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自分改革、君色に染まって誘惑大作戦②



 
「ちょっと。」
 後ろから男の声。筋骨隆々の男が振り向く。その途端、筋骨隆々は1回転してひっくり返った。男は仰向けになって、何があったのか分からずに目をぱちくりさせる。
 私はびっくりして後ろを振り向く。
 ハッシュだ。ちょっと怒ったような表情をしている。
「お、お前、なんだんだよ!」
 鼻ピアスが私の肩を抱いたまま、怒鳴り声をあげる。耳元でそんな大声あげないでよ。
「こいつの連れだけど。お前こそ何なんだ?」
 ハッシュの低い声。鋭い目つきで鼻ピアスを睨み付ける。ハッシュは凄く怒っている。
「だから何なんだよ。さ、ねぇちゃん、行こうぜ。おい、お前も寝てないで起きろや。」
 そう言って、鼻ピアスは私を連れて行こうとする。が、一歩進んだところで鼻ピアスは足を止めた。そして、「いてててて!」と悲鳴をあげた。ハッシュが鼻ピアスの腕を掴んでいる。多分渾身の力を込めて掴んでいる。
 私は、その隙をついて鼻ピアスのもとから逃げ出し、ハッシュの傍に駆け寄った。ハッシュは片手で私の体を抱き寄せる。意外なところでハッシュと密着して私の心臓はドキドキ高鳴る。
「ふ、ふざけんなよ!」
 鼻ピアスの声。だが、すぐに「いてててて!」と悲鳴をあげる。
「いい加減にしないと、折るけど。いいの?」
 落ち着いたハッシュの声。鼻ピアスは「ち、ちくしょー、離せ!」というと、ハッシュはすぐに手を離した。鼻ピアスは仰向けになっている筋骨隆々の手を取って立ち上がらせると、一目散に逃げて行った。
「はぁ。」
 ハッシュはため息を吐く。
「遅くなって、悪かった。」
 私はハッシュにぴったりとくっついて、そのぬくもりを堪能する。ゆっくりと顔を上げて、ハッシュを見ると、ハッシュの表情は強張っていた。私は恐る恐るハッシュから離れる。
「ううん、ハッシュ、あの、ありがとう。」
「変なことされなかったか?」
「ちょっと触られたけど、大丈夫。」
 ハッシュはちらりと私を見ると、すぐに視線を逸らせた。
「ククの今日のその恰好は男を刺激させるみたいだから、気を付けろ。そんな恰好をしてきたククもちょっと悪い。」
 え!
 …でも、そうだよね。こんな露出が多い服を着て来た私が悪かったんだ。ハッシュに迷惑をかけちゃったな…。悔しさと悲しさとで涙が出そうになったけど、我慢する。仕方がないのだ。
「…ごめんね。」
「え、あ、謝ることじゃないよ。そんなつもりじゃないんだ。ククが無事で良かったし。うん。その恰好もいつもと違って可愛いよ。」
 「可愛い」って言って貰えた。嬉しい。涙も引っこんで顔が熱くなる。やっぱりハッシュ好みの恰好だったんだ。ちょっとだけ、にやけちゃう。
 ハッシュはふと私の胸元に大胆にも視線を注ぐ。ハッシュも男なんだな、と思ってドキドキしてしまう。が、ハッシュの視線はそこに向かっているわけではなかった。
「このウミガメのネックレス…。」
 ハッシュは、はじまりの旅の時にハワイ島でプレゼントしてくれたネックレスを凝視していたようだ。
 ハッシュからの唯一のプレゼント。私の宝物。スケープゴートのプレゼントであったにせよ、私はとても嬉しかった。
「良く失くさずに持っていたな。やっぱりククに似合ってる。」
 そう言って、ハッシュは顔を赤くして、慌てた様子で「ごめん」と一言言って視線を胸元から離す。真面目だなぁ。
「さ、本屋にいこうぜ。」
「うん。」
 ハッシュが歩き出すので、私もその後を着いていく。ハッシュが背負ったリュックには、鉱石がぎゅうぎゅうに入っているらしく、ごつごつ膨らんでいた。
 と、ハッシュの足が止まる。急停止だったため、私はハッシュのリュックに追突する。ちょっと痛い。
「あ、クク、ごめん。またあいつらが来て拉致られたらまずい。手、繋いで行こう。」
 そう言ってハッシュは自然に手を差し出す。
 私はおそるおそるその手を取る。
 ハッシュのあたたかい手と私の手が繋がる。
 物理的な繋がり。私の一方的な思いのベクトルだけがあなたに向かう。あなたのベクトルはいつになったら私に向かうのだろう。
 前と同じように、ハッシュは私の手を引っ張って行く。
 隣を歩いてもいいかな。いえ、私は今はフィンのような大人の女性。引っ込み思案のククとは違う。躊躇っちゃいけない。
 私は歩みを速めて、ハッシュの隣に位置する。
 ハッシュはちらりと私を見ると、にっこりほほ笑んだ。
「ククさぁ…。」
 そう言ってハッシュは口を閉ざす。「何?」と聞き返したけど、ハッシュはしばらく何も言わなかった。エレベーターに乗って地階に降り、ビルを出るまで沈黙が続いた。
 外に出て、久しぶりに青空を見た時、ハッシュは口を開いた。
「クク、その恰好、いつもと違って凄く良いと思う。」
 私は顔が熱くなる。そして、次のハッシュの言葉でさらに炎上する。
「でも、俺はククはいつもの恰好の方が好きだな。そっちのククが俺にとってのククだし。」
 私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて俯いてしまい、そして歩みが遅くなり、結局ハッシュに引っ張られる。
 私達、恋人みたいに見えるかな。極上の時間を過ごせて幸せです。
 このまま、ハクア指定の特別な本を買いに行こう。
 願わくば、この時間がずっと続けばいいのに。アルトフールに帰りたくないな。



fin.
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 2014_02_25

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