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それからクグレックは大人しく浜辺でムーと遊んだ。ニタと海で遊ぶのは海初心者のクグレックには危険とハッシュに判断されたためだ。ニタはクグレックと遊びたがっていたが、ハッシュが代わりにニタと遠泳勝負を行っている。
そして、夕暮れが近付いて来る頃、フィンが夕食をバーベキューにしてはどうかと提案をしにやって来た。一行は海を十分に満喫したので海の家にてシャワーを浴びて身を清めてから、バーベキューの準備を始めた。
道具などは海の家に準備されたものを運び出すだけだったが、火起こしなどは自分たちで行う。何故ならば、そちらの方が楽しいからだ。それに野宿慣れしている彼らなので、バーベキューなど余裕であった。
ハッシュが炭に火を起こしている間にニタとククとムーで海の家からバーベキュー用の食材を選ぶ。串に刺さった豚肉や牛肉、鶏肉、野菜や魚などがありニタとクグレックは嬉々として好きな具材を持って行く。二人が戻って来る頃にはハッシュも火起こしを終えていたので、すぐに具材を焼くことが出来た。野宿生活でニタが狩って来た野生の肉よりも断然美味しいバーベキュー。海に沈んでいく夕日を眺めながら一行はバカンスを満喫するのであった。
そうして一行は目一杯ハワイでの行楽を楽しみ、ついにその日を迎えた。
ハワイ滞在3日目は、霧雨が立ち込めて、これまでの青空は全くと言い程見えなくなっていた。
「最高のおもてなしのためには常に晴れていて欲しいと思うのですが、そう上手く行かないのが現実です。」
フィンは残念そうに雲に覆われ靄がかった空を見つめながら言った。
「…もしかすると、リリィは神域に来て欲しくないのかな。」
ムーが言った。
「それは、そうです。常時閉鎖している位なので極力来てほしくないと思ってますよ。」
クグレックは(神域に私みたいな魔女なんか入れたくないんだろうな…)と思って、この天候の悪さに責められるような心地がした。
「リリィはただ普通にハワイでの行楽を楽しんでほしいと願っています。だから、皆さんのことが嫌なわけではないんですよ。海で泳いだり、浜辺でバーベキューしたり、ダイビングをしたり、トレッキングをしたりしてただ純粋に楽しんでもらいたいだけなのです。『楽しむ』という観点から見ると神域で過ごすことはリリィの意志に反してしまうんですよ。私達みたいな従業員が業務のために入る場合は何にも起こりませんから。」
と、フィンはクグレックの頭を撫でながら言った。まるで、心の中を読まれていたかのような心地がしたが、クグレックはそのフィンの言葉に安堵の気持ちを覚えた。
「…1つだけアドバイスしますと、神域は少しだけ険しい道のりかもしれませんが、楽しんでください。リリィは皆さんが楽しんで充実している様子が見られれば、満足してくれます。」
「なんだ、そうなの。じゃぁ、ニタは大体いつも楽しいから、いつもの調子でいるよ。」
と、言って、ニタはクグレックの手を握った。そして、ぐいっと引っ張り駆け出した。クグレックはよろめきながらもニタと共に走った。ニタは自分本位で騒がしい奴だけど、ニタがいてくれれば、不安になりがちなクグレックの気持ちは穏やかになるのだ。
「…ま、そういうことなんだな。ムー。」
二人の後姿を見ながら、ハッシュが言った。
ムーはパタパタと翼を羽ばたかせながら、押し黙る。常に不安になりがちなクグレックだけはなく、今はムーも友人の安否が心配であり、正直なところ楽しんでいる余裕はなかった。
「…前を見てようぜ。俺達が進む先にお前の友達が待ってるんだ、絶対に。」
この時、ハッシュはあえてムーを一瞥することなく歩を進めたが、ムーは不安を吹っ切ったのか、猛スピードでハッシュを追い越し、先を行くニタ達を追いかけた。すぐに山門に辿り着いたのだろう。くるりと振り返ったムーは
「ハッシュ、遅いよ!早く、早く!」
と、どこかからかうように叫ぶのであった。
ハッシュは一緒に歩いていたフィンと顔を見合わせながら、ふっと鼻で笑った。
山門は木の根の様なものが複雑に絡み合い門の態を成していた何となく門の様に見えるが、どのように開くのか。そして、山門と良いながらも、眼前に広がるのは山と言うよりも鬱蒼とした森である。大きな樹が立ち並び、あまり光が差し込んでるようにも見えない。陰のオーラが立ち込め、楽しいハワイの雰囲気はそこには全く存在していないであろう。
「いやぁ、なんか不気味だねぇ。」
さすがのニタも神域の不穏さに気圧されるも、臆することなく山門に手を触れる。すると、木の根はするすると左右へと退いて行き、森への鬱蒼とした道が開かれた。
「リリィは許してくれたみたいですね。」
フィンが言った。
「道は整備されていませんが、そんなに大変な道のりではありません。山の中の道は案内しますね。」
薄暗い山の中の道を一行は進む。
コンタイのジャングルの道やポルカの山道も鬱蒼としていたが雰囲気が違う。コンタイのジャングルは、木々の隙間から日の光が差し込まれて明るかった上に、色とりどりの植物は目にも美しく、鳥や獣たちの鳴き声が聞こえることから生命活動が活発だったし、ポルカの山道は晩秋の山道で少し物悲しくはあったが赤や橙の落葉が敷き詰められる様はまるで絨毯のようで風情があった。ところがこの山中の道はうっすらと暗く『陰気』と言う言葉が似合う。生気がないと言うよりも、生気を吸い取ってしまいそうな禍々しさがある。華やかで楽しいハワイの雰囲気は全くない。
時折、魔物も現れた。御山程魔物が現れることはなかったが、人間ほどの大きさの白い靄が宙に浮いていた。一見、幽霊のように見えたが、魔物は一行に気が付くとまるで何かに吊るされているようにぶらんぶらんと動いたかと思うと、突然黒い靄を発してきた。その黒い靄は一過性の毒の様なもので、触れた瞬間息苦しさとキーンという耳鳴りと視界が真っ白になり、一種の臨死体験なようなものが味わえた。
「…斬新なアクティビティだね…。」
息切れさせながらニタが言う。靄に触れて症状が発生するのはせいぜい1,2秒で大したことではないのだが、身体は吃驚する。
しかも、この魔物はニタの背では届かない場所に浮いていた。ハッシュが手を伸ばしてようやく届く位の高さにいたものだから、ニタは歯を食いしばり低い唸り声をあげて威嚇することしかできなかった。
ではクグレックが魔法で応戦しようと杖を構え詠唱を試みたが、魔法は発せられなかった。
ハワイへと向かう船依頼に魔法を使ってみたが、やはり魔法が使えなくなってしまっている。
「…どうしよう、やっぱり魔法が使えないよ…!」
と、クグレックは焦るが、傍にいた小さな竜が
「大丈夫です。僕に任せて。」
と言って、単身白い靄の魔物に立ち向かって行った。そして大きく息を吸い込むと、ムーの口からは拳位の火の玉が吐き出された。大きいとは言えないかわいいサイズの火の玉だが、勢いよく白い魔物へとぶつかると、白い魔物は霞となって掻き消えた。
その後、白い魔物は数体発生した。ムーとその辺の太い木の枝を武器にしたハッシュが対応して撃退に成功した。クグレックも諦めずに魔法で応戦したところ、一度だけ魔法が使えたが、安定したものではなかった。
魔物が発生する場所は決まって大木の傍であったため、応戦するごとに学んで行ったニタは木登りをして戦いに参加しようとしたが、途中で魔物の攻撃に遭い、木登り途中で落ちてしまったために、無理に手を出そうとはしなかった。
それからクグレックは大人しく浜辺でムーと遊んだ。ニタと海で遊ぶのは海初心者のクグレックには危険とハッシュに判断されたためだ。ニタはクグレックと遊びたがっていたが、ハッシュが代わりにニタと遠泳勝負を行っている。
そして、夕暮れが近付いて来る頃、フィンが夕食をバーベキューにしてはどうかと提案をしにやって来た。一行は海を十分に満喫したので海の家にてシャワーを浴びて身を清めてから、バーベキューの準備を始めた。
道具などは海の家に準備されたものを運び出すだけだったが、火起こしなどは自分たちで行う。何故ならば、そちらの方が楽しいからだ。それに野宿慣れしている彼らなので、バーベキューなど余裕であった。
ハッシュが炭に火を起こしている間にニタとククとムーで海の家からバーベキュー用の食材を選ぶ。串に刺さった豚肉や牛肉、鶏肉、野菜や魚などがありニタとクグレックは嬉々として好きな具材を持って行く。二人が戻って来る頃にはハッシュも火起こしを終えていたので、すぐに具材を焼くことが出来た。野宿生活でニタが狩って来た野生の肉よりも断然美味しいバーベキュー。海に沈んでいく夕日を眺めながら一行はバカンスを満喫するのであった。
そうして一行は目一杯ハワイでの行楽を楽しみ、ついにその日を迎えた。
ハワイ滞在3日目は、霧雨が立ち込めて、これまでの青空は全くと言い程見えなくなっていた。
「最高のおもてなしのためには常に晴れていて欲しいと思うのですが、そう上手く行かないのが現実です。」
フィンは残念そうに雲に覆われ靄がかった空を見つめながら言った。
「…もしかすると、リリィは神域に来て欲しくないのかな。」
ムーが言った。
「それは、そうです。常時閉鎖している位なので極力来てほしくないと思ってますよ。」
クグレックは(神域に私みたいな魔女なんか入れたくないんだろうな…)と思って、この天候の悪さに責められるような心地がした。
「リリィはただ普通にハワイでの行楽を楽しんでほしいと願っています。だから、皆さんのことが嫌なわけではないんですよ。海で泳いだり、浜辺でバーベキューしたり、ダイビングをしたり、トレッキングをしたりしてただ純粋に楽しんでもらいたいだけなのです。『楽しむ』という観点から見ると神域で過ごすことはリリィの意志に反してしまうんですよ。私達みたいな従業員が業務のために入る場合は何にも起こりませんから。」
と、フィンはクグレックの頭を撫でながら言った。まるで、心の中を読まれていたかのような心地がしたが、クグレックはそのフィンの言葉に安堵の気持ちを覚えた。
「…1つだけアドバイスしますと、神域は少しだけ険しい道のりかもしれませんが、楽しんでください。リリィは皆さんが楽しんで充実している様子が見られれば、満足してくれます。」
「なんだ、そうなの。じゃぁ、ニタは大体いつも楽しいから、いつもの調子でいるよ。」
と、言って、ニタはクグレックの手を握った。そして、ぐいっと引っ張り駆け出した。クグレックはよろめきながらもニタと共に走った。ニタは自分本位で騒がしい奴だけど、ニタがいてくれれば、不安になりがちなクグレックの気持ちは穏やかになるのだ。
「…ま、そういうことなんだな。ムー。」
二人の後姿を見ながら、ハッシュが言った。
ムーはパタパタと翼を羽ばたかせながら、押し黙る。常に不安になりがちなクグレックだけはなく、今はムーも友人の安否が心配であり、正直なところ楽しんでいる余裕はなかった。
「…前を見てようぜ。俺達が進む先にお前の友達が待ってるんだ、絶対に。」
この時、ハッシュはあえてムーを一瞥することなく歩を進めたが、ムーは不安を吹っ切ったのか、猛スピードでハッシュを追い越し、先を行くニタ達を追いかけた。すぐに山門に辿り着いたのだろう。くるりと振り返ったムーは
「ハッシュ、遅いよ!早く、早く!」
と、どこかからかうように叫ぶのであった。
ハッシュは一緒に歩いていたフィンと顔を見合わせながら、ふっと鼻で笑った。
山門は木の根の様なものが複雑に絡み合い門の態を成していた何となく門の様に見えるが、どのように開くのか。そして、山門と良いながらも、眼前に広がるのは山と言うよりも鬱蒼とした森である。大きな樹が立ち並び、あまり光が差し込んでるようにも見えない。陰のオーラが立ち込め、楽しいハワイの雰囲気はそこには全く存在していないであろう。
「いやぁ、なんか不気味だねぇ。」
さすがのニタも神域の不穏さに気圧されるも、臆することなく山門に手を触れる。すると、木の根はするすると左右へと退いて行き、森への鬱蒼とした道が開かれた。
「リリィは許してくれたみたいですね。」
フィンが言った。
「道は整備されていませんが、そんなに大変な道のりではありません。山の中の道は案内しますね。」
薄暗い山の中の道を一行は進む。
コンタイのジャングルの道やポルカの山道も鬱蒼としていたが雰囲気が違う。コンタイのジャングルは、木々の隙間から日の光が差し込まれて明るかった上に、色とりどりの植物は目にも美しく、鳥や獣たちの鳴き声が聞こえることから生命活動が活発だったし、ポルカの山道は晩秋の山道で少し物悲しくはあったが赤や橙の落葉が敷き詰められる様はまるで絨毯のようで風情があった。ところがこの山中の道はうっすらと暗く『陰気』と言う言葉が似合う。生気がないと言うよりも、生気を吸い取ってしまいそうな禍々しさがある。華やかで楽しいハワイの雰囲気は全くない。
時折、魔物も現れた。御山程魔物が現れることはなかったが、人間ほどの大きさの白い靄が宙に浮いていた。一見、幽霊のように見えたが、魔物は一行に気が付くとまるで何かに吊るされているようにぶらんぶらんと動いたかと思うと、突然黒い靄を発してきた。その黒い靄は一過性の毒の様なもので、触れた瞬間息苦しさとキーンという耳鳴りと視界が真っ白になり、一種の臨死体験なようなものが味わえた。
「…斬新なアクティビティだね…。」
息切れさせながらニタが言う。靄に触れて症状が発生するのはせいぜい1,2秒で大したことではないのだが、身体は吃驚する。
しかも、この魔物はニタの背では届かない場所に浮いていた。ハッシュが手を伸ばしてようやく届く位の高さにいたものだから、ニタは歯を食いしばり低い唸り声をあげて威嚇することしかできなかった。
ではクグレックが魔法で応戦しようと杖を構え詠唱を試みたが、魔法は発せられなかった。
ハワイへと向かう船依頼に魔法を使ってみたが、やはり魔法が使えなくなってしまっている。
「…どうしよう、やっぱり魔法が使えないよ…!」
と、クグレックは焦るが、傍にいた小さな竜が
「大丈夫です。僕に任せて。」
と言って、単身白い靄の魔物に立ち向かって行った。そして大きく息を吸い込むと、ムーの口からは拳位の火の玉が吐き出された。大きいとは言えないかわいいサイズの火の玉だが、勢いよく白い魔物へとぶつかると、白い魔物は霞となって掻き消えた。
その後、白い魔物は数体発生した。ムーとその辺の太い木の枝を武器にしたハッシュが対応して撃退に成功した。クグレックも諦めずに魔法で応戦したところ、一度だけ魔法が使えたが、安定したものではなかった。
魔物が発生する場所は決まって大木の傍であったため、応戦するごとに学んで行ったニタは木登りをして戦いに参加しようとしたが、途中で魔物の攻撃に遭い、木登り途中で落ちてしまったために、無理に手を出そうとはしなかった。
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