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霊峰御山のドラゴン退治③


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 それから3日が経った。本来であるならば昨日出発予定だったが、登山準備に時間がかかってしまったのだ。
 朝日も曇り空に隠れて薄靄漂う早朝に、登山準備をした5人が集落を進む。
「私、皆強い人達だと思ってたから日帰りでも大丈夫って思ってたけど、ククもディッシュも登山は初めてだなんて思わなかったわ。途中に洞窟があるから、そこで一晩過ごして、ドラゴン退治だからね。もう、準備に時間がかかっちゃった。」
「ニタはティアが誰もが皆登山をしたことあると思いこんでる方がびっくりだ。ディッシュはともかくククみたいな子が登山になれてると思う?」
「思ってた!」
「ティア、君は頭弱いよね!」
 ニタが呆れたように言った。直情的なティアはその言葉に頭にカッと血が上る。
「何ですって!」
「まぁまぁ、二人とも。アルトフールのためには私もクグレックも山に登らないといけないんだ。ティアならばしっかり頂上まで案内してくれると信じている。な、クグレック。」
 ディレィッシュはぽんとクグレックの方を叩く。
「は、はい。私も、足手まといにならないように頑張って山を登るし、魔物やドラゴンもしっかり倒します。」
 杖をぎゅっと握って動作でも意思を表明するクグレック。そんな健気なクグレックにティアは絆され、ぷりぷり苛立つ様子も収まった。
「ククが頑張るってなら、私も張り切らなくちゃね。さぁ、頑張るわよ!」
「おー!」
 元気に返事をしたのはニタとディレィッシュだった。クグレックも恥ずかしながら返事をした。ハッシュはやれやれというような表情で4人を見ていた。
 5人の目の前にそびえ立つ御山は本来ならば神聖な姿であるはずなのに、早朝のぴりりとした冷たさと曇天という天気の悪さも相まって、どこか禍々しい雰囲気を放っていた。山頂付近は靄に囲まれて見ることが叶わない。狂暴なドラゴンと魔物に支配されてしまった御山は果たして5人に希望を与えるのか。
 ティアの後を着いて行きながら、4人は霊峰御山に足を踏み入れた。
 すると、その瞬間であった。
「う!」
 ニタがくぐもった声を上げた。ニタは苦しげな表情で一歩一歩足を進める。
 クグレックはいつもと違う様子のニタに不安を感じた。だが、クグレックも御山に足を踏み入れてから、ずっと背筋に悪寒を感じていた。麓の集落に到着してから感じていた不安定な気持ちがより強くなったようなのだ。
 その様子に気が付いたティアは振り返ってニタとクグレックを見つめた。そして、4人に向かって声をかけた。
「4人とも、具合は大丈夫?なんか気持ち悪いとか嫌な気分がするとか、そういうの、ない?」
 ニタは周りをみる。ニタのことなので誰かが何かを言わない限り、弱音を吐こうとはしないだろう。
「クグレック、大丈夫か?ニタも変だけど、お前も顔色が悪いぞ。」
 ハッシュが声をかけた。
「…わかんない。なんか麓の村にいた時から変な感覚はしてたんだけど。」
「ティア、これはもしかして瘴気ってやつか?」
 ディレィッシュが尋ねた。
「あら、良く分かったわね。」
 目を細めながら、ティアが答えた。
「そうよ。瘴気。本来の御山には瘴気なんてもの、存在しないんだけどね。そうとうやられてるのよ。御山は今。だから、手慣れたハンター以外には頼めないの。ディレィッシュとハッシュは大丈夫なの?」
「私は、…少しだけ頭が重いが、大丈夫だ。」
「ハッシュは?」
 ハッシュは3人を眺めた後、困ったように頭をかき
「いや、俺は何も感じない。至って普通だ。」
と答えた。ティアはふ、と口元を歪めると「さすがハンターさんね。」と言って妖艶な笑みを浮かべた。
「しょ、しょうきって何?」
 具合が悪そうな様子でニタが尋ねた。ティアは妖艶な笑みをうかべたまま説明を始めた。
「悪い空気のこと。今は御山は狂暴なドラゴンが支配しているから、そのドラゴンが発しているの。瘴気から魔物は生まれるし、身体だけでなく、精神にまであまり良くない影響を及ぼすわ。多分、ニタは自然と共に生きて来たであろう希少種だから、一番合わない空気だと思うわ。しんどいでしょう。」
「む、そんなことない、と言いたいんだけど、結構しんどい。これ、どうにかなんないの?」
 へたりと座り込むニタ。
 ティアはごそごそと鞄を漁り、小さな小瓶を取り出した。そして、その蓋を開け、中からひとかけらの金平糖にも似た直径2cm程のキラキラした透明なものを取り出した。そして、一番具合の悪そうなニタに近付き、そっと差し出す。
「白魔女から貰った酔い止めならぬ瘴気止め。個体によって効能はまちまちだから、効くかどうか分からないけど。舐めてれば大丈夫。」
「ありがとう。」
 ニタは安心した様子で瘴気止めを受け取り頬張った。瘴気止めは金平糖の様に甘い味もするが、薄荷の味も効いていてスースーした。瘴気によって重くなったニタの身体と気持ちが一気に軽くなった。
「…白魔女、知っているのか?」
 ハッシュが尋ねた。白魔女とはリタルダンド共和国のどこかにあるという白魔術師の隠れ里出身の治癒術の天才だ。同国のポルカという村では、白魔女が原料集めに立ち寄る村であり彼女の秘薬で村人の健康が維持されていた。さらにかつてハッシュが負った銃創はポルカの村が所蔵していた白魔女の秘薬で治った。
「古くからの知り合いなんだけどね、別に仲が良いってわけじゃないわ。あんな性格ブスのクソ女。ハッシュこそ、白魔女と会ったことあるの?」
「リタルダンド共和国に行ったときに一度だけ、会ったことがある。蛇のように狡猾な女だったな。あのディッシュさえも手を出そうとしなかった。」
「それで正解。あの女にはあまり深くまで関わらない方が良いのよ。」
 と、ティアは白魔女に対して冷たく言い捨てた。
 その横で、薬が効いて来たニタが立ち上がり、ウォーミングアップを始めているのに気付いたティアは「じゃ、ニタも元気になったことだから、出発しましょうか。」と言って、歩き始めた。
 が、ディレィッシュがそれを止めた。
「ちょっと待ってくれ。私とクグレックにはその薬、くれないのか。」
 ティアは振り返り、にっこりと微笑んでこくりと頷いた。
「残念ながら、この薬は貴方たちには効かないの。ディッシュはともかく、クグレックはちょっと辛いけど、頑張って。」
「何故私の心配はしてくれない!」
 ディレィッシュの嘆きをティアは無視して、5人は御山登山を始めた。
 御山には現在魔物も存在するので、ティアを先頭にニタ、ディレィッシュ、クク、ハッシュの順番で隊列を組み、進んで行った。御山は瘴気なのか自然発生した霧に包まれているせいなのか、数メートル先で靄がかってしまい、視界が非常に悪い状態だった。迷子にならないようにそれぞれが背負っているリュックサックにロープを括り付けて歩みを進める。
 クグレックは瘴気の影響を受け、体調が優れなかった。杖を突きながら歩いていたので、杖の存在が物理的にこれほど心強く思えたことはない。頭の中ではティアが何故薬をくれなかったのかということをずっと気にしていた。ティアはサバサバした人間なので、好き嫌いがはっきりとしている。クグレックとディレィッシュは体力がない人間だからあまり好きではないのかもしれない、とクグレックは考え、悲しい気持ちに陥っていた。
「クグレック、大丈夫か?」
 ニタよりも落ち着きがあるという理由から殿を務めるハッシュがクグレックに声をかける。
 クグレックは杖を突きながら、「うん。」と頷いた。
 本当は全然大丈夫じゃない。ドキドキ動悸はするし、頭も痛いし、気持ち悪い。しかも、瘴気はどんどん濃度を増していくので、症状は徐々に酷くなる。
 と、その時だった。先頭を進むティアが大きな声で叫んだ。
「魔物よ!」
 その声に応じて、ハッシュは真剣な表情に変わる。ロープを辿って、前方を行くニタとティアに合流した。少し遅れて、クグレックとディレィッシュも3人の後ろに合流した。
 3人の背に守られながら、クグレックが見た魔物の姿は真っ黒な姿をした大きな蜘蛛の様な多くの節足を持った生き物だった。黒色をした個体なのかと思いきや、よく見れば縁のあたりは靄がかっている。黒い靄の集合体であるようだ。
 クグレックは魔物を前にして背筋がゾクゾクとした。それは恐怖が大半を占めていたが、どこかに期待があった。瘴気による具合の悪さはどこかに行ってしまうようだった。
 クグレックは杖を握りしめ、目の前のティア達同様臨戦態勢を取る。
「ニタ、魔物と戦うのは初めて?」
「多分。」
「あいつ、もやもやしてるけど、殴れるから。」
「おう!」
「ハッシュは余裕だよね。」
「あぁ。」
「じゃ、行くよ!」
 3人は魔物に向かって駆け出し、魔物に攻撃を加えた。ニタの力強い拳、ハッシュの強烈な蹴り、ティアの音速の拳が蜘蛛型の魔物を襲う。強力な攻撃を受けた魔物は状態を維持することが出来ずに霞の様にかき消えた。もうそこには何の跡形も残っていなかった。
「ヘーイ!」
 ティアはニタとハイタッチをかわす。ティアはハッシュにもハイタッチを求め、手を掲げた。ハッシュはやれやれというように、ティアの手を叩く。更に後衛にいたクグレックとディレィッシュにもハイタッチをした。ニタもティアの後をついて、クグレックとディレィッシュとも手を叩きあった。ディレィッシュは嬉しそうにノリノリで、その気ではないハッシュにもハイタッチを求めたが、ハッシュは「別に良いだろ」と言ってそれを拒否した。
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 2016_08_23

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