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 ニタは、山賊に攻撃を加えられ、立てない程の傷を負っていたが、男がナイフの刃先を見せて近付いて来ると、途端にその白い毛を逆立てた。眼光も鋭く、いつもの愛くるしさが消えていた。瞳孔はさながら猛禽類の如く鋭利になり、容赦のない捕食者の目つきに変わっていた。そして、小さな声でぶつぶつ呟いている。
「…許さない。」
 ニタはぶつぶつつぶやきながらゆらりと立ち上がる。足元はふらついているが、その視線はずっと男に張り付いたままだ。
「これだから人間は許せない。お前らは一体何様だ?生命の頂点にでも立ったつもりか?力なき生命を弄び、嬲り殺し、悦に浸って他を圧倒してどうする。お前らが思う力なきものは決して愚鈍ではない。お前らなど微塵でもない。同じことが我々にも出来る。だけどしない。ほとんどの者が、いたずらに声生命を奪うことの愚かさを知っているからだ。だが、ニタは許されている。気高き同朋の恨みを果たすべき存在として、復讐が許される存在。自らを守るために、自らの手を汚すこと誇りとするペポの戦士だ。ニルヴァはペポの二の舞にはさせない。ペポの戦士が愚かなるニンゲンに鉄槌を下す。」
 山賊達は、動き出そうとするニタを止めようと持っている武器で殴りかかって来た。が、ニタは瞬時に交わした。ニタは全く重傷を負った様子を見せない上に、向かい来る山賊達をその白い拳で叩き潰した。元から手負いだった二人の山賊は、その場に倒れて動かなくなった。
 ニタは病的にぶつぶつ言いながら、ゆっくりと男に近付いて行く。
 クグレックはニタの呟きを聞いてしまった。距離は大して近くないはずなのに、傍にいるかのようにはっきりと聞こえた。
 普段のニタからは想像できないような禍々しい言葉を吐いている。ニタは仲間の一族を全て人間に狩られたと言っていた。おそらく、この言葉は人外を生き物と思わない人間に対するニタの怒りを超えた怒りの言葉なのだ。
 多分、ニタはあの男のことを殺すのだろう、とクグレックは直感的に感じた。
 山賊達のボスは強い。だが、ニタはそれ以上に強い。だから、ニタはあの男を容易に殺すことが出来る。
 メイトーの森を出てここまで来る間、野宿の度にニタが食事のために他の生命を奪うのは見て来た。そのたびにクグレックは居た堪れない気持ちになったが、「生きるためなんだから仕方がないの」というニタの言葉に納得し、嫌々ながらも容認してきた。だが、今目の前で起きようとしていることに関しては、納得してはいけないし、認めてもいけないとクグレックは思った。
 ニタがこれ以上進んだら、もう後戻りが出来なくなるような気がした。クグレックは傍らに落ちていた杖を握りしめ、がむしゃらに杖を振った。
「ラーニャ・レイリア!」
 その瞬間だった。ニタが空中へと吹き飛んだ。そして、3mほどの高さでぴたりと張り付いたように動かなくなった。
「クグレック!!!何をするんだ!」
 ニタが必死の表情で叫ぶ。空中で手足をばたつかせながら抵抗しようとするが、その場から移動することが出来なかった。
 クグレックはニタの問いに答えず、歯を食いしばりながら、真剣な表情でニタに杖を向けている。物体移動の魔法だ。力ではなく魔力によって任意のものを動かすという魔法だが、生き物に使うのは初めてだった。気を緩めてしまえば、魔力が解除されてニタが3m下へ落ちてしまう。クグレックは暴れるニタに意識を集中して、空中に固定させた。
「どうしてこんなことをするんだ!?そいつは私利私欲のためにニルヴァを捕まえようとしている。生け捕りにするとか言ってるけど、最終的にはニルヴァは用済みになって殺されるだけだ。二度とポルカには戻って来れない。そんなのが許されていいと思ってるのか」
 クグレックはニタの問いに答えなかった。口を開いてしまえば、ニタへの集中が途切れ、魔法が解けてしまうからだ。
「くくく。さすが魔女。ペポの希少さに気付いたな。」
 男が下衆い笑みを浮かべて、ニタに向かってナイフを投げようと構えた。
「ペポは心臓を一突きすれば一撃だ。ナイフさえ抜かなければ毛が血に染まることもない。かつての狩りでも、あっという間だったな。楽勝だった。」
 ニタの抵抗する力が一気に増した。だが、クグレックは魔法を解かない。
 この場にはニタ以外にも強い人がいる。出会って間もないが、クグレックはその人物のことをなぜか信用出来たのだ。クグレックが何も言わずとも、有能な彼ならば、ニタの代わりにあの男に鉄槌を下せる――。

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