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 廊下は人気がなかった。部屋を出て左手側には階段がある。また、小部屋の隣にも部屋があるようだったが、鍵がかかっていた。鍵開けの魔法をかけておいて、再び訪れることにした。
 クグレックは、鍵開けが出来てしまう自身に少なからずも罪悪感を覚えていた。泥棒のような真似をしている気分になり、自身の将来の行く末を案じた。しかし、今はニタが捕まってしまって緊急事態なのである。
「こんな泥棒みたいなことをするのは、今回だけ。」
 と呟き、自分に言い聞かせて、クグレックは1階の探索を続けた。
 1階は全く人気がない。小部屋から右手側に向かうと、開けた空間にでた。エントランスホールだ。来客を迎えるための受付のカウンターがあり、傍らに待機用の複数人掛けのソファもある。だが、カウンターには埃がたまっており、受付内には荷物が散乱している。ここ数日のうちにに受付嬢がいたような形跡はなかった。
 受付ホールのすぐそばには扉が二つあった。一つは男女のマークがついた扉、もう一つは特に何もついていない普通の扉。
 前者はおそらくトイレであろうことはクグレックにも容易に想像できた。後者は良く分からなかったので、クグレックは扉を開けることにした。扉には鍵がかかっておらず、簡単に開いた。
 部屋の中は暗かったので、クグレックは魔法で灯りを灯した。木片が杖の代わりになったので、杖がない時よりは明るい炎を出すことが出来た。部屋には木製のローテーブルがあり、エントランスホールにあったソファよりも豪華で立派なソファが向かい合わせで配置されていた。
 床は絨毯張りになっており、壁には動物の頭だけの剥製が並んでいた。クグレックには希少種が何かは分からなかったが、おそらく希少種ハンターが狩ったであろう動物たちなのだろう。
「ニタ、いる?」
 クグレックの呼びかけにあの可愛らしい子供のような声は聞こえてこなかった。
 まだ意識が飛んでて返事が出来ない状態である可能性も考慮して、クグレックは部屋の中を一通り探してみたが、白い子熊のぬいぐるみの様なあの子はいなかった。
 部屋を出て、ついでにトイレも探してみたが、ニタの姿は見えなかった。
 ニタの安否を心配しながら、クグレックは先ほど鍵開けの魔法をかけた扉へ戻った。鍵開けの魔法は成功しており、扉は難なく開いた。
 こちらの部屋も灯りがついてなかったので、クグレックは再び魔法で灯りを灯した。部屋は、小部屋の倍広く、クグレックが幽閉されていた小部屋にあった木箱と同じ木箱が大量に積まれていた。この部屋には木箱以外の物は見当たらなかった。
 もしかすると、ニタはこの木箱の中に閉じ込められているかもしれない、とクグレックは考えたが、目の前の山のように積まれた木箱を見て、ため息を吐いた。木箱の数は先ほどの小部屋にあったものよりも数倍はある。重さもあるので、非力なクグレックにはなかなか重労働だった。
 だが、弱気になっていられない、とクグレックは奮起して、木箱開けに取り掛かろうと手にしていた木片を掲げた。
 今の彼女には、物体移動の魔法がある。魔法の力を使えば、重い荷物も簡単に動かすことが出来てしまう。
「ラーニャ・レイリア!」
 木箱に向かって呪文を唱えたクグレックだったが、やはり木片の杖では魔法がうまく使えなかった。1ミリほど動かすのに、木箱の重い蓋を開けるのと同じくらいの力が必要だった。
 魔法にばかり頼るのも良くないな、とクグレックは痛切に感じ入り、袖をまくって木箱開けに取り掛かることにした。
 と、その時だった。ピアノ商会の正面入り口側からバタンとドアが閉じる音がした。そして、男性が喋る声が聞こえてくる。
 クグレックは緊張した。もし見つかったら大変なことになってしまう。絶対に物音立てずに、かつ外で男達がどんな話をしているのか気になって、そっと壁際まで歩いて聞き耳を立ててみた。
「いやぁ、今日も寒いな。
「本当に。リタルダンドは雪は少ないが風が冷たいんだよな。」
「なんでここにアジトを構えちゃったのかねぇ。そういや、あの新入り、絶滅したとされるペポを捕えたって。」
「へぇ、あのペポを。」
「しばらくはボスのお気に入りになるだろうな。」
「ま、すぐに飽きられて、コレクターに売られるだろうけどな。」
「ははは。ま、ボスに報告がてら、ペポでも観に行くか。」
 男達の声はクグレックがいる部屋に近づいて来た。クグレックの心臓は破裂寸前まで高鳴った。見つかったらどうしよう、という緊張感と恐怖にクグレックは暑くもないのに汗が大量に出て来た。
 が、男達の声は次第に遠ざかって行った。階段を上がって2階へ行ったようだ。クグレックはほっと安堵のため息を吐いた。
 そして、ニタの手がかりもつかめた。
 男達の話によると、ニタはこの部屋にはいないようだ。この大量の木箱を開けないで済む、ということが分かり、安心した。
 だが、ニタが捕えられたままなのは変わらない。おそらくニタはボスの部屋にいるということなので、クグレックは2階へ上がることを決意した。
 ただ、この杖代わりの木片では、いざ誰かに見つかった時に身を守る術が心許なく不安だ。いつもの樫の杖さえあれば魔法の力クグレックを助けてくれる。ニタ救出の前に、何としてでも樫の杖を取り戻さなければならない。
 マルトの村では忌み嫌われていた、クグレックの大嫌いだった魔女の力が、今やクグレックが前に進んで行くに当たって大切な力となっていた。



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