過去に囚われているのか
未来を見つめているのか
分からないからこそ
僕は不安を感じた
ある満月の晩。
僕は、君がそのドライフラワーに水をあげている姿を見た。
君は僕がリビングのソファで寝ていることに気付いていないらしい。
僕は君に近づける絶好のチャンスだと思い、体を起こした。そして君の所ヘ近づいてそっと腕を掴み
「そのドライフラワー、誰からもらったの?」
と、僕は尋ねた。
すると彼女は人形のように美しく無表情な顔を僕に向ける。
濁った緑色の瞳が僕を映し出すと、君は譫言の様に呟いた。
「私の友達。私の古い古い友達」
──古い古い友達。
不老長寿の体を持った君の、友達。
一体いつの友達なのだろう。
僕はもう一つ別のことを尋ねてみることにした。
「どうして水をあげているの?」
君はカランを締め、水を止めた。
そして、その濁った緑色の瞳を僕に見せ
「枯れた花に水をあげて、また色鮮やかな花をつけてもらうの」
と、薄ぼんやりしながら答えた。
僕は、君がそのドライフラワーを大切にして来たのを昔から見ていたが
君は一度もドライフラワーに水をあげていたことはなかった。
常識的に、水をやれば、その大切なドライフラワーが痛んでしまうことが分かっていたはずだから。
しかし、アルトフールに来てからなんだ。
君がドライフラワーに水をあげはじめたのは。
だから僕は思わず
「どうして?」
と尋ねてしまった。
すると君の緑色の瞳に輝きが戻ってきた。
しかし目覚めた君は何も言わず、ただ緑色の瞳に「なぜ?」と尋ね返された。
──『なぜ?』
僕はその言葉にどういうわけか、悲しくなってしまったが同時に分かったことが一つだけあった。
それは、君にとって僕はなんでもない存在であるということ。
だから大切なことを大切ではない人に話す義務はどこにあろう。
僕は君の腕から手を離した。
君は不思議そうな表情で僕を見つめると、何事もなかったかのように、水をたたえた花瓶にその枯れた花をさして僕の前から立ち去って行った。
枯れた花はどんどん痛んでいく。
彼女が望むのは、思い出の復活なのか。
それとも、思い出の消滅か。
少なくとも、この時の彼女の行為は僕にとって非常に危なっかしく見えた。
まるで、自傷行為みたいで…。
だから、僕は彼女が壊れてしまわないように守ってあげたいと思った。
君が幸せに過ごしていけるよう……
月光の差し込むほの暗いリビングに、僕の心は大いなる空虚感に取り囲まれ、ソファに戻って崩れるようにして横たわった。
出窓から見えた満月は僕に呆れているようだった。
僕は、君がそのドライフラワーに水をあげている姿を見た。
君は僕がリビングのソファで寝ていることに気付いていないらしい。
僕は君に近づける絶好のチャンスだと思い、体を起こした。そして君の所ヘ近づいてそっと腕を掴み
「そのドライフラワー、誰からもらったの?」
と、僕は尋ねた。
すると彼女は人形のように美しく無表情な顔を僕に向ける。
濁った緑色の瞳が僕を映し出すと、君は譫言の様に呟いた。
「私の友達。私の古い古い友達」
──古い古い友達。
不老長寿の体を持った君の、友達。
一体いつの友達なのだろう。
僕はもう一つ別のことを尋ねてみることにした。
「どうして水をあげているの?」
君はカランを締め、水を止めた。
そして、その濁った緑色の瞳を僕に見せ
「枯れた花に水をあげて、また色鮮やかな花をつけてもらうの」
と、薄ぼんやりしながら答えた。
僕は、君がそのドライフラワーを大切にして来たのを昔から見ていたが
君は一度もドライフラワーに水をあげていたことはなかった。
常識的に、水をやれば、その大切なドライフラワーが痛んでしまうことが分かっていたはずだから。
しかし、アルトフールに来てからなんだ。
君がドライフラワーに水をあげはじめたのは。
だから僕は思わず
「どうして?」
と尋ねてしまった。
すると君の緑色の瞳に輝きが戻ってきた。
しかし目覚めた君は何も言わず、ただ緑色の瞳に「なぜ?」と尋ね返された。
──『なぜ?』
僕はその言葉にどういうわけか、悲しくなってしまったが同時に分かったことが一つだけあった。
それは、君にとって僕はなんでもない存在であるということ。
だから大切なことを大切ではない人に話す義務はどこにあろう。
僕は君の腕から手を離した。
君は不思議そうな表情で僕を見つめると、何事もなかったかのように、水をたたえた花瓶にその枯れた花をさして僕の前から立ち去って行った。
枯れた花はどんどん痛んでいく。
彼女が望むのは、思い出の復活なのか。
それとも、思い出の消滅か。
少なくとも、この時の彼女の行為は僕にとって非常に危なっかしく見えた。
まるで、自傷行為みたいで…。
だから、僕は彼女が壊れてしまわないように守ってあげたいと思った。
君が幸せに過ごしていけるよう……
月光の差し込むほの暗いリビングに、僕の心は大いなる空虚感に取り囲まれ、ソファに戻って崩れるようにして横たわった。
出窓から見えた満月は僕に呆れているようだった。
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