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マシアスとピアノ商会⑥


『ペポは3階のボスの部屋、お前の杖は2階の武器倉庫』
 クグレックはマシアスの言葉を思い出し、残りの3つの部屋を探すことに決めた。どこかに武器倉庫があるらしい。ひとまずまだ確認していない一番奥の部屋の扉を確認してみた。こちらもまた鍵がかかってなかったので、入ってみたが、この部屋は給湯室であり、また、トイレもあった。そして、なにか得体のしれない実験器具のようなものもあった。謎の部屋だが、マシアスの言う『武器倉庫』ではないのは確かだ。クグレックは早々に部屋を立ち去り、鍵開けの魔法を使った二つの部屋へ向かうため、廊下を戻っていく。
 ところが、階段の方から、ざわざわと人の声が聞こえる。
「なんか2階から変な音が聞こえたよな。」
「マシアスも戻って来ないし、なんかあったのか?」
「もしかして、1階の魔女が魔法を使って、脱出してたりして。」
「まさか、あんな小娘が、そんなことできるかよ。」
 男達の声にクグレックは驚いて、2個目の鍵が開いた部屋まで小走りでかけて行ったが、残念ながら、階段を降りて来た男のうちの一人に見られ、「あ、あの小娘!」と指を差された。
 クグレックはびっくりして思わず、魔法で開錠された部屋に駆け込み、内鍵を閉めた。部屋の中は真っ暗で何も見えない。
 すぐにドアが強い力で叩かれ、ドアノブも執拗にガチャガチャ回された。この光景をクグレックはどこかで見たことがあったが、あまり思い出したくはなかった。
 そんなことよりもクグレックはこの部屋が武器倉庫であることを願った。まだ確認できていないもう一つの部屋が武器倉庫ではありませんように、と祈りながら、クグレックは魔法で炎を灯す。
 炎の光に照らされて映し出されたのは、立ち並んだスチール製の棚だった。棚に近付いて見てみると、斧や槍、剣などが置いてある。どうやらここは武器倉庫で間違いなさそうだ。クグレックはほっと溜息をついた。
 だが、安心してはいられない。扉から聞こえる音はだんだん激しくなっており、外では男達が息を合わせて扉に体当たりをしようとしているところだ。扉は木製の扉のため、そのうち突入されるだろう。
 クグレックは自分の樫の杖を探した。
 棚を一つ一つ覗いてみるが、武器は見つからない。弓や矢、それからボーガンにハンマーといった武器も出て来る。どうしてこんなに沢山の武器があるのかは謎だった。奥まで行くと、ガラスのケースがあった。こちらには南京錠がかかっており、中を覗くとL字型をした筒のような武器複数個と一緒に、クグレックの樫の杖が入っていた。
 また鍵か、とクグレックは思いながら、木片を南京錠に当て、渾身の力を込めて開錠の魔法を唱える。そして、次に、ドアに向かって木片を構え、幻影の魔法をかけた。すぐに切れてしまうだろうが、武器倉庫にあるすべての武器がドアを開けた瞬間に飛んで来るという幻だ。僅かな足止めくらいになるだろう。
 クグレックは南京錠を引っ張って開くかどうか確認する。まだ開かない。
 入り口の扉は男達の体当たりを受けて極限までにしなる。次の衝撃で扉は壊れるだろう。
 南京錠はまだ開かない。
「せーの」という掛け声と共に、男達が扉に体当たりを加える。ドン、という音と共に、扉が破壊される。
 南京錠はまだ開かない。
 部屋に突入しようとした男達だが、武器庫の武器が全て自分たちに飛んで来るという幻を見て銘々に「うわー」と悲鳴を上げる。
 南京錠はまだ開かない。
 すべての武器庫の武器が飛んで行って、しばらく経つと、男達は自分たちが無傷であることに気付き、再び部屋に突入しようとする。
「おい、小娘、よくも騙してくれたな!危害は加えないから、こっちへ来い。」
「さっきの音はお前だな。一体何をしたんだ。」
 幻に騙されたことで、男達は慎重に部屋の奥へと入り込んで来た。
 だが、クグレックは振り向かない。南京錠の開錠に意識を集中していた。
 
 カチャリ。南京錠が開錠し、ぽとりと床に落ちた。
 
 クグレックは木片を投げ捨てた。
 少しだけ重たいガラスのケースを開けて、クグレックは自分の杖を取り出し、振り返って男達に向かって構える。
 そして、頼りない震えた声で叫んだ。
「こ、これ以上近付かないでください!どうなっても知りませんよ!」
 男達はたじろいだ。先程のような幻を見せられては堪らない。
「ラーニャ・レイリア!」
 と、クグレックが物体移動の呪文を唱えると、棚にあった斧や槍が男達へ向かって飛んで行った。男達はどうせ幻だろうと思って動かずにいたが、斧や槍は容赦なく飛んで来て男達の頬を掠めて後ろの壁に刺さった。
 刺さった斧のすぐ真横にいた男の頬からは切り傷が出来て、血がたらりと流れ落ちる。
「いや、これ、幻じゃねぇ。本物の斧が飛んで来たんだ。」
 クグレックは更に鞘から身を抜いた剣を数本浮かべて刃先を男達に向ける。
「つ、次は当てます…!」
 震える声でクグレックが言い放つと、剣は勢いよく男達を狙って飛んで行く。もう幻ではないと知った男達は寸前のところで襲い来る剣を交わし、剣は部屋を飛び出して廊下に突き刺さった。
 クグレックはほっと溜息を吐いた。間違ってもこの武器が誰かに当たって致命傷にでもなったら、クグレックの精神が崩壊していただろう。また、扉の前に立ちはだかっていた男が剣を交わして棚側に寄ったことで、扉への通り道が出来た。
 クグレックは「イエニス・レニート・ランテン・ランタン」と炎の呪文を唱えて炎の玉を出現させて、一人の男の頭上をかすめさせた。
 ジュッと焼ける音がすると、炎の玉がかすめた部分だけ、男の髪がちりちりに焦げていた。
「これ以上動いたら、火の玉が、よ、容赦なく貴方たちを、燃やします。」
 クグレックは自身の周りに炎の玉を5個ほど浮かばせた。炎の玉はまるで彗星のようにぐるぐるとクグレックの周りを飛び回る。これは本物ではない幻だが、一連の流れから、男達は本物だと信じ切っている。
 クグレックはそのまま炎の玉を自身の周りに配してまっすぐ入り口に向かって歩き出し、悠々と男達の横を通り過ぎて部屋を出た。そして、炎の玉を部屋のあちこちに飛ばしてぶつけると、火は壁や床に燃え広がった。武器庫内における火事は全てクグレックの幻だ。ポルカの時とは異なり、クグレックの魔力にはまだ余裕がある。しばらくは鮮明な火災の幻を見せて男達の足を止めることが出来るであろう。
 男達は慌てて炎を消そうと自分たちが着ていた服を脱いだり、給湯室から水を持って来たりして消火活動に当たった。クグレックはその隙をついて、3階へと上がって行った。
 
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 2015_11_06

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