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魔女と砂漠の王国㉓



 数分後。クグレックも状態が落ち着いたので、3人はこれからの作戦を練り始めた。
「さて、ククも落ち着いたことだし、今後の作戦を決めていこう。まずは、この状況を説明しよう。」
 ニタが場を取り仕切り、クグレックに話をするように促す。
「私は、クライドさんにエネルギー高炉の最深部に連れられて、そこにいたディレィッシュに出会った。でも、彼はディレィッシュであって、ディレィッシュではない。ディレィッシュの魔だって言ってた。魔は更に力を得るために私の血を飲み、心臓を喰らうと言っていた。それから、私は怖くて、魔力を暴走させちゃって、気がついたらこの暗闇の世界にいた。ついさっきまでディレィッシュ――本物のディレィッシュがいたんだけど、闇の中に消えていった。そしたら、私の周りに黒い手が現れて心臓を掴んで取り出そうとしたの。多分、取り出される寸前だったんだと思う。ただ、ちょうどその時にニタ達が入って来て、黒い手は消えた。」
 クグレックの話を聞いたニタとマシアスは、アイコンタクトを取ると示しを合わせたように黙って頷いた。
「ニタ達はどうだったの?マシアスがいるってことは、イスカリオッシュさんにも会えたってことだろうけど…。」
「うん。無事にイスカリオッシュにも会えたし、なんとかしてマシア、いやハーミッシュを連れ出すことも出来た。イスカリオッシュがいたから、トリコ王国で一番速いデンキジドウシャに乗って来れたから、凄く早く着いたよ。クグレックがニタの幻をつくりだして、クライドをだましてくれたおかげだよ。本当に良く頑張ったね。」
 ニタに褒められてクグレックはほんのわずかに表情を緩ませた。
 トリコ城を出る少し前からクグレックの傍にいたニタは彼女が作った幻だった。クライドに部屋の外に連れ出され、4D2コムを落とした瞬間にニタはクグレックの元を離れ、イスカリオッシュを探しに出たのだ。それからニタとクグレックは別々で行動していた。
 クグレックはクライドにばれないようにニタの幻を作り続け、ニタは単身イスカリオッシュを探し応援を求め、そして、マシアスを助けた。ニタとクグレックだけではどうしてもディレィッシュに対抗することが出来ない。しかし、ディレィッシュの弟であるハーミッシュとイスカリオッシュならば、ディレィッシュに対抗することが出来るのだ。ニタとクグレックはプライベートラボから戻った数日の間に作戦を立てていたのだ。情報を掌握するディレィッシュに気付かれることのないように筆談で作戦を立て、あくまでも極秘に。これが『ニタがやりたかったこと』。
「最後の最後にニタがクライドに斬られちゃったから、ぐったりするニタをイメージして作り続けたのは悲しくて辛かった。離れたところに、しかも私から見えないような場所に幻を維持し続けるのは、凄く疲れたよ。」
「うんうん、よく頑張ったよ。」
「でも、イスカリオッシュさんは…?」
「イスカリオッシュはクライドと一緒にいる。ディレィッシュもなかなか腹に一物を含んだ男だと思ってたけど、イスカリオッシュもなかなかのもんだ。」
「ディレィッシュは相手を包括する広さを持っているが、イスカリオッシュは相手の懐にうまく入り込むことが出来る。末っ子であるが故の愛嬌を上手く昇華させたのがあいつだ。」
 ハーミッシュが言った。おそらく彼の交渉スタイルはピアノ商会などと交渉を重ねて来たことから分かるように、シビアに駆け引きを行っていくスタイルだ。相手と対等な立場で対話を重ねる。
「イスカリオッシュがクライドを抑えてくれたおかげで、ニタ達はエネルギー高炉最深部に行こうとしたら、扉が開かなかった。でも、中ではディレィッシュの独り言と高らかに笑う声が聞こえた。何か嫌な予感がしたから、ニタとハッシュで扉を開けたんだ。そしたら、ここに辿り着いた。」
「ここは、一体どこなんだ?」
 ハーミッシュの問いに、クグレックは困った様子で頭を横に振る。
「分からない。ただ、…もしかすると、ここはディレィッシュの心の世界なのかも。ディレィッシュの魔はディレィッシュの中にいたって言う。ディレィッシュは魔に乗っ取られたから、呪いでこの世界に閉じ込められたらしい。だから、私は出ることは出来ても、ディレィッシュは出ることは出来ないんだって。」
「なんだそれ。」
 ニタが呆れたように言った。
 3人は暗闇の世界で円座になって、脱出方法をひねり出す。
「多分、ニタとマシアスは何も出来ない。不思議空間に対する不思議能力はないから。多分、ククしかこの不思議空間を脱する力を持っている。」
「ただ、分かることは、クグレックは気がついたらこの空間にいた。俺達もそうだ。ただ、俺達はドアを蹴破ったらこの空間に突入してしまった。この空間を壊すことが出来たら、元のエネルギー高炉最深部に戻ることが出来るんじゃないか?」
「空間を壊す?」
 空間を壊す、と言われて、ニタは足元を徐に殴りつけた。が、確かに、足は地に着いている感覚はあるのだが、そこに床という概念は存在しない。ニタの拳はまるで空を裂くように空振るだけだった。
「ニタの力じゃ無理だ。」
 への字口になってしょぼくれるニタ。クグレックはちらりとマシアスに目くばせを行う。マシアスはクグレックの思惑を肯定するように頷いた。
「…でも、私、空間を破壊する魔法、知らないよ…。」
「ピアノ商会で出したバチバチで壊れないかな。あれ、ピアノ商会のアジトをぶっ壊したし…」
 ニタが言った。バチバチ、ディレィッシュの魔曰く、クグレックから溢れ出る制御できない魔力の暴走。
「あれは、魔法じゃないんだけどな。」
 とクグレックは応えてみるも、ディレィッシュの魔が魔力の暴走だと言っていたことから、杖を媒介にして魔力を放出させれば良いのではないかとクグレックは考えた。ディレィッシュの魔法実験のおかげで魔法における魔力放出のコントロールを沢山やらされたので、少しだけ上手になったと密かに思っていたところだった。
 クグレックは自身の魔力を杖から放出する様子をイメージし、集中した。
 すると、杖からパチパチという静電気の音が放たれた。セーターを脱いだ時の様な可愛らしい音だ。クグレックは更に集中し、魔力を込めてみるが、日常で見られる静電気以上の放出は出来なかった。
「…もっとバチバチって言ってたよ。こんな手品みたいな感じじゃなかった。」
 ピアノ商会で唯一クグレックの魔力暴走を目の当たりにしていたニタが言った。クグレックももっと派手に行いたいのに出来ないもどかしさに歯痒い思いをしていた。
 その時、マシアスははっとある出来事を思い出した。
 彼はクグレックの魔力暴走を一撃だけ喰らった時のことを思い出したのだ。
 ピアノ商会で、彼は、ニタを助けに行こうとしたクグレックを力づくで止めるためにクグレックに手をかけようとした。すると、マシアスの身体に強烈な雷撃が身体全体を駆け巡り、そのショックで気を失ったことを思い出した。あの時、ニタ救出を阻もうとするマシアスのことを、クグレックは必死に拒絶していた。更にピアノ商会のボスの部屋で発生した魔力暴走も、おそらくボスに対する強い拒絶が由来となっていたのだろう。
「クグレック、『拒絶』するんだ。多分、魔力暴走はすべて何も寄せ付けようとしない『拒絶』から来ている。この空間を『拒絶』するんだ。」
「空間を拒絶?」
 マシアスの言葉を復唱しながら、クグレックは拒絶をイメージしてみた。クグレックのエネルギーが一番動くのは、この拒絶の瞬間なのかもしれない。彼女は祖母のいない世界を拒絶し、マシアスもニタも守れない世界も拒絶した。さらに、自身の力が破滅への引金をひいてしまう世界に対しても拒絶した。強力な魔力暴走は世界を壊すことが出来ない。ある一定の大きさの水槽に電流を流し、水槽を壊すのではない。果てしない大海に電流を流し、世界を破壊するようなものだ。だから、彼女は毎回魔力をコントロールできなくなり、リミッターを外した最大出力で魔力を暴発させる。
 今回はこの暗闇空間という水槽を破壊すればよい。
「なんとなくわかったかも。」
 クグレックは杖に力をこめ、イメージをした。自身の魔力を制御できない時に発生するあの感覚を。拒絶することで暴発してしまう、魔力のねん出を。クグレックはディレィッシュの魔が作りだしたこの空間を強く拒絶し、魔力を爆列させる、という自身の魔力の流れを想像しながら、杖に魔力を集中させる。
 杖からは光を伴った静電気がパチパチと発生される。次第に電光は大きくなる。
 クグレックは、ディレィッシュの姿をした魔のことを思い出し、魔が持つ波長に魔力の彼女の周波数を合わせた。これで魔力は暗闇の空間に接触できる。

――早く、こんなところから脱出しなければ。

 クグレックは杖に更に多くの魔力を集中させた。
 すると杖からは雷のようなものがバチバチと大きな音を立てて四方に発散された。暗闇の空間は、まるでガラスが割れるかのように、バリバリと割れていった。ニタが蹴飛ばして破壊して突入してきた時の様に破壊されたのだ。空間の境目からは緑の警報灯がチカチカと点滅するエネルギー高炉最深部の景色が覗き、けたたましい警報音も漏れてくる。
 全て粉々に砕け散ると、そこは既にエネルギー高炉最深部であり、目の前にはトリコ王がいた。
 だが、様子がおかしい。
 胸から血を流して膝をついている。フラフラと壁にもたれかかると、クグレックたちを睨み付け、そのままふっと意識を飛ばし、がくりと崩れ落ちた。
 同時にクグレックも意識を失い、足元から崩れるようにして倒れた。が、すぐそばにいたマシアスがクグレックを抱き抱えた。クグレックは一気に魔力を放出してしまったために、魔力疲弊を起こし意識を失ってしまったのだ。

 
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