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マシアスとピアノ商会⑫〈完〉


「これがトリコ王国の技術力…。」
 と、小さく呟くニタ。
「ニタ、トリコ王国って一体どんなところなの?」
 不思議な馬車にクグレックも面喰いながらも、ニタに質問をする。
 ニタは世にも奇妙な馬車を見て、一瞬気が抜けたように立ち尽くしていたが、頭を振って気を取り直した。そして、クグレックにトリコ王国についての説明を始める。
「ここよりも南にある国。国土はほとんど砂漠だけど、物凄い技術で皆幸せに過ごしている国なんだ。ニタは行ったことがないから良く分からないけど、とにかく凄い国らしいよ。その分、セキュリティーも頑丈だから、普通の人は入れない。勿論ニタもククも入ることが出来ないよ。砂漠越えの手段もあるかもしれないけど、砂漠は徒歩では越えられないからね。だから、あの二人に招待されたことは、凄い幸運なことなんだ。」
「へぇ…。」
「セキュリティが頑丈な理由は、トリコ王国が持つ技術や情報の漏えいを防ぐためだとか。あまり他の国とは関わろうとしない国だから、いろんなことが秘密に包まれている。でも、沢山の人が憧れる国だと評される国だよ。さ、寒いから中に入ろう。」
 ニタに促されて、クグレックは宿屋へ戻る。
 クグレックは起きたばかりなので、まだ眠くはなかったが、ニタは眠そうにしていた。時計をみると、0時をまわっている。
 ニタは、部屋に戻ると、ベッドに潜りこみ、横たわった。
 クグレックは、暖炉前のテーブル席について、眠そうにしているニタに気を遣ってなるべく音を立てないようにミルクティーを淹れた。
 ニタは瞼が落ちかけて、今にも眠ってしまいそうだったが、ぽつりと呟いた。
「トリコ王国はセキュリティーが厳しいから、トリコ王国でハンター活動が出来るのって、王室が認めた人達だけらしいから…、マシアスとディレィッシュって人はなかなか凄い二人なんじゃないのかなぁ…。」
 世の中のハンター事情はクグレックには良く分からなかったが、ニタが言う通り、マシアスとディレィッシュは、特別な存在の人達だと感じていた。
「ニタは、トリコ王国に行けるのが楽しみだよ…。」
 今にもとろけてしまいそうな声で喋るニタ。
 クグレックはベッドのニタを見てみた。とても眠そうにぼんやりしているが、クグレックと目が合うと、嬉しそうににっこりと微笑む。
 クグレックは、そんなニタを見ながら、一つだけ気になることがあった。
 それは、ふかふかの白い体毛の中のところどころちりちりと焦げてしまった茶色い部分。
 クグレックは思い切って聞いてみることにした。
「ねぇ、ニタ、ニタの白いふかふかの毛、ちょっと焦げちゃったのは、私のせい?」
 ニタは眠たそうに眼を細めながら、もにょもにょと答えた。
「うーん、違うともいえるし、そうだともいえるかな。」
「そっか。…ごめんなさい…。」
「…んとね、ククのバチバチ、不思議なことにニタとマシアスには効かなかったんだ。ただ、バチバチがニタが入ってた檻に当たって爆発した時に焦げちゃったんだ。ニタはびっくりして、その時に目が覚めたけどね…。」
「ごめんね…。」
「謝らなくたっていいよ。おかげでニタは檻から出られたんだし。オワリヨケレバスベテヨシってことだよ。」
 ニタは正常にお喋りが出来ているが、瑠璃色の瞳は虚ろになっている。
 クグレックはニタが眠気で限界なのを見て、ニタに聞こえないように小さな声で
「今更だけど、ニタが無事で、良かった…。」
と、言葉にした。
 耳聡いニタの耳にその言葉が届かないはずもなく、ニタはにっこりと微笑んで
「ニタも。」
と、言った。そして、とうとう限界を迎えたのか、微笑んだまま眠りに落ちた。
 すーすー、と規則正しい安らかな寝息の中、クグレックは暖かいミルクティーが入ったティーカップを啜る。優しい味と香りが口の中に広がった。
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 2015_11_16

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