霊峰御山のドラゴン退治⑩
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草木をかき分けて、とうとう山頂へたどり着く。そこは開けた場所であり、本来ならば神々しい場所なのかもしれない。だが、今は瘴気により、今にも落ちて来そうな真っ黒な曇天と禍々しい黒の巨体に支配された汚らわしい空間だった。
そう、そこに、標的であるドラゴンの姿があったのだ。
大きさはクグレックたちを余裕で越える。2階建ての家屋程はあるだろう。丸太の様な大きな2本の足が巨体を支えており、胴体についた2本の腕には鋭い爪がついている。背には体よりも大きいであろう蝙蝠の様な大きな翼と、ギザギザとした棘が付いた大蛇の様な尾が生えていた。
魔物のように真っ黒で靄掛かったその巨体の胸の奥の方では、赤黒い何かが輝いている。鼓動の様に輝きは弱くなったり強くなったりしている。その収縮の姿は彼らが昨日みた魔物スポットと同じものだった。
「これが御山のドラゴン…。」
ティアも実際に見るのは初めてだったので、思わずその姿にたじろいでしまう。
「本物のドラゴンか、魔物か、はたまた魔物スポットなのか、なんなんだろうな。」
ディレィッシュが呟く。その呟きに対してニタが
「いやぁ、ドラゴンじゃないのかなぁ。見たことないけど。」
と、返した。
ドラゴンは低いうなり声を上げながら、5人を見下ろす。体内の赤黒い輝きと同じ色をした双眸は殺気立っていた。
ドラゴンは尻尾を振り上げ、5人に打ち付ける。
ニタとティアとハッシュの3人は瞬時にその攻撃をかわしたが、クグレックとディレィッシュは瞬時に対応することが出来なかった。かろうじてディレィッシュが身を挺してクグレックを庇ったために、クグレックは地面に倒されかすり傷程度で済んだが、ディレィッシュは勢いよく尻尾に打ち付けられ、吹っ飛ばされた。
「ディレィッシュ!」
顔から地面に追突したディレィッシュ。が、すぐにむくりと身を起こすと、鼻からつうと血が垂れた。ディレィッシュはきょとんとした表情でいた。
「あれ、私、死んでいないぞ?とっても体は痛いが。」
ディレィッシュは体をさすりながら、呆然としていたが、一呼吸おいて合点した。瘴気の力が彼の魔抜け分を補ってくれていたとティアが言っていたのだ。そのため、彼は通常以上に頑丈になっていた。
再びドラゴンがディレィッシュに向かって尻尾で攻撃を繰り出す。
「ディレィッシュ、後ろ!」
と、ティアが叫ぶと同時にニタが駆け出し、渾身の力を込めて振り回される尻尾に向かって飛び蹴りを喰らわせる。
ニタの知識ではドラゴンは固い鱗を持ち、どんな攻撃をも跳ね返すという伝説があるということは知っていた。このままドラゴンに飛び蹴りを喰らわせたら、もしかするとニタの足はその堅い鱗に阻まれて折れてしまう可能性もあるが、ニタは臆することなく全力の力をドラゴンの尻尾に捧げる。
ニタの強力な一撃がドラゴンの尻尾に当たる。ニタの足はドラゴンの尻尾にのめり込んだ。変な感触だ、とニタは思った。尻尾は黒い靄を吹き出して凹んだが、すぐに吹き出した黒い靄がニタに蹴られた部分を包むと元の形に戻った。そして尻尾はびっくりしたようにドラゴンの後ろに引っ込んだ。
体制を整え、地面に足をつけたニタは力強い視線でドラゴンを睨み付ける。
本当にドラゴンなのだろうか。それとも、伝説はあくまでも伝説にすぎないのか。
と、思った矢先、ドラゴンが深呼吸をしたかと思うと、ドラゴンは真っ黒な火の玉をニタに向かって吐き出した。キャベツ位の大きさだった。何かが燃焼したのか、焦げた匂いがする炎だ。しかしこの炎、よく見るとどんどん大きくなっていく。ニタの目の前まで来た時には羊くらいの大きさになっていたが、ニタはその高い身体能力でギリギリのところで炎をかわした。
しかし、ちりっと耳の後ろが焦げた音が聞こえたニタは
「ぎゃー、焼けた!焼けた!」
と吃驚して、耳の後ろをバシバシと叩いた。
さらに、ニタの背後ではニタの耳を掠めた真っ黒な火の玉が地面に衝突して燃え上がっていた。ロバ程の大きさになって轟々と燃え上がっているが、なにか様子がおかしい。炎は延焼することなくその場で燃え上がっているうえ、中では何かが蠢いているかのように形を変化させるのだ。
「ニタ、後ろ!」
ティアが声をかけるとニタはハッとして振り向き、その異様な黒い炎を視認する。
炎は不気味に燃え上がり、ニタの姿を捉えているかのように見えた。ニタは背筋がゾクリとするのを感じた。
炎は大きく燃え上がった。それはまるで炎の中に何かが存在し、もがき苦しむように見えたが、すぐに掻き消えてしまった。後には何も残らない。
「な、なに、今の…?」
ニタは再び目の前のドラゴンを見上げる。ドラゴンは再び大きく息を吸い込んで、あの真っ黒い火の玉を吐き出そうとしている。ドラゴンの体内の奥に見える赤黒い輝きがより一層明るさを増した。
ドラゴンが火を吐きだすと、ニタは簡単にそれを交わした。ドラゴンは火の玉を吐くと、その反動でしばらく動けなくなるようだ。身体の赤黒い輝きも弱まり、吐き出したままの恰好で呼吸を整えている。
ニタ達は再び火の玉の観察だ。異様なのは黒いだけではない。あの炎ははまるで生き物のように燃えているのだ。
火の玉は地面に衝突すると、不気味に変形しながらも大きく燃え上がる。
再び燃え尽きるのだろうか、と一同は思ったが、炎は形も変わることなく落ち着いて、安定して燃え続けた。そして、黒い炎は、ゆっくりと、ゆっくりと、亀の歩みの様にニタに滲みよって来た。延焼しているのではない。炎そのものが生き物のように近寄ってきているのだ。そして、勢いをつけてニタに突進した。
「うわ!」
黒い炎の動きは緩慢だったため、ニタは余裕でその突進をかわすことが出来たが、突進の速度は思った以上に速かった。
「な、なにこれ。この火の玉、襲ってくるんだけど!」
ティアが駆け寄り、おもむろに炎に蹴りを入れる。すると、炎はティアに蹴り飛ばされた。
ティアは「熱ッ」と声を上げ、足をすぐに引っ込めた。靴は焼け焦げ、ところどころ黒くなっている。
ティアは、引きつった表情で不気味にうごめく黒い炎を見つめる。
「あの中に、なんかいるわ。そうじゃないと、炎なんて蹴り飛ばせないもの。…なんか、魔物みたいな感触だった。」
ティアの呟きに、ニタも表情を引きつらせた。
「…ドラゴンは、炎と魔物、一緒に吐き出しているのかな?」
と言うニタにティアは「…そうかもしれない。」と言って、ドラゴンを見上げる。
「…あのドラゴンの胸の奥の方にある、あの赤黒い光、魔物スポットみたいに光るよね。」
ニタが言った。ティアは「確かに。」と言って同意する。
ドラゴンは再び息を吸い込み、火の玉を吐こうとしている。同時に胸のあたりの赤黒い輝きも光の強さを上げる。ドラゴンは火の玉を連続で吐き出した。
ニタ達は逃げ回り、直撃を回避したが、その後の火の玉の経過が気になるところだった。半数以上の火の玉は不定に形を変えた後、燃え尽きて跡形もなくなったが、うち二つは先ほどと同様に自ら動き回る炎となり、ニタ達ににじり寄る。
ハッシュがふと気づいたように言った。
「というよりも、あれは魔物スポットなんじゃないか?光り方がまさに魔物スポットのそれだし。」
ドラゴンの体内の赤黒い輝きは、炎を吐き出したために消えていた。いや、炎と共に魔物を出現させたためにその輝きが消えていたと言い直していいのかもしれない。
ニタとティアは顔を見合わせ
「嘘でしょ!?」
と声を上げた。
目の前には倍に増えた炎と魔物を出現させて小休止するドラゴンの姿があった。
「これはやばいんじゃないの?あの炎、攻撃できるとは言っても、炎だし、熱いよ?」
ニタが言う。
「もうこいつらは無視してあのドラゴンを叩くしかないわね。今なら魔物スポットの動きも休止してるし。」
ティアが言った。ニタもそうするしかないと思い、二人はドラゴンに駆け寄り、攻撃を加え始めた。
そう、そこに、標的であるドラゴンの姿があったのだ。
大きさはクグレックたちを余裕で越える。2階建ての家屋程はあるだろう。丸太の様な大きな2本の足が巨体を支えており、胴体についた2本の腕には鋭い爪がついている。背には体よりも大きいであろう蝙蝠の様な大きな翼と、ギザギザとした棘が付いた大蛇の様な尾が生えていた。
魔物のように真っ黒で靄掛かったその巨体の胸の奥の方では、赤黒い何かが輝いている。鼓動の様に輝きは弱くなったり強くなったりしている。その収縮の姿は彼らが昨日みた魔物スポットと同じものだった。
「これが御山のドラゴン…。」
ティアも実際に見るのは初めてだったので、思わずその姿にたじろいでしまう。
「本物のドラゴンか、魔物か、はたまた魔物スポットなのか、なんなんだろうな。」
ディレィッシュが呟く。その呟きに対してニタが
「いやぁ、ドラゴンじゃないのかなぁ。見たことないけど。」
と、返した。
ドラゴンは低いうなり声を上げながら、5人を見下ろす。体内の赤黒い輝きと同じ色をした双眸は殺気立っていた。
ドラゴンは尻尾を振り上げ、5人に打ち付ける。
ニタとティアとハッシュの3人は瞬時にその攻撃をかわしたが、クグレックとディレィッシュは瞬時に対応することが出来なかった。かろうじてディレィッシュが身を挺してクグレックを庇ったために、クグレックは地面に倒されかすり傷程度で済んだが、ディレィッシュは勢いよく尻尾に打ち付けられ、吹っ飛ばされた。
「ディレィッシュ!」
顔から地面に追突したディレィッシュ。が、すぐにむくりと身を起こすと、鼻からつうと血が垂れた。ディレィッシュはきょとんとした表情でいた。
「あれ、私、死んでいないぞ?とっても体は痛いが。」
ディレィッシュは体をさすりながら、呆然としていたが、一呼吸おいて合点した。瘴気の力が彼の魔抜け分を補ってくれていたとティアが言っていたのだ。そのため、彼は通常以上に頑丈になっていた。
再びドラゴンがディレィッシュに向かって尻尾で攻撃を繰り出す。
「ディレィッシュ、後ろ!」
と、ティアが叫ぶと同時にニタが駆け出し、渾身の力を込めて振り回される尻尾に向かって飛び蹴りを喰らわせる。
ニタの知識ではドラゴンは固い鱗を持ち、どんな攻撃をも跳ね返すという伝説があるということは知っていた。このままドラゴンに飛び蹴りを喰らわせたら、もしかするとニタの足はその堅い鱗に阻まれて折れてしまう可能性もあるが、ニタは臆することなく全力の力をドラゴンの尻尾に捧げる。
ニタの強力な一撃がドラゴンの尻尾に当たる。ニタの足はドラゴンの尻尾にのめり込んだ。変な感触だ、とニタは思った。尻尾は黒い靄を吹き出して凹んだが、すぐに吹き出した黒い靄がニタに蹴られた部分を包むと元の形に戻った。そして尻尾はびっくりしたようにドラゴンの後ろに引っ込んだ。
体制を整え、地面に足をつけたニタは力強い視線でドラゴンを睨み付ける。
本当にドラゴンなのだろうか。それとも、伝説はあくまでも伝説にすぎないのか。
と、思った矢先、ドラゴンが深呼吸をしたかと思うと、ドラゴンは真っ黒な火の玉をニタに向かって吐き出した。キャベツ位の大きさだった。何かが燃焼したのか、焦げた匂いがする炎だ。しかしこの炎、よく見るとどんどん大きくなっていく。ニタの目の前まで来た時には羊くらいの大きさになっていたが、ニタはその高い身体能力でギリギリのところで炎をかわした。
しかし、ちりっと耳の後ろが焦げた音が聞こえたニタは
「ぎゃー、焼けた!焼けた!」
と吃驚して、耳の後ろをバシバシと叩いた。
さらに、ニタの背後ではニタの耳を掠めた真っ黒な火の玉が地面に衝突して燃え上がっていた。ロバ程の大きさになって轟々と燃え上がっているが、なにか様子がおかしい。炎は延焼することなくその場で燃え上がっているうえ、中では何かが蠢いているかのように形を変化させるのだ。
「ニタ、後ろ!」
ティアが声をかけるとニタはハッとして振り向き、その異様な黒い炎を視認する。
炎は不気味に燃え上がり、ニタの姿を捉えているかのように見えた。ニタは背筋がゾクリとするのを感じた。
炎は大きく燃え上がった。それはまるで炎の中に何かが存在し、もがき苦しむように見えたが、すぐに掻き消えてしまった。後には何も残らない。
「な、なに、今の…?」
ニタは再び目の前のドラゴンを見上げる。ドラゴンは再び大きく息を吸い込んで、あの真っ黒い火の玉を吐き出そうとしている。ドラゴンの体内の奥に見える赤黒い輝きがより一層明るさを増した。
ドラゴンが火を吐きだすと、ニタは簡単にそれを交わした。ドラゴンは火の玉を吐くと、その反動でしばらく動けなくなるようだ。身体の赤黒い輝きも弱まり、吐き出したままの恰好で呼吸を整えている。
ニタ達は再び火の玉の観察だ。異様なのは黒いだけではない。あの炎ははまるで生き物のように燃えているのだ。
火の玉は地面に衝突すると、不気味に変形しながらも大きく燃え上がる。
再び燃え尽きるのだろうか、と一同は思ったが、炎は形も変わることなく落ち着いて、安定して燃え続けた。そして、黒い炎は、ゆっくりと、ゆっくりと、亀の歩みの様にニタに滲みよって来た。延焼しているのではない。炎そのものが生き物のように近寄ってきているのだ。そして、勢いをつけてニタに突進した。
「うわ!」
黒い炎の動きは緩慢だったため、ニタは余裕でその突進をかわすことが出来たが、突進の速度は思った以上に速かった。
「な、なにこれ。この火の玉、襲ってくるんだけど!」
ティアが駆け寄り、おもむろに炎に蹴りを入れる。すると、炎はティアに蹴り飛ばされた。
ティアは「熱ッ」と声を上げ、足をすぐに引っ込めた。靴は焼け焦げ、ところどころ黒くなっている。
ティアは、引きつった表情で不気味にうごめく黒い炎を見つめる。
「あの中に、なんかいるわ。そうじゃないと、炎なんて蹴り飛ばせないもの。…なんか、魔物みたいな感触だった。」
ティアの呟きに、ニタも表情を引きつらせた。
「…ドラゴンは、炎と魔物、一緒に吐き出しているのかな?」
と言うニタにティアは「…そうかもしれない。」と言って、ドラゴンを見上げる。
「…あのドラゴンの胸の奥の方にある、あの赤黒い光、魔物スポットみたいに光るよね。」
ニタが言った。ティアは「確かに。」と言って同意する。
ドラゴンは再び息を吸い込み、火の玉を吐こうとしている。同時に胸のあたりの赤黒い輝きも光の強さを上げる。ドラゴンは火の玉を連続で吐き出した。
ニタ達は逃げ回り、直撃を回避したが、その後の火の玉の経過が気になるところだった。半数以上の火の玉は不定に形を変えた後、燃え尽きて跡形もなくなったが、うち二つは先ほどと同様に自ら動き回る炎となり、ニタ達ににじり寄る。
ハッシュがふと気づいたように言った。
「というよりも、あれは魔物スポットなんじゃないか?光り方がまさに魔物スポットのそれだし。」
ドラゴンの体内の赤黒い輝きは、炎を吐き出したために消えていた。いや、炎と共に魔物を出現させたためにその輝きが消えていたと言い直していいのかもしれない。
ニタとティアは顔を見合わせ
「嘘でしょ!?」
と声を上げた。
目の前には倍に増えた炎と魔物を出現させて小休止するドラゴンの姿があった。
「これはやばいんじゃないの?あの炎、攻撃できるとは言っても、炎だし、熱いよ?」
ニタが言う。
「もうこいつらは無視してあのドラゴンを叩くしかないわね。今なら魔物スポットの動きも休止してるし。」
ティアが言った。ニタもそうするしかないと思い、二人はドラゴンに駆け寄り、攻撃を加え始めた。
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霊峰御山のドラゴン退治⑨
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瘴気が濃くなる御山を一行は再び登り始めた。
足場はだんだん悪くなる。これまでは整備された登山道だったが、洞窟を抜けてからはごろごろとした岩場が続く不安定な道だった。気を抜けばクグレックみたいな鈍臭い人間は転んでしまうだろう。さらに足場の悪さは体力も奪うのだ。大した距離を進んでいないのに、クグレックは足が痛くなってきた。
その上、魔物も出現する。猿の様なすばしっこい魔物だった。岩場を巧みに駆け回り、ティア、やハッシュを翻弄する。ニタはかろうじて岩場を俊敏に動けるが、魔物ほどではないので、追いつけなかった。クグレックとディレィッシュは後方待機で荷物番だ。
「もう、なんなの、すばしっこいわね!」
「ここじゃ動きづらいな。」
立ち往生するティアとハッシュ。ニタに追いかけられながら魔物は、石を拾っては投げつけて来る。ニタは済んでのところで石を交わしたり、キャッチしたりて相手の攻撃を回避する。
すると、荷物番をしていたディレィッシュがおもむろに鞄の中を漁り、長さ30センチほどのケースを取り出した。中から何本か棒を取り出して、手慣れた手つきで組み立て始める。次第に形付くられるそれはボウガンの形をしていた。が、普通のボウガンよりも一回りほど小さく、子どもでも取り扱えそうなくらい可愛らしいサイズだった。
「ディレィッシュ、それ、何?」
クグレックが尋ねる。
「ん、ボウガンだ。持ち運びに楽なように、分解可能で軽量、小型化してみた武器だ。殺傷力はあんまり高くないが、昨日、手入れをしてまぁ、いい感じだったので、実践投入してみようと思って。」
「ディッシュが作ったの?」
「まぁな。おもちゃみたいなもんだけど。」
鉛筆程の矢をボウガンに込め、ディレィッシュは片手で小型ボウガンを構え、魔物に照準を合わせる。
「射撃は得意でね。銃器を扱う方が得意なんだが、あの武器は今の世界じゃ物騒だ。」
余裕の笑みを浮かべながら、ディレィッシュがボウガンの引金をひくと、小さな矢は魔物に真っ直ぐに飛んで行きぷすっと刺さった。
魔物は不意打ちの攻撃に驚き、動きが鈍った。その隙を着いて後を追っていたニタが魔物に回し蹴りを喰らわせ、魔物は霞となって掻き消えた。
「クク、なんか魔法使った?」
ニタが不思議そうに尋ねた。クグレックは魔力温存のため、緊急時以外は魔法を使わないことになっている。
クグレックは首を横に振った。
「私じゃない。ディッシュがやったの。ボウガンで。」
と、クグレックが言うと、ディレィッシュは小さなボウガンを揚々と掲げた。
「ニタ、落ちた矢は回収してくるとありがたい。」
「分かった。」
ニタはボウガンの矢を拾い、ディレィッシュの元へ運んだ。
「格好良い武器だね。」
「ニタの鉄拳に比べれば、おもちゃみたいなもんさ。」
そう言って、ディレィッシュは小型ボウガンを解体する。
「あれ、もうしまっちゃうの?」
「あぁ、山登りに持ち歩くのは邪魔だからな。」
「そう。」
そして、再び一行は岩場を進み続ける。確かに不安定な足場で、小型とはいえボウガンを持って歩くのはバランスもとりづらく大変であった。
その後もたびたび魔物は出現したが、なんとか追い払うことは出来た。が、先程の猿の様な魔物のように素早かったり、特殊な攻撃を行ってくる魔物が多かった。強い魔物というわけでもないが、足場が足場なだけに戦い辛く、前衛隊の体力は順調に削られていった。
が、瘴気が一層濃くなって、魔物も一度に4,5体ほど現れるので前衛隊の骨を折った。
「ティア、魔物が、どんどん増えてるけど、魔物スポットはどこにあるの?」
「この近くにあると思ったんだけど…。うーん。」
ティアは一旦立ち止り、腕を組んで、目を閉じた。眉間に皺を寄せ、うーんと唸りながら考え込む。そして、開眼した。
「大変。魔物スポットは頂上にあるわ!」
とティアは声を上げた。
「なんでわかるんだ?」
ディレィッシュが尋ねた。
「えっと、ほら、悪魔祓いの師匠のせいで、魔に関して敏感になっちゃったから、魔物スポットも感覚でどこにあるかわかっちゃうのよ。」
「へぇ。」
「まぁ、そんなことはどうだっていいの。狂暴なドラゴンと一緒に魔物スポットがあるなんて、厄介すぎるわ。ドラゴンだけでなく魔物も一緒に相手にしないといけないなんて。」
「ふむ、それは厄介だな。」
「でも、行くしかないんでしょ。」
ニタが問うと、ティアはこくりと頷いた。
「えぇ。魔物も思っていたよりも強いわけではないし、ニタもハッシュも強いわ。隠し玉のクグレックもいるから、勝算はある。ディレィッシュ、アンタにも特別な役割があるから、頑張って!」
「ほう、特別な役割か。」
一行は気合を入れ直し、頂上へ向かう。頂上へ向かうにつれ、次第に見かけなくなっていた植物たちがちらほら姿を現したかと思うと、樹林帯が広がるようになった。そろそろこの標高では植物も育たなくなる高さだが、草花樹木共々立派に育っている。さらに、どこからか聞こえる動物たちの声。これまで岩や砂利といった殺風景だった景色が、急に生気を持ち始めた。
「山頂はもうちょっとよ…。」
ティアは周りの景色を見て、そう言った。
御山が霊峰たる所以はここにある。山頂周辺の神性だ。
通常の標高では、御山の山頂は森林限界に当たり、樹木が育たない。だが、不思議なことに山頂付近に限り、御山では樹木が低地と同じように育っているのだ。さらに、今現在の季節は冬に当たるのだが、御山では雪が降らない。故に年中いつでも登ることが可能なのだ。