす。
「もう、ムーってば、ムーもちゃんとお礼を言うの。ほら。」
 ルルは無理矢理ムーの頭を掴んで下げさせる。ムーは突然のことに慌てた様子で「ありがとうございます」と言った。どうやらムーはルルの尻に敷かれているらしい。
「私、ムーから話は聞きました。皆さんは『滅亡と再生の大陸』に向かわれるって。あんな醜態をお見せしてしまいましたが、こうやってムーと再会できたのは、ムーの力だけではないことは知っています。皆さんには感謝しても仕切れないくらいです。ぜひ私の力を皆さんの旅に役立てていただければと思います。」
 と、ルルは一息で話した。
「…ルルがいれば心強いですよ、本当に。」
 ムーが付け加える。
「確かに、あのバリアや偽物の壁とか、凄かったもんね。あ、ところで、ルルは一体何であんなに怯えていたの?」
 ニタが尋ねた。
 ルルとムーは互いに目くばせをしてお互いに頷き合うと、ルルの口から返事が返って来た。
「…ムーとは『滅亡と再生の大陸』で離ればなれになってしまって、私、ずっとムーのこと探してたんです。でも、途中で変な人に出会って執拗に追いかけられてしまって、挙句の果てに幻覚まで見せられて…。で、パニックになったまま海を飛びぬけて、辿り着いたのがこのハワイ島だったのですが…。」
「変な人?」
「そう、変な人だったんです。おかっぱで袴を着た女の子だったんですけど、銀色の綺麗な竜と体中が腐ってボロボロになった沢山の生物の群れを引き連れていたんです。本当に不気味で不気味で。どんなに逃げても逃げても疲れることなく追い掛け回されて、でも、私は疲れちゃったから、危うくその腐った集団に食べられてしまうところだったんですよ。なんとか逃げ出せたんですけど、その変な人に呪いをかけられてしまったみたいで、何度も何度も殺される夢を看させられました。終わりのない悪夢って怖いですよね。」
「『滅亡と再生の大陸』ってそんな怖いところなの?突然執拗に襲われてしまうような…。」
「…まぁ、魔物はいますけど、あれは異常でしたね。だから怖かったんですよ。」
 ぶるぶると体を震わせるルル。
 と、ディレィッシュが呟いた。
「…おかっぱで袴を着た女の子、…ちょっと気になるな。」
「俺も、思った。」
 ハッシュが同意した。クグレックも『おかっぱで袴を着た女の子』を考えてみるが、御山で出会ったあの少女のことしか思い出せない。そう言えば、あの少女は銀色の水龍を呼び出してクグレックたちを襲った。が、一方でクグレックに助言を与え続けてくれたのも彼女だった。
「あの人、ずっと『お前が邪魔だお前が邪魔だ黒魔女に与するな黒魔女に与するな我らの仲間に我らの仲間に』って言ってきて、本当に怖かった。」
「『黒魔女』を知ってるってじゃぁ、やっぱり、あの時の…?」
 どうやらあの少女で間違いないらしい。
「得体のしれない存在だが、クグレックを狙っていること自体は間違ってなさそうだ。」
「一体何で…?」
 おかっぱの少女は黒魔女の力を狙う『魔』の内の一人なのか。
 だが、彼女はアルトフールを知っており、そして、クグレックがアルトフールに向かうことも知っている。実際、御山では彼女がクグレック一人をアルトフールに連れていこうとして、クグレックがそれを拒否してしまったために、狂暴化してしまった。
 考えても考えても謎は深まっていくばかりである。
「皆さん、でも、大丈夫です。皆さんもいるし、ムーもいるし、私はもう何も怖くはありません。皆さんのことは私が守りますから!」
 と、ルルが言った。可愛らしい見た目をしているというのに、随分と頼もしい。
「さ、皆さん、ムーから聞きましたが次の目標は海底神殿ですよね。あそこ、なかなか部外者には厳しい土地らしいですけど、フィンさんがいれば大丈夫ですよね。」
 と、ルルが言った。ムー以外は驚いてフィンの方を見た。
「えぇ、既にその手続きも済んでいます。」
 フィンはにこやかに答えた。
「どゆこと?」
 ニタの問いにムーが口を開いた。
「海底神殿があるのはクワド島ってところなんです。まぁ、僕達みたいな部外者が簡単に海底神殿に入れるかどうかも分からないし、そもそもクワド島までの船だって出てないから、フィンに連れていってもらおうと思って。フィンさんはクワド島生まれで、航海術も心得ているそうなので、お願いをしちゃいました。」
「私もそろそろ故郷に帰ろうかなと思っていたところでした。」
「そうか、素晴らしい偶然だったんだな。」
 ディレィッシュが歓喜する。
「…でも、ムーよ、クワド島までの船は出ていないんだろ?船はどこから出るんだ?ハワイ島からか?」
「ティグリミップです。皆さんのお金、沢山あったので、全部使わせてもらいました。船、買っちゃいました。」
「ん?」
「旅人だというのに、船をかえちゃうくらい皆さんお金持ちだったので、かっちゃいましたよ。小さい船ですけどね。だって、皆、僕に全部任せてくれたから。」
 そう、ムーが言う通りお金は沢山あったのだ。トリコ王国を追い出された際、餞別で現トリコ王からはお金のみならず、宝石や金や銀を持たされていたのだ。トリコ王国を抜けてコンタイ国に着いてからはほぼ野宿が続いておりお金を使用する機会もほとんどなかった。そのため、彼らの財産にはほとんど手を付けられていなかった。
 そして、ハワイへ行くための手続きもそれに必要な費用の管理も全てムーに任せていた。殆ど全部ムーにまかせっきりだったので、ムーに対して文句を言える者はいない。

 だから、彼の大胆さに一同はぽかんとするしかなかった。
「ほほう、早速一文無しか。」
「えぇ、大丈夫ですよ。あとはアルトフールに行くだけですから!」
 満足げな表情を浮かべるムー。


 2019_10_29


 暗い道をひたすら歩いていたが、暫くすると光が差し込んで来た。
「…ルルがいる。」
 ムーは飛ぶスピードを速めて、一目散に光の先へと向かったが、辿り着いた途端「うわあぁ」と悲鳴を上げて、ばちばちと雷撃に捕まった。雷撃に絡みつかれて動きが取れずにいるムーに気付いたニタは慌ててムーを引っ張り出した。ニタにも軽く雷撃が走りびりびりと痛みを感じたが、なんとかムーを救出することが出来た。
 ムーからは湯気が立ち、その藍色の鱗に包まれた小さな体躯は少しだけ焦げていた。
「ムー、大丈夫?」
「うう、大丈夫です。でも、ルルがいました。この空洞の奥に、ルルがいました。でも…」
「でも?」
「ひたすら魔法障壁を張り続けているから、近づけない。僕の声さえ届けられれば…。」
 一行は安全な場所からルルがいるであろう最深部を覗く。中は広い空洞になっており、空間一杯にパチパチとスパークのようなものが放たれ続けており明るかった。そのスパークの中心部に緑色のふかふかした生き物が身を縮こませて、ぶるぶる震えていた。顔も体に埋めているので、こちらに気付くことはないだろう。
「あれが、ムーの友達のルル…。なんか、ククのバチバチに似ているね。」
 ニタが言った。“ククのバチバチ”とはクグレックが自身の魔力を制御できずに溢れ出て、魔力が尽きるまで破壊し続ける暴走状態のことだ。拒絶の破壊魔法『ヨケ・キリプルク』の原型と言える状態のことである。
「バチバチを制御できないのは、恐ろしいな。」
 と、ハッシュが言った。彼もクグレックの暴走を何度も目にしている。
「ルルの場合はただ寄せ付けないだけなんです。…先ほどの偽の岩壁のように、攻撃性の少ない魔法障壁だって張れるはずなのに。どうしてこんな誰も来ないような場所でこんなに強い障壁を張っているんだろう。」
「よっぽど怖い目にあったんだろうな。」
「こんなに近いのに、僕の声は全く届かない。」
「石とかぶつけたら、気付くんじゃない?」
「怯えるだけの気がするけど…。」
 ニタは足元にある石を拾い、ルルに向かって力の限り勢いよく投げつけた。ぶんと強く風を切る音がしたが、スパークに絡みつかれるとその勢いを失くしぽとりと地面に落ちた。
 ニタはあっけらかんとして「いやぁ、怖いね」と感想を述べた。
「フィンはどうしたらいいか分かる?リリィの加護的な力でなんとかならない?」
 ニタが聞いたが、フィンは首を横に振り「分からないです。こういった現象を見るのは初めてで、本当にどうしたら良いのか。」と言った。
 一行は出来ることをやれるだけ試してみた。ムーが炎を吐き出してみたり、クグレックの拒絶の魔法を少しだけ試してみたり、大声を出してみたり、思いつく限りのことをしてみたが、どれも功を奏しなかった。
「あーもう、どうしたらいいか分からないよ!ルルに気付いてもらうことも出来ないし、バリアを壊して近付くことも出来ない。お手上げじゃないか。」
 クグレックも杖にもたれかかりながら、出来ることを考える。拒絶の魔法も先ほど試してみたが、圧倒的なルルの力に、ククの魔力は一気に持って行かれそうになった。寸でのところで詠唱を中断したから良かったものの、ククの魔力の全てを使ったところで破壊できるような障壁ではなかった。
 とはいえ、この状態であれば、頼れるものはクグレックの魔法であるのだが。いかんせんレパートリーが少ないのが悩みどころだ。
 ふよふよと漂う光の玉が一行を照らし出す。
 こんな光の玉を出したところで、障壁に吸収されるだけだ。なぜかこの洞窟でまとわりつかせる術を急に思いつけたのは良かったが、障壁の前でどう役に立たせればいいのか。
 と、クグレックの脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。
「こっちもバリアを張るのは、どうだろう。」
 クグレックが小さく呟いた。
 ニタは耳をピクリとさせて、その話に食らいつく。
「え、クク、バリアの魔法出来るの?」
「…それが出来たらいいんだけど。でも、『ヨケ』をちょっとだけ変形させれば何とかなるかもしれないって。ただ、上手く行くかは分からないけど…。」
「『ヨケ』ってあのバチバチの魔法か?」
 ハッシュが尋ね、クグレックはこくりと頷いた。
「うん、そう。『ヨケ』をムーに纏わせてルルの元に行ってもらうの。ムーへの障壁からの干渉を拒絶するように出来ればいいんだけど…。障壁を破壊するよりかは、まだなんとかなるかな、って。」
「大丈夫なの?」
「とりあえず、全魔力を込めるから、私は動けなくなるかも。でもそれまでにムーがルルのところまで辿り着ければ、どうにかなるでしょ?」
 と言って、クグレックはムーに視線を移す。ムーは力強く頷いた。
「でも、途中で魔力が尽きたら…」
 ニタが心配する。
「魔力が尽きたら…、ムーはバチバチに取り込まれちゃうかもしれない。でも、そんなことはさせない。命が尽きたとしても成功、させて見せる。」
「うわー、ククが急に頼もしく見えるよ…。」
「…うん、私は、魔女だからね…!」
 普通の女の子ではない。クグレックが自分を魔女であると認識することは、これまでは自虐的な気持ちが強かったが、今は一つの個性のように思えて来たのだ。普通の女の子はあこがれなのかもしれない。だが、クグレックには生まれ持った宿命があるのだ。それを失くす方法は今は分からない。ならば、今は精一杯その宿命を利用すればいいだけの話なのだ。
 早速、クグレックはムーに拒絶の魔法をかける。
「ヨケ・キリプルク・フィオラメイル!」
 クグレックの杖の先から雷撃が放たれ、ムーの周りを這う。ムーは「ぐ」とうめき声を上げたが、普通に動けるようであった。
「割と痛いんだけど、ルルのバリアほど致命的ではないよ。僕にはこの竜王族の鱗もあるし、きっと大丈夫。」
 そう言ってムーは最深部中央に位置するルルを見つめる。

――今から行くから、安心して。僕はすぐそばにいるんだから!

――やだ、怖い、怖い、死人使いが、死人使いが、あぁぁぁ!!!

 ルルの魔法障壁は一層強さを増したが、ムーは臆することなくルルに向かって今まで見せたことのない速度で飛んで行く。身体を守ってくれる『ヨケ』の魔法は、ルルの障壁のスパークに干渉され、激しくバチバチと光と音を立てて反応する。直に障壁のスパークを喰らうほどひどくはないが、熱さや痛みは感じた。が、負けていられない。クグレックの魔力が尽きる前にルルの元へ辿り着かなければならないのだ。
 ムーがルルに近付けば近付くほど、光と音は激しくなる。爆発が起きているかのようだ。
 そして、クグレックに掛かる魔力の負担は増していく。ムーが離れれば離れるほど、杖先から発せられる雷撃は伸びていく。だが、ムーの『ヨケ』のバリアを持続させるためにはクグレックからの魔力の供給が必要なのである。まだ途切れさせるわけにはいかない。
 汗はだらだらと出て、立つこともままならないクグレックはハッシュとニタに支えられている。
 意識はくらくらして来て、呼吸をするのもしんどくなってきた。鼻血が出て来たら限界は近い。だが、まだ出て来ない。まだ、大丈夫。
 ムーとルルの距離は4分の1ほどに迫って来ていた。
 が、ここで、クグレックは鼻血を垂らした。目の前が白くなっていく。だが、まだ倒れてはいけない。最後の力を振り絞り「オール・フェアーレ!」と叫ぶと、クグレックの意識は遠のき、気絶した。
 クグレックからムーへの魔力の供給は切れた。が、残りすべての魔力はムーが纏う『ヨケ』の鎧に全て託されている。どの位耐えられるかは分からないが、ムーはひたすら翼を動かす。
 ルルに近付けば近付くほどに『ヨケ』と障壁の抵抗が強くなり、スピードが落ちていく。また、身体へのダメージも大きくなり、翼を動かすのも辛くなって来ていた。が、ルルとの距離は目と鼻の先だ。これで、ルルに触れることが出来ればきっとルルもムーのことを気付いてくれるに違いない。そう思って手を伸ばしたところ、大きな光と音を発して『ヨケ』の鎧が破壊された。強力な魔法障壁のスパークに捕えられたムーは身動きもとれず、ただその強力な魔法障壁の雷撃になぶられるだけであった。「うわあああああ」と大きな悲鳴をムーが上げても、雷撃の音でかき消され、目の前のルルには届かない。本当にわずかな距離なのに、届かない。
 実はムーにとってルルは友人以上の存在であった。親友をも超えた、いうなれば恋人同士であったのだ。種族は異なるが、二人はお互いを助け合って生きて来た。辛い時も苦しい時も楽しい時もずっと。ところが数年前にムーは密猟者に捕えられてルルは離れ離れになってしまった。それからはずっと会えずにいたが、ルルは一生懸命追いかけた。そして数か月前、何とか思念で連絡を取ることが出来る距離まで近づいたというのに、今度はルルに異常が発生したのだ。ようやく念願かなって会うことが出来るというのに、喋ることも出来ずに終わってしまうのか。抱き締めることも出来ずに終わってしまうのか。
 
「ぐわあああぁぁぁぁ」
 ムーは咆哮を上げて、力を振り絞る。大きく翼を羽ばたかせると、目の前のルルを上から包み込むようにしてばたりと倒れた。動く力はムーには残っていなかった。
 そして、暫くの後、魔法障壁のスパークは止み、クグレックの光の玉も失くなってしまった洞窟内は真っ暗になった。


 2019_08_01


********
 
 先頭を進んでいたムーがぴたりと進むのを止めた。
「…ルルはこの先に居るんだけど…。」
 そう呟いて、クグレックから宛がわれた灯を前方に掲げる。目の前は行き止まりなのだが、様子がおかしい。周りは岩壁で覆われているのだが、目の前だけ色が薄くなっている。
「僕、道を間違えたのかな…?」
「…うーん、でも、この壁なんか変だよ。触った感じもなんか微妙に違う。」
 ニタが周りの岩壁と目の前の岩壁を交互に触りながら言った。触感はゴツゴツざらざらとした岩なのだが、目の前の壁は何か違和感も付随する。岩だというのに僅かな静電気を感じるような、目に見えない触感だ。
「別の道を探してみるか?」
「でも、ルルが通って行った気配は感じられるんだ。…え?」
 ムーは押し黙った。きっとルルとコンタクトを取っているのだろう。
 しばらくしてからムーは口を開いた。
「ルル、一層怯えてるみたい。来ないで来ないでってしきりに言ってる。」
 しょんぼりと頭を下げるムー。
「とりあえず、別の道を探してみよう。」
 そうして一行はもと来た道を戻ろうとした。
 クグレックも戻る前に、目の前の壁を触ってみた。すると、バチッと強い静電気が発生した。思わず「わ」と声を上げると、皆振り向いて「どうしたの?」とクグレックを心配する。
「静電気がバチバチっとしてびっくりしちゃった。」
「こんなところで、静電気?」
「うん。なんでだろう。」
 と言いながら、クグレックは再び壁を触る。すると再び「わぁっ」と悲鳴をあげた。皆の耳にもバチバチという音が聞こえた。
 一行は不思議に思い、再び岩壁の前まで戻り、ペタペタと触ってみる。が、クグレックの様な静電気は発生しない。おかしいなとクグレックは思い壁を触ってみると、やはりバチバチと静電気が発生する。
「…うわ。ルルがうるさい。」
 そう言ってよろけるムー。どうやら彼は友人がより一層恐怖に怯えて泣き喚く声が聞こえているようだ。
「あれ、でも、もしかすると…。」
 ムーはふと思い出す。この先にいるであろう友人は防壁を張る名手であったことを。
 何かに怯える友人は一切を近寄らせないために防壁を張っているだろう。何者も立ち入ることが出来ない強力な障壁を。
 彼の友人ならば、その障壁に触れたものを弾き飛ばし消滅させるほどの強い障壁を生み出すことは難しいことではない。
 目の前の壁が魔の力が強いクグレックのみに反応し、友人がその魔の力を恐れるのであれば、目の前の壁は友人が作りだした防壁なのかもしれない。
「ククさん、この壁は偽物かもしれません。僕の友人が作りだしたいわゆるバリアです。」
「…偽物?」
「ククさんは魔女であり、魔の力が強い。この壁はそれに反応してるんだと、思う。」
「そう、なの。」
「…僕たちはこの防壁を破らないといけない。」
「えーでもこれ岩だよ?ニタで砕けるかな?」
「物理的な防壁であれば、衝撃を加えれば破壊は出来ます。具体化されたものはその時の作り手の力の結晶体ですから。」
「いやーでも、素手なんだよねーニタ達は。」
 と言いながらも、ニタは偽物の壁を蹴ってみる。ポロリと僅かに岩が剥がれた程度で、本物の岩壁と同じ強度であるようだ。
「…うーん、無理無理。」
「ハンマーを取りに戻ろうか。」
「私が壊す。」
 クグレックは杖を握りしめた。決して殴るわけではない。頑丈な樫の杖とはいえ木製の杖だ。折れてしまう可能性の方が高い。
 自然物でないのならば、クグレックの空間を破壊する拒絶の魔法で破壊できるかもしれないのだ。この魔法は魔法の力により閉ざされた空間をも破壊してきた。
「ヨケ・キリプルク!」
 杖先から雷のような雷撃がバチバチと音を立てて出現し、壁に向かって放たれた。壁にバチバチと雷撃が這うと一瞬にして壁は砕け散った。壁の先は空洞になっており、壁自体もそんなに厚いものではなかったようだ。この魔法を使うと、疲労感がどっとクグレックを襲うのだが、魔物スポットや特殊空間ほどのものを壊したのではなかったので、元気でいられることにクグレックは驚いていた。
「この先です。多分魔法障壁がかかってるかもしれません。ククさんは一番後ろに居て。もしかすると焼け焦げちゃうかもしれない。」
「焼け焦げる…!」
 クグレックはぞっとした。
「そして、僕達になにがあっても、魔法障壁を壊そうとしないでください。どうやらその魔法は僕も使われた覚えがあるから分かるけど、友人の魔法障壁はどんな最強の矛も通さない最強の盾なんです。きっとククさん一人の魔力でもってしても打ち勝つのは難しい。」
「分かった。」
 クグレックはフィンと共に殿を勤め洞窟の最深部へと向かった。
 2019_07_26



 歩くこと3時間。あの陰鬱な山道を抜けると、ごつごつとした岩場が広がる海岸に出た。天気は相変わらず良くない。砂浜で見たエメラルドの海はそこにはなく、荒々しい黒色の海が一行を待ち構えていた。白い飛沫を上げてざざぁんと岩間に打ち砕かれる波は、一行を呑みこまんと手招きしているようだ。
「おそらくお友達はこの辺りかと…詳しい場所は分かりませんが…。」
 フィンが言った。ムーがピクリと反応してみせた。
「…すこしだけどルルの気を感じる…。」
 ムーは目を閉じてジッとした。数分程じっとしていたが、小さくため息を吐いて目を開き
「だめだ、コンタクトは取れない。」
 としょんぼりした。そんなムーを励ますかのようにハッシュが
「まぁ、この先にいるのなら、会いに行けば良いだけだ。」
というと、ムーは気を取り直した。
「…そうだね。ルル、待ってて。皆、この先は僕が先頭を行くよ。」
 かすかな友人の気を辿って、ムーは先頭を進む。
 海から吹き付ける風は強い。肌寒さを感じる海岸線を20分程歩いたところで、ムーがぴたりと立ち止った。目の前には真っ暗な洞窟が存在していた。
「ルル…!?。」
 ムーが小さく呟くと、「うわ」とよろけた。
「どうした?ムー」
 ムーの小さな体を受け止めるハッシュ。
 ムーは困った様子で
「今、ルルとコンタクトが取れたんだけど、様子がおかしいんだ。僕の声が届かないくらいに怖がって、混乱している…。」
「それは心配だね。早く行こう。」
 と、ニタが先導を切って洞窟に立ち入った所、「キャッ」とフィンが小さく悲鳴を上げて前に倒れてしまった。なんと岩場の隙間から現れた靄がかった白い手がフィンの足首を掴んでいたのである。気味が悪い魔物だ。
 すぐにハッシュがその白い手を蹴り飛ばすと、白い手は掻き消えた。そして、ハッシュは倒れたフィンに手を差し伸べ、優しく「大丈夫か?」と声をかける。
 フィンは「ありがとうございます。転んだだけなので大丈夫です。」と言って、ハッシュの手を取り立ち上がった。
「…私は、魔物と戦う力を備えておらず、何もお手伝い出来ずに申し訳ありません。」
「無理しなくていいよ。魔物からは俺達が守るから。見てただろ、結構強いんだぜ、俺達。」
「そーだそーだ!フィンがいないとここまで来れなかったんだし、とりあえず、ハッシュの後ろに隠れてな。いや、また白い手に引っ張られても怖いから、抱き着いてれば?」
「そうだな、また何かあると危ないから、俺の傍にいると良い。ニタだと、放って置かれる可能性もあるしな。」
「…ありがとうございます…。」
 と、フィンは言った。そして、彼女はハッシュの腕に掴まった。
 その瞬間クグレックの胸がちくりと疼いた。なんとなくざわざわと胸騒ぎも感じた。フィンから視線を外し、先頭のムーの方を見ると、ざわつきは収まった。更に、ニタにも視線を移し、丁度目が合うと不安な気持ちも和らいでくるようだった。
 クグレックはハッシュとフィンを追い越し、ニタの隣を歩いた。
 洞窟の奥へ進むめば光は届かなくなり真っ暗で何も見えなくなったため、灯りが必要になった。
 調子が悪いクグレックの魔法だったが、いつもの灯りの魔法は何も苦労することなく発現し、一行の足元を照らし出してくれた。

 やはりクグレックは普通の女の子ではないのだ。魔物に対して成す術もないか弱い女性ではないのだ。それならば、クグレックは魔女として皆のためにその力を存分に発揮したくなった。
 魔女。魔の力を増幅させ世界を闇に包んでしまう恐ろしい魔女。
 上等だ。
 魔女であることに抗えなければ、クグレックがすべきことは、力をコントロールして世界を闇に包み込まないようにすること。
 灯りとして光り輝く杖の頭。
 クグレックは杖を握りしめ、魔力を込める。身体の奥底から何かが溢れ出るような感覚があった。その感覚は無意識的に言の葉に紡ぎ出される。
「イエニス・レニート・ランテン・ランタン・フェアーレ!闇の中に光を照らし出せ!」
 とクグレックが唱えると、杖から離れていた光はまるで蛍のようにふわふわと宙に浮かぶ。光は5つに分裂しそれぞれムーやニタ、ハッシュ、フィンの傍へと漂った。
「うん?クク、なにこれ?蛍みたい。」
 ニタがクグレックに尋ねる。
「…みんなの分の灯り。多分、着いて来てくれると思う。」
 とクグレックは応えた。
 ニタはクグレックの言うことを試してみようと2,3歩ほど歩みを進めた。すると光の玉はふわふわとニタと共に着いて行く。歩みを止めると、光もぴたりと止まる。
「おおう、なんか可愛い。」
「おとぎ話でよく聞く妖精みたい。」
 と、フィンが言った。
「でも、突然どうしたの?いつもは杖が光っていたような気がするけど…」
「…わかんない。けど、なんか使えるような気がしたの。」
「へぇ、凄い。あ、これ、触れるよ。熱くないし。」
 ニタは自分の周りを漂う光の玉を掴んだ。こうすることで任意の場所を照らすことも出来るというわけだ。光の玉を離せば、再び光の玉はふよふよとニタの周りを漂う。
「なかなか便利な魔法だね。」
「うん。」
 こんな感じで家とか美味しい食べ物を出すことが出来れば良いのに、とクグレックは思ったが、そのような魔法はまだ使えそうになかった。

 幾分進みやすくなった暗闇の洞窟だが、道中は度々魔物が出現した。洞窟と言う場所に似つかわしい蝙蝠の様な魔物や蛇の様な魔物も出現した。
 森での戦いとは異なり、この洞窟での戦闘においてはニタもクグレックも参加することが出来た。
 特にクグレックが戦闘に対して積極的だった。ニタと倒した魔物を競い合うほどに珍しく活発だった。
「クク、やるね!」
「…私だって、出来るんだから!」
 と、その時であった。クグレックとニタが仕留め損ねた大きなカニの姿の魔物が、丁度ハッシュから離れてしまっていたフィンに狙いを定めて石を投げた。突然のことで驚いたフィンはその場から動くことが出来なかったが、石がフィンにぶつかろうとしたその時、ハッシュが身を挺して石を体に受け、間一髪のところでフィンを助けることが出来た。
「悪い、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。ハッシュさんこそ大丈夫ですか?」
 フィンは心配そうに石がぶつかったであろう箇所をさする。少しだけ赤くはれていた。
「あぁ、これくらい大したことはないよ。取り合えず、フィンが無事で良かった。
「うふふ、ありがとうございます。ハッシュさん、頼りになりますね。」
「…。」
 ハッシュは照れ臭そうに頭をかいた。
 カニの魔物は瞬時にクグレックの魔法で焼かれて消滅した。
 二人が無事であったことに安心すると同時に、クグレックは再び胸の内がざわつくのを感じたが、再び現れた蝙蝠の姿の魔物に魔法を当てて倒したらそのざわつきは収まった。魔物を倒すのは意外と気持ち良いのかもしれない。
 奥へ奥へと進むがムーの友人の姿は一向に現れない。途中、クグレックの背丈ほどある崖を登らなくてはならなかった。ムーは自分の翼を使って、ニタは持ち前の運動神経を使って余裕で登って行ったが、どんくさいクグレックが簡単に登れるはずがない。2、3回ほど滑り落ち膝に擦り傷を負いつつも、ニタの手を借りてなんとか登ることが出来た。
 登り切ったところでふと横を見遣れば、ハッシュがフィンが壁を登るのを手助けしていた。
「大丈夫か?そう、そこに捕まって、そうすれば俺の腕に捕まれるから。」
 というやり取りを見て、クグレックはこれまではフィンのポジションは自分だったのにと少し寂しい気持ちになったが、すかさず魔法を唱える。
「ラーニャ・レイリア」
 と唱え、フィンに向かって杖を向ければ、フィンはふわりと浮かび上がり、ゆっくりと崖の上に降り立った。
「わぁ、クグレックさん、ありがとう。」
 フィンはにこりと微笑んだ。
 クグレックはちらりとハッシュを見遣ると、ハッシュもニコニコして
「クク、やるなぁ。」
とクグレックを褒め称えるのだった。クグレックは顔を赤くして
「…私だって、助けられるんだから。」
とぶっきらぼうに答えるのだった。内心は嬉しかったのだが。

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