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 彼女が持つ翼は神聖味を持って光り輝いているのだろう。
 俺には見ることが出来ないのだが、彼女の背中には天使の翼が付いているはずだ。
 下界に降りて来たということは、彼女は天使ではなく堕天使なのではないだろうかという懸念はある。
 が、詳しいことは聴かない。彼女が天使であろうと堕天使であろうと、彼女は彼女だ。そして俺にとっては天使なんだ。
 その春の陽気のように無邪気な笑顔や天真爛漫な性格。お日様の光と同じ金色のふわふわのロングの髪。太陽にかざすと透き通って本当に綺麗なんだ。あと、それとなく香る甘い香り。彼女の全てがこの世のものとは思えない。だから、あいつは俺にとっての天使ちゃん。
 
「もー、ディレィッシュ、すぐ部屋汚くする!また発明品自分で踏みつけて壊しちゃうんだから!」
 口を膨らましてぷんぷん怒るアルティメット。ああ、かわいいなぁ。俺の天使ちゃんは、ことあるごとに俺の部屋にやって来る。決まって俺が研究や発明に勤しんでいる時にやって来る。まぁ、ぷんぷん怒るのも最初のうちで、すぐに大人しくなってその辺のガラクタを弄ったり、静かに本を読んだりしている。決して片付けはしない。出しゃばらないところが良いと思う。部屋は散らかっているが、俺自身はどこに何があるかは覚えているから、片付けられても困るのだ。アルティメットはそれを知っている。流石俺の天使ちゃん。
 最近はちょっとした手伝いを頼むと、喜んで引き受けてくれる。まるで俺の助手のようだ。可愛い助手め。
「はい。出来たよ。これとこれとこれ、くっつけた。」
「はい、ありがと。じゃぁ、ちょっと外に出て合体させてみようか。俺がこれを持っていくから、アルティはドア開けてくれる?」
「分かった。」
 まるで子犬のように素直に言うことを聞いてくれるアルティメット。可愛いな。
 俺達二人は外に出て、ガレージに向かう。ここガレージには俺の結構大きめの発明品が保管されてある。今回は、≪空飛ぶ円盤≫を作っている最中だ。
 この≪空飛ぶ円盤≫は、その名の通り空を飛ぶ。この円盤に立って乗る。この円盤部の下方には魔力を源としたエンジンがついていて、空を飛ぶ仕組みになっている。円盤にはT字型の棒が垂直に刺してある。この棒のTの部分にグリップがついているので、このグリップの部分を自転車のハンドルのように握ってバランスを取って空を飛ぶことが出来る。
「これをくっつけたら、ちょっと今日は試乗してみよう。少しだけ浮けば大丈夫だ。」
 先ほど自室で作った部品を空飛ぶ円盤にくっつける。サイドに何もないと浮いている間不安定かと思い、羽を模した飾りをつけてみた。これでうっかり足元を滑らせることがないだろう。
 そして、外までアルティメットに空飛ぶ円盤を運んでもらう。アルティメットはその可憐さに似合わず力持ちだ。とんでもない力を持っているが、アルティメットの可憐さは揺るがない事実なので、力持ちでもやはり可愛い。小さい体が大きな円盤を運んでいる様子を見ると、即頭をなでなでしてあげたくなる。
「ここで良い?」
「あぁ、ありがとうな。じゃ、試しに乗ってみよう。」
 そして、俺とアルティは円盤の上に乗る。魔力はハンドルを通して伝わるので、アルティメットにハンドルを握ってもらう。が、ハンドルの舵をアルティメットだけに任せるのは不安だから、後ろから俺もハンドルを握ってバランスを取る。
「よし、じゃぁ、飛ばすぞ。アルティメット、そこのボタンを押してごらん。」
「OK。」
 ハンドル傍のボタンを押せばエンジンが作動する。
 ふわり、と浮遊感を覚えると、空飛ぶ円盤は地面を離れてゆっくりと前進を始める。
 重力に打ち勝った我々はふわふわと低空を飛び続ける。
「わー、ディレィッシュ、空飛んでるねー!すごいすごい!」
 アルティメットは喜んでいるようだ。笑顔が見れて何よりだ。でも、アルティメットならば、その天使の翼でもっと大空を自由に羽ばたいていたのだろうけど。
 と、その時、円盤部から、ガコンと大きな音がなった。すると、ぐらぐらと揺れ始め、エンジンは過剰な出力を始め、円盤部は加速しながら高度を上げていく。
「こ、これはまずい。」
 どうやら今回の試乗は失敗に終わりそうだ。
 円盤は上昇したり下降したりを繰り返す。かろうじてバランスは取れているが、いつ振り落とされてもおかしくない状況だった。円盤からはキラキラと虹色の魔力の分子が噴射される。まるで光の翼のようだ。
「あはは、ディレィッシュ楽しー!」
 こんな状況ではあったが、アルティメットは楽しんでくれている。いやぁ、何よりです。…とでれている場合じゃない。円盤部からは黒い煙が上がるようになった。そして、物凄いスピードで上昇していくが、いつ壊れるか分からない。バランスを取りながら、次の一手を考えるが、円盤はボンと爆発して、壊れてしまった。俺達は空中に放り出された。
 どうやったらアルティメット守れるか。下敷きになってでもアルティメットを守らねばと頭が一杯だったが、一向に地面は近付いて来なかった。
 ふわふわと白い羽が舞い落ちて来る。上を見上げるとアルティメットが俺の腕を抱えていた。その背には大きな真っ白の羽が羽ばたいている。これが神秘的に輝く天使の翼。
 アルティメットと目が合うと、アルティメットは屈託のない笑顔を浮かべながら
「空飛ぶ円盤は壊れちゃったけど、楽しかったね!」
と、話しかけて来た。俺もアルティメットの笑みにつられて、顔が緩む。
「だな。やっぱ、重力から自由になるって、楽しいな。」
「ね!」
 結果的に試乗は失敗に終わった挙句、私はアルティメットの力によって空を飛んでいた。
 アルティメットと二人きりでゆっくりと空の旅を楽しみたかったけど、仕方がない。また一から研究をやり直して、空を飛ぼう。
 青空にアルティメットの神聖なる天使の翼は、太陽の光できらきらと輝いていた。

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 2015_07_25


 そして、メイトーは何事もなかったかのように優美にニタとクグレックの元へやって来ると、ニタの頭にぽふっと前足を乗せた。
 すると、朦朧としていたニタの様子が一転して、目に力が宿ったかと思うと、元気よく起き上がった。
「メイトー様、助けてくれてありがとうございます。」
 メイトーは満足したように「にゃーん」と鳴く。
「え、なんですか?」
 ニタはメイトーに耳を傾け、相槌を打つ。メイトーは一言も鳴き声を発さないが、ニタは「えーそうなんですかー」「へー」と反応している。クグレックは呆然とした様子でニタがメイトーの話を聴いている様子を見ていた。
「なんだ、そういうことだったんだ。」
 メイトーは「そういうことなんだよ」と言わんばかりににゃーんと鳴くと、クグレックの足にまとわりつき、体を擦り付けて来た。クグレックはしゃがんで、メイトーの体を優しく撫でた。短毛のつやつやした白い毛はベルベッドのようにすべすべしている。
「クク、メイトー様、ニタ達に忘れ物を届けようと思って、森を閉じてたんだって。でも、ちょうどそこにさっきの変な女が入って来たから、ちょっと様子を見てたら、大分時間が経ってしまったらしい。なんか森のあちこちに魔法陣を作ってたから、全部消して回ってたんだって。」
「魔法陣?」
「うん。どんなのかはよくわからないけど。でも、あの女が作ったものだから、きっと良くないものに決まってる!」
 クグレックは確かにニタの言う通りだと納得した。
「で、メイトー様、忘れ物って何ですか?」
「にゃーん。にゃおにゃお。」
 メイトーは可愛らしい甲高い声で鳴くと、どこからともなく大きなリュックサックが落ちて来た。
 クグレックはニタを見る。ニタはけらけら笑いながら答えた。
「どうやら、エレンからの餞別らしいよ。開けてみると良い。」
 クグレックは恐る恐るリュックサックに近付き、中を確認する。すると、中にはお金と寝袋、簡易式テント、携帯食料、1冊の本が入っていた。本はいわゆる魔導書と呼ばれるもので、数種類の魔法の使い方について記されたものだった。なかなかずっしりとした荷物ではあったが、これらがあれば森の外に出てもなんとかやっていけそうだ。
「メイトー様、ありがとうございます。」
 クグレックは笑顔でメイトーにお礼を言った。
「メイトー様は何もしてない、ただ届けただけだ、って言ってるけど、メイトー様がいなければあの女をどうにかすることも出来なかった。本当にありがとうございます。」
 メイトー様は満足げに「にゃー」と一鳴きすると、急に駆け出し、森の奥の方へと消えて行った。
「メイトー様、おやつを残して来ちゃったから帰るって。無事に頑張ってね、だってさ。」
「メイトー様って、自由なんだね…。」
「まぁ、そうだね。じゃ、先進もうか。その荷物、きっとクグレックには持てないだろうから、ニタが持つよ。」
 クグレックはここまでずっとニタに頼りっぱなしだったので、少しはニタの役に立ちたいと思い、リュックサックを背負おうとしたが、結構な重さで担いだところでふらふらしてまっすぐに歩けなかった。だけど自分よりも小さなニタにこんな重いものを持たせるわけにもいかなかったので、頑張って歩いた。が、ニタがニヤニヤしながら「そんなんじゃ、今日中に森を抜け出せないよ。」と言ったので、結局リュックはニタが背負うこととなった。
 ニタは平気な様子でリュックサックを背負い、今まで変わらない速さで歩くことが出来ている。小さくて可愛い外見をしているが、身体能力は特別優れているようだ。
 二人はなんやかんやワイワイ言いながら、森の入り口を目指して進んで行った。もう森の異常は何もない。森の守護神メイトーを味方につけている二人は何の困難もなく森を脱することが出来るだろう。
 二人のアルトフールへの旅は始まったばかりだ。



 2015_07_11


 と、その時、なにか白いものがクグレックとニタの頭上を飛び越えて行った。そして、紅髪の大女の前に降り立つ。
「メイトー様!」
 ニタが叫ぶ。
 すらりとした美しい毛並みの白い猫が前足をぴったりと前に揃えて、ぴしりと姿勢を正して紅い髪の大女の前にすまして居座る。神々しいまでに白く輝く毛並みを持つこの猫は、この森を治めるメイトーである。マルトの村人はメイトーを神格化しているが、メイトーはなんの変哲もない白猫だ。ただ、人間よりもずっと長生きをするし、不思議な力も使える少々特殊な白猫であった。
 紅い髪の大女はそんなことを知ってか知らずか、メイトーを前に余裕の表情を見せていた。
「へぇ、アンタがこの森の守護神メイトーね。随分綺麗な猫ちゃんじゃないの。」
「メイトー様を馬鹿にするな!」
 ニタは這いつくばりながら、怒鳴りつける。
 メイトーは威嚇するように、毛を逆立てて紅い髪の大女に向かって牙を見せると、光の速さで飛びかかって行った。
 大女はキャーと悲鳴をあげた。その顔には合計6本のひっかき傷が出来ていた。
「え…。」
 ニタは若干戸惑っていた。クグレックも展開に戸惑っていたが、メイトーは何事もなかったかのように、再び優雅に前足を揃えて紅髪の大女の前に座る。長い尻尾だけがまるで別の生き物のように優雅に動いていた。
「この糞ネコめ、アタシの美しい顔に傷をつけたわね!」
 紅髪の大女は蛇の飾りがついた杖を手に取ると、何かをブツブツ唱えて、天に掲げた。すると、杖からキラキラした光が発生して大女を包んだかと思うと、6本のひっかき傷は跡形もなく消えていた。そして、痺れたと言って尻餅を着いたままでいた大女がすっと立ち上がり「よくもやってくれたわね…。」と言って、メイトーに向かって杖を振り上げた。
 ところが、紅髪の大女は急に焦り出す。自身の体が徐々に透けて来ているのだ。
「や、なに?体が透ける!え、ど、どういうこと?」
 メイトーはぐるるると喉で唸りながら、大女から視線を外さない。尻尾ばかりが蛇のように妖艶に動いていた。
 紅髪の大女の体は徐々に向こう側が透けて見えるようになっていた。自身に発生した異常にパニック状態になり、何度も自身の体をさすっている。しかし、体の先から徐々に透けて消えていき、紅髪の大女は今にも泣き出しそうだった。
「や、やだ、アタシ、死にたくない。いや、いやよ、まだ生きていたい!」
 彼女は必死で拒むが、メイトーが可愛らしい声で「ニャー」と一鳴きすると、紅髪の大女の姿は忽然と消えてしまった。
 騒々しい大女の声が止み、森の中には静けさが戻った。


 2015_07_03

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