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 旅を始めてからおよそ3ヶ月。クグレックにとっては中身の濃い三か月であった。
 白いふかふかの珍獣ニタに誘われるがままに故郷マルト、ドルセード王国を出て、隣国にて人の温かさに触れたり、嫌な一面を見たりした。超高度な機械文明の国に到達したかと思えば、突然なかったことになって、二人の兄弟とも旅をすることとなった。さらに山を登って、大きなドラゴンも倒した。
 まるで物語の世界にでもトリップしてしまったかのように、クグレックの人生は変わってしまった。
 祖母が亡くなって絶望に暮れていたが、今では彼女の傍には友達のような存在のニタやハッシュ、ディレィッシュがいてくれて、あの時の絶望に打ちひしがれていたクグレック自身が嘘のように感じられる。
 ただ、野宿には未だに慣れない。寝るならふかふかのベッドが良いし、お風呂にも入りたい。ましてや食事もきちんと味が付いたものを食べたい。魔法でなんとかすることはできないのだろうか、とクグレックは思案するのだが、そのような魔法を彼女は知らない。
 
 ところで、ニタと二人でいた時には気付かなかったが、クグレックは男性慣れしていなかった。
 というのも、宿屋に宿泊してリラックスしているとハッシュが上半身裸になることが多い。もともとトリコ王国が薄着であることも原因の1つなのだが、彼は体を鍛えるのが好きで、寝る前などによく筋力トレーニングを行うのだ。
 クグレックとニタはムーからアルトフールへ行くための打ち合わせを行うためにハッシュとディレィッシュの部屋に来ていたのだが、案の定ハッシュは上半身裸だった。クグレックはこういう時、ハッシュのどこを見ればいいのか分からなくなり、ハッシュから視線を遠ざけていた。
 だが、流石に彼の兄はそんな弟の様子を諌める。
「ハッシュ、お前、うら若きレディがいるんだから、上に何か着たまえ。」
 と、ディレィッシュに諌められると、ハッシュはちらりとクグレックを見た。クグレックは一瞬ハッシュの方に視線を向けたところ、そのわずかな瞬間にハッシュと目が合ってしまったため、慌てて視線を逸らした。
 ハッシュは無言でクグレックのことを見ていたが、しばらくしてから静かにシャツを羽織った。
「ハッシュは脱ぎ癖があるのかな?」
 ニタが冷やかした。
「まぁ、裸の方が楽だな、と思う時は結構ある。」
 正直に答えるハッシュ。ニタはその返答に少々呆れた様子で
「だからうちのククに裸体を見せつけるなっての。変態。」
というと、ディレィッシュもそれに便乗してハッシュのことを「変態」と囃し立てる。
「ちょっと、あなた達、予定立てるんでしょ。ムーの話、聞かないでいいの?」
 ティアが言った。
「それに、…そうね、ハッシュは良い体をしてると思うわ。筋肉が着いてて立派な体よ。」
 ティアはハッシュの身体をまじまじと眺めた。それに対してハッシュは若干困った様子で
「…あの、別に俺は自分の身体を見せつけたいわけじゃないからな。ただ、筋トレしてると暑くなってくるから…」
と、ため息を吐く。
「…ま、お腹の傷も治って来たしな。見せられる身体になって良かったよ。白魔女様様だな。」
 と、ディレィッシュが言った。それに反応したのがティアだった。
「白魔女ねぇ…」
 と、意味ありげに呟くティアだったが、それ以上言葉を続けることはなかった。御山を登っていた時も白魔女のことが話題に上がったが、彼女は極力白魔女の話題を避けたがっているようであった。
「そんなことよりも、ムーからアルトフールについて話を聞きましょう。」
 ティアはクグレックたちとはこの御山の麓の集落で別れるが、彼女自身もアルトフールのことを聞いてみたかったので参加していた。
 そして、ティアに促されて、ようやくムーが話を始める。
「では、お話させていただきます。アルトフールは『滅亡と再生の大陸』の絶望と断崖の山脈を越えた西の方に存在します。『滅亡と再生の大陸』は『支配と文明の大陸』と異なり、凶悪な魔物が多く存在する危険な場所です。ところが、残念なことに、『支配と文明の大陸』に行くには大陸東岸から船で乗り込み絶望山脈を越えていくしかありません。大陸の西側は船が乗り込むことが出来ない程に荒れた海となっているので、方法はその一つです。絶望山脈には凶悪な魔物がわんさかいます。生きて山脈を越えることが出来るかどうか。現実的に考えれば、無理でしょう。」
 一同はごくりと唾を呑みこんだ。
「なので陸路、海路もダメとなれば、残す路は空路となります。」
「空を飛んで行くのか?」
 超技術文明を築き上げたディレィッシュですら高い空を飛ぶ乗り物は発明できなかった。数十センチメートルほど浮かせるだけで手いっぱいだった。
「ええ。そうなります。『宙船』に乗りましょう。」
「『宙船』?」
「空飛ぶ船のことです。宙船に乗って飛んで行けば、アルトフールに簡単に行くことが出来ます。」
「そんな楽な方法があったんだ…」
 ニタが拍子抜けした風に呟く。ニタは自身の2つの足で向かうものだと覚悟を決めていた。
「ただ、宙船に乗るには2つの条件があります。一つは僕の友人を連れていくこと。一つは海底神殿に向かわなければならないこと。」
「ムーが案内してくれるんだ。ニタ達、何だってするよ。」
「ありがとうございます。僕の友人はカーバンクルという種族でして、すべての攻撃をから身を守ってくれるバリヤーを張ることが出来ます。『滅亡と再生の大陸』は魔物に支配された大陸と言っても過言ではありません。空気も悪いでしょう。友人がいてくれれば、大陸についてからが楽になります。」
「へぇ。最強の盾ってやつか。」
 ディレィッシュが呟いた。
「あとは、海底神殿ですが、これは、場所はどこにあるかは分かっているんですが、入れるかどうかが分かりません。ちょっと特殊な地にあるんです。海底神殿ももしかすると、魔物の巣窟になっている可能性が無きにしも非ずです。なので、先に僕の友人を連れてから、海底神殿に向かった方が良いでしょう。この海底神殿に宙船が存在します。」
「空を飛ぶ船は海の底に格納されているのか…。早く観てみたいな。」
 ムーの話にディレィッシュの知的好奇心は激しく刺激されていた。
 アルトフールへの旅路が示されて、先の見えない途方に暮れた旅が一気に現実味を帯びてきた。クグレックもアルトフールに辿り着いた時にもたらされる『幸せ』が楽しみになって仕方がない。
 だが、その『幸せ』とは一体何なのだろう。そもそもアルトフールとは一体何なのだ。
 クグレックは思い切ってアルトフールが何なのかムーに聞いてみることにした。
「ねぇ、ムー、アルトフールって結局なんなの?」
「アルトフールは『封印と黄泉の土地』と呼ばれていますね。『滅亡と再生の大陸』は絶望山脈を越えた先にはアルトフールの様な特別な土地が多いです。土地が生きている、というのですかね。土地がその意味を持って生きて、繁栄していくんです。大陸には『夢想と商業の土地』もあって、そこでは世界一の商業都市があります。それだけじゃなく、他にも様々な土地があります。」
「『封印と黄泉の土地』ってどういう意味?」
 クグレックが質問した。
 その質問に関してムーは首を傾げた。
「うーん。どういう意味でしょうね。」
「え、知らないの?」
「封印してくれるんですかね?うーん、でも、黄泉ってどういうことなんだろう?」
 意外なことにムーはアルトフールがどんな土地なのか詳しくは知らないようだ。封印と黄泉、その二つの言葉がクグレックたちにどのような幸せをもたらしてくれるのか。クグレックには全く見当がつかなかった。
 それでも、進むべき道は明らかとなった。まずは、ムーの友人に会いに行く。
 アルトフールへの道は着実に近づいて来ているようだ。



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