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ハワイにて⑧


 暗い道をひたすら歩いていたが、暫くすると光が差し込んで来た。
「…ルルがいる。」
 ムーは飛ぶスピードを速めて、一目散に光の先へと向かったが、辿り着いた途端「うわあぁ」と悲鳴を上げて、ばちばちと雷撃に捕まった。雷撃に絡みつかれて動きが取れずにいるムーに気付いたニタは慌ててムーを引っ張り出した。ニタにも軽く雷撃が走りびりびりと痛みを感じたが、なんとかムーを救出することが出来た。
 ムーからは湯気が立ち、その藍色の鱗に包まれた小さな体躯は少しだけ焦げていた。
「ムー、大丈夫?」
「うう、大丈夫です。でも、ルルがいました。この空洞の奥に、ルルがいました。でも…」
「でも?」
「ひたすら魔法障壁を張り続けているから、近づけない。僕の声さえ届けられれば…。」
 一行は安全な場所からルルがいるであろう最深部を覗く。中は広い空洞になっており、空間一杯にパチパチとスパークのようなものが放たれ続けており明るかった。そのスパークの中心部に緑色のふかふかした生き物が身を縮こませて、ぶるぶる震えていた。顔も体に埋めているので、こちらに気付くことはないだろう。
「あれが、ムーの友達のルル…。なんか、ククのバチバチに似ているね。」
 ニタが言った。“ククのバチバチ”とはクグレックが自身の魔力を制御できずに溢れ出て、魔力が尽きるまで破壊し続ける暴走状態のことだ。拒絶の破壊魔法『ヨケ・キリプルク』の原型と言える状態のことである。
「バチバチを制御できないのは、恐ろしいな。」
 と、ハッシュが言った。彼もクグレックの暴走を何度も目にしている。
「ルルの場合はただ寄せ付けないだけなんです。…先ほどの偽の岩壁のように、攻撃性の少ない魔法障壁だって張れるはずなのに。どうしてこんな誰も来ないような場所でこんなに強い障壁を張っているんだろう。」
「よっぽど怖い目にあったんだろうな。」
「こんなに近いのに、僕の声は全く届かない。」
「石とかぶつけたら、気付くんじゃない?」
「怯えるだけの気がするけど…。」
 ニタは足元にある石を拾い、ルルに向かって力の限り勢いよく投げつけた。ぶんと強く風を切る音がしたが、スパークに絡みつかれるとその勢いを失くしぽとりと地面に落ちた。
 ニタはあっけらかんとして「いやぁ、怖いね」と感想を述べた。
「フィンはどうしたらいいか分かる?リリィの加護的な力でなんとかならない?」
 ニタが聞いたが、フィンは首を横に振り「分からないです。こういった現象を見るのは初めてで、本当にどうしたら良いのか。」と言った。
 一行は出来ることをやれるだけ試してみた。ムーが炎を吐き出してみたり、クグレックの拒絶の魔法を少しだけ試してみたり、大声を出してみたり、思いつく限りのことをしてみたが、どれも功を奏しなかった。
「あーもう、どうしたらいいか分からないよ!ルルに気付いてもらうことも出来ないし、バリアを壊して近付くことも出来ない。お手上げじゃないか。」
 クグレックも杖にもたれかかりながら、出来ることを考える。拒絶の魔法も先ほど試してみたが、圧倒的なルルの力に、ククの魔力は一気に持って行かれそうになった。寸でのところで詠唱を中断したから良かったものの、ククの魔力の全てを使ったところで破壊できるような障壁ではなかった。
 とはいえ、この状態であれば、頼れるものはクグレックの魔法であるのだが。いかんせんレパートリーが少ないのが悩みどころだ。
 ふよふよと漂う光の玉が一行を照らし出す。
 こんな光の玉を出したところで、障壁に吸収されるだけだ。なぜかこの洞窟でまとわりつかせる術を急に思いつけたのは良かったが、障壁の前でどう役に立たせればいいのか。
 と、クグレックの脳裏に一つのアイディアが浮かんだ。
「こっちもバリアを張るのは、どうだろう。」
 クグレックが小さく呟いた。
 ニタは耳をピクリとさせて、その話に食らいつく。
「え、クク、バリアの魔法出来るの?」
「…それが出来たらいいんだけど。でも、『ヨケ』をちょっとだけ変形させれば何とかなるかもしれないって。ただ、上手く行くかは分からないけど…。」
「『ヨケ』ってあのバチバチの魔法か?」
 ハッシュが尋ね、クグレックはこくりと頷いた。
「うん、そう。『ヨケ』をムーに纏わせてルルの元に行ってもらうの。ムーへの障壁からの干渉を拒絶するように出来ればいいんだけど…。障壁を破壊するよりかは、まだなんとかなるかな、って。」
「大丈夫なの?」
「とりあえず、全魔力を込めるから、私は動けなくなるかも。でもそれまでにムーがルルのところまで辿り着ければ、どうにかなるでしょ?」
 と言って、クグレックはムーに視線を移す。ムーは力強く頷いた。
「でも、途中で魔力が尽きたら…」
 ニタが心配する。
「魔力が尽きたら…、ムーはバチバチに取り込まれちゃうかもしれない。でも、そんなことはさせない。命が尽きたとしても成功、させて見せる。」
「うわー、ククが急に頼もしく見えるよ…。」
「…うん、私は、魔女だからね…!」
 普通の女の子ではない。クグレックが自分を魔女であると認識することは、これまでは自虐的な気持ちが強かったが、今は一つの個性のように思えて来たのだ。普通の女の子はあこがれなのかもしれない。だが、クグレックには生まれ持った宿命があるのだ。それを失くす方法は今は分からない。ならば、今は精一杯その宿命を利用すればいいだけの話なのだ。
 早速、クグレックはムーに拒絶の魔法をかける。
「ヨケ・キリプルク・フィオラメイル!」
 クグレックの杖の先から雷撃が放たれ、ムーの周りを這う。ムーは「ぐ」とうめき声を上げたが、普通に動けるようであった。
「割と痛いんだけど、ルルのバリアほど致命的ではないよ。僕にはこの竜王族の鱗もあるし、きっと大丈夫。」
 そう言ってムーは最深部中央に位置するルルを見つめる。

――今から行くから、安心して。僕はすぐそばにいるんだから!

――やだ、怖い、怖い、死人使いが、死人使いが、あぁぁぁ!!!

 ルルの魔法障壁は一層強さを増したが、ムーは臆することなくルルに向かって今まで見せたことのない速度で飛んで行く。身体を守ってくれる『ヨケ』の魔法は、ルルの障壁のスパークに干渉され、激しくバチバチと光と音を立てて反応する。直に障壁のスパークを喰らうほどひどくはないが、熱さや痛みは感じた。が、負けていられない。クグレックの魔力が尽きる前にルルの元へ辿り着かなければならないのだ。
 ムーがルルに近付けば近付くほど、光と音は激しくなる。爆発が起きているかのようだ。
 そして、クグレックに掛かる魔力の負担は増していく。ムーが離れれば離れるほど、杖先から発せられる雷撃は伸びていく。だが、ムーの『ヨケ』のバリアを持続させるためにはクグレックからの魔力の供給が必要なのである。まだ途切れさせるわけにはいかない。
 汗はだらだらと出て、立つこともままならないクグレックはハッシュとニタに支えられている。
 意識はくらくらして来て、呼吸をするのもしんどくなってきた。鼻血が出て来たら限界は近い。だが、まだ出て来ない。まだ、大丈夫。
 ムーとルルの距離は4分の1ほどに迫って来ていた。
 が、ここで、クグレックは鼻血を垂らした。目の前が白くなっていく。だが、まだ倒れてはいけない。最後の力を振り絞り「オール・フェアーレ!」と叫ぶと、クグレックの意識は遠のき、気絶した。
 クグレックからムーへの魔力の供給は切れた。が、残りすべての魔力はムーが纏う『ヨケ』の鎧に全て託されている。どの位耐えられるかは分からないが、ムーはひたすら翼を動かす。
 ルルに近付けば近付くほどに『ヨケ』と障壁の抵抗が強くなり、スピードが落ちていく。また、身体へのダメージも大きくなり、翼を動かすのも辛くなって来ていた。が、ルルとの距離は目と鼻の先だ。これで、ルルに触れることが出来ればきっとルルもムーのことを気付いてくれるに違いない。そう思って手を伸ばしたところ、大きな光と音を発して『ヨケ』の鎧が破壊された。強力な魔法障壁のスパークに捕えられたムーは身動きもとれず、ただその強力な魔法障壁の雷撃になぶられるだけであった。「うわあああああ」と大きな悲鳴をムーが上げても、雷撃の音でかき消され、目の前のルルには届かない。本当にわずかな距離なのに、届かない。
 実はムーにとってルルは友人以上の存在であった。親友をも超えた、いうなれば恋人同士であったのだ。種族は異なるが、二人はお互いを助け合って生きて来た。辛い時も苦しい時も楽しい時もずっと。ところが数年前にムーは密猟者に捕えられてルルは離れ離れになってしまった。それからはずっと会えずにいたが、ルルは一生懸命追いかけた。そして数か月前、何とか思念で連絡を取ることが出来る距離まで近づいたというのに、今度はルルに異常が発生したのだ。ようやく念願かなって会うことが出来るというのに、喋ることも出来ずに終わってしまうのか。抱き締めることも出来ずに終わってしまうのか。
 
「ぐわあああぁぁぁぁ」
 ムーは咆哮を上げて、力を振り絞る。大きく翼を羽ばたかせると、目の前のルルを上から包み込むようにしてばたりと倒れた。動く力はムーには残っていなかった。
 そして、暫くの後、魔法障壁のスパークは止み、クグレックの光の玉も失くなってしまった洞窟内は真っ暗になった。

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