**********
そして、宴も終わり、二人は宛がわれた部屋で一息ついていた。
侍女から部屋の使い方の説明を受け、ニタは好奇心にかまけて部屋の内部を色々と弄り始めていた。
この部屋は入り口にあるスイッチや、ベッド横にあるスイッチ一つで灯りをつけることが出来る。そして、リモコン1つで部屋の気温を調節することが出来る。また、部屋の隅にあるニタ一人が入れそうな大きさの銀色の箱はレイゾウコというもので、飲み物や食べ物を冷たく補完することが出来る。冷たい飲み物がすぐに飲める便利な箱だ。また、冷やすだけでなく凍らせる機能もついている。
部屋の中央にあるローテーブルの上にはポットが置いてある。これは火を使わずとも瞬時にお湯を沸かし、保温することが出来る機械だ。ティーカップと茶葉は準備されているので、すぐに紅茶を飲むことが出来る。隣の部屋には風呂も備え付けられており、こちらもボタン一つ押せば泡風呂が出て来る仕様だ。
とにかく便利な機械が揃っているこの部屋で、好奇心旺盛なニタは色んなものを弄り尽した。
クグレックもニタ程でもないにせよ、気になる物には一通り手を触れて使い方を確認している。
「ニタ、寝る前にこのボタンを押すと、リラックスして眠れる音楽が流れたり、いい匂いがしたりするんだって。なんだか至れり尽くせりだね。」
「本当に!レイゾウコのなかも凄いよ!アイスが入ってるし、色んなジュースも入ってる。お酒も入ってるけど、ククはまだ未成年だから飲んじゃダメだよ。」
おそらく未成年であろうニタも興奮気味で言う。ニタの口元は茶色く汚れていた。どうやら、レイゾウコの中にはチョコレートも入っていたらしい。祝宴であんなに食べたのに、まだ食べるニタにクグレックは呆れかけた。
と、その時。部屋の中央にある手のひらサイズの手鏡のような機械から音楽が流れて来た。
「に、ニタ、これはどう使えばいいんだっけ?」
ニタは目を輝かせて音楽が鳴る機械を掴みとった。使い方は侍女から説明されている。
表面をさらさらと撫でると、手鏡の様な機械から光が放たれた。ニタはそれを床に置くと、光の中から国王ディレィッシュの姿が現れた。しかし、このディレィッシュは透き通っていて、向こうの壁が見えている。
『やぁやぁお二人とも。どうやらトリコ王国謹製機械を使いこなしているようだね。繋がって何よりだよ。』
透き通ったディレィッシュはニコニコしながら言った。
一方で、ニタとクグレックは目を丸くして驚いていた。こんな小さな鏡からディレィッシュが出て来たのだ。体は透き通っているが。
『そうか、初めて立体ホログラム映像を見たから驚いているんだな。二人とも、これはただの映像なんだ。私は別の場所にいるんだが、この機械を使えば、離れたところでもこうやって話をすることが出来る。無論私の部屋からもこの機械を通して、二人の声や姿が見えているよ。』
「機械って、魔法みたい!何が起こるか分からない!」
興奮した様子でニタが言った。
『ははは。確かに初めて見ると、魔法のように思えるかもしれないな。でも、これはタダの機械さ。機械は魔法のように自由には出来ない。』
それでも、クグレックは姿を映したりするような魔法はまだ知らない。魔法なんかよりも機械の方が凄いのではないか。
『さてさて、二人にはお願いがあってね。今後のトリコ王国の発展のためにも、ぜひぜひ協力してほしいんだ。直接会って話がしたいんだ。この4D2コムを手に取って欲しい。私が見えていると、取りづらいだろうから、いったん私は消えて声だけになろう。』
そういうとディレィッシュの姿は瞬時にして消えた。ニタとクグレックはきょろきょろと辺りを見回すが、ディレィッシュの姿はどこにもない。
『4D2コムを手に取ってくれ!』
手鏡からディレィッシュの声だけが聞こえる。ニタはそれをひろい上げて不思議そうに眺める。
「…4D2〈フォーディーツー〉コム?これのこと?」
『そうだ。その液晶を触ってみてくれ。』
ニタは4D2コムの表面に触れた。すると、1から9までの数字が表示された。
『指で3、1、1、2と触ってみてくれ。』
ディレィッシュに促されるまま、ニタは表示された数字を触る。
すると、バスルームの方から、ピロリーンと間の抜けた音が聞こえた。
『ロック解除成功だ!バスルームの方へ行ってみてくれ。』
ニタとクグレックはおそるおそるバスルームの方へ向かう。クグレックは何となく胸騒ぎがして、樫の木の杖を手に取った。
バスルームに行くと、そこにあったはずのバスタブがなくなっていた。その代わりに今までなかったはずの扉が出現していた。
『そこの扉に4D2コムをかざせばドアは開く。そしたら中に入って、またパスワードを入力してくれ。番号は5622だ。』
ニタが4D2コムを扉にかざすと、ドアは勝手に開いた。二人はびっくりしつつも恐る恐る扉の中へ入る。暗くて狭い部屋だった。ニタとクグレックだけで窮屈な部屋なのだ。バスルームよりも狭い。
ニタはディレィッシュの指示通り再び4D2コムの液晶を触り、数字を順番通りに押していく。
すると、ぶううんという低い音とともに部屋の照明が自動的につき、扉が閉まる。低い起動音と共に二人は浮遊感を感じるが、床に足はしっかりついている。
ガタンと音がすると同時に部屋がガクンと揺れた。また浮遊感を感じた。
『これはエスカレベーターと言ってな、私のプライベートラボまで連れて行ってくれるんだ。』
4D2コムから聞こえる誇らしげなディレィッシュの声。
流石のニタもとめどなく溢れるトリコテクノロジーに疲労感を見せつつある。
「もうなにがなんだか…。」
「カガクの力って魔法よりもすごいと思う…。」
再びエスカレベーターがガクンと揺れる。それと同時に低い起動音も止み、エスカレベーターは静寂に包まれた。ぷしゅーと音を立てて、エスカレベーターの扉が開くと、そこは客室のバスルームではなかった。白いナイトガウンに身を包んだトリコ王ディレィッシュの姿がそこにあった。
「ようこそ。私のプライベートラボへ。さぁ、こちらへ。」
ディレィッシュは嬉しそうに二人を部屋の奥へと招く。
ニタとクグレックは恐る恐るエスカレベーターを出て、きょろきょろあたりを見回しながらディレィッシュの後を着いて行った。
青い灯りの廊下を少し進むと、行き止まりに辿り着いた。しかし、ディレィッシュが傍にある小さな箱型の機械に弄パスワードを入力すると、行き止まりだと思われていた壁が瞬時に開いた。奥の方は真っ暗だったが、ディレィッシュが入り込むと、自動的に青い灯りがついた。
そこはドーム型の円形の部屋だった。大きさは二人に宛がわれている客室と同じくらいの広さだ。
だが、そこかしこに大なり小なりの機械のようなものが設置されているので、人が歩ける面積は限られていた。
「ここは、私以外の者は立ち入ることがない、特別な部屋なんだ。弟たちにもここに立ち入ることは許していない。」
ディレィッシュの表情に僅かばかりか暗い影が差した。が、すぐに微笑みを浮かべる。
「イスカリオッシュはダメなのにニタ達は良いんだ。それで大丈夫なの?」
ニタの問いに、ディレィッシュはにっこりと微笑む。
「あぁ。良いんだ。二人なら、なんだか不思議と信用できるんだ。」
ニタは訝しげにディレィッシュを見ながら、「ふーん」と言い放つ。ディレィッシュはニタの視線を気にすることなくニコニコしていた。
「ところで、お願いってなんなのさ。」
「うむ。それのことなんだが、二人に私の実験に協力してほしいんだ。」
「実験?」
「ニタは今や絶滅したとされるペポの生き残りとされている。ペポの青い瞳は万能薬となることでも有名だ。また、そのふかふかの白い毛は汚れにくく、撥水に優れているし、その可憐な体躯から繰り広げられる力というのも、実に興味深いのだ。」
ニタはディレィッシュの発言に身の危険を感じ後ずさりをした。
「や、やだよ。ニタの目はあげないよ。」
「嫌だな。そんな惨いことをするはずないじゃないか。ニタの涙の成分を調べたり、瞳孔や光彩の動きや形を調べたりするから、ニタの目を傷つけるなんてことはしないよ。」
「な、ならいいけど。」
「それに、クグレックは魔女だ。今現存する機械と魔法の力を融合させれば、さらにコストパフォーマンスの良いものになるかもしれない。どんな原理で魔法を使うのか、魔法を使う時、クグレックはどうなっているのか、調べたい。」
クグレックは不安そうな表情でそっとニタに身を寄せた。
ニタはそっとクグレックに耳打ちをする。
「なんか、変な人だね。トリコ王は。」
「う、うん。」
二人がひそひそ話し合うのを見て、ディレィッシュは首を傾げた。
ディレィッシュの視線に気付いたニタは作り笑顔を浮かべて、
「べ、別にニタ達は実験に協力したっていいよ。ただ、ニタ達には行かなければいけないところがあるんだ。だから、そんな長く協力することは出来ない。それでもいいというのなら。」
と、一国の主を前に物怖じすることなく条件を提示した。
「ふむ。行かなければならないところ、か。」
「うん。ニタ達はアルトフールってところに行かなければいけないんだ。アルトフール、知ってる?」
「聞いたことがないな。どこにあるんだ?」
「知らない。けど、支配と文明の大陸にはないんだ。」
「…どこにあるか分からない場所に行こうとしているのか?一体何故?」
「そこに行けば幸せが待っている、特別な地なんだ。実はニタもククも帰る場所がないんだ。だから、そこに行くしかない。」
「ほう。面白いな、それは。しかし、トリコ王国も良い国だ。国民は便利な機械に囲まれ、他の国よりも豊かな暮らしを送ることが出来ている。治安も安定しており、皆が安心して暮らすことが出来ている。当然二人のことは手厚く保護させてもらう。どうだろう、幸せが待っている地はこのトリコ王国である可能性があっても良いと思うのだが。」
「まぁ、そこに関しては、考えさせてもらうよ。それよりも、ニタはトリコ王国の叡智を用いてアルトフールの情報が欲しいな。そしたら、…そうだね、一か月くらいだったらトリコ王国に居ても良いよ。」
飄々とした様子で答えるニタにクグレックは感心するしかなかった。ニタの強い心臓に憧れを抱かざるを得ない。目の前にいるのは少々変人なところはあるが、やんごとなき身分の人物だ。少しでも失礼に値する言動を行ってしまえば、彼が持つ権力で、この世から抹殺されることだってあり得るのだ。
クグレックは恐る恐るディレィッシュを見てみると、ディレィッシュは意表を突かれたような驚いた表情をしていた。さっきまであんなに笑みを湛えていたのに、今は全くの無表情だ。やはり、ニタの言葉は王様の機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
ところが、クグレックの不安を他所に、王様は「はっはっは」と声を高らかにあげて笑うのだった。
「ニタ、お前は面白い奴だな。流石勇敢なるペポ族の戦士、とやらだ。その条件で行こう。1か月さえあれば、実験もアルトフールに関する情報収集も上手く行くだろう。そして何より、一か月もあれば二人の心をトリコ王国が捕えることが出来る。意見はいつだって翻していいからな。」
不敵な笑みを浮かべてのたまうディレィッシュ。自信に満ち溢れていた。
「分かった。じゃぁ、1か月間、お世話になるね。」
ニタが力強く頷き、ディレィッシュを見つめる。
「あぁ、全力でお世話しよう。」
ニタとディレィッシュは固く握手を交わした。
そして、宴も終わり、二人は宛がわれた部屋で一息ついていた。
侍女から部屋の使い方の説明を受け、ニタは好奇心にかまけて部屋の内部を色々と弄り始めていた。
この部屋は入り口にあるスイッチや、ベッド横にあるスイッチ一つで灯りをつけることが出来る。そして、リモコン1つで部屋の気温を調節することが出来る。また、部屋の隅にあるニタ一人が入れそうな大きさの銀色の箱はレイゾウコというもので、飲み物や食べ物を冷たく補完することが出来る。冷たい飲み物がすぐに飲める便利な箱だ。また、冷やすだけでなく凍らせる機能もついている。
部屋の中央にあるローテーブルの上にはポットが置いてある。これは火を使わずとも瞬時にお湯を沸かし、保温することが出来る機械だ。ティーカップと茶葉は準備されているので、すぐに紅茶を飲むことが出来る。隣の部屋には風呂も備え付けられており、こちらもボタン一つ押せば泡風呂が出て来る仕様だ。
とにかく便利な機械が揃っているこの部屋で、好奇心旺盛なニタは色んなものを弄り尽した。
クグレックもニタ程でもないにせよ、気になる物には一通り手を触れて使い方を確認している。
「ニタ、寝る前にこのボタンを押すと、リラックスして眠れる音楽が流れたり、いい匂いがしたりするんだって。なんだか至れり尽くせりだね。」
「本当に!レイゾウコのなかも凄いよ!アイスが入ってるし、色んなジュースも入ってる。お酒も入ってるけど、ククはまだ未成年だから飲んじゃダメだよ。」
おそらく未成年であろうニタも興奮気味で言う。ニタの口元は茶色く汚れていた。どうやら、レイゾウコの中にはチョコレートも入っていたらしい。祝宴であんなに食べたのに、まだ食べるニタにクグレックは呆れかけた。
と、その時。部屋の中央にある手のひらサイズの手鏡のような機械から音楽が流れて来た。
「に、ニタ、これはどう使えばいいんだっけ?」
ニタは目を輝かせて音楽が鳴る機械を掴みとった。使い方は侍女から説明されている。
表面をさらさらと撫でると、手鏡の様な機械から光が放たれた。ニタはそれを床に置くと、光の中から国王ディレィッシュの姿が現れた。しかし、このディレィッシュは透き通っていて、向こうの壁が見えている。
『やぁやぁお二人とも。どうやらトリコ王国謹製機械を使いこなしているようだね。繋がって何よりだよ。』
透き通ったディレィッシュはニコニコしながら言った。
一方で、ニタとクグレックは目を丸くして驚いていた。こんな小さな鏡からディレィッシュが出て来たのだ。体は透き通っているが。
『そうか、初めて立体ホログラム映像を見たから驚いているんだな。二人とも、これはただの映像なんだ。私は別の場所にいるんだが、この機械を使えば、離れたところでもこうやって話をすることが出来る。無論私の部屋からもこの機械を通して、二人の声や姿が見えているよ。』
「機械って、魔法みたい!何が起こるか分からない!」
興奮した様子でニタが言った。
『ははは。確かに初めて見ると、魔法のように思えるかもしれないな。でも、これはタダの機械さ。機械は魔法のように自由には出来ない。』
それでも、クグレックは姿を映したりするような魔法はまだ知らない。魔法なんかよりも機械の方が凄いのではないか。
『さてさて、二人にはお願いがあってね。今後のトリコ王国の発展のためにも、ぜひぜひ協力してほしいんだ。直接会って話がしたいんだ。この4D2コムを手に取って欲しい。私が見えていると、取りづらいだろうから、いったん私は消えて声だけになろう。』
そういうとディレィッシュの姿は瞬時にして消えた。ニタとクグレックはきょろきょろと辺りを見回すが、ディレィッシュの姿はどこにもない。
『4D2コムを手に取ってくれ!』
手鏡からディレィッシュの声だけが聞こえる。ニタはそれをひろい上げて不思議そうに眺める。
「…4D2〈フォーディーツー〉コム?これのこと?」
『そうだ。その液晶を触ってみてくれ。』
ニタは4D2コムの表面に触れた。すると、1から9までの数字が表示された。
『指で3、1、1、2と触ってみてくれ。』
ディレィッシュに促されるまま、ニタは表示された数字を触る。
すると、バスルームの方から、ピロリーンと間の抜けた音が聞こえた。
『ロック解除成功だ!バスルームの方へ行ってみてくれ。』
ニタとクグレックはおそるおそるバスルームの方へ向かう。クグレックは何となく胸騒ぎがして、樫の木の杖を手に取った。
バスルームに行くと、そこにあったはずのバスタブがなくなっていた。その代わりに今までなかったはずの扉が出現していた。
『そこの扉に4D2コムをかざせばドアは開く。そしたら中に入って、またパスワードを入力してくれ。番号は5622だ。』
ニタが4D2コムを扉にかざすと、ドアは勝手に開いた。二人はびっくりしつつも恐る恐る扉の中へ入る。暗くて狭い部屋だった。ニタとクグレックだけで窮屈な部屋なのだ。バスルームよりも狭い。
ニタはディレィッシュの指示通り再び4D2コムの液晶を触り、数字を順番通りに押していく。
すると、ぶううんという低い音とともに部屋の照明が自動的につき、扉が閉まる。低い起動音と共に二人は浮遊感を感じるが、床に足はしっかりついている。
ガタンと音がすると同時に部屋がガクンと揺れた。また浮遊感を感じた。
『これはエスカレベーターと言ってな、私のプライベートラボまで連れて行ってくれるんだ。』
4D2コムから聞こえる誇らしげなディレィッシュの声。
流石のニタもとめどなく溢れるトリコテクノロジーに疲労感を見せつつある。
「もうなにがなんだか…。」
「カガクの力って魔法よりもすごいと思う…。」
再びエスカレベーターがガクンと揺れる。それと同時に低い起動音も止み、エスカレベーターは静寂に包まれた。ぷしゅーと音を立てて、エスカレベーターの扉が開くと、そこは客室のバスルームではなかった。白いナイトガウンに身を包んだトリコ王ディレィッシュの姿がそこにあった。
「ようこそ。私のプライベートラボへ。さぁ、こちらへ。」
ディレィッシュは嬉しそうに二人を部屋の奥へと招く。
ニタとクグレックは恐る恐るエスカレベーターを出て、きょろきょろあたりを見回しながらディレィッシュの後を着いて行った。
青い灯りの廊下を少し進むと、行き止まりに辿り着いた。しかし、ディレィッシュが傍にある小さな箱型の機械に弄パスワードを入力すると、行き止まりだと思われていた壁が瞬時に開いた。奥の方は真っ暗だったが、ディレィッシュが入り込むと、自動的に青い灯りがついた。
そこはドーム型の円形の部屋だった。大きさは二人に宛がわれている客室と同じくらいの広さだ。
だが、そこかしこに大なり小なりの機械のようなものが設置されているので、人が歩ける面積は限られていた。
「ここは、私以外の者は立ち入ることがない、特別な部屋なんだ。弟たちにもここに立ち入ることは許していない。」
ディレィッシュの表情に僅かばかりか暗い影が差した。が、すぐに微笑みを浮かべる。
「イスカリオッシュはダメなのにニタ達は良いんだ。それで大丈夫なの?」
ニタの問いに、ディレィッシュはにっこりと微笑む。
「あぁ。良いんだ。二人なら、なんだか不思議と信用できるんだ。」
ニタは訝しげにディレィッシュを見ながら、「ふーん」と言い放つ。ディレィッシュはニタの視線を気にすることなくニコニコしていた。
「ところで、お願いってなんなのさ。」
「うむ。それのことなんだが、二人に私の実験に協力してほしいんだ。」
「実験?」
「ニタは今や絶滅したとされるペポの生き残りとされている。ペポの青い瞳は万能薬となることでも有名だ。また、そのふかふかの白い毛は汚れにくく、撥水に優れているし、その可憐な体躯から繰り広げられる力というのも、実に興味深いのだ。」
ニタはディレィッシュの発言に身の危険を感じ後ずさりをした。
「や、やだよ。ニタの目はあげないよ。」
「嫌だな。そんな惨いことをするはずないじゃないか。ニタの涙の成分を調べたり、瞳孔や光彩の動きや形を調べたりするから、ニタの目を傷つけるなんてことはしないよ。」
「な、ならいいけど。」
「それに、クグレックは魔女だ。今現存する機械と魔法の力を融合させれば、さらにコストパフォーマンスの良いものになるかもしれない。どんな原理で魔法を使うのか、魔法を使う時、クグレックはどうなっているのか、調べたい。」
クグレックは不安そうな表情でそっとニタに身を寄せた。
ニタはそっとクグレックに耳打ちをする。
「なんか、変な人だね。トリコ王は。」
「う、うん。」
二人がひそひそ話し合うのを見て、ディレィッシュは首を傾げた。
ディレィッシュの視線に気付いたニタは作り笑顔を浮かべて、
「べ、別にニタ達は実験に協力したっていいよ。ただ、ニタ達には行かなければいけないところがあるんだ。だから、そんな長く協力することは出来ない。それでもいいというのなら。」
と、一国の主を前に物怖じすることなく条件を提示した。
「ふむ。行かなければならないところ、か。」
「うん。ニタ達はアルトフールってところに行かなければいけないんだ。アルトフール、知ってる?」
「聞いたことがないな。どこにあるんだ?」
「知らない。けど、支配と文明の大陸にはないんだ。」
「…どこにあるか分からない場所に行こうとしているのか?一体何故?」
「そこに行けば幸せが待っている、特別な地なんだ。実はニタもククも帰る場所がないんだ。だから、そこに行くしかない。」
「ほう。面白いな、それは。しかし、トリコ王国も良い国だ。国民は便利な機械に囲まれ、他の国よりも豊かな暮らしを送ることが出来ている。治安も安定しており、皆が安心して暮らすことが出来ている。当然二人のことは手厚く保護させてもらう。どうだろう、幸せが待っている地はこのトリコ王国である可能性があっても良いと思うのだが。」
「まぁ、そこに関しては、考えさせてもらうよ。それよりも、ニタはトリコ王国の叡智を用いてアルトフールの情報が欲しいな。そしたら、…そうだね、一か月くらいだったらトリコ王国に居ても良いよ。」
飄々とした様子で答えるニタにクグレックは感心するしかなかった。ニタの強い心臓に憧れを抱かざるを得ない。目の前にいるのは少々変人なところはあるが、やんごとなき身分の人物だ。少しでも失礼に値する言動を行ってしまえば、彼が持つ権力で、この世から抹殺されることだってあり得るのだ。
クグレックは恐る恐るディレィッシュを見てみると、ディレィッシュは意表を突かれたような驚いた表情をしていた。さっきまであんなに笑みを湛えていたのに、今は全くの無表情だ。やはり、ニタの言葉は王様の機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
ところが、クグレックの不安を他所に、王様は「はっはっは」と声を高らかにあげて笑うのだった。
「ニタ、お前は面白い奴だな。流石勇敢なるペポ族の戦士、とやらだ。その条件で行こう。1か月さえあれば、実験もアルトフールに関する情報収集も上手く行くだろう。そして何より、一か月もあれば二人の心をトリコ王国が捕えることが出来る。意見はいつだって翻していいからな。」
不敵な笑みを浮かべてのたまうディレィッシュ。自信に満ち溢れていた。
「分かった。じゃぁ、1か月間、お世話になるね。」
ニタが力強く頷き、ディレィッシュを見つめる。
「あぁ、全力でお世話しよう。」
ニタとディレィッシュは固く握手を交わした。
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祝宴は大広間にて開催された。
上座のメインテーブルに案内された二人は、席について大人しくしていたが、しばらくしてから砂漠の衣装に身を包んだイスカリオッシュがやって来た。イスカリオッシュはクグレックの隣に座った。クライドは王と一緒にやって来るらしい。
席は中心の席とニタの隣が開いていた。
そして、さらにしばらくしてから、王が姿を現した。
「やぁ、諸君お集まりのようだね。」
白いいターバンをヴェールのようにして金色の装飾でとめ、金色のマントを羽織った王様がやって来た。その後ろをクライド他お供達がついて来る。
王はクグレック達をみるとふわりと優しく微笑んだ。空の様な水色の瞳が優しくクグレックたちを見つめる。ターバンの下から覗くサラサラな金色のおかっぱの髪を見て、ニタとクグレックは、はっと息を呑んだ。
この男はリタルダンドの首都で出会った男、ディレィッシュだ。
「ももももしかして、ディ、ディレィッシュ?」
ニタが動揺を隠せない様子でどもる。
「敬称をつけろ、ニタ。」
ディレィッシュの後ろにつくクライドが不機嫌そうに低い声で言った。だが、ディレィッシュは微笑みを称えながらそれを制して
「ふふふ。いいんだ、クライド。二人は私の客人であり友人なのだ。それに、ちょっとサプライズをしたかったので、ニタとクグレックが驚くのも仕方がないことなのさ。」
と言って嗜めた。
「では、改めて紹介しよう。私はトリコ王国国王ディレィッシュだ。再び二人に会えて嬉しいよ。」
ニタとクグレックはびっくりして何も言えなかった。ディレィッシュは満足した様子で、ニタとクグレックの間の席に座った。その背後にクライドがぴったりとくっつく。
「そうだ、その様子だとクライドもイスカリオッシュも正体を明かしていないだろうから、私から紹介させて頂こう。まず、イスカリオッシュは私の弟だ。トリコ王国第2皇子だ。そして、後ろのクライドだが、私の親衛隊隊長だ。」
「ところで王、第1皇子はどうしたんですか?」
イスカリオッシュが尋ねると、ディレィッシュは途端に表情を暗くした。
「…ハーミッシュは、体調不良だ。部屋で休養を取らせている。」
「彼は少し休んだ方がいいのですが…。ただ席が空いてしまいますね」
そう言ってイスカリオッシュはニタの隣の空いた席を見た。
「やむをえん。無理をして余計悪くさせてもマズイ。彼の仕事はいまだ忙しい。」
「そうですね。」
「まぁ、気を取り直して、宴を始めよう。」
そうして、宴は始まった。
王が乾杯の音頭を取ると、それからは音楽や豪華絢爛な踊りが目の前で繰り広げられ、大いに皆を楽しませた。食事も次から次と出て来る。クグレックは緊張しっぱなしであったが、ニタは大いに満足し、次第に緊張もなくなって行った。
宴の最中、ニタは王に気になっていたことを尋ねた。
「マシアスはどうしてるの?」
「ん、マシアス?」
王は首を傾げる。
「マシアスだよ。ディレィッシュの弟。」
「はて、私にはハーミッシュとイスカリオッシュの二人の弟しかいないんだが…。」
「え、どういうこと?あの時、マシアスのことを弟って言ったじゃないか。」
「うん?いつの時のことだ?…お、ニタ、凄いぞ、火を使いながら踊るみたいだぞ!」
目の前で繰り広げられる余興に、国王は大いに釘付けだった。マシアスに関する話は、これ以上話しても無駄なようだとニタは一旦諦めて、目の前の宴を楽しむことに集中した。ごはんもおいしいので、今はこの楽しさを享受しよう、と決めた。
祝宴は大広間にて開催された。
上座のメインテーブルに案内された二人は、席について大人しくしていたが、しばらくしてから砂漠の衣装に身を包んだイスカリオッシュがやって来た。イスカリオッシュはクグレックの隣に座った。クライドは王と一緒にやって来るらしい。
席は中心の席とニタの隣が開いていた。
そして、さらにしばらくしてから、王が姿を現した。
「やぁ、諸君お集まりのようだね。」
白いいターバンをヴェールのようにして金色の装飾でとめ、金色のマントを羽織った王様がやって来た。その後ろをクライド他お供達がついて来る。
王はクグレック達をみるとふわりと優しく微笑んだ。空の様な水色の瞳が優しくクグレックたちを見つめる。ターバンの下から覗くサラサラな金色のおかっぱの髪を見て、ニタとクグレックは、はっと息を呑んだ。
この男はリタルダンドの首都で出会った男、ディレィッシュだ。
「ももももしかして、ディ、ディレィッシュ?」
ニタが動揺を隠せない様子でどもる。
「敬称をつけろ、ニタ。」
ディレィッシュの後ろにつくクライドが不機嫌そうに低い声で言った。だが、ディレィッシュは微笑みを称えながらそれを制して
「ふふふ。いいんだ、クライド。二人は私の客人であり友人なのだ。それに、ちょっとサプライズをしたかったので、ニタとクグレックが驚くのも仕方がないことなのさ。」
と言って嗜めた。
「では、改めて紹介しよう。私はトリコ王国国王ディレィッシュだ。再び二人に会えて嬉しいよ。」
ニタとクグレックはびっくりして何も言えなかった。ディレィッシュは満足した様子で、ニタとクグレックの間の席に座った。その背後にクライドがぴったりとくっつく。
「そうだ、その様子だとクライドもイスカリオッシュも正体を明かしていないだろうから、私から紹介させて頂こう。まず、イスカリオッシュは私の弟だ。トリコ王国第2皇子だ。そして、後ろのクライドだが、私の親衛隊隊長だ。」
「ところで王、第1皇子はどうしたんですか?」
イスカリオッシュが尋ねると、ディレィッシュは途端に表情を暗くした。
「…ハーミッシュは、体調不良だ。部屋で休養を取らせている。」
「彼は少し休んだ方がいいのですが…。ただ席が空いてしまいますね」
そう言ってイスカリオッシュはニタの隣の空いた席を見た。
「やむをえん。無理をして余計悪くさせてもマズイ。彼の仕事はいまだ忙しい。」
「そうですね。」
「まぁ、気を取り直して、宴を始めよう。」
そうして、宴は始まった。
王が乾杯の音頭を取ると、それからは音楽や豪華絢爛な踊りが目の前で繰り広げられ、大いに皆を楽しませた。食事も次から次と出て来る。クグレックは緊張しっぱなしであったが、ニタは大いに満足し、次第に緊張もなくなって行った。
宴の最中、ニタは王に気になっていたことを尋ねた。
「マシアスはどうしてるの?」
「ん、マシアス?」
王は首を傾げる。
「マシアスだよ。ディレィッシュの弟。」
「はて、私にはハーミッシュとイスカリオッシュの二人の弟しかいないんだが…。」
「え、どういうこと?あの時、マシアスのことを弟って言ったじゃないか。」
「うん?いつの時のことだ?…お、ニタ、凄いぞ、火を使いながら踊るみたいだぞ!」
目の前で繰り広げられる余興に、国王は大いに釘付けだった。マシアスに関する話は、これ以上話しても無駄なようだとニタは一旦諦めて、目の前の宴を楽しむことに集中した。ごはんもおいしいので、今はこの楽しさを享受しよう、と決めた。