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魔女と砂漠の王国⑳


 彼の説明によれば“魔”とは、人々の負の意識から生まれた存在である。基本的には魔の集合体は魔物と呼ばれ、意思を持たず、生きる者を襲う。だが、稀に意思を持った魔も存在する。魔は実体を持たないから、器が必要である。そのために魔は、自身に合う器を探し、支配し、身体を得る。既に実体を持ち、名前もある悪魔とは異なる存在らしい。
 しかしながら、目の前の魔は、器であるディレィッシュを支配するのに苦戦していたらしい。彼はこう語る。
「奴はそもそも闇を多く抱えた人間だった。しかし、奴のトリコ王家としての誇りが、その闇をひた隠しにした。だから、俺は奴を支配することなく、潜むことしかできなかった。だが、ある事件をきっかけに奴は俺の力を欲した。だから、俺は奴に条件付きで力を貸すことにした。」
 一つ、魔の力を利用した場合は、自我の一部を明け渡すこと
 一つ、一度魔の力を利用した場合は明け渡した自我の範囲で自動的に使われるようになる
 一つ、魔が器を支配した場合は、二度と魔の支配下を抜け出すことは出来ない
「という、こちらにとって有利な条件で力を貸したのだが、奴はしぶとかった。力をくすぶらせたまま、俺は奴の中で過ごした。あまりにも彼の中で過ごし過ぎたため、俺は消滅しかかっていた。しかし、好機が訪れた。それが、貴女、黒魔女の出現だ。」
 『黒魔女』という言葉にクグレックの背筋は粟立った。
「貴女がリタルダンド共和国の首都アッチェレで力を解放してくれたおかげで、俺は貴女の力を感じ取り、そして、魔の力を強くさせることが出来た。それは、長年続いて来た私と器の自我の均衡を破るには丁度良かった。私は器の自我をゆっくりとずぶずぶ取り込みながら、ようやく融合を果たし、支配することが出来た。彼の闇を全て知る私にとって、彼の意志を引き込むことは容易かった。何度か彼自身も抵抗をしていたようだけど、全くの無駄に終わったね。彼の知識欲、好奇心は自由を求めていた。道徳心や常識といった縛りを超えた自由を求めていたんだ。即ち、彼は心の奥底で新型大量破壊兵器の開発製造を求めていた。彼はその分野に関しては俺の力は必要がなかった。彼に与える俺の力は、彼に知識を与えた。いかにして、兵器を創り出すのか、国を、国民を戦争に向かわせるのか、多くの助言を与えた。俺の力を手にするごとに、俺の意志と彼の自我が融合していく。それは不思議な感覚なのだよ。明らかに俺の意志だけど、彼は自分自身の意志だと信じ切っている。変化に気付けないんだ。」
 愛しそうに自身を抱きしめるトリコ王。奪い取ったディレィッシュのことを懐かしむかの様だった。
「さらに黒魔女との接触もあったから、彼の中の“魔”すなわち私の力はどんどん増大していき、俺は完璧に奴を支配した。もう皆が愛してやまなかったトリコ王ディレィッシュはこの世にはいない。」
 と言って、トリコ王はクグレックの手を取った。そして、膝をつき、その手の甲に静かにキスをした。
 クグレックはトリコ王の唇が手の甲に触れた瞬間、力が抜けるのを感じた。「ひ」と小さな声を出すと、トリコ王はうっとりとした様子でクグレックのことを上目遣いで見つめていた。
「俺がこうして再び外に出ることが出来たのは偏に貴女のおかげなのだ。」
 言い換えれば、トリコ王国に災厄をもたらしたのは黒魔女クグレック。
 クグレックさえいなければ、トリコ王国が戦争の道を歩むことはなかったし、ディレィッシュだって狂うこともなかった。マシアスだって幽閉されることもなかったし、エネルギー研究所の爆発や戦争の犠牲者も生まれることはなかった。
 全ての原因の元は自分自身にあった、と、クグレックは思い込んだ。
「嘘でしょ…。」
 思わずこぼれ出るクグレックの言葉。
 悪いのはクグレックが制作に協力してしまった大量破壊兵器だとばかり思っていたが、現実は異なっていることに気付いたクグレック。
 動悸が激しくなる。耳鳴りもする。眩暈もする。体が震えて来る。胃の中から胃液がせり上がって来るのを感じて、クグレックは部屋の端に駆け込んで吐き出した。
「まだまだ成熟しきっていないようだね。」
 とトリコ王は言い、咳き込みながら吐き続けるクグレックの背中をさすった。だが、その行為はクグレックに更なる不安感を煽るだけとなり、嘔吐感は止まらなかった。それどころか、トリコ王の手がクグレックには気持ち悪く感じられ、これ以上触らないで欲しかった。
 ぐっと近づくトリコ王の体。

――近寄らないで。私に触らないで。離れて欲しい。

 クグレックは心に強く拒絶の気持ちを念じた。バチと大きな音がしたかと思うと、トリコ王が吹き飛んだ。クグレックの周りでは静電気がパチパチとなるような音が断続的に発生している。これがニタが言っていた「バチバチ」なのか、とクグレックは思った。
「ふむ。美しい力だ。」
 トリコ王は吹き飛ばされ、尻餅を着いた状態であるにも拘らず、自身に流れたバチバチを嬉しそうに感じ入っていた。
「黒魔女、貴女は成熟しきっていないがために、自らの力を制御することが出来ない。その証拠がこの魔力の放出だ。」
 吹き飛ばされたトリコ王は再び立ち上がり、ゆっくりとクグレックに近付く。
 クグレックの周りにはパチパチと目に見える形で静電気が発生している。トリコ王はその静電気を間違いなくその体に受けているが、全く気にしていない様子だった。
「何も知らない貴女に教えてあげよう。貴女は黒魔女。人の心に巣食う闇や魔を増幅させ、闇の世界の者達に力を与える存在だ。その力は黒魔女が纏う空気に等しく、意図せずとも発揮されるものだ。黒魔女の力を手中に収めさえすれば、全ての魔を支配することが出来るほどに強大な力を持っている。」
 トリコ王がクグレックに近付くにつれて、静電気は強くなっており、もはや静電気が発生しているとは言えない程にクグレックは放電を始めている。
「黒魔女の力を手に入れるためには、2つの方法がある。1つは魔女と魔の契約を交わす。2つめは黒魔女の血を飲み、心臓を喰らうことだ。ただ、魔女は殺すと灰になってしまうから、特別な力で血と心臓を喰らわなければならない。」
 クグレックから放たれる静電気は一層激しさを増していった。クグレックはしゃがみ込み、体を震わせながらも必死にトリコ王を拒絶する。クグレックから放たれる魔力の放出は確実にトリコ王に当たっているはずなのだが、本人には何の影響も及ぼさない。
 代わりに、静電気はエネルギー制御装置に接触し、次々と装置をショートさせていく。ショートした装置は火花を上げ、黒煙を燻らせた。
 すると、同時に照明が点滅し始め、警報が鳴り響いた。
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 2016_06_18

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