カボチャの坊や
Category: アルトフールの物語
お題配布元:月と戯れる猫様
滑り込みセーフ!
ハロウィンのお話その2です。
滑り込みセーフ!
ハロウィンのお話その2です。
「トリック・オア・トリート!」
トップスは黒いチュニック。ボトムスは黒いカボチャパンツ。背中には黒い羽が生えたクロノリュックサックを背負い、触覚が生えた様な黒いベレー帽をかぶったのはニタだった。
「トリック・オア・トリート!」
カボチャを刳り抜いて頭にかぶり、シーツを身に纏って裾をずるずる引きずっているのは、ニタの相方、アルティメット。
今日は10月31日。万聖節。
死者が会いに来る日でもあるが、同時に悪霊も運びり、人々に害をなす日でもある。
そんな日が時を経て、祭日となり、人々が仮装をして街を練り歩く行事となった、狂気的な日。
無論、イベント事が大好きなアルトフールでは、ハロウィンを目いっぱい楽しむ。
ニタとアルティはしっかりと仮装して、アルトフールの住人にお菓子をねだる。
まずは、本物の魔女クク。
彼女は料理が好きなので、きっと美味しいお菓子を用意しているだろう。
「トリック・オア・トリート!」
ニタとアルティはククの元にやって来た。
魔女ククは黒い三角帽を被って、露出高めの色っぽい黒いワンピースを身に纏っていた。胸の谷間や、すべすべした太ももが露わになっている。純朴な彼女らしくないセクシーな格好だ。
「ちょっと、クク、なんか恰好エロいよ!どうしたの?」
ニタがびっくりした様子で言った。その指摘にククは顔と体全体を真っ赤にし、手で胸や太ももを隠しながら縮こまる。
「そ、そうだよね、恥ずかしい恰好だよねっ。」
「誰に言われて、そんな恰好したのさ。」
「…ティア。このワンピースもティアが貸してくれたんだけど、やっぱり恥ずかしい…。」
「人によってはお菓子をくれなくても良いから悪戯させて、なんて言われそうだね。気を付けて。」
「う、うん。」
アルトフールには狼がうようよいる。その中でも、彼女を食べたくて食べたくて仕方がない男が一人いるが、ニタはあえて口にしなかった。
「ちゃんとお菓子をあげるんだよ。」
「う、うん。」
顔を真っ赤にしてククは頷いた。
「トリック・オア・トリート!」
アルティが言った。
ククは、忘れてた、とハッとして、傍にあった紙袋からニタとアルティの分のお菓子を取り出して、渡した。オレンジ色の可愛い小袋に包まれていた。
ニタとアルティは嬉しそうにその小袋を受け取り、次の相手を探しに旅だった。
「トリック・オア・トリート!」
次の標的は、アルトフールのリーダーのマナ。彼女の仮装は、頭には白い三角斤、白い浴衣だった。彼女の故郷の幽霊はこのような格好をしているらしい。
「はい、どうぞ。」
懐紙に包まれた四角い物体。
二人はそれを受け取り、マナを見た。マナは相変わらずの無表情だ。
ニタは懐紙を開き、中を見た。中には粉がまぶされた茶色い四角い物体が入っていた。見たことがない物体にニタは怪訝な表情でマナを見つめる。
「これ、何?」
「ゆべし。」
アルティはカボチャの切込みから、ゆべしを放り込み、その不思議な食感を堪能する。
しっかりと咀嚼して、ごくんと飲み込むと、アルティはうっとりと幸せそうに(表情は見えないが)頬付近に手を当て、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その様子を見て、ニタも見慣れない四角い物体を口に放り込む。
もちもちとも言い難い、もにゅもにゅとした不思議な甘い食感が口の中を満たす。柔らかさの中にかたい胡桃も入っており、ちょうどいい味だ。
「うむむ。ゆべし、恐るべし。うまい。」
「気に入って貰えたなら、良かった。」
相変わらず無表情であり、抑揚のない喋りのマナだったが、どこか嬉しそうだった。
上機嫌なアルティメットは、ニタの手を引っ張って、次のお菓子を目指して走り出した。
「トリック・オア・トリート!」
と、声をかけてから、ニタとアルティメットは竦み上がった。
声をかけたのは、アリスだったからだ。白いワイシャツ、黒いロングスカートに黒いマントを羽織り、尖った耳をつけ、八重歯をのぞかせている。美しい女吸血鬼だ。
だが、その美しさに惑わされてはいけない。
彼女はアルトフール一の味覚音痴であり、料理下手で有名だ。彼女の手作り料理を口にして、倒れた者は数知れず。
そんな彼女は満を持して手作りお菓子を用意しているという。
ニタは慌てて言い直した。
「トリック・オア・トリック!」
アリスは不思議そうに顔を傾ける。
「あらいやだ。ちゃんと用意していたわよ。どうぞ。」
アリスは二人に緑色の液体が浸みた小袋を渡す。
その時、ニタははっとして、背負っていたリュックサックからオレンジ色の小袋を取り出した。ククからのお菓子だった。
アリスは一言も「トリック・オア・トリート!」と発してはいないが、そういうことなのだ。
ニタが、アリスにトリートしてあげれば、アリスからはトリックされない。つまり、アリスのお手製お菓子を受け取らないで済む、というニタの独自の理論だった。
が、アルティが、アリスのお菓子を受け取ってしまった。
アルティも味覚音痴のところがあり、何でもおいしいと言って食べてしまう節があるが、これは自殺行為だとニタは思った。
が、アルティは好奇心を抑えることが出来ず、アリスの小袋を開けて、中のどろどろした青緑の物体を口にしてしまった。
すると、アルティは声にならない声を上げて、逃げ出してしまった。ニタは慌ててその後を追う。
取り残されたアリスは1つだけ残った小袋を見つめながら、
「あら、余っちゃった。あとでアルティに届けてもらおう。」
と、呟いた。
アルティメットが逃げた先には、本物の悪魔のティアがいた。彼女はビカレスクの姉である。
赤い赤い角のアクセサリーをつけ、赤いボディコンを身に付け、赤いハイヒールを履いた大変セクシーな格好だった。グラマラスな体が更にあでやかに見える。彼女がククにセクシー衣装を貸し付けた張本人だ。
「あら?」
アルティは、ティアに抱き着き、カボチャ頭をその豊満な胸にうずめて、わんわん泣く。
後から到着したニタが息を切らしながら、ティアに事情を説明した。
「アルティ、アリスのお菓子を食べちゃったの。」
「嘘でしょ?それなんて自殺行為?ほら、手作りではない既製品だけど、トリート、トリート。」
ティアはそう言って、アルティにチョコパイを押し付ける。
アルティは顔を上げ、例に習って、カボチャの切れ込みからチョコパイを放り込み、安心したようにその味を堪能した。
そして、カボチャ頭のアルティは再び駆け出す。
ニタは疲れていたので、その後を追わず、いったん息を整えることにした。
「しかし、アルティってば、大分はしゃいじゃって。」
ニタの言葉に、ティアはきょとんとした表情を浮かべ、首を傾げた。
「ニタ、一体何を言っているの?」
「え?」
「アルティは、今確か、リマと一緒に居たはずよ?さっき、トリックオアトリートしに来たわよ?」
「え?」
ニタは背筋が急に冷えてくるのを感じた。
今まで一緒にハロウィンを楽しんでいたカボチャ頭の子は一体誰なのだ?
でも、よく考えれば、あのカボチャ頭の子は一言も発してなかった。アルティと同じくらいの身長だったけど、あの子から天真爛漫なアルティの声は一切聞いてない。
いや、「トリック・オア・トリート!」は間違いなくアルティの声だったような気がするが、果たして本当にそうだったろうか。
ニタはぼんやりとしていたが、ハッとして、「ニタ、トリックされてた!」と言って駆け出した。
ニタが家を出ると、外にはカボチャ頭の子が佇んでいた。
「ねぇ、キミ…」
ニタが声をかけると、カボチャ頭の子は振り返って「トリック・オア・トリート!」と言った。
その声は確かにアルティの高い声に似ていたが、少し低い。
ニタは、背負っていたリュックサックを降ろし、中から白いマカロンを出した。
「はい。」
ニタは、カボチャ頭の子に白いマカロンを渡す。
カボチャ頭の子は嬉しそうにマカロンを受け取り、カボチャの切れ込みから放り込んだ。
ニタは真剣な表情で、カボチャ頭の子を見つめていたが、ふと表情を和らげると、
「満足した?」
と尋ねた。
すると、カボチャ頭の子は、こくりと頷いた。
「なら良かった。君が誰かは良く分からないけど、ニタは楽しかったよ。」
カボチャ頭の子はニタに顔を向けてじっとしていたが、しばらくすると、くるりと背を向けて歩き始めた。
ニタは離れていくその後姿に声をかけた。
「また、おいでよ。ただ、アリスのお菓子だけには気を付けて。」
カボチャ頭の子は立ち止って、振り返ると、ニタにバイバイというように手を振った。
そして、再び歩き始める。夜闇にカボチャ頭の子は姿を溶け込ませ、消えていった。
「ハロウィンって色んなひとがやって来るっていうし、まぁ、そういうこともあるよね。」
と、ニタは独り言ちて、家の中に入って行った。
トップスは黒いチュニック。ボトムスは黒いカボチャパンツ。背中には黒い羽が生えたクロノリュックサックを背負い、触覚が生えた様な黒いベレー帽をかぶったのはニタだった。
「トリック・オア・トリート!」
カボチャを刳り抜いて頭にかぶり、シーツを身に纏って裾をずるずる引きずっているのは、ニタの相方、アルティメット。
今日は10月31日。万聖節。
死者が会いに来る日でもあるが、同時に悪霊も運びり、人々に害をなす日でもある。
そんな日が時を経て、祭日となり、人々が仮装をして街を練り歩く行事となった、狂気的な日。
無論、イベント事が大好きなアルトフールでは、ハロウィンを目いっぱい楽しむ。
ニタとアルティはしっかりと仮装して、アルトフールの住人にお菓子をねだる。
まずは、本物の魔女クク。
彼女は料理が好きなので、きっと美味しいお菓子を用意しているだろう。
「トリック・オア・トリート!」
ニタとアルティはククの元にやって来た。
魔女ククは黒い三角帽を被って、露出高めの色っぽい黒いワンピースを身に纏っていた。胸の谷間や、すべすべした太ももが露わになっている。純朴な彼女らしくないセクシーな格好だ。
「ちょっと、クク、なんか恰好エロいよ!どうしたの?」
ニタがびっくりした様子で言った。その指摘にククは顔と体全体を真っ赤にし、手で胸や太ももを隠しながら縮こまる。
「そ、そうだよね、恥ずかしい恰好だよねっ。」
「誰に言われて、そんな恰好したのさ。」
「…ティア。このワンピースもティアが貸してくれたんだけど、やっぱり恥ずかしい…。」
「人によってはお菓子をくれなくても良いから悪戯させて、なんて言われそうだね。気を付けて。」
「う、うん。」
アルトフールには狼がうようよいる。その中でも、彼女を食べたくて食べたくて仕方がない男が一人いるが、ニタはあえて口にしなかった。
「ちゃんとお菓子をあげるんだよ。」
「う、うん。」
顔を真っ赤にしてククは頷いた。
「トリック・オア・トリート!」
アルティが言った。
ククは、忘れてた、とハッとして、傍にあった紙袋からニタとアルティの分のお菓子を取り出して、渡した。オレンジ色の可愛い小袋に包まれていた。
ニタとアルティは嬉しそうにその小袋を受け取り、次の相手を探しに旅だった。
「トリック・オア・トリート!」
次の標的は、アルトフールのリーダーのマナ。彼女の仮装は、頭には白い三角斤、白い浴衣だった。彼女の故郷の幽霊はこのような格好をしているらしい。
「はい、どうぞ。」
懐紙に包まれた四角い物体。
二人はそれを受け取り、マナを見た。マナは相変わらずの無表情だ。
ニタは懐紙を開き、中を見た。中には粉がまぶされた茶色い四角い物体が入っていた。見たことがない物体にニタは怪訝な表情でマナを見つめる。
「これ、何?」
「ゆべし。」
アルティはカボチャの切込みから、ゆべしを放り込み、その不思議な食感を堪能する。
しっかりと咀嚼して、ごくんと飲み込むと、アルティはうっとりと幸せそうに(表情は見えないが)頬付近に手を当て、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
その様子を見て、ニタも見慣れない四角い物体を口に放り込む。
もちもちとも言い難い、もにゅもにゅとした不思議な甘い食感が口の中を満たす。柔らかさの中にかたい胡桃も入っており、ちょうどいい味だ。
「うむむ。ゆべし、恐るべし。うまい。」
「気に入って貰えたなら、良かった。」
相変わらず無表情であり、抑揚のない喋りのマナだったが、どこか嬉しそうだった。
上機嫌なアルティメットは、ニタの手を引っ張って、次のお菓子を目指して走り出した。
「トリック・オア・トリート!」
と、声をかけてから、ニタとアルティメットは竦み上がった。
声をかけたのは、アリスだったからだ。白いワイシャツ、黒いロングスカートに黒いマントを羽織り、尖った耳をつけ、八重歯をのぞかせている。美しい女吸血鬼だ。
だが、その美しさに惑わされてはいけない。
彼女はアルトフール一の味覚音痴であり、料理下手で有名だ。彼女の手作り料理を口にして、倒れた者は数知れず。
そんな彼女は満を持して手作りお菓子を用意しているという。
ニタは慌てて言い直した。
「トリック・オア・トリック!」
アリスは不思議そうに顔を傾ける。
「あらいやだ。ちゃんと用意していたわよ。どうぞ。」
アリスは二人に緑色の液体が浸みた小袋を渡す。
その時、ニタははっとして、背負っていたリュックサックからオレンジ色の小袋を取り出した。ククからのお菓子だった。
アリスは一言も「トリック・オア・トリート!」と発してはいないが、そういうことなのだ。
ニタが、アリスにトリートしてあげれば、アリスからはトリックされない。つまり、アリスのお手製お菓子を受け取らないで済む、というニタの独自の理論だった。
が、アルティが、アリスのお菓子を受け取ってしまった。
アルティも味覚音痴のところがあり、何でもおいしいと言って食べてしまう節があるが、これは自殺行為だとニタは思った。
が、アルティは好奇心を抑えることが出来ず、アリスの小袋を開けて、中のどろどろした青緑の物体を口にしてしまった。
すると、アルティは声にならない声を上げて、逃げ出してしまった。ニタは慌ててその後を追う。
取り残されたアリスは1つだけ残った小袋を見つめながら、
「あら、余っちゃった。あとでアルティに届けてもらおう。」
と、呟いた。
アルティメットが逃げた先には、本物の悪魔のティアがいた。彼女はビカレスクの姉である。
赤い赤い角のアクセサリーをつけ、赤いボディコンを身に付け、赤いハイヒールを履いた大変セクシーな格好だった。グラマラスな体が更にあでやかに見える。彼女がククにセクシー衣装を貸し付けた張本人だ。
「あら?」
アルティは、ティアに抱き着き、カボチャ頭をその豊満な胸にうずめて、わんわん泣く。
後から到着したニタが息を切らしながら、ティアに事情を説明した。
「アルティ、アリスのお菓子を食べちゃったの。」
「嘘でしょ?それなんて自殺行為?ほら、手作りではない既製品だけど、トリート、トリート。」
ティアはそう言って、アルティにチョコパイを押し付ける。
アルティは顔を上げ、例に習って、カボチャの切れ込みからチョコパイを放り込み、安心したようにその味を堪能した。
そして、カボチャ頭のアルティは再び駆け出す。
ニタは疲れていたので、その後を追わず、いったん息を整えることにした。
「しかし、アルティってば、大分はしゃいじゃって。」
ニタの言葉に、ティアはきょとんとした表情を浮かべ、首を傾げた。
「ニタ、一体何を言っているの?」
「え?」
「アルティは、今確か、リマと一緒に居たはずよ?さっき、トリックオアトリートしに来たわよ?」
「え?」
ニタは背筋が急に冷えてくるのを感じた。
今まで一緒にハロウィンを楽しんでいたカボチャ頭の子は一体誰なのだ?
でも、よく考えれば、あのカボチャ頭の子は一言も発してなかった。アルティと同じくらいの身長だったけど、あの子から天真爛漫なアルティの声は一切聞いてない。
いや、「トリック・オア・トリート!」は間違いなくアルティの声だったような気がするが、果たして本当にそうだったろうか。
ニタはぼんやりとしていたが、ハッとして、「ニタ、トリックされてた!」と言って駆け出した。
ニタが家を出ると、外にはカボチャ頭の子が佇んでいた。
「ねぇ、キミ…」
ニタが声をかけると、カボチャ頭の子は振り返って「トリック・オア・トリート!」と言った。
その声は確かにアルティの高い声に似ていたが、少し低い。
ニタは、背負っていたリュックサックを降ろし、中から白いマカロンを出した。
「はい。」
ニタは、カボチャ頭の子に白いマカロンを渡す。
カボチャ頭の子は嬉しそうにマカロンを受け取り、カボチャの切れ込みから放り込んだ。
ニタは真剣な表情で、カボチャ頭の子を見つめていたが、ふと表情を和らげると、
「満足した?」
と尋ねた。
すると、カボチャ頭の子は、こくりと頷いた。
「なら良かった。君が誰かは良く分からないけど、ニタは楽しかったよ。」
カボチャ頭の子はニタに顔を向けてじっとしていたが、しばらくすると、くるりと背を向けて歩き始めた。
ニタは離れていくその後姿に声をかけた。
「また、おいでよ。ただ、アリスのお菓子だけには気を付けて。」
カボチャ頭の子は立ち止って、振り返ると、ニタにバイバイというように手を振った。
そして、再び歩き始める。夜闇にカボチャ頭の子は姿を溶け込ませ、消えていった。
「ハロウィンって色んなひとがやって来るっていうし、まぁ、そういうこともあるよね。」
と、ニタは独り言ちて、家の中に入って行った。
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