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霊峰御山のドラゴン退治①



 ニタとクグレックが二人の兄弟の運命を変えてしまってから数日が経った。

「おーい、ディッシュ!ちんたら歩いてんじゃないよ!」
 大きな荷物を背負ったニタが振り返って大声を張り上げる。同じく大きな荷物を背負ったハッシュは渋い表情でため息を吐き、身の丈にあった荷物を背負ったクグレックは乾いた笑みを浮かべた。
 はるか後ろには、元トリコ国王ディレィッシュが大分離れたところで、とぼとぼ歩みを進めていた。伏し目がちに言葉少なだった。
 ディレィッシュは天才的な頭脳を持っている反面、体力や力は女性並にか弱い。引きこもって暮らしていたクグレックと同等である。国王という肩書がなくなれば、ただの人。いや、彼の場合は『ただの人』を下回ってしまうのかもしれない。
「ククの方がまだ根性あるよ。」
 ニタが呆れたように言った。
「…うーん、でも、前の方が徹夜も出来てたから、まだ体力はあったと思う。多分、ディッシュから悪魔がいなくなった副作用でもある気がするが、それにしても…。」
 ハッシュが実兄をかばうように語るが、呆れた表情は隠せずにいる。
 事実、ディレィッシュの体力が著しく落ちたのは、ハッシュの言う通りかつて彼の中に潜んでいた魔がこの世から消えたからだ。トリコ王国で彼を元気に動かしていたのは、はからずとも魔のおかげだったのである。
「ね、ねぇ、でも、私もちょっと疲れた、かも。そろそろお昼時だし、休憩しない?」
 そんな中、クグレックはディレィッシュに同情して休憩を取ることを提案した。確かにクグレックも歩き通しで疲れたのだ。さらに道も整備されておらず、非常に歩き辛い足場であったため、余計に疲労は溜まっていた。
「お昼か。じゃぁ、お昼ご飯を食べなきゃね。」
 本能に忠実なニタで良かった、とクグレックは安心した。3人はディレィッシュが追いつくのを待ちながら、お昼休憩の準備を始めた。トリコ王国からの支給物資が入った荷物の中には簡易的な野営セットが入っており、外で暮らすのに便利な道具が沢山入っていた。

 さて、存在は消えることなく歴史上から消えてしまった元トリコ王ディレィッシュとその弟ハッシュがトリコ王国から立ち去り、クグレック達と共に辿り着いたのはコンタイ国である。
 トリコ王国の南に位置するコンタイ国は自然豊かな国である。気候は亜熱帯気候で温かい。蘇鉄やガジュマルの木と青々とした植物が林立し、沢山の種類の亜熱帯植物が生えた土地である。鳥や獣の鳴き声があちこちで聞こえて来て、冬の装いであった北国のドルセード王国やリタルダンド共和国とは異なる活気と賑やかさがあった。
 コンタイ国は国民が古くから信じて来た民間信仰のために、自然と共生する生き方を選んでいる。トリコ王国の隣国であるが、その性格は真逆である故に、干渉しあわない国交関係を結び、ちょうど良い距離関係を保っていた。
 
「さてさて、ニタとクグレックはアルトフールに向かうんだけど、一向に、アルトフールがどこなのか分かりません。」
 缶詰に入ったパンを頬張りながらニタが言った。
「ディッシュさぁ、トリコ王国にいた時に調べてくれるって言ってたけど、結局どうだったの?」
 じとっとした視線をディレィッシュに向けるニタ。
「あぁ、それならな、滅亡と再生の大陸にあるそうだ。」
 ちびちびと紅茶を啜るディレィッシュがあっさりとした様子で白状した。彼は疲れている。もともとは王宮と研究所を往復する程度の生活しかしていない。歩き続けるだけでも彼にとっては激しい運動だった。
「滅亡と再生の大陸…?」
「そういうことだから、コンタイに来たんだ。」
「どういうこと?」
 ニタは首を傾げた。
「密航のため。」
 さらりと答えるディレィッシュ。ディレィッシュは缶詰を開け、パンを頬張った。
「コンタイからは滅亡と再生の大陸へ向かう船が出ているらしい。どこにあるかは分からないが。」
 もぐもぐと咀嚼するディレィッシュ。ごくんと頬張った分を呑みこむと、次の言葉を発した。
「あと、御山に行くぞ。」
「御山に?」
 ニタが首を傾げた。
「あぁ、御山〈オンヤマ〉。霊峰御山は支配と文明の大陸一神性が強い山だとされる。高さは2376メートルで、決して玄人のみ受け付ける山ではない。誰でも、というわけではないが登山者の間口は広い山だ。心迷う者は御山に登り、頂上にて神託を受け取るという。そうして光を見出す者が多数いるらしい。私達は“滅亡と再生の大陸”の“アルトフール”という地に行くが、具体的にそれがどこにあるのか分からない上に、魔物が多く出現する危険な大陸を進むことになる。生半可な状態で足を踏み入れたら、私達はただ無駄に命を落とすことになるかもしれない。だから、御山に登るんだ。御山でアルトフールの情報を仕入れるんだ。」
「結局神頼みってわけか。科学の国の申し子が。」
「何とでも言え。」
 開き直るディレィッシュにニタは悪態を吐く。彼は疲れているので、態度がなおざりだ。
 心迷うものは御山に登り、光を見出す――クグレックはその光がどんなものか気になった。
 もしも、叶うことならば、祖母に会いたい。今の彼女が望む願望はそれ以外になかった。思わず鎖骨のあたりに手を遣り、祖母の形見である黒瑪瑙のペンダントに触れようとしたが、存在しなかった。常に身に付けているはずなのに。
 そういえば、ディレィッシュを魔の闇から救おうとして、黒瑪瑙のペンダントをディレィッシュに託してしまったのだ。不可思議な空間にいたため、黒瑪瑙のペンダントは空間の消滅と共になくなってしまったのかもしれない。
 ただ、完全なる闇に支配されることなく、目の前のディレィッシュが存在していることが祖母の形見のおかげであるならば、それはそれでよかったかもしれない、とクグレックは思った。一抹の寂しさは拭えないが。
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 2016_08_19

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