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 全員が海底神殿に突入するとどこからともなく声が聞こえた。子どもの様な舌足らずの可愛らしい声だ。
「最近は海生生物以外の来客が多いもんだ。しかも大人数ときた。ようこそ、海底神殿へ。」
 子供の声は水中ながらはっきりと聞こえた。
 しかしながら、その声の主の姿はどこを探しても見当たらない。皆辺りをきょろきょろ見回して戸惑うばかりだった。その様子に声はけらけらと笑う。
「ははは。残念ながら僕の身体はうんと昔に海の藻屑と成り果てたよ。今の僕は言うなれば地縛霊。魂だけがこの海底神殿と一体となったようなものだよ。それにしても、随分と若いドラゴンだね。何の用だい?」
「宙船に乗りたいんです。」
 ブクブクと泡を吐き、籠った声でムーが答えた。
「ほう、宙船ね。メンテナンス不足かもしれないけど、それでも良いならご自由にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「宙船は最深部に格納してあるから、最深部までおいで。ただし、適正試験を行うよ。まぁ、人数も結構いるようだから誰かしらは合格するんじゃないかな。あ、はじかれたとしても、別に害はないから安心して。その先に進めなくなるだけで、戻ることは出来るから。そんなわけで、次の部屋に進んでみて。」
 至極楽しそうに声は一行を誘う。一行の目の前にある岩戸がゴゴゴゴと音を立てて横にずれると、通路が現れた。人一人分しか通れない狭さだ。全員が通路を抜けると、9人では少し狭いと感じられるほどの広さの小部屋に出た。海藻やら海生生物が岩にへばりついている以外には特に何もない部屋だ。
 すると通って来た通路の岩戸が突然動き出し、通路を塞いだ。一行は小部屋に閉じ込められてしまった。
「え、閉じ込められた?」
 突然の事態に動揺する一行。
 ニタやハッシュらが協力して岩戸を動かそうとするも、びくともしなかった。
「えぇ、どういうこと?」
 途方に暮れてしまいそうな一行だったが、再び子供っぽい声が聞こえた。
「大丈夫、安心して、一生出られないことはないから。これから僕が出す問題に答えることが出来れば帰りの扉も開くし、先の扉も開く。分からなければ帰りの扉は開くけど、先の扉は開かない。僕的にはこんなところで帰って欲しくないけどね。」
 と、声がすると、中央が青白い光を発光させた。まるで蛍の光のように鈍く光り出すと、青い文字が浮かび上がって来た。

―――産声は日の光が遠き地にて上げられた。信仰と秩序の均衡は崩れ、信仰は封印された。謹厳に満たせり。白き風景は冷淡なほどこし。幸福は憧憬。悲哀の民に古代より光を受け命を繋ぎしものを見せ、彩華やかにして。

「どういう意味?」
 ニタがディレィッシュに尋ねる。ディレィッシュは顎に手を乗せながら、「ううむ」と言って考え込むが「分からん」と声を上げた。9人もいるのだから、誰か一人でもなにかを思いついても良さそうなのだが、誰も何も思いつかない。
「ムーは分からない?」
 と、ニタが聞くがニタは眉間に皺を寄せて、首を傾げるばかりだった。
「“悲哀の民”はおそらくその前に書かれてる文章がヒントなのだろうけど、この部屋にそのようなものがあるか…?」
 とディレィッシュが呟く。
 この部屋には先ほども述べた通り、何もない。石造りの直方体の小部屋で、石壁は苔生していたり、部屋の隅には岩礁があり、小さなワカメやコンブと言った海藻が揺らめいており、小さな魚が海藻の陰に隠れたりしている。
 実は先ほどの部屋と同じ光景だ。
「ニタはさっぱり分かんないよ、ククは分かる?」
 と、ニタに聞かれ、クグレックは頭を横に振る。クグレックも考えてはみたのだが、日の光が届きづらい地にて産声をあげた悲哀の民など聞いたことがないし、謹厳という言葉も良く分からない。
 だが、皆がうんうんと悩む中、ようやくディレィッシュが声を上げた。
「あぁ、そうか。簡単なことじゃないか。」
「何?分かったの?」
 ニタが尋ねる。
「あぁ。悲哀の民はクライドとククだ。」
 『悲哀の民』と称されて、クグレックは少しだけ悲しい気持ちになった。クライドはどう思ったのだろうと、ちらりと見遣れば、表情は変わることなく平然としていた。
「ムーとルルの可能性も無きにしも非ずなんだが、日の光が遠き地とはドルセード王国のことだろう。クライドとククの出身だな。」
「なんでなんで?」
 ニタが尋ねる。
「ドルセード王国は『支配と文明の大陸』の最北端にある寒冷地方の国だ。この世界は球体で出来ているから、ドルセード王国は実は他の国と比べると昼が短い。だから日の光は遠いんだし、多分、白き風景は雪のことだろう。さらに謹厳だなんて、まさに真面目でお堅いドルセードの気質じゃないか。それに、秩序と信仰のうち信仰が消えたということは、剣と魔法の国だったドルセード王国が魔法という“信仰”を廃止したという歴史のことだろう。」
 なるほど、と腑に落ちたのは教養のあるハッシュとクライドだけだったが、他の者たちもディレィッシュの考えに追随する。
「まぁ、悲哀の民がククとクライドだとして、『古代より光を受け命を繋ぎしものを見せ、彩華やかにして』はどういう意味なの?」
 ニタが尋ねる。
「多分、…そこの海藻を見せればいいんだろうけど、」
「なんで?」
 食い気味に質問するニタ。ディレィッシュは苦笑いをしながら
「海藻は光合成をして酸素を生み出すんだ。その酸素で多くの命が生まれて来た。この部屋にある『命を繋ぎしもの』の可能性があるのは、まぁ、海藻くらいかな、と。」
と、答えた。
「ほほう、そうなんだ。やっぱディッシュは頭が良いんだね。普段はすぐへたれるけど。」
 と、ニタはディレィッシュを褒めた。傍にいるクライドがひっそりと嬉しそうにしている。
「まぁ、頭が良くて見目も良いので、身体を動かすという点に関しては神様がおまけをしてくれなかったのだよ。ははは。」
 ニタに褒められて気を良くしたディレィッシュは少しだけ調子に乗ったが、ニタに「で、『彩り華やかにして』は?」と質問されると、困ったような表情を浮かべた。
「…貝殻とか、サンゴとかでおめかししてみることだろうか。」
 と、ディレィッシュは言う。ニタはじっとディレィッシュを見つめる。クグレックはディレィッシュが適当なことを言っていると感じたが、ニタは全面的にディレィッシュの言うことを信じ「分かった、じゃぁ、ニタがおめかししてあげるから。」と言って、部屋の中にある貝とサンゴとヒトデを拾ってクグレックとクライドに身に着けさせる。無理矢理くっつけようとするニタを見かねて、クワド島のおませな女の子であるリクーが海藻を使ってペンダントやブレスレットに加工することで、それなりの装飾品にして見せた。クグレックとクライドは見事に『彩華やか』にされた。
 そうして、海藻の生えた岩礁の前に立たせれば、海底神殿の嬉しそうな声が聞こえて来た。
「正解だ。さすがだね。次の部屋に進めるよ。」
と言うと、通路を塞いでいた岩戸が動き、さらに次の部屋へと続く入り口も現れた。
 クグレックは髪飾りとしてつけてもらったヒトデはいち早く外したが、サンゴで出来たネックレスは可愛いと思ったので、そのまま身に付けることにした。それに気付いたリクーはニコニコしながら「戻ったら、もっと可愛いアクセサリーがあるから、見せてあげるね。」と言った。
 クグレックは「うん。」と返すことしか出来なかったが、なんだか嬉しかった。
 ちなみにクライドは装飾品は全て外して捨てていた。

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