クグレックがトリコ王国に来てしまったせいで、戦争が起き、沢山の人の命が奪われる。
彼女の使命はニタと共にアルトフールに辿り着くことだが、無関係の人を不幸にしてまで達成したい目標ではない。
あまりの責任の重さに、彼女の双眸から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「クグレック…。」
クグレックの涙に動揺を見せるディレィッシュ。彼は優しいので、泣いている女の子を見捨てることは出来ない、が、クグレックの望みはディレィッシュが叶えてあげることは出来ない故に、たじろぐことしかできなかった。
やがて、彼の表情は何かを悟ったのか暗くなった。
すると、辺りの暗闇はゆっくりとディレィッシュを包んでいく。
それに気付いたクグレックは慌ててディレィッシュに声をかけた。
「ディレィッシュ、どうしたの、体が、なんかおかしいよ。」
暗闇から引きずり出そうと、クグレックは必死になってディレィッシュの腕を引っ張るが、ディレィッシュはびくともしなかった。悲しそうな表情で、首を横に振る。
「…私など、結局はただの人だったのだ。それがどうして自身の魔に打ち勝てようなどと思ったのか。先代を殺して、国を良い方へ導こうとしたのか。あぁ、反吐が出る。これは驕り高ぶった私への当然の報いだったのだ。」
「違う。違うよ。ディレィッシュなら、何でもできるはず。魔女の私よりも魔法使いみたいなディレィッシュ!そんな悲しいこと言わないで。」
クグレックは必死だった。彼女の本能が今ディレィッシュを見捨ててはならないことを察しているのだ。
クグレックは無我夢中で身に付けていた黒瑪瑙ののネックレスを外して、ディレィッシュの腕に巻き付けた。祖母から貰った魔除けのお守り。これがあればディレィッシュから闇を退けることが出来かもしれない。
「諦めないで…。私は、まだ何とかなると思う。違う。何とかしなくちゃいけない。」
クグレックは一生懸命ディレィッシュを包み込もうとする暗闇を手で払う。しかし、一向にその闇が消える気配がないのでクグレックは焦った。ふとディレィッシュを見てみれば、目を閉じて襲い来る闇を受け入れているように見える。クグレックは頼る当てがなかった絶望感に打ちひしがれそうになった。
やがて、クグレックの努力も空しく、ディレィッシュは闇に包まれて消えてしまった。
クグレックはがくりと膝を床に付け、呆然と虚空を見つめた。
結局クグレックも何も出来ないのだ。
国を救うことも、一人の人間を救うことも、何も出来ないのだ。
クグレックは一生この空間に閉じ込められて、光を見ることなく死んでいくのだろう。
だが、それはそれでよかった。この空間から出れないことはきっと『罰』なのだから。
闇はゆっくりとクグレックの身体も侵食し始めた。
暗闇から真っ黒な複数の手がぬっと出現した。その手はクグレックをゆっくりと包み込む。
決して心地良い物ではなかったが、クグレックはそれを『罰』だと思い込み、静かに受け入れる。
黒い手はじわじわとクグレックの左胸へ接近する。服の上からクグレックの体内へ侵入すると、左胸を中心にクグレックの体が黒に染まっていった。肺も血管も骨もクグレックを構成する器官が闇に浸食される、冷たくも温かくもない気味が悪い感覚に襲われ、クグレックは恐怖で呼吸を荒くさせた。
黒い手がクグレックの心臓を掴んだのだ。
心臓は黒い手によって引っ張られる。痛みは感じないが、取り出される、という感覚だけは間違いない。いつか体内から取り出されてしまうという恐怖感がクグレックを襲った。
と、その時だった。
「やめろー!変態キング!」
暗闇空間を蹴り壊して、ニタが現れた。一瞬、暗闇空間に警報音と緑色の光が届いたが、すぐにニタに破壊された箇所は暗闇に包まれ再び静寂と暗闇が戻って来た。
突然の出来事に、暗闇から発生し、クグレックの心臓を掴んでいた黒い手は一瞬漏れこんだ光に掻き消えてしまった。
「ニタ…!」
クグレックはニタの姿をみて、闇に堕ちかけていた精神を取り戻した。
傷一つないニタ。さらにその傍にいる人物を目にして、更に安心した。ニタの隣にいる体格の良い金髪の男性。冷たくも優しい空の様な水色の瞳をしたマシアスことトリコ王国第1皇子ハーミッシュがいたのだ。
「クグレック…。」
優しい表情を見せるマシアス。マシアスの手にはクグレックの樫の杖が握られている。隣でニタはブイサインをしてにっこり笑顔だ。
暗闇の世界であることに変わりはなかったが、二人の存在はクグレックの心を明るくさせた。
それと同時にクグレックの頬を一筋の涙が伝った。ニタに再会して、本当に安心したのだ。
「全く、ククはニタがいないと、すぐ泣いちゃうんだから。」
そう言いながら、ニタはククに近付くと、その体をぎゅっと抱きしめた。
「だって、ディレィッシュは戦争を止めることが出来ないって言うから。もうここから出ることは出来ないって言うから。もうどうにもならないんだなって思って、でも、ニタ達が来てくれた。ニタ達が…」
クグレックは小さなニタの身体に顔を埋めて泣き喚くので、最後の方は人語を発してはいなかった。
ニタはやれやれというような表情を浮かべて、泣き喚くクグレックの背中をポンポンと叩いた。
「うんうん、頑張ったよ、クク。なんか変なところにいるけど、意識をちゃんと保ってるし、頑張った。本当に、ここまで『一人』でよく頑張った。」
と、ニタが優しい言葉を掛けると、クグレックはより一層激しく泣き喚くので、ニタは困った表情でハーミッシュに視線を送り、クグレックが落ち着くのを待つことにした。
彼女の使命はニタと共にアルトフールに辿り着くことだが、無関係の人を不幸にしてまで達成したい目標ではない。
あまりの責任の重さに、彼女の双眸から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「クグレック…。」
クグレックの涙に動揺を見せるディレィッシュ。彼は優しいので、泣いている女の子を見捨てることは出来ない、が、クグレックの望みはディレィッシュが叶えてあげることは出来ない故に、たじろぐことしかできなかった。
やがて、彼の表情は何かを悟ったのか暗くなった。
すると、辺りの暗闇はゆっくりとディレィッシュを包んでいく。
それに気付いたクグレックは慌ててディレィッシュに声をかけた。
「ディレィッシュ、どうしたの、体が、なんかおかしいよ。」
暗闇から引きずり出そうと、クグレックは必死になってディレィッシュの腕を引っ張るが、ディレィッシュはびくともしなかった。悲しそうな表情で、首を横に振る。
「…私など、結局はただの人だったのだ。それがどうして自身の魔に打ち勝てようなどと思ったのか。先代を殺して、国を良い方へ導こうとしたのか。あぁ、反吐が出る。これは驕り高ぶった私への当然の報いだったのだ。」
「違う。違うよ。ディレィッシュなら、何でもできるはず。魔女の私よりも魔法使いみたいなディレィッシュ!そんな悲しいこと言わないで。」
クグレックは必死だった。彼女の本能が今ディレィッシュを見捨ててはならないことを察しているのだ。
クグレックは無我夢中で身に付けていた黒瑪瑙ののネックレスを外して、ディレィッシュの腕に巻き付けた。祖母から貰った魔除けのお守り。これがあればディレィッシュから闇を退けることが出来かもしれない。
「諦めないで…。私は、まだ何とかなると思う。違う。何とかしなくちゃいけない。」
クグレックは一生懸命ディレィッシュを包み込もうとする暗闇を手で払う。しかし、一向にその闇が消える気配がないのでクグレックは焦った。ふとディレィッシュを見てみれば、目を閉じて襲い来る闇を受け入れているように見える。クグレックは頼る当てがなかった絶望感に打ちひしがれそうになった。
やがて、クグレックの努力も空しく、ディレィッシュは闇に包まれて消えてしまった。
クグレックはがくりと膝を床に付け、呆然と虚空を見つめた。
結局クグレックも何も出来ないのだ。
国を救うことも、一人の人間を救うことも、何も出来ないのだ。
クグレックは一生この空間に閉じ込められて、光を見ることなく死んでいくのだろう。
だが、それはそれでよかった。この空間から出れないことはきっと『罰』なのだから。
闇はゆっくりとクグレックの身体も侵食し始めた。
暗闇から真っ黒な複数の手がぬっと出現した。その手はクグレックをゆっくりと包み込む。
決して心地良い物ではなかったが、クグレックはそれを『罰』だと思い込み、静かに受け入れる。
黒い手はじわじわとクグレックの左胸へ接近する。服の上からクグレックの体内へ侵入すると、左胸を中心にクグレックの体が黒に染まっていった。肺も血管も骨もクグレックを構成する器官が闇に浸食される、冷たくも温かくもない気味が悪い感覚に襲われ、クグレックは恐怖で呼吸を荒くさせた。
黒い手がクグレックの心臓を掴んだのだ。
心臓は黒い手によって引っ張られる。痛みは感じないが、取り出される、という感覚だけは間違いない。いつか体内から取り出されてしまうという恐怖感がクグレックを襲った。
と、その時だった。
「やめろー!変態キング!」
暗闇空間を蹴り壊して、ニタが現れた。一瞬、暗闇空間に警報音と緑色の光が届いたが、すぐにニタに破壊された箇所は暗闇に包まれ再び静寂と暗闇が戻って来た。
突然の出来事に、暗闇から発生し、クグレックの心臓を掴んでいた黒い手は一瞬漏れこんだ光に掻き消えてしまった。
「ニタ…!」
クグレックはニタの姿をみて、闇に堕ちかけていた精神を取り戻した。
傷一つないニタ。さらにその傍にいる人物を目にして、更に安心した。ニタの隣にいる体格の良い金髪の男性。冷たくも優しい空の様な水色の瞳をしたマシアスことトリコ王国第1皇子ハーミッシュがいたのだ。
「クグレック…。」
優しい表情を見せるマシアス。マシアスの手にはクグレックの樫の杖が握られている。隣でニタはブイサインをしてにっこり笑顔だ。
暗闇の世界であることに変わりはなかったが、二人の存在はクグレックの心を明るくさせた。
それと同時にクグレックの頬を一筋の涙が伝った。ニタに再会して、本当に安心したのだ。
「全く、ククはニタがいないと、すぐ泣いちゃうんだから。」
そう言いながら、ニタはククに近付くと、その体をぎゅっと抱きしめた。
「だって、ディレィッシュは戦争を止めることが出来ないって言うから。もうここから出ることは出来ないって言うから。もうどうにもならないんだなって思って、でも、ニタ達が来てくれた。ニタ達が…」
クグレックは小さなニタの身体に顔を埋めて泣き喚くので、最後の方は人語を発してはいなかった。
ニタはやれやれというような表情を浮かべて、泣き喚くクグレックの背中をポンポンと叩いた。
「うんうん、頑張ったよ、クク。なんか変なところにいるけど、意識をちゃんと保ってるし、頑張った。本当に、ここまで『一人』でよく頑張った。」
と、ニタが優しい言葉を掛けると、クグレックはより一層激しく泣き喚くので、ニタは困った表情でハーミッシュに視線を送り、クグレックが落ち着くのを待つことにした。
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