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霊峰御山のドラゴン退治⑦


*******

 クグレックは目を覚ました。皆から翌日のドラゴン退治に向けて体力を温存させるために優先的に休むように言われて休んでいたが、急に心がざわついて目が覚めてしまったのだ。
 クグレックの隣で寝ていたニタはいなかった。ニタの見張りの順番は最後だったはずなので、今はニタが見張りをしているのだろう。夜はもうじき明けるということになる。
 クグレックは再び目を閉じて眠りにつこうとした。が、テントの外から声が聞こえて来て、意識はそちらの方に集中した。
 話しているのはニタだけではないようで、クグレックは耳を澄ます。
「君は一体何なんだ?ククと何の関係があるの?」
「私とクグレックは運命共同体。あなたたちは邪魔なの。」
「君、ちょっとおかしいよ。ククの魔女の力が利用するって言うなら、ククのことは渡せないけど。」
 耳を澄ませてて話を聞いていると、どうやらニタと女性が口論をしているようだ。しかも、中身はクグレックのことに関してだ。ティアは傍らで気持ちよさそうに眠り呆けている。だから、外の女性の声はティアではないのは確かだ。
 クグレックはなんだか無性に胸がざわついたので起き上がった。荷物から杖を取り、背中に装着してそろりとテントから顔を出して外の様子を伺った。
 外ではニタだけでなく、ハッシュもディレィッシュも起きていた。3人とも洞窟の奥の方に視線を向けている。クグレックも洞窟の奥の方に視線をやると、そこには白い袴を着た黒いおかっぱ頭の女性が立っていた。彼女の顔は青白く、まるで幽霊のように見えた。
「まぁまぁ、二人とも、ここはもうちょっと落ち着いて話をしていこうじゃないか。お嬢さん、私達は君に会うのは初めてだ。クグレックもがどうなのかは分からないが、まずは自己紹介からして行こう。私はディレィッシュ、元トリコ国王だ。君は?」
 ディレィッシュの問いに、女性は何も答えない。人形のように無機質な表情を浮かべて、三人に対峙するばかり。
 クグレックはこの白袴姿の女性をどこかで見たことがあるような気がした。だが、どこで見たのかが全く以て思いだせない。ただ、そんなに昔でもないことだけは間違いない。クグレックは記憶を辿るが、全く彼女にあったという事実が思いだせなかった。
 と、その時、クグレックは3人越しに女性と目が合った。まるで人形のように生気の感じられない瞳。
 クグレックは突然ぞっと背筋に悪寒が走るのを感じた。
 その瞬間、女性は足音立てずにすっと勢いよくクグレックの元に近づいて来た。その動きは非人間じみたものであり、魔物に近しいものがあった。
 クグレックは慌ててテントから出た。
「クグレック、会いたかった。最近、狭間の世界で会えなくなったから、どうしたのかなと思って心配だった。でも、頑張って迎えに来た。だから、行きましょう。」
 そう言って、女性はクグレックの腕を取り、引っ張る。クグレックは身に覚えのないことを言われて、たじろぐ事しかできなかった。
「え、ど、どこに?」
 
「アルトフールに。」

 女性は無理矢理クグレックの腕を掴んで、洞窟の奥に連れていこうとする。
「ちょっと待って。」
 クグレックは立ち止り、腕を強く振って、少女の手を振り払った。
 女性は目を見開いてクグレックを見つめた。
「どうして?」
「だって、突然すぎて…。」
「アルトフール、行かなきゃいけないでしょう?」
「…それは、そうなんだけど…。」
「じゃぁ、いいじゃない。」
「皆は?」
「アルトフールが呼んでるのはクグレック。」
「皆を置いて行くってこと?」
「それが何か?」
 女性はじっとクグレックを見つめる。
「クグレックは私と一緒に行くでしょう?」
 女性は再びクグレックに向かって手を差し出した。クグレックは首を横に振りながら後ずさる。「どうして?」
 女性はこてんと小首をかしげる。
「だって、私は…」
 クグレックは女性越しに、ニタ達のことを確認する。3人とも真剣な表情でクグレックたちのことを見ている。クグレックは、口を真一文字にして再び少女に会いまみえた。
「私はアルトフールに皆で辿り着きたい。」
「私とは、一緒に行ってくれないの?」
 クグレックはゆっくりと力強く頷いた。
「どうして?クグレックは私と一緒に居てくれるんじゃないの?クグレックは私のことだけが好きなんじゃないの?おかしいおかしいそんなのおかしいうそつきうそつきクグレックのうそつきゆるさないゆるさないゆるさない」
 少女はまるで呪いの言葉を吐くかのようにぶつぶつと呟く。その瞳は怒りを伴い、じっとりと睨み付けてくる。呪いの言葉に呼応するかのように少女の周りに黒い靄が集まって来て、次第にそれは大蛇のように細長く形を作っていった。そして、その靄は銀色に輝く鱗を持った大蛇に足をつけたような姿の水龍に変貌した。
「クク!」
 ニタが女性に気付かれないように、その隙間を掻い潜って、クグレックの元まで近寄り、手を取った。そして、トリコ兄弟のところまでもどる。
「ニタ!」
 女性はクグレックのことを睨み付けながら、ぶつぶつと呪詛を吐く。その傍らに突如出現した銀の鱗を持つ水龍は、女性を守るかのように宙に浮かんでいる。
 水龍は一度激しく尾を動かせば、大きな波を発生させた。至近距離で発生した背丈の倍もある波に対して、4人は逃げることも出来ずにその場にとどまることしかできなかった。
 そして、あっけなく波にのまれ、洞窟の奥へと4人は流された。
 クグレックはニタと手を繋いでいたが、押し寄せる波に剥がされた。ニタとクグレックは何度も手を伸ばすが、届かない。小さくて体重の軽いニタはあっという間に先の方へと流されてしまう。
「ハッシュ、ククとディッシュを任せた―!」
 ニタはそう言い残して、流されてしまった。
 クグレックはバタバタともがきながらなんとか水面に顔を出すが、泳ぎ方の知らない彼女は無駄に体力を使うばかりであった。服もぐっしょりと濡れ重みで沈んでしまいそうだ。クグレックはもがくことをを諦めかけた時、身体をハッシュに抱えられた。
「俺に抱き着いとけ。」
 クグレックは死に物狂いで、ハッシュに抱き着いた。
「兄貴もこっちだ!」
 ハッシュはクグレックに抱き着かれたまま、ディレィッシュへと手を伸ばす。
 が、そこへ現れたのは水龍の背に乗った白袴の女性だ。水龍が尾を振り上げ、ディレィッシュに一撃を喰らわせる。「ぎゃ!」とディレィッシュは叫び声をあげ、濁流の中に流されていった。
「兄貴!クソ!」
「ディレィッシュ!」
 先に流されたニタは運動神経が抜群に優れているのでなんとかなるであろうが、ディレィッシュの場合は一抹の不安がよぎる。だが、もうどうしようもないことをハッシュは受け入れ、離れ無いようにぎゅっとクグレックの腰に右腕を回して、波に流された。この洞窟を抜ければドラゴンがいるという山頂に近付くとティアが言っていた。奇跡さえ起これば、皆そこで合流することが可能だ。
「クグレック、絶対に離すなよ。」
「…うん…!」
 声を発するのもしんどかったが、クグレックは根性で声を出した。必死にハッシュの熱い胸板にぎゅうとしがみつく。
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 2016_08_29

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