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 そして二日後。ポルカの青年団はニルヴァを狙う山賊の討伐に向けて村を発った。クグレックとニタも同行する。
 部隊は二手に分かれることとなった。一つはニルヴァを守る部隊。もう一つは山賊が暮らしている住処を襲撃する部隊。
 ニルヴァを守る部隊には巻き毛の男ビートと力自慢のリック、山の事情をよく知るエイトとクグレックの4人であった。
 ニタとマシアス、防衛部隊以外の村人はこちらに配された。山賊の住処には夜襲をかける予定なので、襲撃部隊の方が人数が多い。一人残らず捕まえる予定だが、万が一ニルヴァの住処が山賊に見つかっており、残党がニルヴァを狙うようなことがあったら、防衛部隊が残党を相手にしなければならない。万一の際はクグレックが魔法で花火を上げるので、すぐに襲撃部隊から応援が行くようになっている。その間の時間稼ぎはクグレックの幻影魔法である。

 まず、防衛班は明るいうちに出発した。なぜなら、昼間でも薄暗い山の中を通り行くので、夜では動くことが出来ないからだ。ニルヴァの住処へ向かう防衛班は山賊に後を付けられては大変である。周りの景色と同化してしまう茶色の服を着て、道なき道を通ってニルヴァの住処へ向かわねばならなかった。万一後を着けられていても、襲撃部隊が助けに行くので問題はない。
 更に、住処へ向かう道中、ずっとクグレックが幻影の魔法を防衛班の周りにかけて見えない状態にしていたので、後を着けられることはなかった。その分クグレックはとても疲れたが。
 夕方、襲撃班は山賊の住処へ出発した。事前情報では山賊は10名ほどいるとのことである。10名捕まえれば、目的は達成されることとなる。
「よく着いて来たいと言ったな。」
 道中、マシアスがニタに話しかけた。マシアスは一昨日と同じ砂漠の民の衣装だ。今回は口元を覆う布を着けているので、空色の瞳しか見えない。
「ん、希少種が狙われてると聞いたら黙っていられなかったんだ。」
 と、ニタが言った。
「そうか。相手は山賊という名の希少種ハンターだ。お前も、気を付けろよ。絶滅したはずのペポはニルヴァ以上に希少価値が高すぎる。」
「…ニタが山賊如きにやられるわけないでしょ。」
 ニタはむっとしてそれきり口数が減った。
 45分程進むと、山賊の住処が見えてきた。どうやら木造の二階建てである。出入り口に近い窓からのみ明かりが漏れている。他は暗いので入り口付近で誰かが起きており、他は寝静まっているであろうことが考えられる。
 これで十分だろうと判断したマシアスの指示に従って、襲撃を行う。
 一番槍はニタである。入り口を蹴破って侵入した。憶測通り入ってすぐのテーブルで山賊が一人うとうとしていたが、ニタの侵入により目を覚まし、状況に困惑していた。大声で2階で眠っている仲間を呼ぼうとしたが、瞬時にニタにパンチされノックダウンした。
 すかさずニタのうしろから村の男たちがやって来て、山賊を縄でぐるぐる巻きにして外に出した。外ではマシアスが待機しており、山賊その1はマシアスの元に届けられた。
 マシアスは呆れた様子で山賊の住処を見つめていた。あれほどニタに侵入は静かにと言ったのに、ニタは大きな音を立てて入り口を蹴破った。あんな音を立てたら寝ている山賊も起きてしまう。
 かくのごとく、建物の中では階下の物音を察知した山賊たちが目覚め、武器を持ってニタ達がいる1階へと降りて来た。
「な、なんだ、お前たち!」
「あれ、起きちゃったの?」
 ニタはおかしいなと感じ、首を傾げながら言った。
「む、見張りをしていたゲイドがいないぞ。」
「あ、その人なら、転寝してたよ。ニタが倒しちゃったけど。」
 悪びれた様子もなくニタが言った。そのニタの様子が山賊たちを挑発してしまったらしく、山賊たちは怒った様子でニタ達に襲い掛かって来た。が、ニタにかかれば、山賊をやっつけることなどお茶の子さいさいであった。10分もしないうちに山賊達はニタに倒された。村の男たちはすぐさま山賊たちを縛り上げ、動きを封じると、マシアスの元に連れて行った。
 足元に先ほどやっつけた山賊が気を失って倒れているが、マシアスは堂々とした様子で仁王立ちしてニタ達を待っていた。
「ははは、まぁ、ニタの手にかかれば、こんな山賊如きヨユーだけどね。」
 鼻高々に語るニタ。だが、マシアスは眉間に皺を寄せた。
「おい、ペポ、2人足りない。まだ住処に残ってるんじゃないのか?」
「え、ちゃんと家の中くまなく探したし、これで全員だよ。」
 そう言って、ニタも縄に繋がれている山賊を数える。
「1,2,3,4,5,6,7,8、8,8…。」
 ニタは首を傾げながらマシアスを見つめる。「ホントだ。あれ、おかしいな。あと二人、どこさ。逃げちゃったのかな?」
「今逃げたのであれば、追いかけたらすぐに見つかるだろうが、そうでなければ…。」
 と、その時、漆黒の夜空に小さな花火がパンと上がった。
 全員空を仰ぎ見た。すると、再び七色に輝く小さな花火がパンと上がった。
「なんだと!?」
「まさか!」
 マシアスは舌打ちをして、全員に指示を出した。
「この中で腕っぷしが強い順に10人残って、こいつらを見張ってろ。いいか、絶対に目を離すな。絶対に逃がすな。そこの木に全員括り付けてでも良い。手段は問わないから絶対に逃げないように見張ってろ。俺とペポと残りははニルヴァの元へ向かう。案内役、案内しろ。」
「は、はい!」
 ニルヴァの住処を知る村の男性を先頭に、マシアス達一行はニルヴァの住処へと走り出した。
「着けられていたのか?まさか、あの魔女の魔法で見られない状態になっていたはずだ。もしかすると、既に知っていたのか。」
 走りながら独り言ちるマシアス。ニタは軽い様子で
「そういうことになるんじゃないの?」
と答えた。マシアスの眉間に皺が寄った。
「残りの二人が既に知っていたならば、まずいかもしれないな。ペポ、どうして、家に残ってた8人は呑気に寝ていたんだ?ニルヴァの居場所を知っているならば、山賊全員で向かうべきだとは思わないか?」
「確かに。」
「もしかすると、山賊のうちの8人と残りの2人は一緒に居ながらにして、別の存在なのかもしれない。もしかすると、防衛組は危ないかもしれないぞ。案内、もっと早く走るんだ!」
「は、はい!」

 2015_09_09


**********

 その夜、湯浴みを終えて、寝巻に着替えて後は寝るだけとなったニタとクグレック。
 お互いベッドで横になっていたが、ランプを消してしまおうとクグレックがランプに手をかけた時、ニタが小さな声で話しかけてきた。だが、あまりにも小さな声だったので、クグレックには聞き取れなかった。ランプを消し、ベッドに入り込んでから「ニタ、なんか言った?」と聞き返した。
「ん、いや、クク、どうして、あんなこと言ったの?」
「あんなこと?」
「自分は魔女だ。だから、連れてけって。」
「うんと、良く分からない。なんだかニタが必死だったから。助けなきゃって。」
「山賊とか、怖くないの?それに、魔女だってばれたら、差別されるかもしれなかった。」
「山賊については、ここまでくる間に時々そういう輩出て来てたけど、ニタが全部やっつけてくれたから、心配ないかな、と思って。それにこの前魔導書を読んだから、魔法も少し覚えたし、私もニタの力になりたかったの。そのためなら、魔女だって明かしても全然平気。ただ今日使った幻影の魔法はね、覚えたてだったから、上手く出来るか心配だった。杖の代わりにスプーンを使ったんだよ。」
「そう…。」
「それに、メイトーの森では、ニタが私のこと友達と言ってくれた。だから、…私、」
 クグレックは口籠る。
「友達のニタのこと、助けなきゃいけなかったの。」
 クグレックの声は嬉しそうだった。
 それに対するニタからの返答は何もなかった。暗闇を沈黙が支配する。
 クグレックが眠りの航海へ発とうとした頃、ニタがぽつりと呟くように言った。
「ニタの故郷とニタの仲間、ぜーんぶ、ニンゲンに燃やし尽くされたの。」
 クグレックの眠りへの船は一瞬にして港に引き戻された。ニタの発言はクグレックにはあまりにも衝撃的過ぎた。
「ペポ族は全員人間に狩られた。だから、ニルヴァを狙う山賊が許せなかった。ククのこと、巻き込んじゃって、ごめんね。」
 クグレックはニタにかける言葉が見つからずに押し黙ってしまった。
 ニタがドルセードの汽車の中で放っていた「人間は、怖いんだよ」という言葉はそういうことだったらしい。
 きっとあの灰色のローブを着ている間中、ニタはずっとその悲しい過去のことを思い出していたのだろうか。それならば、大人しくなってしまうのも仕方がなかった。メイトーの森を出てからずっと、ニタはそんなことを一人で背負っていたのか、と考えると、クグレックは本当に悲しみで心が締め付けられそうだった。
 そして、再び暗闇からニタの声。

「こんなニタで、ごめんね。おやすみ。」

 ニタの声はとても悲しそうだった。

 祖母が死んだだけで、クグレックは死にたいくらいの気持ちに陥った。
 大切な存在を沢山失ったニタの気持ちは想像を絶するものだったのだろう。
 ただ、クグレックはニタがいたから、少しだけ前向きになれた。だから、クグレックもニタにその恩返しが出来れば良いな、と切に願った。

「…おやすみ。」

 

 2015_09_04


「あ、あの」
 と、そこへ、一人の少女が立ち上がった。
 黒いローブをを着た黒髪ショートヘアの16歳の少女、クグレックだ。右手にはスプーンを持っている。口を付ける方を握って柄を男たちの方に向け、立ちはだかった。
「クク」
 ニタは思わず叫んだ。
「わ、私はドルセード王国のマルトの村から来たクグレック・シュタイン。ま、魔女です。」
 『魔女』の一言に男たちは「魔女だって?」「本物か?」「こんな女の子が」と、どよめいた。
 少々上ずってはいるものの、しっかりと声を張り上げて、クグレックは続けた。
「私もニタと一緒に行動します。だから、同行を許してください。」
「え、君みたいな女の子じゃ危ないよ。しかも、魔女だなんて嘘ついちゃって。」
 当惑しながら巻き毛の男が言う。
「え、嘘…?」
 クグレックも困惑した。クグレックは渾身の勇気を振り絞って、自身が魔女であることを打ち明けたのだ。マルトの村人達のように、襲い掛かってくるかもしれない恐怖を乗り越えて明かしたというのに、目の前の人々は全く以て動じない。
 世の中の、世界における魔女という存在は一体どうなっているのだろう。クグレックはどうしたら良いのか分からなくなったが、スプーンを握りしめる手に力を込めた。
「わ、私は魔女です!獅子よ、襲い掛かれ!」
 クグレックはスプーンの柄を一振りした。すると、クグレックの目の前に靄が発生し、その中から一頭の獅子が現れた。獅子は低い唸り声をあげ、男達を威嚇する。巻き毛の男の方へゆっくりとにじり寄り、大きな咆哮を上げたかと思うと、巻き毛の男に飛びかかった。巻き毛の男は尻餅をつき「うわぁぁぁ!」と悲鳴を上げた。
 
 と、思いきや、彼の体は無傷だった。
 たった今、自分を襲おうとした獅子はどこにもいない。黒いローブを着た黒髪ショートヘアの一人の少女が緊張した面持ちで巻き毛の男にスプーンの柄を向けて立っているだけだった。
「今のは、一体?」
 きょろきょろあたりを見回しながら巻き毛の男が言った。
 周りの男達もざわめく。
「確かに、今、獅子がいた。」
「ビートに襲い掛かったと思った。」
「でも、突然消えた。」
「何だったんだ?」
 男達もまた目の前の不思議な出来事に頭の処理が追いつかなかった。
 その時、マシアスが立ち上がり、ようやく口を開いた。
「今のが魔法だよ。」
「今のが、魔法…?」
 巻き毛の男が尻の埃を叩き落とし、マシアスの方を向いて立ち上がりながら呟いた。
「幻を見せるのも魔法だ。お前たちは魔法は見たことがなかったか。」
「は、はい。白魔女様がたまにいらっしゃいましたが、彼女は治癒魔法専門で、このような魔法は初めて見ました。」
「白魔女が来ることの方が珍しいけど…。ビート、この二人、連れて行こう。」
「え、でもこの二人には危険ではないでしょうか?」
「ニルヴァを狙う山賊は大したことないから、この二人でも大丈夫だ。」
 マシアスはニタとクグレックに目くばせをした。二人は嬉しそうに顔を見合わせ、声を揃えて
「よろしくお願いします!」
と深々と頭を下げた。

 2015_09_01

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