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 それから、1週間ほど野宿を繰り返し、4人は霊峰御山の麓までやって来た。
 ディレィッシュは初めての野宿生活で戸惑うことも多々あったが、案外適応するのは早かった。食事に関するニタからの洗礼も、ディレィッシュは怯むことなく喜んでいた。コンタイ国は野生動物が沢山いたので、食料調達は北国のドルセード王国やリタルダンド共和国よりも楽だというのがニタの弁。
 一方でクグレックは未だにニタの野外料理には慣れなかった。ディレィッシュはもともと王様だったので流石に野蛮な料理は口に合わないだろうと思っていたが、彼はなんでも美味しく喜んで食べた。クグレックは出し抜かれたような心地がして寂しかった。ちなみに弟のハッシュも平気な顔で食べており、慣れてくればニタと狩りに向かうようにもなっていた。
 霊峰御山の麓の集落は登山者が多く訪れる拠点だとディレィッシュが言っていたが、思っていたよりも人はいなかった。むしろ、閑散として寂れていた。
 この集落では簡素な作りの小さなトタン張りの平屋がひっきりなしに多く立ち並んでいた。壁にはカラフルな布が垂れ下がっており、色鮮やかである。後ほど現地の住民に聞いて分かったことだが、これは御山登山者が登頂に成功し、光を見出した者が残した布である。新しいものから、刷り切れてボロボロになった布まで多くの布がひらひらと棚引いていた。
 4人は、集落の中でも一番大きな宿に泊まった。大きさで宿を選んだわけではないが、たまたま一番最初に立ち寄った宿が一番大きな宿であった、というだけのことだ。それに、この宿が大きい理由は、酒場が併設されているからである。
 クグレックは着いて早々シャワーを浴びた。夕食まで時間があったので、仮眠もとった。初期の頃よりも僅かばかりに野宿生活も慣れて来つつあったが、やはり、温かいお湯で身を清め、ふかふかのベッドで眠ることは何にも替え難い。実際はそこまでふかふかではないぺったんこベッドだったが、堅い地べたに寝袋で眠るよりは格別に良い。
 しかしながら、クグレックはこの麓の集落に着いてからと言うものの、なんだかそぞろな気持ちを感じていた。何かがそわそわするのだ。野宿で疲れた体だったが、仮眠を取っても、夕食の時間まで爆睡することはなかった。怖い様な、わくわくするような、畏れるような、不思議な感覚がクグレックを包んでいた。
 
 夕食は併設されている酒場で取ることとなった。
 ポルカの宿屋を彷彿とさせるが、ポルカの宿屋ほど清潔なテーブルでもないし、食べ物もそこまで美味しいものではない。だが、野生動物の丸焼きよりは全然美味しいので、クグレックも安心して口に運ぶことが出来た。
 外と同じように酒場は閑散としていた。本来であれば情報交流の場として多くの人達で賑わうのだが、今酒場にいるのはクグレックたちと2組の客だけだった。テーブルは沢山あるというのに、がらんとしている。
 と、そこへ、二人の美しい女性とギターを持った男性が現れた。綺麗な衣装を身に纏った女性だった。一人はふわふわのブロンドヘアで花の妖精のように可憐な女性で、もう一人は黒髪ロングでスタイルの良い凛とした女性。観客はわずかしかいないが、ギターの音楽に乗せて彼女たちは魅惑的な踊りを披露した。
「素晴らしい!トリコ王国のヴェールダンスも素晴らしいが、彼女たちの踊りも素晴らしい。」
 ディレィッシュは一人立ち上がり、大きな拍手を贈った。踊り子たちは満更でもなく嬉しそうな様子だった。
 そして、彼女たちはそのままクグレックたちのテーブルに降り立った。通常ならばパフォーマンスが終わればすぐに引っ込むのだが、客があまりにも少ないからという理由で降りて来たのだ。黒髪の女性はティア、ブロンドの女性はリマといった。
「それにしても、あなた達、こんな物騒な時に何しに来たの?」
 黒髪ロングの女性、ティアが言った。
「御山に登りたいの。」
 ニタが答えた。
 ティアはきょとんとした表情でニタを見つめた。
「…あなた達、ハンターなの?」
「え、えっと、ハッシュはハンターだよ。」
「そうなの!?」
 ティアの表情が明るくなった。「あなたがハンターね!」と言って、嬉しそうにハッシュの手を握る。
「それが一体何なんだ?」
 戸惑いながら、ハッシュが尋ねた。ティアは目を輝かせて話し始めた。
「あのね、今、御山に狂暴なドラゴンが住み着いてて、御山には立入禁止になってるの。そのせいで登山者も激減しちゃって、私達の集落の商売も上がったりで。狂暴なドラゴンの影響か、魔物も狂暴になっちゃって。結構危険な任務になるから、ハンターじゃないと依頼できなくて…。」
「…」
 ハッシュは困った表情で押し黙った。実はハッシュはハンターではないのだ。ポルカではハンターとして雇われていたが、あれはランダムサンプリとの停戦協定を結ぶための任務の1つで、ハンター免許証は偽造したものだった。ディレィッシュもそのことは把握しているが、目の前のティアを見ては真実を打ち明けることが憚れる。
「ドラゴン退治!ニタ、ハンターじゃないけど、強い奴と戦ってみたい!ティア、ペポ族の戦士って知ってる?結構強いんだよ!」
「えぇ、そうなの?ニタ、こんなかわいいのに、ドラゴンと戦えちゃうの?」
「可愛さだけでなく、強さも兼ね備えた勇敢なるペポなんだ。」
 ドラゴン退治と聞いて意気揚々と名乗りを上げるニタ。ティアはニコニコ笑顔になりながら、ニタの話を聞く。
 ハッシュはちらりとディレィッシュに耳打ちをした。
「ドラゴン退治、いけるか?兄貴が大丈夫って言うならば、このままハンターの振りをして請け負ってしまおうと思うが…。」
「あぁ。ニタもハッシュも頼りになるしな。ましてやこんなに美しい女性からの依頼だ。断ることは出来ない。」
 と、ディレィッシュは囁き、親指を立てた。そして、いそいそとブロンドのふわふわヘアのリマの隣に座り、話を始めた。
 ハッシュは少々安心した表情に戻り、大きく頷いてから
「分かった。ドラゴン退治、承ろう。」
と答えた。
「あぁ、良かった。じゃぁ、よろしくお願いします。私、御山のガイドも出来るけど、腕にも自信はあるわ。明日中に手続きを行っておくから、明後日以降に出発しましょうね。ニタはハッシュの雇った用心棒ということで申請を上げとくけど、ディッシュとククはどうする?」
「もちろん、行くに決まっているだろう。」
「私も、行く。」
「じゃぁ、二人もハッシュが雇った用心棒にしておくけど、…」
 ティアはクグレックを見つめた。クグレックは同性ではあるが、整った凛としたティアに見つめられてドキドキした。美人だし、胸も大きくて柔らかそうな魅惑的な体をしている。
「ククは、もしかして、魔女?」
「はい。」
 何故わかるのだろうか、とクグレックは思い、首を傾げた。クグレックはまだ自身が魔女であることをティアに明かしていなかったのに。
「…そっか。ククみたいな若い女の子が魔物が巣食う御山に登るのは危ないからやめておいた方が良いと思ったけど、魔女なら、大丈夫ね。魔物と戦える。…うん。」
 ティアは自身の手のひらを見つめ何回か開いたり閉じたりした。
「ティア、どしたの?」
 ニタが尋ねた。
「え、うん、魔女なんて久しぶりに会ったなぁって思って。」
 ティアはクグレックに向けて屈託のない笑顔でにっこりと笑った。魔女と言われると、きゅっと心が掴まれるようなあまり心地良くない気持ちになるクグレックだったが、ティアの笑顔には安心感を覚えた。ティアからはどこか懐かしい感覚を覚える。それは祖母に思うものと似たようなものの様な気がした。

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