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 歩くこと3時間。あの陰鬱な山道を抜けると、ごつごつとした岩場が広がる海岸に出た。天気は相変わらず良くない。砂浜で見たエメラルドの海はそこにはなく、荒々しい黒色の海が一行を待ち構えていた。白い飛沫を上げてざざぁんと岩間に打ち砕かれる波は、一行を呑みこまんと手招きしているようだ。
「おそらくお友達はこの辺りかと…詳しい場所は分かりませんが…。」
 フィンが言った。ムーがピクリと反応してみせた。
「…すこしだけどルルの気を感じる…。」
 ムーは目を閉じてジッとした。数分程じっとしていたが、小さくため息を吐いて目を開き
「だめだ、コンタクトは取れない。」
 としょんぼりした。そんなムーを励ますかのようにハッシュが
「まぁ、この先にいるのなら、会いに行けば良いだけだ。」
というと、ムーは気を取り直した。
「…そうだね。ルル、待ってて。皆、この先は僕が先頭を行くよ。」
 かすかな友人の気を辿って、ムーは先頭を進む。
 海から吹き付ける風は強い。肌寒さを感じる海岸線を20分程歩いたところで、ムーがぴたりと立ち止った。目の前には真っ暗な洞窟が存在していた。
「ルル…!?。」
 ムーが小さく呟くと、「うわ」とよろけた。
「どうした?ムー」
 ムーの小さな体を受け止めるハッシュ。
 ムーは困った様子で
「今、ルルとコンタクトが取れたんだけど、様子がおかしいんだ。僕の声が届かないくらいに怖がって、混乱している…。」
「それは心配だね。早く行こう。」
 と、ニタが先導を切って洞窟に立ち入った所、「キャッ」とフィンが小さく悲鳴を上げて前に倒れてしまった。なんと岩場の隙間から現れた靄がかった白い手がフィンの足首を掴んでいたのである。気味が悪い魔物だ。
 すぐにハッシュがその白い手を蹴り飛ばすと、白い手は掻き消えた。そして、ハッシュは倒れたフィンに手を差し伸べ、優しく「大丈夫か?」と声をかける。
 フィンは「ありがとうございます。転んだだけなので大丈夫です。」と言って、ハッシュの手を取り立ち上がった。
「…私は、魔物と戦う力を備えておらず、何もお手伝い出来ずに申し訳ありません。」
「無理しなくていいよ。魔物からは俺達が守るから。見てただろ、結構強いんだぜ、俺達。」
「そーだそーだ!フィンがいないとここまで来れなかったんだし、とりあえず、ハッシュの後ろに隠れてな。いや、また白い手に引っ張られても怖いから、抱き着いてれば?」
「そうだな、また何かあると危ないから、俺の傍にいると良い。ニタだと、放って置かれる可能性もあるしな。」
「…ありがとうございます…。」
 と、フィンは言った。そして、彼女はハッシュの腕に掴まった。
 その瞬間クグレックの胸がちくりと疼いた。なんとなくざわざわと胸騒ぎも感じた。フィンから視線を外し、先頭のムーの方を見ると、ざわつきは収まった。更に、ニタにも視線を移し、丁度目が合うと不安な気持ちも和らいでくるようだった。
 クグレックはハッシュとフィンを追い越し、ニタの隣を歩いた。
 洞窟の奥へ進むめば光は届かなくなり真っ暗で何も見えなくなったため、灯りが必要になった。
 調子が悪いクグレックの魔法だったが、いつもの灯りの魔法は何も苦労することなく発現し、一行の足元を照らし出してくれた。

 やはりクグレックは普通の女の子ではないのだ。魔物に対して成す術もないか弱い女性ではないのだ。それならば、クグレックは魔女として皆のためにその力を存分に発揮したくなった。
 魔女。魔の力を増幅させ世界を闇に包んでしまう恐ろしい魔女。
 上等だ。
 魔女であることに抗えなければ、クグレックがすべきことは、力をコントロールして世界を闇に包み込まないようにすること。
 灯りとして光り輝く杖の頭。
 クグレックは杖を握りしめ、魔力を込める。身体の奥底から何かが溢れ出るような感覚があった。その感覚は無意識的に言の葉に紡ぎ出される。
「イエニス・レニート・ランテン・ランタン・フェアーレ!闇の中に光を照らし出せ!」
 とクグレックが唱えると、杖から離れていた光はまるで蛍のようにふわふわと宙に浮かぶ。光は5つに分裂しそれぞれムーやニタ、ハッシュ、フィンの傍へと漂った。
「うん?クク、なにこれ?蛍みたい。」
 ニタがクグレックに尋ねる。
「…みんなの分の灯り。多分、着いて来てくれると思う。」
 とクグレックは応えた。
 ニタはクグレックの言うことを試してみようと2,3歩ほど歩みを進めた。すると光の玉はふわふわとニタと共に着いて行く。歩みを止めると、光もぴたりと止まる。
「おおう、なんか可愛い。」
「おとぎ話でよく聞く妖精みたい。」
 と、フィンが言った。
「でも、突然どうしたの?いつもは杖が光っていたような気がするけど…」
「…わかんない。けど、なんか使えるような気がしたの。」
「へぇ、凄い。あ、これ、触れるよ。熱くないし。」
 ニタは自分の周りを漂う光の玉を掴んだ。こうすることで任意の場所を照らすことも出来るというわけだ。光の玉を離せば、再び光の玉はふよふよとニタの周りを漂う。
「なかなか便利な魔法だね。」
「うん。」
 こんな感じで家とか美味しい食べ物を出すことが出来れば良いのに、とクグレックは思ったが、そのような魔法はまだ使えそうになかった。

 幾分進みやすくなった暗闇の洞窟だが、道中は度々魔物が出現した。洞窟と言う場所に似つかわしい蝙蝠の様な魔物や蛇の様な魔物も出現した。
 森での戦いとは異なり、この洞窟での戦闘においてはニタもクグレックも参加することが出来た。
 特にクグレックが戦闘に対して積極的だった。ニタと倒した魔物を競い合うほどに珍しく活発だった。
「クク、やるね!」
「…私だって、出来るんだから!」
 と、その時であった。クグレックとニタが仕留め損ねた大きなカニの姿の魔物が、丁度ハッシュから離れてしまっていたフィンに狙いを定めて石を投げた。突然のことで驚いたフィンはその場から動くことが出来なかったが、石がフィンにぶつかろうとしたその時、ハッシュが身を挺して石を体に受け、間一髪のところでフィンを助けることが出来た。
「悪い、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。ハッシュさんこそ大丈夫ですか?」
 フィンは心配そうに石がぶつかったであろう箇所をさする。少しだけ赤くはれていた。
「あぁ、これくらい大したことはないよ。取り合えず、フィンが無事で良かった。
「うふふ、ありがとうございます。ハッシュさん、頼りになりますね。」
「…。」
 ハッシュは照れ臭そうに頭をかいた。
 カニの魔物は瞬時にクグレックの魔法で焼かれて消滅した。
 二人が無事であったことに安心すると同時に、クグレックは再び胸の内がざわつくのを感じたが、再び現れた蝙蝠の姿の魔物に魔法を当てて倒したらそのざわつきは収まった。魔物を倒すのは意外と気持ち良いのかもしれない。
 奥へ奥へと進むがムーの友人の姿は一向に現れない。途中、クグレックの背丈ほどある崖を登らなくてはならなかった。ムーは自分の翼を使って、ニタは持ち前の運動神経を使って余裕で登って行ったが、どんくさいクグレックが簡単に登れるはずがない。2、3回ほど滑り落ち膝に擦り傷を負いつつも、ニタの手を借りてなんとか登ることが出来た。
 登り切ったところでふと横を見遣れば、ハッシュがフィンが壁を登るのを手助けしていた。
「大丈夫か?そう、そこに捕まって、そうすれば俺の腕に捕まれるから。」
 というやり取りを見て、クグレックはこれまではフィンのポジションは自分だったのにと少し寂しい気持ちになったが、すかさず魔法を唱える。
「ラーニャ・レイリア」
 と唱え、フィンに向かって杖を向ければ、フィンはふわりと浮かび上がり、ゆっくりと崖の上に降り立った。
「わぁ、クグレックさん、ありがとう。」
 フィンはにこりと微笑んだ。
 クグレックはちらりとハッシュを見遣ると、ハッシュもニコニコして
「クク、やるなぁ。」
とクグレックを褒め称えるのだった。クグレックは顔を赤くして
「…私だって、助けられるんだから。」
とぶっきらぼうに答えるのだった。内心は嬉しかったのだが。

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