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マシアスとピアノ商会⑨


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 クグレックはハッとして目を覚まし、上体を起こした。そして、きょろきょろと辺りを見回した。
 彼女が今いる場所は、あの悪趣味な剥製が立ち並んだ金の部屋ではなかった。暖炉で暖められたカントリー調の優しい部屋だった。ふんわりとしたベッドの上でクグレックは眠っていたらしい。
 クグレックは悪い夢でも見ていたのだろうか、と思った。
 ニタは檻に入れられてなんかいなかったし、マシアスもクグレックをかばって重傷を負わなかった。そもそもマシアスを見かけてすらなかった。
 と、思い込みたかったが、クグレックは今自分がいる場所の詳細が良く分からなかった。
 一体ニタはどこに行ったのか。
「ニタ…?」
 不安そうなか細い声でクグレックはニタを呼んだ。
「呼んだ?」
 クグレックの視界にぬっと出現したニタ。
 ふかふかの白い体毛がところどころ焦げているが、愛くるしいその姿がそこにいた。
「ニタ!」
 クグレックは嬉しくなってニタに抱き着いた。ニタも思わずクグレックに抱き着いた。二人はぎゅっとお互いを抱き合って、お互いの温もりを確かめ合う。
「クク、良かった。クク、あの後から丸一日寝てたんだよ!本当に良かった。」
「一日も!」
 クグレックは驚いてニタから手を離した。自身のぐうたらさに呆れてしまった。
 そして、あの後、とは一体いつのことなのか。クグレックはおそるおそるニタに尋ねてみた。
「ニタ、あの後って、一体…。」
「あの後、ってそりゃぁピアノ商会でクグレックがバチバチを放った後だよ。」
 何でそんなことを聞くのか理解できない様子で、ニタが答えた。
 ニタが言う“バチバチ”は良く分からないが、どうやら、ピアノ商会に行ったことは間違いないようだ。
「もう、大変だったんだからね。ニタが檻から出たら、マシアスは血を流して倒れているし、なんか知らない人達が沢山やって来るし、挙句の果てに、ピアノ商会も崩れちゃったし!」
「崩れた?」
 どうやら、あの悪趣味な部屋での出来事は現実であり、ニタも檻に入れられていたし、マシアスはクグレックをかばって重傷を負っていたのは間違いなかった。が、それ以上に、クグレックはピアノ商会が崩れた、ということが大きな衝撃であった。
「崩れたって、どういう意味?」
「そのまんまだよ。ククのバチバチがピアノ商会を破壊したんだ。」
「嘘…。」
 ニタの言う“バチバチ”が未だに理解できないが、本当にとんでもないことが起きていたのだ。
「じゃぁ、マシアスは無事なの?」
「うん。やって来た知らない人達はマシアスの仲間だった。ピアノ商会が崩落する前に、マシアスの仲間たちが、建物にいる人達を外に出してくれたから、えっと、とりあえず…全員命は無事だよ。」
 クグレックは自身が破壊したとされるピアノ商会で、誰かがその瓦礫の下敷きになって命を落としていないという事実に安堵した。ただ、命“は”無事だというニタの言葉に多少の引っ掛かりを感じたが。
「ククのことも、マシアスの仲間たちが運んでくれたよ。」
「そうなんだ…。」
「マシアス、今別の部屋にいるよ。銃に撃たれてるから、まだ安静にしてたんだ。ククが起きたら話をしたいって言ってたから、行こう。」
 ニタに手を引っ張られ、クグレックはマシアスの部屋に連れ込まれた。
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