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魔女と砂漠の王国㉗


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 そして、日が沈み、デンキジドウシャは国境ゲートまでやって来た。
 国境ゲートには大きな壁がそびえ立ち、何人の侵入も許さない。
 本来であれば、トリコ王国兵が国境ゲートで常に監視の目を光らせているが、イスカリオッシュの指示で、全員待避させた。その代わり、トリコ王国軍団長クライドが待機していた。ディレィッシュがいない世界では、彼は親衛隊ではなかった。そして、既に、ディレィッシュたちの記憶もなくなっている。クライドの青い瞳はイスカリオッシュが連れて来た4人の来賓を怪訝そうに見つめていた。
「この者達は?」
 クライドがイスカリオッシュに尋ねる。
 イスカリオッシュはにっこりと微笑みながら
「私の大切な人達です。大切、いや、愛する人たちですね。クライドもそうでしょう。」
 といった。クライドは理解出来ないと言うように眉間に皺を寄せた。
「これから起きることは、私とあなただけの秘密です。覚えていないかもしれませんが、クライド、あなたはこの御方を敬愛していました。だから、しっかりと送り出してあげてください。」
 クライドは不快そうな表情を浮かべて、イスカリオッシュを見つめた。
 警戒心を隠すことのないクライドだったが、ディレィッシュは気にすることなくふらふらとクライドに近付く。
「クライド、…ありがとう。故郷を捨てて、私を選んでくれて。お前は私の唯一の“友達”だった。」
 ディレィッシュはにやりと悪戯っぽく微笑んで、クライドの頭をぽんぽんと撫でた。
 クライドは終始ディレィッシュのことを睨み付けていたが、不思議と自身の頭を撫でる手を払いのけることはしなかった。
 ひとしきり撫で終えると、ディレィッシュはゲートにある装置を弄り始めた。彼が存在していた頃よりもグレードが落ちたセキュリティシステムであれば、ハッキングは可能だった。だが、それは今この世の中ではディレィッシュしか出来ない。トリコ王国のセキュリティシステムに引っかかることなく、ゲートは開錠した。
「さ、行こうか。」
 ゲートが開くと、ディレィッシュは飄々とした様子で歩き始めた。
 ニタとクグレックは小走りでその後に着いて行った。一方でマシアスは、イスカリオッシュと抱擁を交わしていた。もう間もなく2人の兄の記憶を失くしてしまう弟を、もう二度と会うことのないだろう弟と別れを惜しんで必死に抱きしめていた。
「ハーミッシュ!」
 ディレィッシュに呼ばれ、マシアスはイスカリオッシュを離して、背を向けて歩き始めた。
 イスカリオッシュは4人の後を追った。
「私の大切なディッシュ兄さんとハッシュ兄さん!私はもうじきあなた達のことを忘れてしまうけど、それでもトリコ王国の民として、貴方たちから受け継いだトリコ王国の意志を守っていきましょう。だから、安心してください。安心して生きて、生き延びて下さい!」
 イスカリオッシュは力の限り叫び尽した。
 そんなイスカリオッシュの様子を二人の兄は微笑みながら見つめる。そして、大きく手を振り
「頑張れよ!」
 と返した。
 その瞬間、ゲートはガシャンと大きな音を立ててしまり、静寂が戻った。


「…私は、何故ここに?」
 トリコ王国国王イスカリオッシュがハッとした様子で言った。
 クライドはトリコ王に近付き、何も言わずにそのまま傍に佇んだ。
「クライド?…クライド、あなた…」
 トリコ王イスカリオッシュはクライドのほうを振り向き、そして、驚いた。
 冷静沈着でいつも寡黙、感情を滅多に表に出さないクライドが涙を流していた。
 クライドはイスカリオッシュが驚いたことで初めて自身が涙を流していたことに気付き、慌てて涙を拭う。しかし、涙はとめどなく溢れて来た。
 イスカリオッシュもつられて涙を流した。
「あぁ、なんだか私は甘美な夢でも見ていたようですね。さぁ、城に戻りましょう。運転は私にさせてください。」
「王、あまり、城を抜け出すのはよくありません。」
「ふふ、そうですね。」
 そして、二人は旧式のデンキジドウシャに乗り込んで、城へと戻る。
「クライド、なんだか私は、なにか大切なものを忘れてしまったような気がするんです。不思議な感じですね。」
 クライドに話しかけたところで、望む返事が返って来るどころか返事が返って来ることも稀だった。それでも、トリコ王は胸の内を明かしたかった。
 クライドは沈黙を貫くが、しばらくしてぽつりと「不思議と自分も同じ気持ちです。」と答えた。
 イスカリオッシュと同じ水色の瞳を持った優男に頭を撫でられた時、とても懐かしい気持ちになった。クライドもなにか大切なことを忘れてしまったような気がして、どこか落ち着かない。不思議な気持ちだった。
 箱型のデンキジドウシャは大きなエンジン音を発して夜の砂漠を駈けて行く。
 誰かが欠けてしまったが、トリコ王国は正常に時間を進めて行く。

 歴史に残ることのないトリコ王が望むかたちで。






――第4章、完。
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 2016_07_15

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