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霊峰御山のドラゴン退治⑫


********
 
 全ての魔物を倒すと、瘴気は掻き消えて、青空が広がった。冬の空は、高度が上がってもすっきりとした高い空のままだった。
 そして、あのドラゴンは、というと、小さくなっていた。
 人間よりも、ニタよりも小さな体躯は堅そうな青い鱗に覆われており、猫の様に丸まって縮こまって眠っている。
「こんなにちっちゃかったんだ。」
 ニタが言った。
「どうやら、魔物スポットと魔物と融合して大きく狂暴になってしまったみたいね。」
 とティアが言う。彼女の瞳はまだ赤く、黒い翼も生えたままだ。
「生物と魔物スポットが合体なんて、…そんなことが、あるのか?いや…」
 ディレィッシュが小さなドラゴンに触れながら呟いた。そして、ティアに視線を向ける。
「ティア、ドラゴンは魔に取り憑かれていたんだよな?魔がドラゴンと魔物スポットを合体させる接着剤の様な役割をしていたということか。」
「そういうことになるわね…。」
 ティアは、眉根を下げ、申し訳なさそうに答えた。ディレィッシュはそんなティアの態度に眉間に皺を寄せた。なにか気になるのだ。いや、この登山中ずっと気になっていたのだ。
「ティア、これはただの私の勘なんだが、ティアとこのドラゴンは何か関わりがあるのか?」
「…!」
「そして、その恰好も一体どうしたんだ?ティアは私達に一体何を隠しているんだ?この御山のガイドをやってるにしても、ティアは魔に対する知識が豊富過ぎることがずっと気がかりだったんだ。」
 ティアは自分の身体を守るようにして、自身の腰に腕を回す。そして、観念するかのように力なく微笑んだ。
「そうよね。こんな姿になっちゃったんだもの。話さなきゃいけないわね。」
 ティアはちらりと小さなドラゴンを一瞥すると
「あの子が起きるまで一休みしながら、説明するわ。」
 
 そう言って、一同は腰を落ち着けてティアの話に耳を傾けた。

「色々話さなきゃいけないことはあるわね。私のこと、あのドラゴンのこと。そして、クグレックのことも。」
 クグレックは突然自分のことを言われてびっくりしたが、まずはティアの話を聞くことが先だと思い、黙ったままでいた。
「まずは、…私のことだと少し長くなりそうだから、あのドラゴンのことを話すわね。あの子は私の友達でムーっていう名前なの。あの子が再生と滅亡の大陸で心無い密猟者に捕まったところを私が助けて、支配と文明の大陸へ逃げて来たの。あの子はまだ小さいから、霊峰と言われている御山でひっそりと生活していけば良いかな、と思って連れて来たんだけど…。」
 ティアの声がどんどん沈んでいく。
「その時の私はムーに魔が憑いていたことを気付けなかった。まさかあんなに狂暴になって御山を瘴気で支配するなんて…。」
 ティアは悲しそうに嘆くのであった。
「魔は、もう完璧に抜けたのか?」
「えぇ。魔物スポットの破壊と同時に居なくなったわ。ムーにそれほど溶け込んでなかったから、力で追い出すことが出来た。そこは、良かったわ。」
「魔が溶け込んでると、追い出すのが大変なのか?」
「えぇ。事情は分からないけど、ディレィッシュについてた魔は深く融合してたように感じるから、多分、熟練の悪魔祓いが沢山いても追い出せなかったでしょうね。良く生き残れたわね。」
「そうか…。」
「さ、ムーのことはこれくらいで大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だ。」
 ディレィッシュが言った。他の者達も同意するように頷いた。
「次は、そうね、私のことかしら。」
 ティアはロングヘアを耳にかけた。赤くなってしまった瞳は憂いを湛えている。
「私はね、悪魔と人間のハーフなの。だから、クグレックが魔女であること、ディレィッシュが魔抜けであったこと、魔物スポットだとか瘴気に詳しかったことはそこが由来しているの。でも、私、悪魔としては半人前で、まだ力を制御出来ない。だから、こんな風に翼が生えたりするのよね。」
「その赤い瞳も、悪魔の力のせいか?」
 ディレィッシュが尋ねた。
「えぇ、そういうこと。」
「他にも変化するのか?」
「うん。尻尾が生えたり、爪がマニキュアを塗ったように赤くなったりするの。本来の悪魔の姿になるのかな。でも、ここは御山だから、ある程度抑えて貰えてたみたい。」
 ティアはきゅっと目をつむると背中に映えていた翼が跡形もなく消えた。目を開いた時には、瞳の色も元のヘーゼルに戻っていた。
「力を使いすぎると、悪魔になっちゃうみたいで。一応、人間の姿への戻り方は分かるから、なんてことないんだけどね。悪魔化は制御できないの。」
 ティアは力なくへらっと笑った。
「ティア、君が御山の麓にいる理由はその悪魔化を抑えるためか?」
 ディレィッシュが尋ねた。
「ディレィッシュは勘が良いわね。そうよ。まぁ、抑えるため、というか、制御する力を身に付けるためというか。私、もっと世界の見聞を広めて、世界一の踊り子になりたいからね。」
「そうか…。きっとティアなら素晴らしい踊り子になれるよ。私が見た中でも一番だったからな。」
「うふふ、嬉しい。」
 ティアは本当に嬉しそうににっこりと笑顔になった。
「じゃぁ、最後ね。クグレックの話。」
 ティアからまっすぐな視線が向けられて、クグレックはどきりとした。
「と言っても、私が知っている魔女に関することね。」
 一同はごくりと唾を呑んでティアの言葉を待つ。

「魔女って悪魔と契約して初めて自在に魔の力を操ることが出来るようになるの。悪魔と契約してなくても魔の力を扱える魔女はいるわ。でも、それは本来持っている一部の力しか操れない。クグレックだって、そうでしょ?」
 クグレックは頷いた。覚えている魔法もきっと少ないし、魔力も時々暴走してしまう。
「悪魔と契約することは、魔の力を操れるようになるだけではない。契約した悪魔を使役することができるの。魔女にとっていい話でしょ。悪魔にとっても、魔女との契約は、魔女の支配下に入るということになるけども、契約時にも魔女の力の恩恵を受けて力を増大することが出来るし、魔女が死ねばその魔女の力は全て悪魔のものとなるから、いい関係なのよ。」
 大人しくティアの話を聞いていたニタがハッとした。そして、訝しげな視線をティアにぶつける。
「ねぇ、…それって、ククをティアと契約させるつもり…?」
 ティアは妖艶な笑みを口元に浮かべた。が、途端に表情が緩み、お腹を抱えてけらけら笑い出した。ニタ達は狐につままれたような顔をしてティアを見つめた。
「そういうつもりで言ったんじゃないわよ。力のある魔女は近くにいるだけでも悪魔の力を強くしてくれるってことを言いたかったの。だから、クグレックと一緒に居ることが出来て、私は普段では出せない力を出すことが出来ただけなのに、契約って。」
 大爆笑してひいひいと喘ぐティアにニタ達は拍子抜けした。
「そもそも私は悪魔としては半人前だし、契約ってのは悪魔に処女を捧げることよ。こんなうぶなクグレックにはまだ早いでしょ?」
 クグレックは処女の意味が分からず、ニタに意味を求めるように視線を遣ったが、ニタは少々呆れた様子で「…ククはまだ知らなくていいよ。」とだけ呟いた。
「それに、クグレックはポテンシャルは高いわ。まだまだ悪魔の力を借りずとも、なんとかなると思う。もうちょっと魔女の本質が分かってくれば、もっと魔力を操ることが出来るようになるわ。」
 そう言って、ティアはクグレックの頭をよしよしと撫でた。クグレックは、少々不安を感じていたが、撫でられたことで安心し、不安が解消されていくようだった。そして安心しきったクグレックは思わずつぶやいた。
「ティアの魔力、おばあちゃんみたいだった。」
「おばあちゃん?」
 ティアが聞き返す。
「エレンって言うんだよ。もう死んじゃったけど。めちゃくちゃ優しい魔女だったんだよ。」
 ニタが代わりに答えた。
「エレン?」
 ティアがクグレックの祖母の名を繰り返す。唇に手を当てて思案しながら、彼女は呟いた。
「偶然ね。私の父が契約していた魔女もエレンという名の人だった。あの人も…優しい女性だった。」
「もしかすると、同じエレンじゃない?」
 と、ニタが言った。
 ティアは目を細めながら、クグレックを見つめた。
「そうかもしれない。クグレックは少しだけエレンの面影もあるし、それに、魔力もエレンのものと似てた。」
「ティアの魔力もおばあちゃんに似てた。」
 ドラゴンの魔物スポットを破壊する時に注ぎ込んでくれたティアの魔力が祖母のものと似ていたのだ。親の力を受け継いだティアならば、祖母の魔力を受け継いでいてもおかしくはないだろう。
「私達、魔力のつながりで言えば、姉妹みたいね。」
 姉妹。ティアが姉で、クグレックが妹で。肉親は祖母しかいないクグレックは姉妹という響きに嬉しさを覚えた。
「私には弟もいるけど、クグレックみたいな可愛い妹なら大歓迎よ。」
「…私もティアみたいな美人で強いお姉さんがいたら、嬉しい。」
 クグレックも綻びかけた小さな幸せを堪えることが出来ずに、にこにことほっこりした表情になった。

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