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マシアスとピアノ商会⑩


 クグレックの部屋よりも少し広い部屋に、マシアスがいた。
 マシアスは上半身が裸で、腹部は包帯でグルグル巻きにされていた。金髪はぼさぼさになっており獅子のようだったが、顔色もよく、元気そうだった。クグレックは少しだけ安心した。
 そしてもう一人。マシアスと同じような金髪の男性が、部屋に似つかわしくない金細工の豪勢な椅子に座って、ワイングラスを啜っている。マシアスよりは体格が華奢で、どこか気品が漂っている。髪はクグレックと同じくらいの長さのおかっぱであるが、しっかり手入れが成されているようで、艶があり絹糸のようにさらりと流れる髪だった。ワインを堪能しているらしく、彼はクグレックが入って来たことには気付いていないようだった。
 マシアスは、クグレックを見ると安心した表情を見せた。
「起きたか。具合は大丈夫か?」
 クグレックは、黙って頷き、マシアスを見つめた。あんなに腹から血を流していたというのに、ぴんぴんしているのはポルカで謝礼に貰ったという白魔女の薬のおかげだった。
「ピアノ商会では色々悪かったな。色々怖がらせてしまったようだ。」
 マシアスはカップに温かい紅茶を注いで、クグレックとニタに渡した。
 クグレックはカップを受け取り、口に含む。紅茶といえども、クグレックが今まで飲んできたものとは少々異なっていた。少しだけ酸味があるが、深みがあり、元気が出て来るような味だった。「で、話って?」
「お前のおかげでピアノ商会を潰すことが出来た。ありがとう。」
 クグレックはニタに目線を遣る。マシアスの言っていることが理解できないからだ。
 ニタは思い出したかのように話を始めた。
「クク、ニタはマシアスのことをちょっとだけ勘違いしてたみたい。あのピアノ商会って会社は戦争請負屋らしくて、戦争が起きれば大儲けする会社なんだって。武器とか物資を売ったり、時には社員を傭兵としても派遣しているらしい。」
「お前も見ただろう。ピアノ商会の武器庫や倉庫を。あれらは全部これから起こる戦争のための物資だ。」
 マシアスが付け加えた。
 クグレックはニタを探してピアノ商会を捜索した時に見た大量の木箱――中身は武器や防具、缶詰といった携帯食料のことを思い出した。あれらは全てこれから起こる戦争に使われる、ということなのだろう。
「リタルダンド共和国が、内紛にあったことは知ってるよね。一番悪い奴はその時の政治家だったんだけど、裏で暗躍していたのはピアノ商会だった。自分たちが利益を上げるために、言葉巧みに暴力を伴った戦争を起こしたんだ。それだけじゃない。奴らは希少種狩りを行う団体にも武器や狩るためのノウハウを売っていた。マシアスは、それを追っていたらしいよ。」
「そ、そう…。」
「ポルカにいたのも、ピアノ商会の社員を探すため。あの山賊達のボスはその社員のうちの一人だったらしい。」
「でも、どうして、あのポルカのボスと一緒に居たの?ボスは牢屋に入っていたんじゃないの?」
「それは、少し複雑な話になる。」
 マシアスがニタが説明しているところに割って入って来た。
「ポルカであの後、取り決めをしていたんだ。俺はどうしてもピアノ商会に辿り着かなければならなかったから、ピアノ商会の社員であるアイツの存在は大きかった。だから、アイツに選択させた。
1、俺に殺される。
2、このままリタルダンド警察に捕まり、豚箱へ行く。
3、ポルカでの任務は成功したことにする。」
「どういうこと?3の選択肢って…。」
「結局アイツは殺される運命だったんだ。ピアノ商会は、失敗を許さない。任務が遂行できない場合は、除名は未だ優しい方だが、死を持って償う場合もある。それでも、生き残る可能性は一つだけ。ポルカでは、実のところ、警察に突き出していない。」
「…でも、確かに、山賊達は警察に捕まったはず。この目で確かにみたもの。」
「あの警察隊は、俺の仲間だ。ボス以外の奴らは、しかるべき場所で正義の神判が成されているから安心してくれ。ちょっとクグレックには刺激が強い内容だけど。」
 横でニタがうんうんと頷く。ニタはすでにマシアスから話は聞いており、正義の神判の内容も知っていた。
「俺がポルカで得た報酬金を、全てアイツに渡して、アイツは何食わぬ顔でピアノ商会へ戻ることが出来た。その代わり、俺はあいつの口添えによってピアノ商会の社員として堂々と入ることが出来たんだ。それが、アイツが助かる唯一の条件で、アイツはまんまとその要求をのんでくれた。順調に事が進むだろうと思っていた矢先、お前たちの出現だ。エントランスで騒ぎ立ててる不審な二人組。新参者の俺はお前たちと何の関わりがあるのか、酷く疑われた。お前たちのせいで、信用が一気にがた落ちだ。だから、俺はお前たちと何の関わりもないことを示すために、お前たちの身売りを引き受けたんだ。希少種のペポと年頃の女は高く売れる。だから、手荒な真似にはなってしまったが、二人を監禁させてもらった。まぁ、疑われてはどうしようもないから、その日中に方をつけようと思っていたんだけどな。それから、お前たちを解放しようと思ってたが…。」
「ククが自力で逃げちゃった、というわけ。女の子に手荒な真似をするのは良くないってこった。」
 うんうんと頷きながら、ニタが言った。マシアスはばつの悪そうな表情をして頭をかいた。
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