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 クグレックはエネルギー研究所を訪れた。
 研究所の人達は、いつも笑顔でクグレックたちのことを迎えてくれる。マシアスはこの実験は大量破壊兵器の製造に繋がる行為だと言っていたが、研究所の人達はそれを知っているのだろうか。クグレックにはこんな良い人達が裏の意図を知ったうえで高エネルギー発生装置の研究をしているとは考えられなかった。
 クグレックは目の前の研究員に試しに聞いてみることにした。
「あの、この研究は、最終的に何に繋がるんですか?」
 研究員は意外そうな表情を見せたが、すぐに笑顔になった。いつもは大人しいクグレックが、珍しく自分から声をかけて来たことに喜んでいた。
「科学に魔法を融合させて、高エネルギー発生装置を作るんだ。今のやり方を改良することで、より多くのエネルギーを出力するんだ。これによって、人々の生活がぐっと良くなる。」
「…本当にそれだけですか?」
「…どういうことかな?」
「…いえ。魔法って、機械と同じくらい万能だけど、簡単に人を傷つけることが出来る力でもあるから…、その…」
「確かに、魔法の力は凄い。でも、国際規約でも、魔法の力は兵力にしちゃいけないという決まりがあるんだ。魔法使いたちは自身の力を利用されるのを恐れて、ほとんどがその力を封印してしまった。だから、クグレックさんの魔力は兵器にはなりませんよ。それに、我が国は極度の鎖国政策を取っているから外の国と交流を持つこともない。なおさら外の国と争う必要性は存在しないんだ。だから、安心して大丈夫だよ。」
 優しく微笑む研究員。ここの研究員は皆優しい。クグレックは少しだけ安心した。
「でも、王も高エネルギー発生装置の研究、製造を指揮して下さってるから、異常なペースで研究も進み、発生装置に至っては既にプロトタイプは出来上がったんだ。王は、研究者としても、技術者としても本当に凄い方だ。」
 その時、クグレックはイスカリオッシュが呟いた言葉を思い出した。

――もしも王が間違った方向に進んでいるのならば、誰が止めることができるでしょうか。

 初めて研究所を訪れた時の帰り道にイスカリオッシュがふとつぶやいたこの言葉。
 もしかすると、イスカリオッシュもマシアス同様にディレィッシュの狂気に気付きつつあったのかもしれない。
 と、その時だった。ドーンという轟音が響くと共に、研究所内はぐらぐらと大きく揺れた。クグレックは立っていられず、思わず床に尻餅を着いた。
「一体、何だ?」
 研究員は机に寄り掛かりながら、辺りをきょろきょろ見回すと、室内に装着されているスピーカーからけたたましい警報音が流れ始めた。

――緊急事態、緊急事態。研究員は速やかに退避せよ。緊急事態、緊急事態…

 室内の灯りもチカチカと点滅を繰り返し、何かが起きていることを暗示する。
「クグレックさん、逃げましょう。このままでは、危ない。」
 研究員は慣れた様子で棚からマスクを取り出すと、まずは自分に装着し、もう一つはクグレックに装着させた。そして、クグレックの腕を取り、避難を行おうとしたその時だった。
 再び大きな轟音がした。さっきよりも大きい。そして、何かを考える間もなく、爆風と熱線が二人を襲った。さらに風圧で飛ばされた室内の机や棚の資料なども容赦なくクグレックと研究員にぶつかる。熱い、痛い、苦しい、痛い、熱い…。
 消えゆく意識の中、クグレックはニタのことを思い出した。ニタは今どこにいるのだろう。一緒に研究所に来たかどうかも思い出せない。絶体絶命の中、クグレックは喉の渇きを感じ、水が飲みたくなった。だが、すぐに意識は事切れた。

 目覚めると、クグレックは外に横たわっていた。
 青空が眩しく、太陽の光が熱い。
 クグレックは体を起こし、自身の体を確認するが傷一つない。爆風に巻き込まれて、死んだとばかり思っていたが、そうではなかったらしい。まるでメイトーの森で目覚めた時のようだ。
 辺りを確認してみると、クグレックは愕然とした。目の前のエネルギー研究所が真っ黒に焼け焦げ朽ち果てているではないか。付近に備わっているソーラーパネルも焼けて焦げて、溶けている。
 クグレックは廃墟と化した研究所を見つめて呆然としていた。
 ふと傍らに転がっているガスマスクに気付いたクグレックはハッとした。先ほどまで一緒にお話をしていた研究員のことを思い出したのだ。彼は無事だろうか。クグレックはガスマスクを手に取り、生命の反応が全く感じられない研究所へ足を踏み入れた。
 研究所は何とも言えない変な匂いがした。焦げた匂いだけではない、苦い臭いや嫌な臭いがする。クグレックは我慢できずにガスマスクを装着して、研究所の中を探索する。壁は崩れ落ち、鉄骨の柱ばかりが残っており、もともとの部屋がどこにあったのかすら分からなくなっていた。床は壁やら資料やらの瓦礫で埋め尽くされおり、歩くのすら困難な状況だ。崩れ落ちた天井の隙間から差し込まれる自然光だけが頼りの薄暗い廃墟で、クグレックは研究員やニタを探す。
 廃墟の中を進み、クグレックはある部屋に入った。先ほどまでクグレックがいた部屋だと感じた。この部屋も他の場所と同様壁は崩れ落ちて、棚や資料などが落ちて足の踏み場もない状態だったが、入り口の近くで、とうとう発見してしまった。他の瓦礫とは異なるその塊。人間ほどの大きさの真っ黒な塊。クグレックは動悸が早くなるのを感じた。すぐそばにはクグレックが装着しているガスマスクと同じものが、真っ黒に焦げた状態で転がっている。
 クグレックは呼吸を荒くさせながら、人の形をした黒いものに触れた。真っ黒に焦げているので、誰なのか判別することは出来ない。ただ、おそらく先ほどまでお話していた研究員であることだけはクグレックの勘で分かった。あんなにやさしい人だったのに、こうなってはただの黒い塊だ。さっきまでは生きていたのに。
 クグレックは胃の中から何かがせり上がって来そうだったのを唾を呑みこんで我慢した。
 野宿をしていた頃、ニタが野生動物を狩って来て、満足げに置いて行くことが多々あったが、どうしても慣れないことの1つだった。冷たく固くなった野生動物の目は何も映さない。光を宿すことなく空を向いているだけで、クグレックはそれが怖くて仕方なかった。
 クグレックは覚束ない足取りでその場から離れる。
 ふらふら廃墟となった研究所内を歩いていると、クグレックは周りの状況にようやく気付いた。そこかしこに落ちている瓦礫は全て研究所内の壁や床、室内にあった機械や棚の残骸だと思っていたが、よく見るとそうではなかった。その中には先ほど見た様な黒い人型の塊も多く存在した。
 この研究所にいた研究員は皆、突然の何かに巻き込まれ、最後の言葉を残すことなく死んでいったのだ。クグレックは耐え切れず悲鳴を上げて、元研究所内を走り、外に出た。しかし、外に出てみても、地獄はまだ続いていた。
 ソーラーパネルの下に人影を見つけ、クグレックは生存者だろうと思って、駆け寄ったが、そこにいたのは服や髪は焼け焦げ、皮膚はドロドロに溶け、うめき声をあげる人の姿だった。クグレックは小さく悲鳴を上げた。
「水、水を…。」
 悲惨な状態だが、目の前の男は生きていた。焦げた匂いの中に感じた嫌な臭いはこの匂いだった。
 クグレックは自分の荷物の中に水はないか探したが、鞄の中身は全て焼け焦げており、水は入っていなかった。
 クグレックは震える声で「ごめんなさい、水は、今ないの」と言った。
 ソーラーパネルの下には、辛うじて生き延びている研究員の姿が多数あった。皆悲惨な状態で、うめき声を上げている。
 クグレックは後ずさりをし、この場から離れようとした。が、クグレックは何かにぶつかった。
 振り向くと、そこにはトリコ王ディレィッシュがいた。
 彼はクグレックと同様に、何の外傷もなく綺麗なままだった。無表情でクグレックを見下ろしている。
「ディレィッシュ…!一体何が起きたの?」
「高エネルギー発生装置が誤作動を起こし、爆発した。」
「爆発…!」
 ディレィッシュはにこりと微笑んだ。
「実験には失敗もつきものだからね。…最高の技術の結晶がこれから出来上がるんだ。多少の犠牲は仕方がない。」
 クグレックは思わずディレィッシュから離れた。狂っている。
「どうした、クグレック。真の完成にはお前の力が必要なんだ。全てを私の支配下に置いて、世界の理を手に入れようではないか。」
 微笑みながら、ディレィッシュはクグレックに向かって手を差し出す。しかし、クグレックは小さく首を横に振り、一歩、また一歩とディレィッシュから後ずさる。
「魔女クグレック、お前はそのためにこのトリコ王国に呼ばれたのだ。さぁ、一緒に行こう。」
 にじり寄って来るディレイッシュに、クグレックは後ずさりをするが、足をもつれさせて、尻餅を着いて転んでしまった。
 近付いて来るディレィッシュに恐怖を覚えたクグレックは体が震えて立ち上がることも出来ない。
 ディレィッシュの背後に何か黒い靄が見えるのだ。その靄は禍々しく忌々しいオーラを発して、ディレィッシュに取り憑いているようだった。

「イヤ!やだ!来ないで!」
 
 照りつく太陽が浮かぶ青空に、クグレックの叫び声が響いた。
 そして、同時に彼女は気付いた。

――あぁ、これは悪夢だ。だって、研究所にはいつもニタと一緒に行っていたのに、ニタがいない。ニタがいない世界は単なる夢に過ぎない。目を覚まさなきゃ。




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