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薬物騒動とまやかしの恋④


 ハッシュの背中は静かに落ち込んでいた。同時に悲しみ、そして、怒りにも似た何かが発せられていた。楽天家なニタが押し黙ってしまうほどに、ハッシュが憔悴している。
「…二人はディレィッシュの様子を見ててやってくれ。俺は他の家にも薬がないか聞いて回る。」
 ハッシュは振り返らずにニタとクグレックに言った。
 ニタはいつもの天真爛漫さを発揮できずにいるが、おそるおそる返事をする。
「いや、そしたら、ニタも手伝うよ。一人で回るよりも二人で回った方が早いでしょ。」
「…ありがとう。」
 ニタはクグレックを見上げ「ククは宿屋に戻ってディッシュの」と言いかけたが、クグレックは
「私も行く!」と珍しく意思を通した。
 日は沈み、町は遠くに見える灯台の光と建物から漏れる光だけが頼りだった。街灯はなく、たまに松明が大きな商店や公的機関に点いてるだけだった。
 ティグリミップは大きな町ではないので1時間ほどで聞き回ることが出来た。が、収穫はゼロだった。ティグリミップのどこにもアルドブ熱の薬が存在しないのだ。
「…ここから1日行ったところにも小さな村があるらしい。…今から行ったら間に合うかもしれないから、行って来る。」
 暗闇の中、ハッシュが言った。
「その村には、薬があるの?」
 ニタが問いかける。
「…コンタイ国はあるがままに生きる国だから、御山の集落だったりティグリミップ位の規模の町じゃないと、…外国人旅行客が来る町じゃないと…薬はないそうだ。」
 その話しぶりから察するにハッシュの見つけた望みはほぼ絶望に近いようだった。
「ハッシュ、一旦宿屋に戻ろう。もしかすると宿屋のおっちゃんやムーが何か情報を持ってるかもしれない。その後からでも悪くないと思うよ。」
「…そうだな。」
 3人は宿屋に戻った。主人が「おかえり!」と迎えてくれたが、3人の落胆した様子を見るとすぐに結果を察し眉根を下げた。
 と、そこへ、客室から女性が現れた。20位の若い女性で日焼けをしていない白い肌を持つことから現地民ではないことが予想される。彼女は「こんばんは」と声をかけるが、主人以外は誰も返事をしない様子を見て主人に向かって「どうしたんですか?」と耳打ちをする。主人は事情を3人に聞かれないように小声で話した。
「…薬がない…。あれ、でも外れの岬に…」
 主人は口に指を当て「しっ」と女性の言葉を遮る。
「あの女のことは…」
「…まぁ、確かにね。犠牲者が増える可能性もあるものね。」
「悲しいけど、どうすることも出来ないんだ。」
「…悲しいわね。…主人、こんなときなんだけどお酒頂けるかしら?寝付けなくて」
「はいよ。どうぞ。」
 女性は主人から酒瓶を受け取ると、3人に憐みの眼差しを向けて自室へ戻って行った。
 3人は再びディレィッシュの元へ向かった。
 ディレィッシュは相変わらず、顔を真っ赤にして辛そうにしている。ムーも3人の様子を見て察して項垂れた。
「ムー、お前はこのアルドブ熱に関して知っていることはないか?」
「僕は…残念ながら、何もわからないよ。」
「そうか。だよな…。」
 そう呟いてハッシュは部屋の隅に置いてある自身の荷物の整理を始めた。最寄りの村へ向かう準備を始めたのだろう。
「あのさ、」
 ニタが口を開いた。
「さっき、おっちゃんと女の人が話してたの聞こえたんだけどさ。」
 ニタは目も良いが耳も良い。
「外れの岬に何かがあるっぽいね。」
 準備をしていたハッシュの手が止まった。
「でも、どうやらその外れの岬に関してはタブーみたいなんだよね。」
 ニタはてくてくとドアまで歩みを進め、ハッシュを見つめる。
「多分、おっちゃんに聞いても教えてくれないと思うから、あの女の人に話を聞いて来る。だから、ハッシュ、ちょっと待ってて。」
 そう言って、ニタは部屋を出て行った。
 ハッシュは準備の手を止めて、ディレィッシュの傍に寄りその様子を思いつめた表情で眺める。 クグレックは黙ってその様子を見ていることしかできなかった。ハッシュは常に動き続ける男だった。トリコ王国の危機にあっても、常に彼が出来ることを探しつづけ諦めなかった。その姿はとても頼りになった。ところが今のハッシュは今までに見たことがないほどの焦りようだ。それは彼が出来ることが尽きようとしているからなのだろうか。


********

 ニタが戻って来たのはそれから2時間後だった。酒の匂いを纏い、べろんべろんに酔っ払っている。
「うおーい、トリコ弟。おにいちゃんを助ける方法を見つけたぜー。」
 ニタはふらふらとした足取りでクグレックに近付き、ぎゅっと抱き着く。
「やだ、ニタ、お酒臭い。」
 クグレックは鼻をつまんでニタの酒の匂いを手で払う。
「いやーあの女、こんな可憐なニタにお酒飲ませやがってさぁ、もう、なんなんだ、って思ったんだけど、でも、話聞きださなきゃだし、って思ってニタ頑張ったわけ。」
「う、うん。」
 クグレックは多少引きつつもニタの話に相槌を打つ。いつもと違うニタの様子にクグレックは戸惑いを覚える。いつも陽気だが、今は輪をかけて陽気だ。しかも、ニタは中身のない話をするばかりで肝心の外れの岬に関する情報を一向に話そうとしない。しびれを切らしたハッシュがニタの頭をむんずと掴み、怒気を孕んだ低い声で
「いい加減に本題に入れ。」と脅しをかけた。
 ニタは「うええ」と変な声を上げて文句を垂れるが、やがてはずれの岬に関する情報を話し始めた。
「はずれの岬には紅い髪をした魔女が住んでいるんだって。でも、その魔女が超ヤバい奴で、近くを通る人を捕まえて監禁しては、自らが作った薬の投薬実験を行うんだって。何人もの人が実験の犠牲になって廃人状態、精神崩壊状態で戻って来るらしい。だから、今は現地の人は近付かないようにしてるし関わらないようにしている。しかも、その魔女は、若くて見目麗しい男が大好きで、拉致するのはイケメンが多いんだって。いやぁほんとに異常性癖をもってるよね。気持ち悪い。」
「で、その魔女はディレィッシュを助けられるのか?」
 お喋りが達者すぎるニタに、ハッシュはニタの頭を掴む力をより強くさせる。
「うん。うん。やばい魔女なんだけど、治癒薬作りの天才らしいのは間違いない。アリスは、――あ、アリスってあの女の人ね、あの魔女は白魔女なんじゃないかって言ってる。」
「白魔女…!」
 かつてニタとクグレックが訪れたポルカという村では白魔女は村民から讃えられ、そして白魔女からの恩恵を受けていた。その時に貰った白魔女の薬でハッシュの腹の銃創も治してくれた。ニタの話からすると、ポルカの白魔女とは全く別人のように感じられるが、一体どういうことなのだろうか。だが、考えてみれば御山の麓の集落で出会ったティアは白魔女の知り合いで、白魔女のことはあまり良い印象を持っていないようだった。
「だから、外れの岬にある紅い髪の女のところに行けば薬がもらえるんじゃないかな、とニタは思うわけ。はい、そう言うわけだから、手、離して。」
 と、ニタに言われたハッシュは素直にニタの頭から手を離した。ニタは不機嫌そうに掴まれた部分を手で払って、ディレィッシュのために用意されていた水をぐびぐび飲んだ。
「白魔女だとすると、それなりに礼節を尽くして向かった方がよさそうですね。」
 ムーが言った。ムーはティアの友達であるため、彼も白魔女に会ったことがあるようだ。
 ハッシュは「あぁ」と頷き「土産も買った方が良いかもしれないな。」と返事をした。
「じゃぁ、今日は休んだ方が良いですね。一応部屋の余裕はあるそうなのでハッシュさんと僕、ククとニタの部屋を準備してもらいましょうか。」
「…いや、俺はここで良い。」
「そうですか。じゃぁ、僕もここで大丈夫です。僕はどこでも眠れますから。とりあえずククとニタの部屋だけ準備してもらいますよ。」
「あぁ、ありがとう。そうしてやってくれ。」

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 2017_08_21

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