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 ムーがクグレックたちのお金で購入した船はハワイ島への定期便と同じ大きさの木製の船だった。
 いつの間にか9人という大所帯になってしまった旅団には丁度いい大きさの船であった。
 クワド島までは3日ほどかかった。フィンが航海士として一生懸命頑張り、黒雲が来てもルルのバリアが追い払ってくれたので、無事にクワド島へ辿り着くことが出来た。
 クワド島はハワイ島のように観光業で生計を立てているわけではないので、港は随分と寂れていた。岸壁からは方々に草が生え出しところどころかけてボロボロになっていた。
 フィン曰く、クワド島は海産物よりも農産物や島内の山の幸の方が豊富に備わっており、そこまで漁業に頼らずとも生きていけるらしい。なるほど島内に踏み込んで行くほど緑豊かな自然の風景が広がっていた。
 しばらく歩くと集落が現れた。家屋は棕櫚や椰子の木や葉や皮で作られた高床式の住居が立ち並んでおり、簡素な雰囲気の集落はコンタイ国のジャングルで見かけた集落の雰囲気に似ていた。
「ちょっと待ってて。挨拶してくる。」
 と言って、フィンは集落の中でもひときわ立派な住宅へ入って行った。
 ニタは
「フィンはどうしてこの島を出たんだろうね。良いところだと思うけど。」
と、呟いた。その問いに対してハッシュが答えた。
「…出たというか、ハワイ島にスカウトされたそうだ。あの島の原住民はリリィと数人だけらしくて、従業員は外から集めて来るらしい。自然しかないクワド島にいるよりも、フィンは外の世界を見たかったみたいだぞ。」
 ハッシュはハワイ島を出てから、出航準備の買い出しや航海中でもフィンのフォローをしていたので一緒に過ごす時間が長かった。そのためフィンの身の上話も聞いていた。
「へぇ、フィンって意外とアクティブなんだね。」
「あぁ見えてな。」
 しばらくすると、フィンが一番立派な家から戻って来た。
「お待たせしました。えっと、今長老に挨拶してきたんだけど、会ってくれるって。今出て来てくれるから、ちょっと待っててね。」
 と、フィンが言った。
 数分後、長老と思しき年老いた男性が少女2人を連れてやってきた。
 老人の頭髪は朝日のようにつるやかな頭だったが、まるで前髪のように長く伸びた白い眉毛とふさふさに蓄えた白いひげが特徴であった。足に不自由があるのか杖を突いてゆっくりと歩いて来た。
 にこにこと笑みを湛えながら長老は口を開いた。
「ようこそ、フィンのお友達。遠いところからよく来た。何もないところだけど、のんびり過ごして下され。」
「初めまして。私はディレィッシュと申します。私達はこちらに空を飛ぶ船が眠るという海底神殿があると聞いてやってきたのですが、立ち入っても大丈夫でしょうか。」
 ディレィッシュが丁寧にあいさつをした。
「神殿とな。ふうむ。神殿とな。」
 意味ありげに繰り返す長老に一同は息を呑む。
 と、フィンがおずおずと話の間に入って来る。
「皆が言っている海底神殿なんだけど、実を言うと、クワド島ではそんな大それたものではないかもしれないの。」
「というと?」
「私達はその場所のことを、ガラクタ広場と呼んでるかもしれない。」
「ガラクタ広場?」
「おお、なんだ、ガラクタ広場のことか。…しかし、あそこはご先祖様が遺したガラクタが眠る場所。部外者をいれるわけには…」
 と、長老は渋る。だが、後ろにいる少女が
「別にいいじゃん、私達も良く分からないガラクタなんだから。知っている人達に使ってもらった方が、ガラクタたちも嬉しいよ。」
「そうかのう。」
「うん、そうそう。」
「じゃぁ、特別にいいじゃろう。」
「わーい、おじいちゃん、ありがとう。」
 女性は長老に抱き着くと、長老は嬉しそうに鼻の下を伸ばした。
「じゃ、フィンのご友人さん達、荷物はうちに置いて、ゆっくり休んでいってよ。ね。」
 と、女性は言うと、突然クライドの腕を取り、抱き着いた。
「私ね、リクーって言うの。あなた、とてもイケメンね!私の彼氏になってよ!」
 クライドはリクーに抱き着かれて、ひたすら石のように固まり、表情をひきつらせた。
 その様子を見たディレィッシュはにやりと笑って
「リクーちゃん、君のおかげで私達は目的の場所へ行けたんだ。用事がすんだら帰らなければいけないが、その間クライドとは仲良くしてやってくれないか?きっとクライドも喜ぶと思うんだ。」
と、優しく言った。クライドは悲壮な表情を浮かべディレィッシュを見つめる。
「まじで!キャー嬉しー!クライド、よろしくね!」
 リクーはさらにクライドにぎゅっと抱き着いた。クライドは顔を引き攣らせてディレィッシュに助けを求めるが、爽やかな笑顔で「よろしくな」と言われてしまっては従うことしか出来ない。主従関係は解消されてはいるが、基本的にはディレィッシュの意向に沿うのがクライドだ。


 一行は早速ガラクタ広場へ向かった。
 ガラクタ広場は言うなれば不法投棄物が存在する手入れのされていない空き地だった。
 辺りは茫々に背の高い雑草が生い茂り、進入することすら困難であった。ガラクタと呼ばれるであろう廃棄物には動物がねぐらとして住み着いていたり、蔦や葛の支配を受け絡みとられていた。
「何と言うところだ。」
 苛烈な環境にディレィッシュは思わず愚痴をこぼす。背の高い雑草が生い茂るだけでなく、陽射しも強い。雑草を掻き分け、ガラクタを探すだけでも汗が吹き出てきた。
 さらにあまり人が入ることのない雑草生い茂るガラクタ広場は、虫に取って天国の様な場所であった。バッタや蝶やカマキリなどが、草を掻き分けるごとに元気よく飛び出して来る。
へいわの と悲鳴を上げたのはクグレックとアリスで、虫が苦手な二人はガラクタ広場からリタイアした。結局女性陣は村で夕食の準備を手伝うこととなった。


 そして夕暮れ。
 ガラクタ広場からくたくたになった男性陣とニタが戻って来た。
「どうだった?海底神殿はあった?」
 アリスが尋ねた。するとハッシュが
「ううん、あんな草原が海底神殿なわけないんだけど、その入り口らしきものは見つけた…、かもしれない。穴があってその下には空間が広がっていた。」
「そう…。じゃぁ、それが海底神殿の入り口かもしれないわね。明日、行ってみましょう。今日はご飯を食べてゆっくり休むのが良いわ。」
 そうして一行は全員で夕食を取り、明日に備えて早めの就寝を取った。
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