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さみしい細胞

Category: アルトフールの物語   Tags: *  


ヨウソ、ヨウソ、ヨウソ

光の差し込まない森の奥深く。

神秘的なまでに美しい女性が光の届かぬ湖の岸辺に佇んでいた。

彼女は見かけこそ人間の様であったが、人間ではなかった。






 

―― ヨウソ、ヨウソ

「ベルナール、クールトア?」

―― ヨウソ、ヨウソ、命のヨウソ

「精子を与えるわ。育みなさい。」

 彼女は懐から麻袋を取り出して、紐を解く。麻袋を逆さにすると、中からとろりとした白い液体が糸を引いてどろりと湖に落ちた。その液体は闇の穴のような湖に溶けて、いや、吸い込まれて跡形もなくなった。
 光の届かぬ地にある湖は不気味なほどに真っ黒だった。
 別に水が黒いわけではない。光が当たらないから黒いのだ。
 現に彼女は湖の水を掬っているが、それは限りなく透明だ。

――ヨウソ、ヨウソ

 何かの声が木霊する。
 森中に響き渡っているのか、彼女の精神に響き渡っているのか定かではない。
 あいまいな空間に彼女の体は細かな粒子に分かれていく。そして砂の城が崩れていくように、彼女の体は消えていく。

「いつか、あなたが大切なヨウソとなるように。」

 彼女の最後の言葉と共に、彼女は塵ひとつ残すことなくかき消えた。
 抽象的な劇が終焉し幕が降りると、暗闇が世界を包んだ。
 そして、闇の中の湖は底に小さな赤い灯を宿して胎動した。

――ヨウソ、ヨウソ、僕らのヨウソ

  裏切り者の、僕らのヨウソ

  裏切り者の、僕らのヨウソ

  汚らわしい
  汚らわしい

  永遠にお前はヤミの中

  ヒカリには会わせない。

 小さな赤い灯は悲しみに包まれたがゆえに悲しみを知らない。
 そしてゆっくりと核分裂を行おうとしていた。
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 2014_02_01

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