霊峰御山のドラゴン退治⑥
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食事を終えると、魔力疲弊の残るクグレックは簡易テントで就寝した。クグレックはこのメンバーの中でも一番の要である。今ここで疲れを抜いておいて、魔物スポットやドラゴンと対峙した時に力を振る舞わなければいけないからだ。
残りはまだ就寝せずに、今宵の見張りの順番を決める。魔物スポットを破壊して安全が確保されたが、いつ別の魔物スポットから出現した魔物がやって来るか分からない。
「全部、アタシが見てても構わないけど…。」
「一睡もしないでドラゴンに挑むのか?少しでも休めよ。女性なんだし、肌に悪いぞ。」
一晩見張りを行おうとするティアにディレィッシュが待ったをかける。
そうして見張りの順番はティア、ハッシュ、ディレィッシュ、ニタの順になった。
テントではクグレックとティアとニタが眠り、外の焚火の周りではトリコ兄弟が寝袋に包まれて睡眠をとる。
ティアの見張りの時間が終わり、ハッシュの番となった。ハッシュはティアと共に起きていたので、引き続き火の番をしながら周りを警戒する。ディレィッシュも一緒に起きていたので二人はひそひそと会話をする。
「ハッシュ、寝てていいぞ。私は…、その、…あまり眠れないんだ。」
ぼんやりと火を見つめながら話すディレィッシュ。ハッシュはその姿を見つめながら、ちくりと心が痛んだ。彼の兄は元々あまり眠らない。寝る時間を惜しんでなのか、眠れないからその余った時間を費やすためなのかは分からないが、その起きている時間で研究に勤しんでいたのだ。
それは、魔のせいだったのかもしれない。
ハッシュは、彼の兄が眠れなくて苦しんでいるのをトリコ王国時代から知っていたので、なんだかやるせない気持ちでいた。
「それに、私は御山ではどうにも役に立てないようだから、せめて弟の睡眠くらい取らせてくれ、な。」
そう言って微笑みかける兄に、ハッシュは仕方なしに寝袋に入り横たえ、目を閉じた。
瘴気の中魔物を倒しながら山を登って来たことが、流石のハッシュでも体力を使っていたらしく、目を閉じればすぐに眠気が襲ってきた。
ディレィッシュは弟の落ち着いた規則正しい寝息が聞こえてくると、安心した表情で紅茶を啜った。トリコ王国を出てからは機械いじりも研究も何もせずに夜を明かすことが多くなった。それは、開放的なものでもあったが、どこか物足りなさもあった。やはり、機械いじりは彼にとって、手放し難いものだった。
彼は自分の荷物を漁り、手慰みになるような何かを探す。
********
ディレィッシュははっとした。
見張り中だったのに、意識が飛んでしまっていた。
眠気を覚ますかのように頭をぶんぶん振って周りを見渡し、周りを確認する。
幸運なことに、洞窟内には焚火の薪が爆ぜる音とハッシュの規則的な寝息だけが響いている。
ディレィッシュはほっと安心して、立ち上がり、ぐうんと背を伸ばした。
「はぁ。暇だな。」
ぽつりとディレィッシュは呟いた。すると、その呟きに返事をするかのように
「そうなの?」
と言う女性の声が聞こえた。
ディレィッシュはてっきりテントの女性陣が答えてくれたのかと思い、ちらりとテントの方を見遣ったが誰も外には出てきていなかった。
ディレィッシュは首を傾げた。
不思議に思いながらも、テントの中の起きている誰かに向かって声をかけてみる。
「…だれか、起きたのか?」
しかし、テントの中からは返事は帰って来ない。
一体なんなんだ、と思いながら、ディレィッシュは再び焚火の方へ視線を戻すと、「うわ」と声を出してびっくりした。
焚火を挟んで向こう側に、見たこともない女性がしゃがんでいるのだ。鴉の濡れ羽のような真っ黒のおかっぱの髪型で、白い袴を着た女の子だ。クグレックよりも若く、12、3歳くらいの女の子だった。幽霊に見間違えてしまうほど、生気がないように感じられる。彼女は頬杖を付きながら、ディレィッシュを見つめていた。
ディレィッシュはたじろぎながらも「き、きみはいつからここに…?」と尋ねた。
少女はじっとディレィッシュを見つめた後静かに口を開いた。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「ど、どうしてって、突然君が現れたように見えたから、びっくりして。」
少女は相変わらず無表情だったが、彼女が纏っていた空気がピリッと張り詰める。ディレィッシュは失礼なことを言ってしまったのかと思い、敢えて表情を緩ませ、笑顔を見せた。
少女はそれに応じることなく、再び口を開いた。
「山の上のドラゴンは、苦しんでる。早く助けてあげて。」
「狂暴なはずのドラゴンが苦しんでいる?どういうことだ?」
「膨れ上がった魔の力に囚われて、自身を失いかけてる。」
「魔…。」
「追い出してあげて。彼はあなたたちをアルトフールへ導いてくれる。」
「アルトフール…!」
ディレィッシュは驚いた様子で目の前の少女を見つめた。目の前の幽霊みたいな謎の少女は、ディレィッシュ達が知りたい情報を知っているようだ。
「君は、一体…。」
かすれた声でディレィッシュは尋ねたが、少女は返事をしない。
それどころかディレィッシュは強烈な眠気に襲われ、次第に意識を手放した。
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