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「クク…」
 ニタは目の前の少女の成長に、唖然とするしかなかった。絶望の淵で死にたがって女の子はどこに行ったのだろう。
 涙を流しながらもなお笑顔でいられる術をどこで身に付けたのだろうか。
 ニタは、憎しみに包まれ正気を失った結果、多くの人間を殺した。その中にはペポを狙った者ではない人も含まれていた。つまりただの善良なる一般人。そのためニタは多くの人間に追われたのだ。辿り着いたメイトーの森で、ニタはその事実をメイトーから聞かされた。
 自身もニタが思う残酷なニンゲンと同じ存在であるということを。ニタと同じ思いをしたニンゲンが間違いなく存在するということを。
 メイトーの森に到着した当初は、燃え盛るペポの森や殺される仲間、殺したニンゲンがフラッシュバックしてしまい、何度も精神不安定になっていた。その度にメイトーがニタを落ち着かせた。さらに、当時のニタにとって心強い存在がクグレックの祖母であるエレンだった。魔女エレンがニタの傷付いた心を魔法と、その優しさで癒したのだ。精神力がずば抜けて強いニタではあるが、その両名の存在があったからこそ、ニタが今のニタに戻った所以である。
 ただし、ニタに残る罪の記憶だけは消せないままだった。
 故郷と仲間を守り切れなかったこと。その手で多くの命を殺めてしまったこと。
 魔女エレンは、度々クグレックのことを話していた。彼女は自分以外の存在から愛されることなく生きて来たこと。世界に対する興味を持つことなく生きて来たこと。強大過ぎる魔女の力を持つことで、災厄が降りかかりやすいこと。優しく育った彼女に、生きることの喜びを感じてもらうことが、魔女エレンの望みだった。
 無論ニタはその当時クグレックと面識はなかったが、世話になった魔女エレンの望みを叶えることが出来たら、恩を返すことが出来るのだろうか、と密かに思っていた。
 魔女エレンが死んで、ニタも悲しかった。だが、それはニタにとっての転機だった。
 エレンは、クグレックをニタに託したのだ。

――アルトフールという土地に行けば、災厄からクグレックを守ることが出来る。だから、一緒に着いて行ってあげて。

 ニタは決意したのだ。
 生きることを。
 安易かもしれないが、クグレックという一人の可哀相な少女を守り、世界の色を見せて、幸せや喜びを知ってもらうことが、ニタの持つ罪を浄化してくれると信じたかった。だから、ニタはクグレックを見守り続ける理由がある。
 だから、目の前の可哀相な少女の成長が、ニタは嬉しくて仕方なかった。
 彼女には、もっと、もっともっとさまざまな感情を知って欲しかったのだから。
 どう頑張っても希少種を狙うような残酷なニンゲンは許すことは出来ないが、ニタも変わらなければ。自分の弱さに落ち込んでいられない。

「何、泣いてんの?」
 ニタは涙を流しながらもにやにやしながら、クグレックに言った。 
「ニタこそ。」
 クグレックも同様に涙を流しながら、負けじと言い返した。クグレックは涙だけにとどまらず鼻水も垂れて来ていた。
「違うし、コレ涙じゃないし。ただの汗だし。」
「じゃぁ、私も汗。」
「鼻水垂らして汚いの。」
「ニタだって!」
 気が付けば、ニタも鼻水が出て来ていた。
「うるさい!」
 そう言って、ニタはクグレックに抱き着き、クグレックが着ていた寝巻で自身の顔を流れる液体を拭った。
「やだ、ニタ、汚い!」
 クグレックは信じられない、というような表情を浮かべて叫んだ。
 ニタを剥がそうとするが、非力なクグレックではニタを動かすことが出来なかった。ニタはぎゅっとクグレックに抱き着いている。
 困り果てたクグレックだったが、ふるふると震え、グズグズと鼻を啜っているニタの様子を見て表情を和らげた。
 そして、ニタの頭を優しく撫でた。
「ニタ、今度、またこういうことがあったら、私、全力でニタのサポートをするから。今度はしっかり頑張るから。もし、ニタが暴走するようなことがあったら、ちゃんと止める。ニタの苦しみ、私も背負う。だから、全部一人で何とかしようなんて思わなくたって、いい。私を信じて。トモダチって、そうやって助け合うものなんでしょう。」
 鼻水を着けられて少々ばっちいが、ニタの体温がクグレックにはとても暖かく感じられた。
 こうやってクグレックが誰かの体温を感じたのはいつぶりだろう。
 懐かしい暖かさだ。
 クグレックの体に顔を埋めながら、ニタが何かを叫んでいる。
「…ククのくせに。ククのくせにっ。」
 しゃくりあげながら、ニタは何かを叫び続ける。クグレックは耳を立ててその声に集中した。
「君は今まで友達もいない世間知らずの娘だったのに。死にたがってたどうしようもない子だったのに。どうしてそんなことを言えるようになったのさ?わーん。」
 ニタはもはや開き直ったのか、大声をあげてワンワン泣き出した。
 クグレックはにっこりと微笑んで、ニタを抱きしめた。
 マルトの村にいた頃、クグレックが外に出て、村の子供達にいじめられて泣きながら家に帰ってきた時、祖母はこうやって優しくクグレックのことを抱きしめてくれた。そして、「おばあちゃんはクグレックのこと、大好きだよ。だから泣くのはおやめ。」と言ってくれた。
 だからクグレックはニタのことをぎゅっと抱きしめながら
「だって、ニタのこと好きだもの。」
 と、優しく言った。

 ニタはクグレックの腕の中でますます激しく泣き喚いた。



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