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 早朝からずっと登り続けているが、瘴気の靄は一向に薄くなる気配はなかった。太陽の姿を見ることもないままどんよりとした御山を進む。そろそろ暗くなり始めて来た。
「もうちょっとで今日の目標の場所の洞窟に辿り着くわ。ただ、そこには沢山の魔物がいる可能性が高いから、気を付けて。」
 一番前を進んでいたティアが立ち止り、ハッシュまで到着するのを確認してから、全員に向けて発信した。
 先へ進むにつれ、瘴気が濃くなってくる。クグレックの場所からニタを確認することが出来ないくらいに霧が濃くなっている。クグレックは一抹の不安を覚えながらも、ディレィッシュの背中を見つめながら前に進む。その間、魔物も出現した。あっという間に追い払えるものの、その出現間隔は徐々に狭くなって来ている。敵地へと進んでいるということが実感できた。
 程なくして、洞窟の目の前まで到達した。
 そして、ニタ達は目を疑った。そこには今までの魔物の出現からは想像が出来ない程の多くの魔物たちがひしめき合っていたからだ。沢山の黒い生き物たちがぼんやりと佇んでいる。ニタ達は思わず声に出してしまいそうなところをティアに抑えられ、少し離れた草陰から、間合いを取る。
「一体一体の魔物はそれほどの力もないけど、それでも沢山の魔物たちが相手では厄介よ。」
 ティアが声を潜めて言った。
「まずはクグレックの魔法で一気にやっつけましょう。それから、魔物たちはこちらに向かってくるから、私とニタとハッシュで一掃するわ。クグレックとディレィッシュはここで荷物を守ってて。」
「分かった。」
 クグレックは力強く頷くと、杖に魔力を集中させた。
 先程の魔法を広範囲に放つことが出来れば、多くの魔物を相当することが出来るだろう。クグレックは魔力の動きをイメージしながら、杖を構え詠唱を始めた。
「レーゲスト・ディア・ライアモ・フルオトリテ!」
 周りの瘴気を取り込みつつ、杖からは雷撃を伴ったダイヤの様に鋭利なこぶし大の魔力結晶体が魔物の群れへ5つ程連射された。魔力結晶体は魔物の群れの中で一時停止したかと思うと、すぐに炸裂し、更に鋭くなった無数の魔力結晶体のかけらが魔物達を貫く。
 ぎゃぁ、という断末魔の叫びが聞こえ、群れの何体かは霧となって四散した。それでも魔物はまだまだ沢山残っており、クグレックたちの存在に気付いた魔物たちは一斉に襲い掛かって来る。
 ティア達も駆け出し、魔物の群れに突撃する。
「うりゃーーー!」
 まるで虫けらを捻り潰すかのように、魔物達を倒すティア。その表情は楽しそうでどこか恍惚としていた。一体あんな華奢な体のどこからニタと同等以上の攻撃を繰り出すことが出来るのか。ニタもニタで、ティアと同様に楽しそうに魔物に攻撃を加えている。ペポ族の戦士としての血が疼くのだろう。可憐な体躯から繰り出される強烈なパンチで魔物をなぎ倒す。
 一方、ハッシュは冷静さを保ったまま、戦いに夢中になるティアとニタが取りこぼした魔物を倒していた。そのおかげで、クグレックたち荷物番の元には魔物が来ない。
 あっという間に洞窟前の魔物たちは一掃された。
 そして、そのあとには、直径50cm程の黒い球体の靄が残っていた。黒い靄は呼吸をしているかのようにシューシューと音を立てて、膨張と収縮を繰り返している。
「うん?なんだあれ?」
 ニタが首を傾げながら呟いた。
「あれは、魔物スポットよ。」
 ティアが答えた。
「魔物スポット?なにそれ。」
「魔物が生み出される場所。これがあるから、魔物が出て来るの。」
 魔物スポットと呼ばれる黒い靄は、シューシューと音を立てながら、赤黒く輝き始める。クグレックがやったように、周りの瘴気を取り込みながら球体型の靄は膨張していく。まるで鼓動の様に赤黒い輝きは激しく点滅する。2倍くらいに拡大すると、一体の植物型の魔物が出現した。靄は先ほどの50cm程の球体に戻り、再び落ち着いた。が。すぐに赤黒く輝き始め、膨張と収縮を繰り返す。
「本当だ。うまれた…。」
「今まで倒してきた魔物はここから生まれたものね。生まれたばかりの魔物だったから、弱かったみたい。」
 と、言いながら、ティアは新しく生まれた魔物を蹴り飛ばす。魔物は瞬時に霞となってかききえた。
「とはいえ、この魔物スポット、結構な勢いで魔物を生み出しちゃうから、壊さなきゃいけないわ。」
「どうやって?」
「魔に近い力で打ち消せば壊れるわ。」
「じゃぁ、ククの出番だ!」
 クグレックは皆の期待に応えようと大きく頷き、真剣な表情で両手で杖を掲げる。
「魔物スポットを越える魔力で打ち壊して!」
 分かった、と言わんばかりに、クグレックはティアを見つめて大きく頷いた。
 先程使った魔力結晶体を放つ魔法では、多くの魔物を生み出す魔物スポットの力を凌駕することは出来なさそうである。それならば、クグレックはこの魔物スポットを拒絶するのみ。今晩はこの魔物スポットの後方に存在する洞窟で休まなければならない。そのためには魔物を生み出す魔物スポットは邪魔だ。
 トリコ王国や色んな所で発現された拒絶の力をここで発揮する。
「ヨケ・キリプルク!」
 それは詠唱となって、クグレックの支配下に統率される。杖からは雷のような雷撃がバチバチと音を立てて出現し、魔物スポットに向かって放たれた。杖からは雷撃が断続的に放たれ続け、光と激しい音と共に魔物スポットにダメージを与える。
 そして、しばらくすると、魔物スポットはバリンと音を立てて砕け散り、跡形もなく消滅した。
 同時にまわりの瘴気も和らぎ、視界がはっきりとしてきた。辺りは夕闇が広がり、橙色に染まっている。
 クグレックは汗だくになり、息を切らしていた。それなりの魔力が消費され、倒れて意識を失うほどではないが、疲れがどっとやって来た。
「流石、クク!」
「やったわね!洞窟で休めるわ!」
 ニタとティアは手を取り合って喜んだ。
 クグレックはその様子を見て、ふと笑みを浮かべた。皆の役に立てたことが嬉しかった。
「さすが、クグレックだな。…トリコ王国に居た時よりも、魔法の威力が上がっているように感じる。」
 ディレィッシュが言った。
「…うん、私も、そんな気がする。」
 はぁはぁと肩で息をし、額から落ちる汗を腕で拭いながら、クグレックもディレィッシュの意見に同意した。この霊峰御山に充満する瘴気がクグレックを強くしているのか、もしくは成長によるものなのか。
「さ、行こうぜ。」
 ハッシュが軽々と全員分の荷物を担ぎ、一行は休憩地点である洞窟で休むこととなった。

********

 洞窟の中は広かった。奥まで空間が続いているようだが一行は入り口付近で火を起こし、体を休める。簡易テントもこしらえた。
 魔物スポットを破壊したクグレックは魔力疲弊が起きているため、火の魔法を使う以外は特に何もせず、座って食事や就寝の準備を見ているだけだった。
 食事は麓の集落からティアが持って来た非常食だった。大して美味しくはなかったが、野生動物を食べるよりは全然ましであった。きちんと穀物もあるし、肉もある。デザートもあったので、外でとる食事にしてはそれなりに豪華だった。
「ドラゴンのところまではあと少しよ。この洞窟の先を進めば到着する予定。ただ、ドラゴンの近くの魔物は強いから、気を付けてね。」
 豪快に肉にむしゃぶりつきながらティアが言った。
「ニタ、ドラゴン見るの初めてだから、ドキドキする。」
「私もだ。」
 ニタとディレィッシュが言った。
「ティア、その、ドラゴンってどんな奴なんだ?ティア自身は見たことはあるのか?」
 ハッシュが尋ねた。
「えっと…、分からないわ。見たことはないの。御山登山に来た生存者が言ってたのを聞いただけだから、詳しくは分からない。ただ、その、人伝えに聞いた話だと、その大きさは私達人間の5倍くらいはある真っ黒な大きなドラゴンだって。火を吐いたりするらしくて、…多くの登山者が殺されたみたい。」
「ハンターも登ったのか?」
「…うん。でも、ハンターの人は皆、戻って来なかった。」
「ドラゴンに、殺されたのか…。」
「それか、周辺の魔物に。」
 会話を聞いていたクグレックの顔が青ざめていく。ニタがクグレックの様子に気付き、
「クク、大丈夫だよ。ククはニタが守るし、それに、クク自身にも強力な魔法がついている。安心してよ。」
と声をかけた。
「うん。大丈夫。このメンバーなら、私も行けると思うの。だから、安心して。」
 ティアもにっこりとクグレックに微笑みかける。クグレックは幾分心が和らいだ。
「ところでティア、その山頂に住むドラゴンはこの御山の希少種とかそういう類なのか?」
 ディレィッシュが尋ねた。
「…いいえ。御山にはドラゴンははいないはず。だから、山頂のドラゴンは外来のものよ。」
「そうか…。どこから来たんだろうな?」
「…分からないけど…、瘴気が発生して、登山者の被害が出始めたのは昨年の11月中旬くらいだったわ。」
 ディレィッシュの眉毛がピクリと動いた。
「ふーむ。…まぁ、色々探ってもキリがないな。」
「なにか心当たりがあるのか?」
 ハッシュが尋ねた。ディレィッシュは頭を横に振って
「いーや、何にも。」
と、あっけらかんとした様子で答えるのだった。


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