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マシアスとピアノ商会⑧


「ばか。」
 クグレックは不意に頭をポンと掴まれた。ふと後ろ振り向くと、そこにはマシアスの姿があった。クグレックはマシアスに杖を向けた。
「こんな胡散臭いタヌキおやじのことを信じるのか、お前は。」
 マシアスは呆れたように言い放った。そして、マシアスは狸顔の男をまっすぐに睨み付けながら言葉を投げつけた。
「ランダムサンプリには話はつけている。お前さえいなければ、全て平穏に終わるだろう。クソダヌキめ。」
 微笑みを湛えていた狸顔の男の表情が歪んだ。
「まさか、ここ最近の全ての契約がキャンセルされたのは…。」
「…後はお前の首さえ献上すればすべては終わる。それがアリシアファミリアとの約束。」
「やはり、お前が元凶だったか。」
 狸顔の男はにやりと下品な笑みを浮かべるとニタの檻が置いてある机まで歩き、机の引き出しを漁った。
 クグレックは状況に着いて行けず、ただ状況を見守ることしかできなかった。
 狸顔の男は引き出しから、黒光りするL字型の筒状の武器を取り出した。これはクグレックが見た武器庫のガラスケースに入っていたものと一緒だ。クグレックはこの武器を見たことはなかったが、立派な拳銃である。狸顔の男は、銃口をクグレックに向けて構えた。そして、躊躇うことなく引き金を引く。
 バン、という鼓膜が破れてしまいそうなくらいの大きな音がしたかと思うと、クグレックは床に倒れていた。部屋に硝煙のにおいが広がる。
 クグレックの上にはマシアスが乗っかっていた。どうやらマシアスに押し倒されたらしい。
「魔女、お前の魔法であいつの持っている武器を奪い取れ…。そして、ペポがいる檻を開けるんだ。」
 マシアスの顔が苦痛に歪む。クグレックはお腹のあたりが濡れているのに気付いた。気付けば床には赤い液体が流れている――。
 クグレックははっと息をのんだ。この赤い液体は、血だ。大量の血が、マシアスの腹から流れているのだ。クグレックは全身から血の気が引くのを感じた。
「大丈夫、ポルカで白魔女の薬を貰ったから、大丈夫だ…。」
 と、マシアスは言うが、呼吸も荒く、脂汗も酷かった。クグレックは恐怖でパニックになりそうだった。マシアスはクグレックを安心させようとするかの如く「大丈夫だ。大した傷ではない。」と呟く。
 それでも、クグレックは流れている血を見て現実に引き戻される。
 マシアスは腹を抑えながら、クグレックの上から離れた。これ以上銃弾が当たらないようにチェストの陰に隠れる。
 クグレックは上体を起こした。が、床に流れるマシアスの血に呆然としていた。
 マシアスはそんなクグレックの様子を見て、表情を苦痛に歪めながら出せるだけ大きな声を出した。
「魔女、正気に戻れ。今お前がしっかりしないでどうする。このままだとお前も、ペポもあいつの銃にやられて死ぬぞ!」
 しかし、マシアスの声はクグレックに届かなかった。
 恐怖、自責の念、後悔、憎悪、無力感といった様々な負の感情に包まれたクグレックにマシアスの声など届かない。最早自らを失ったクグレックは、体をガタガタと震わせた。杖を握る力もなくなり、杖は床にかたんと落ちた。
 それと同時に、クグレックの目の前のマシアスも意識を失い、目を閉じた。
「まぁ、マシアスさえ消せれば問題はありませんが。どういうことでしょうねぇ。魔女のあなたも同じ目に遭わせたくなってきました。さぁ、出ておいで。忌々しい魔の力、ここで成敗してあげましょう。」
 狸顔の男の足音がクグレックに近付いて来る。彼の位置からだと、クグレックがいる場所はちょうど死角に当たっていた。
 クグレックは絶望に打ちひしがれ、しゃがみ込んで体をガタガタと震わせる。

――私が弱くて何もできないから、マシアスは死んじゃう。怖くて何もできないから、ニタも助けられない。こんな私、もう、居なくなればいいのに。もう、嫌だ。嫌だよ。

 バチバチとクグレックの周りに静電気が発生する。
 狸顔の男は、ただ事でない危険をクグレックから察知して、クグレックがいるであろう方向に銃を放つ。バンバンと銃声が二つ聞こえたが、銃弾はクグレックに当たらなかった。クグレックのすぐそばまで来ると、勢いを失くし、ぽとりと落ちた。クグレックの周りに放たれる静電気が銃弾の勢いを打消したのだ。更に残りの銃弾を全てクグレックに向かって撃つが、全てクグレックの周りの静電気に捕えられ、クグレックまで銃弾が届かない。弾を充填し、再びクグレックに向かって撃つが、何度やっても結果は同じだった。
「ひ、ひい!」
 静電気のエネルギーは次第に強くなり、狸顔の男に向かって電気がバチバチと光を伴ってうねる。
 クグレックの絶望は彼女の膨大な魔力を放出させる。暴走する彼女の魔力は、今や小さな雷光となり、狸顔の男を脅かすだけでなく、部屋の装飾物や家具を次々と破壊していった。
 そして、魔力の暴発はニタが囚われている檻へと至った。雷光が檻に触れると檻は爆発し、壊れた檻からは目覚めたニタがびっくりした様子で飛び出してきた。ふかふかの白い体毛がところどころ焦げている。
「え、え、何これ?」
 ニタは辺りをきょろきょろ見回す。そして「臭い!」といって鼻を押さえた。ニタは硝煙の臭いが嫌いなのだ。
 そばで雷光に怯える狸顔の男を見るとニタはなんとなくイラッとしたので、一発殴っておいた。ニタの勘が狸顔の男を悪だと感知したのだ。そのまま男は雷光に打たれ、その場に倒れ込んだ。かろうじて息はある状態だ。
 そして、しゃがんで一人震えるクグレックに気が付くと、ニタはすぐに駆けつけて行った。
「クク、クク、どうしたの?マシアスにやられたの?」
 ニタはクグレックを心配そうにのぞき込む。腹から血を流すマシアスも傍にいて、もうわけが分からない。
 クグレックの雷光はニタには効かなかった。雷光の真っただ中にいるが、ニタは平然としている。それは傍で気絶しているマシアスも同様だった。
 ニタは必死にクグレックに呼びかける。
「クク、ニタだよ。一体何があったの?怖いの?ニタが来たからもう大丈夫だよ。クク、クク…!」
 ニタの声はクグレックの抱える絶望の闇に吸い込まれていくだけだった。
 ニタは状況に当惑するが、物音を捉える力の強いニタの耳が、3階へと昇ってやって来る大勢の足音を察知した。
 何が来るのだろうか、と、ニタは臨戦態勢を取った。



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