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 ぱちり。

 クグレックは目を覚ました。瘴気に包まれた洞窟の外にいるようだ。瘴気のせいで薄暗いが、周りは見えるので、夜だけでないことは分かる。
 結果、クグレックは息継ぎが上手く出来なくて、気を失ってしまったのだが、多分しがみつかせてもらった人のおかげで、目を覚ますことが出来た。
 げほげほと咳き込みながら、水を吐き出す。
 そして、クグレックは顔を赤らめた。
 目覚めた瞬間、目の前にはハッシュの顔があり、口と口が触れていたのだ。人工呼吸と言うものだろうが、今まで男性と至近距離で接したことがなかったクグレックは急に恥ずかしくなってしまったのだ。しかも、目の前のハッシュは上半身が裸で、目のやり場に困ってしまう。
「大丈夫か?」
 ハッシュはクグレックの背中をさすりながら声をかけた。
 クグレックは顔を真っ赤にしながら、コクコクと頷くことしかできない。
「ニタと兄貴は無事だろうか…」
 と呟くハッシュに、クグレックははっと我に返った。人工呼吸をされて恥ずかしがっている場合ではない。濁流にさらわれたニタとディレィッシュの姿が見えないのだ。
 ハッシュは木にかけて干していた自身のシャツを手に取り、再び身に付ける。クグレックも濡れた服を乾かしたいと思ったが、替えの服がないのでこのままでいる他なかった。
「クグレック、ニタと兄貴を探して来るが、歩けるか?」
 クグレックは目を逸らしながら、「大丈夫と」と一言、こくりと頷いた。
「残してきたティアのことも心配だが、まずはニタと兄貴の方が心配だ。波はこの先まで侵食しているようだから、もしかするとこの先にいるかもしれない。」
 先を見ると、濁流が過ぎ去り、地面は泥でぐちゃぐちゃになっていたが、木々はなぎ倒されて道は開けていた。ニタとディレィッシュはこの先にいるだろう。
「ニター、兄貴ー、どこだー?」
 と声を上げながら二人を捜索するクグレックとハッシュ。不思議なことに、瘴気は漂っているが、魔物は出現しなかった。魔物も波に飲み込まれて、消滅してしまったのだろうか。
 クグレックはハッシュの背中をぼんやりと見つめた。そして、不意に先程の唇の感触を思い出して、顔が赤くなる。
 今はニタとディレィッシュの生死も分からないのに、余計なことを考えてはいられないと、クグレックは頭を強く振った。ハッシュはクグレックを助けるために、人工呼吸を施しただけで、他意はない。むしろ、クグレックと人工呼吸だなんてハッシュは本当は嫌だったかもしれないのだ。
 などと悶々と考えていると、傍の草叢からディレィッシュが飛び出してきた。
 彼もまた上半身は裸であった。思いの外、ぴんぴんしており、ハッシュもクグレックも安心した。
「ハッシュ!クグレック!」
 ディレィッシュもまた、安堵の表情を浮かべた。
「兄貴、無事だったか。」
「あぁ、あの濁流だったが、無事に洞窟の壁にぶつからず、そして、溺れることなく外に出ることが出来た。あの子たちのおかげで。」
「あの子たち?」
「あのおかっぱの子だ。」
「あんな敵意剥き出しだったのに?」
「あぁ、あの子たちは多分、悪い子じゃない。きっと瘴気に充てられたんだ。」
 自信満々になんの曇りもない表情ではっきりと言い切るディレィッシュに、ハッシュは言葉を失った。
「あの子はいなくなったけど、あの銀色の龍は私のことを背に乗せて、洞窟の外まで連れて行ってくれたんだ。だから、私は無事だったんだ。」
 ハッシュはため息を吐いて、頭をわしわしとかいた。自分たちを吹き飛ばした張本人である銀の龍がなぜわざわざ助けてくれる必要があったのか分からないし、何を根拠にあの女性を悪くないと言い切るのか、ハッシュには理解できなかったが、兄が無事だという現実はそこにあった。
「まぁ、兄貴が無事ならば何よりだ。ニタはどこに行ったのか、知らないか?」
「あぁ、そうだ。そうなんだ。ニタ、ティアから貰った薬の効果が切れたみたいで、もう歩けないくらいに重篤な状態なんだ。」
「それは大変だ。」
「行かなきゃ。」
 ディレィッシュの後を追うと、木陰の下で幹に寄り掛かって息を荒らげるニタの姿があった。
「ニタ、大丈夫?」
 クグレックがニタの傍に駆け寄り、様子を伺う。ニタはクグレックの存在に気付くと、にひひと顔を緩ませ「ククが、無事で良かった。」と、苦しそうな声で言った。
「ハッシュがね、守ってくれ…」
 と、ニタに報告しようとしたが、クグレックは口を噤んだ。濁流から身を守ってくれただけでなく、助けてくれたことも思いだしたのだ。思春期真っただ中のクグレックが心を揺さぶられるのに、ちょうどいい事件だった。
 ニタは急に口を閉ざしたクグレックに首を傾げる。
「ニタ、体の調子はどうなんだ?」
 ハッシュが声をかける。
「いやぁ、頭が痛いし、眩暈もするし、気持ち悪いし、…とてもじゃないけど、歩けたもんじゃないんだ…。」
 瘴気は山頂に近付くほど濃くなってきている。洞窟にいた時は魔物スポットを壊したから、瘴気がない状態だったから、ニタ自身も気づかなかったのだろう。外に出てみれば、瘴気に弱いニタにとっては猛毒でも振り撒かれているかのように危険な空間だった。
「いったん、洞窟まで戻るか?ニタ位ならおぶって行けるだろうし。逆に待っていた方がもしかすると、ティアと合流できるかもしれない。」
「…あぁ、ティアは…?」
「ティアは、あの子の後ろにいたから、多分波の被害はなかったと思う。現に俺達の荷物が一切流れ着いてないんだ。」
「ハッシュ、そんなところまで見ていたんだな。」
「…流石に、土地勘のない良く分からない場所ではぐれることほど怖いことはないからな。死に至る可能性が高いし…。クグレックは俺と一緒だったから良いものの、サバイバル力のない兄貴のことだって心配だった。魔物が出て来ても危険だから、とにかく洞窟まで戻ろう。」
 そう言って、ハッシュはニタを背負い、流れ着いた洞窟まで戻る。瘴気がない洞窟まで戻ると、ニタは水を得た魚の様に元気を取り戻した。
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