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魔女と砂漠の王国⑥


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 翌日、昼食を取った後、イスカリオッシュが現れた。
 七三分けの銀縁眼鏡は神経質で真面目そうな印象を与えるが、実際に口を開いてみると饒舌で、常に微笑みを絶やさない気さくな人物だ。
 イスカリオッシュは二人を城下町へと案内してくれた。
 今日のイスカリオッシュは第2皇子ということもあり、頭にターバンと巻き顔も目以外は布で隠していた。自身が王族であることが分かってしまうと、トリコ王国の素の様子を紹介できないから、敢えてばれないように顔を隠しているらしい。
 城門を抜けると、眼下には地平線へと続かんとする城下町が広がっていた。
 それはクグレックが見たこともない光景だった。
 鏡のような表面のガラス張りの背の高い建物が立ち並び、青空の太陽を眩しく反射している。建物の間には透明なチューブ状のトンネルのような物が宙に浮いており、その中をデンキジドウシャが駆け抜けていたり、人が歩いている。
 道とは地に着いているものだが、トリコ王国では空中にも浮いていた。二人の常識は凌駕される。チューブ状のトンネルはまるで血管のように城下町を駆け巡っていた。
 遠くを見遣れば砂丘が広がっているので、辛うじてここが砂漠の国だと思い知らされるが、城を中心として形成される城下町は、無機物な高層建築の中に緑地帯を見ることも出来たので砂漠の国らしさを一切感じさせることはなかった。
「…す、すごい…。リタルダンドよりも沢山建物がある…!」
「道路が空を走ってるの…?」
 二人は、思わず地に膝をついて眼下の大都市を見下ろす。
 そばのイスカリオッシュは、満足そうに二人の様子を微笑みを湛えながら見つめていた。
「二人とも、入国した時は寝てたから、城下町の様子は見てませんでしたね。では、ご案内しますので、ついて来てください。」
 そう促されて、ニタとうグレックはイスカリオッシュの後を着いて行く。
 階段を下りていくと、デンキジドウシャが何台も止まっている格納庫に辿り着いた。天井が高く、薄暗い場所だった。3人はデンキジドウシャに乗り込むと、デンキジドウシャは七色に光るトンネルに突入した。ピンク、黄色、オレンジ、赤、紫、青、緑と順々に巡る色を通過していく。
「うう、なんか目がおかしくなりそう。」
 ニタは目を抑えながら言った。
「ふふふ、そうですね。慣れても奇抜な光です。もう少しでトリコ城ですよ、注意してくださいね、という意味と、非日常的なワクワク感を煽るのが目的です。こんな色彩の中を普段は通ることもないでしょう。これは、王のアイディアです。」
「あの王様は本当に変わってるね。」
「天才ですから…。」
 色彩の暴力とも呼べるトンネルを通ること十数分、ようやく自然な外の光が差し込んで来て、城下町へと抜け出した。城から見下ろした時に見えた半透明のチューブ状のトンネルの中を通過する。
「これから商業地区の方に向かいますよ。商業地区は古き良き建物となっております。トリコ王国は今でこそ技術大国ですが、もともとは商人が力を持った国でしたからね。日干し煉瓦のあるがままのバザールの姿が商業地区には残っています。」
 そうしてデンキジドウシャを地下の駐車場に停め、3人は城下町の商業地区へ向かった。
 商業地区は、イスカリオッシュが言っていたように、日干し煉瓦で作られた建物が立ち並び、多くの人で賑わっていた。広場では野菜や果物、衣服、手工業品、家具など様々な物を扱う露店が並んでおり、商人たちの呼び声が元気に響き渡っていた。
 ニタは露店の行商人に声をかけられた。
「珍しいね、外の国の人かい。どうだいお土産にトリコ絨毯なんてどうだい?安くしとくよ。」
「残念ながらニタ達は流浪の身だからね。いつか落ち着いたら買いに来るよ。」
「お、旅人かい。そりゃまた珍しい。」
「へへへ。じゃ、また今度ね。」
「おう、待ってるぜ!」
と、いった具合にクグレック達一行は商人に声をかけられることが多かったが、ニタの持ち前の愛想良さでかわすことが出来ていた。クグレックが声をかけられた時でもニタが間に入った。
 トリコの商人たちは皆陽気でお喋りが好きなようだ。リタルダンド共和国のポルカ村の宿屋のおばさんのことが思い出されるくらいに気の良い人が多かった。勿論商魂溢れる人が多いものの、ニタの喋りでうまくかわしている。
「イスカリオッシュ、これからどこに行くの?」
「あぁ、言ってませんでしたね。これからエネルギー研究所に行くので、お土産を買いに来たのです。とても美味しいクッキーのお店があるのです。」
 そういってイスカリオッシュは路地裏の通りに入っていき、こじんまりとしたクッキー専門店に入った。店内は甘いバターや砂糖の香りが広がっており、ニタとクグレックは幸せな気持ちに包まれた。
「おや、お忍びですか?」
 穏やかそうな老齢の店主がにっこり微笑みながらイスカリオッシュに話しかけた。
「あ、ばれちゃいました?」
 イスカリオッシュは顔を覆う布に触れながら答えた。
「いつも贔屓にしてくださいましてありがとうございます。」
 深々とお辞儀をする店主。イスカリオッシュは困った様子で、店主に顔を上げて貰うように促した。
「詰め合わせを頂けますか?手土産用にしたいのです。」
「はい、かしこまりました。では少々お待ちください。」
 しばらくして、イスカリオッシュは店主から包装されたクッキー詰め合わせが入った紙袋を受け取った。
「そちらの女の子と白いクマちゃんの分もおまけに付けましたので、どうぞお召し上がりください。勿論、イスカリオッシュ様の分もありますよ。」
 そう言う店主にイスカリオッシュは思わず表情を綻ばせて「ありがとう。」と返答するのであった。
 クッキー専門店を後にし、デンキジドウシャを停めている地下駐車場に戻る間、イスカリオッシュがニタとクグレックにおまけで貰ったクッキーの包みを手渡した。ニタは早速包みをあけ、甘い香りのするクッキーを頬張る。サクサクとした食感だが、じんわりとした優しい甘さが広がるとても美味しいクッキーだったので、ニタの表情は瞬時に緩み幸福感を隠せずにはいられない様子だった。
 クグレックも一つ齧ってみたが、とても美味しかった。祖母が作ってくれたクッキーのように優しく、懐かしい味だった。しかし、美味しいクッキーであるにせよ、祖母のものとはどこか違う。甘い香りのクッキーを何度もひっくり返して見つめるが、感じ取れない祖母の面影の正体を突き止めることは出来ない。
「クク、どうしたの?」
 ニタに声をかけられて、クグレックは我に返った。
「ううん、なんでもない。クッキー、おいしいね。」
「うん!」
 クッキーに舌鼓を打つ二人に、イスカリオッシュは満足げな様子で微笑んでいた。
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 2016_05_28

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