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それから、ニタとクグレックは、トリコ王国での暮らしを満喫していた。
高度な技術に包まれる生活は、最初は戸惑いがあったものの、慣れてくるとそれが快適で楽な生活であることが良く分かった。ニタも満更でもない様子で、二人はもうドルセードやリタルダンドの前近代的な生活には戻りたくないという心地になりかけていた。
昼間は侍女達から、トリコ王国の文化について教えて貰ったり、しきたりや作法、礼儀について教えて貰っていた。客人とは言え、もはや居候の身分でもあるので、周りと波風立たないように最低限の礼儀というところを教える王からの配慮だった。
そして、夜になると、ディレィッシュのプライベートラボでの実験であった。
脳波や体の動きなどの調査に入れるので、クグレックとニタは頭から足まで謎の機材を装着して実験に参加した。特に頭に装着したヘルメットのような機械は重い上に頭を適度に締め付けた。ニタもククも動きづらさに悪戦苦闘したが、クグレックに至っては普段よりも魔法の効力が控えめになってしまったが、杖なしで魔法を使った時ほどではなかった。今使える炎の魔法や鍵開けの魔法、幻の魔法などを使って見せ、様々な角度から分析されたようだ。因みにニタは終始機材のことを好きになることはなかった。
ところが、しばらくすると、夜ではなく昼間から研究の被検体として、王のプライベートラボではなくエネルギー研究所で実験に参加することとなった。王だけでなく、沢山の研究員達から好奇の目で見られるのはあまり気持ちが良いものではなかった。ニタもクグレックもストレスを感じずにはいられなかったが、リラクゼーション設備が整った自室に戻ると、ストレスのことなど忘れてしまった。また、研究員達は皆人が良かったので、だんだんみられることにも慣れて来た。
そうしていくうちに、日は経って行き、新しい年を迎えることとなった。城では祝宴が催され、大盛況だった。飲めや歌えやの大騒ぎで、とにかく皆楽しそうである。
そんな中、ニタとクグレックは大広間をこっそりと抜け出し、人気の無い場内を彷徨っていた。
ニタはクグレックの腕を引っ張って、廊下を駆ける。一度クグレックの杖を取りに自室へ戻った。
「二、ニタ、一体何なの?」
「しー!」
ニタは口元に人差し指を当てて、クグレックに静かにするように促した。そして声を潜めながら
「あのね、マシアスの居場所が分かったの。」
と言った。
「え?どこにいるの?」
クグレックもニタに倣って声を潜めながら尋ねた。
ニタは4D2コムを取り出し、城内図を表示させて、場所を示した。そして、仰々しく「第1皇子の御室。」と言った。
「第1皇子?」
「そう。やっぱり、マシアスは第1皇子ハーミッシュだったんだ。研究所の人や侍女たちに聞いてようやく分かった。マシアスは今、体調が優れなくて寝込んでるんだって。」
「うそ…。」
クグレックはピアノ商会での銃創が悪化したのかと思い不安になった。
「関係者以外面会は謝絶しているから、みんな詳しいことは知らない。今、奴がどんな状態でいるのか、生きているのか、死んでいるのかはごくわずかな人間しか分からないらしい。」
「…会いに、行くの?」
クグレックは恐る恐るニタに尋ねると、ニタは力強く黙って頷いた。瑠璃色の瞳は海の様な静かな輝きを湛える。
もうこれで、ニタの気持ちは動かない。
ニタは一度決めたら、クグレックが何と言おうと突き進む。
これはニタの悪いところでもあり、良いところだ。
クグレックはのんびり新年会に興じたいところではあったし、入ってはいけないところに入るのも良くないとは思っていたが、それ以上にマシアスに会いたかったので、ニタの暴走に付き合うことに決めた。
4D2コムに表示される地図を頼りにクグレックとニタは『第1皇子居室』へ向かう。
城内は皆新年会に出払っているのか、警備が一人も見当たらなかった。機械で警備も行っているのかもしれないが、それでも不用心だ。クグレックは静けさに気味の悪さを感じつつニタの後を追った。
二人は今まで立ち入ったことがない場所までやって来た。手で開くことも出来なければ4D2コムで開錠することも出来ない沈黙の扉が二人の前に立ち憚る。
「こんな時は、魔法の力!魔法は科学を凌駕する!」
と、ニタはクグレックに向かって言い放った。
クグレックは戸惑いながらも杖を扉に向け、鍵開けの呪文を唱える。すると、杖からは淡い光が出て来て、光が扉全体を覆った。だが、開錠する気配はない。鍵開けの魔法は機械には対応していないのだろうか、とクグレックは考えたが、考えてるうちに、扉はゆっくりと開いた。
「さすがクク!」
笑顔でハイタッチを求めるニタに、クグレックは腰をかがめて応じると、掌に柔らかい肉球がぽむと触れた。
「この先にマシアスがいるんだ。行こう。」
それから二人は2つ程セキュリティーのかかった扉を突破して行った。魔法の力で強引に開けても、トリコ製の科学の結晶であるセキュリティーは何も感知しなかった。魔法は科学を凌駕した。
今のところは。
二人はすっかり安心しきった状態で、マシアスの居室へと近づいて行く。
それから、ニタとクグレックは、トリコ王国での暮らしを満喫していた。
高度な技術に包まれる生活は、最初は戸惑いがあったものの、慣れてくるとそれが快適で楽な生活であることが良く分かった。ニタも満更でもない様子で、二人はもうドルセードやリタルダンドの前近代的な生活には戻りたくないという心地になりかけていた。
昼間は侍女達から、トリコ王国の文化について教えて貰ったり、しきたりや作法、礼儀について教えて貰っていた。客人とは言え、もはや居候の身分でもあるので、周りと波風立たないように最低限の礼儀というところを教える王からの配慮だった。
そして、夜になると、ディレィッシュのプライベートラボでの実験であった。
脳波や体の動きなどの調査に入れるので、クグレックとニタは頭から足まで謎の機材を装着して実験に参加した。特に頭に装着したヘルメットのような機械は重い上に頭を適度に締め付けた。ニタもククも動きづらさに悪戦苦闘したが、クグレックに至っては普段よりも魔法の効力が控えめになってしまったが、杖なしで魔法を使った時ほどではなかった。今使える炎の魔法や鍵開けの魔法、幻の魔法などを使って見せ、様々な角度から分析されたようだ。因みにニタは終始機材のことを好きになることはなかった。
ところが、しばらくすると、夜ではなく昼間から研究の被検体として、王のプライベートラボではなくエネルギー研究所で実験に参加することとなった。王だけでなく、沢山の研究員達から好奇の目で見られるのはあまり気持ちが良いものではなかった。ニタもクグレックもストレスを感じずにはいられなかったが、リラクゼーション設備が整った自室に戻ると、ストレスのことなど忘れてしまった。また、研究員達は皆人が良かったので、だんだんみられることにも慣れて来た。
そうしていくうちに、日は経って行き、新しい年を迎えることとなった。城では祝宴が催され、大盛況だった。飲めや歌えやの大騒ぎで、とにかく皆楽しそうである。
そんな中、ニタとクグレックは大広間をこっそりと抜け出し、人気の無い場内を彷徨っていた。
ニタはクグレックの腕を引っ張って、廊下を駆ける。一度クグレックの杖を取りに自室へ戻った。
「二、ニタ、一体何なの?」
「しー!」
ニタは口元に人差し指を当てて、クグレックに静かにするように促した。そして声を潜めながら
「あのね、マシアスの居場所が分かったの。」
と言った。
「え?どこにいるの?」
クグレックもニタに倣って声を潜めながら尋ねた。
ニタは4D2コムを取り出し、城内図を表示させて、場所を示した。そして、仰々しく「第1皇子の御室。」と言った。
「第1皇子?」
「そう。やっぱり、マシアスは第1皇子ハーミッシュだったんだ。研究所の人や侍女たちに聞いてようやく分かった。マシアスは今、体調が優れなくて寝込んでるんだって。」
「うそ…。」
クグレックはピアノ商会での銃創が悪化したのかと思い不安になった。
「関係者以外面会は謝絶しているから、みんな詳しいことは知らない。今、奴がどんな状態でいるのか、生きているのか、死んでいるのかはごくわずかな人間しか分からないらしい。」
「…会いに、行くの?」
クグレックは恐る恐るニタに尋ねると、ニタは力強く黙って頷いた。瑠璃色の瞳は海の様な静かな輝きを湛える。
もうこれで、ニタの気持ちは動かない。
ニタは一度決めたら、クグレックが何と言おうと突き進む。
これはニタの悪いところでもあり、良いところだ。
クグレックはのんびり新年会に興じたいところではあったし、入ってはいけないところに入るのも良くないとは思っていたが、それ以上にマシアスに会いたかったので、ニタの暴走に付き合うことに決めた。
4D2コムに表示される地図を頼りにクグレックとニタは『第1皇子居室』へ向かう。
城内は皆新年会に出払っているのか、警備が一人も見当たらなかった。機械で警備も行っているのかもしれないが、それでも不用心だ。クグレックは静けさに気味の悪さを感じつつニタの後を追った。
二人は今まで立ち入ったことがない場所までやって来た。手で開くことも出来なければ4D2コムで開錠することも出来ない沈黙の扉が二人の前に立ち憚る。
「こんな時は、魔法の力!魔法は科学を凌駕する!」
と、ニタはクグレックに向かって言い放った。
クグレックは戸惑いながらも杖を扉に向け、鍵開けの呪文を唱える。すると、杖からは淡い光が出て来て、光が扉全体を覆った。だが、開錠する気配はない。鍵開けの魔法は機械には対応していないのだろうか、とクグレックは考えたが、考えてるうちに、扉はゆっくりと開いた。
「さすがクク!」
笑顔でハイタッチを求めるニタに、クグレックは腰をかがめて応じると、掌に柔らかい肉球がぽむと触れた。
「この先にマシアスがいるんだ。行こう。」
それから二人は2つ程セキュリティーのかかった扉を突破して行った。魔法の力で強引に開けても、トリコ製の科学の結晶であるセキュリティーは何も感知しなかった。魔法は科学を凌駕した。
今のところは。
二人はすっかり安心しきった状態で、マシアスの居室へと近づいて行く。
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