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マナの聖バレンタイン①

Category: アルトフールの物語   Tags: *  

アルトフールのバレンタイン。
アルトフールには甘いチョコレートの香りと
あたたかな愛に包まれる。

ククはもちろんあの人に。

アルトフールのリーダーマナは一体誰に渡すのか。








 
外はしんしんと雪が降っていた。
 雪かきに勤しむ者、雪遊びを楽しむ者、雪を嫌い家の中で寛ぐ者、アルトフールの雪の日の過ごし方はそれぞれだ。
 魔女ククにとっては雪というものは、懐かしいものだった。ククの故郷は雪国であった。冬になれば大雪に包まれ、外出することが出来なくなるので、雪の日は暖炉の前で静かに過ごすのが、ククの過ごし方だった。
 アルトフールに来ても、雪の日の過ごし方は変わらない。皆が集まるリビングで、ストーブに近いソファに座って、ククは本を読んでいた。ハクアから借りた魔術書である。ハクアは魔女ではないが、魔女を自称していただけあって、知識は凄い。その知識はこう言った文献から来たものであり、そして彼女の文献所蔵量は莫大なものだった。ククは魔女であるが、自身が魔女であることを忌み嫌い、魔法の勉強は特にしてこなかったので、こうやって勉強する機会があるのは都合が良かった。
「ねぇ、クク、惚れ薬作ってチョコレートに混入させたりはしないの?」
 向かいのソファに座っていた紅髪の女、ハクアが何かを企むような表情をしながらククに話しかけて来た。彼女もまた読書をしていた。読書用の眼鏡をかけている。ククは魔術書から目を離し、ハクアを一瞥する。
「どういう意味?」
「どうもこうもハッシュにチョコレートあげるんでしょ?あんたなら完璧な惚れ薬を作って、簡単にハッシュを惚れさせることができるじゃない。やらないの?惚れ薬のレシピ、教えるわよ。格安で。」
「私は魔女じゃなくてただの人としてハッシュが好きだから、そんなもの作りません。」
 きっぱりと言い切るクク。
「ふうん、そう。ま、レシピが欲しかったらいつでも言ってね。本物の魔女が作った惚れ薬なら高く売れるからね。商売したいならいつでもアタシに言うのよ。」
 ハクアはニヤニヤしながら言った。
 ククはあまりハクアの方を見ないようにして、再び文章を追う。ハクアは魔力はないものの、クク以上に魔女のような女だ。油断をすると心を付け込まれる。
 と、ククがハクアに対して警戒心を払っていると、隣で編み物をしていたマナが、コテンとククの肩に寄り掛かってきた。
 ククは思わずマナを見る。特に眠っているわけではない。目をパッチリ開けて、安心したようにククに背を預けている。
「マナ、アンタはチョコレート、誰かにあげるの?」
 ハクアが質問する。マナもまたククと同様にハクアを一瞥する。そして、ククの腕を抱いて、顔を埋めて一言だけ放つ。
「…あげる。」
 ハクアは一瞬意外そうな表情をしたが、すぐに何かを企んでいるようなニヤニヤした表情に変わる。
「誰にあげるの?」
 ハクアが尋ねる。ククもその答えが気になった。
「…クーにあげる。」
「なるほど、百合ね。」
 納得したようにうむうむ、とハクアは大きく頷く。
「わ、私もみんなの分作るから、マナにもあげるけど、マナ、他の人にはあげないの?」
 マナは顔を上げて、じっとククを見つめる。マナの緑色の瞳はまっすぐに力強く輝いている。
「だって、バレンタインは好きな人にチョコレートを贈るんでしょう?私はクーが好きだから、クーにチョコをあげるの。」
 マナの目は揺らぐことがなかった。ククは思わず戸惑ってしまう。そして、盟友クルガに申し訳ない気持ちになって来る。
「マナ、クルガにはあげないの?」
「え、なんで?」
 至極不思議そうに、真顔で首をかしげるマナ。ククは、そして、流石のハクアも、クルガに対して居た堪れない気持ちになってきた。ハクアはマナが本気なのか確認を取る。
「マナ、バレンタインのチョコレートを渡す相手ってね、キスが出来る相手なのよ。アンタ、ククとキスするの?」
「クーとならキスしたい。」
「えぇ!」
「ガチ百合か。まさかの同性愛展開ときたか。」
 ドサリ、とリビングの入り口で何かが落ちる音がした。ククとハクアはハッとして振り向くと、そこには呆然とした様子で突っ立っているクルガの姿があった。毛糸の帽子とマフラー、厚手の上着を着込んでいる。そして、足元には雪のかけらが散らばっている。おそらく、小さな雪だるまなんかを作って、持ち込んだのかと思われる。
「マ、マナ、それは本当?ククさんのことマジで好きなの?」
 顔を真っ青にしてクルガが問う。何という場面に居合わしてしまったのか。
 マナもゆっくりとクルガの方を向いて、そして、黙って頷く。
 もう、冗談でしょう?!とククは心の中で悲鳴をあげる。
「ククさん、俺、ククさんのことは仲間だって思ってたのに、よりにもよって、よりにもよって…!」
 と、クルガは声を震わせながら言うと、雪玉の残骸を床に落としたまま、勢いよくリビングを飛び出していった。流石のハクアも顔をひきつらせながら、再びマナに向き直る。
「ね、ねぇ、マナ、他にはキスしたいと思う相手はいるの?」
「他…?」
 ククはごくりと唾をのんだ。答え次第でマナは本気でククを愛しているということになってしまう。それはクルガにも申し訳ないし、クク自身も色々なことを考えなければいけなくなる。
「他は…。アルティともキスしたい。」
「結局女か!」
 ククはほっと胸をなでおろした。そして、満面の笑みを浮かべてマナの手を取り
「じゃ、マナ、一緒にチョコレート作ろう。皆にあげるためのチョコを作ろう。」
と、言った。マナはこくりと首を縦に振る。これでククはクルガと顔を合わせることが出来る。

 そんな様子をハクアは頬杖をついて、つまらなさそうに眺める。

(アタシもククのことは好きだけどね。うん、何ならキスしてもいいくらいだけど。こんなに同性から好かれる子もそうそういないわよねぇ。ニタにも好かれてるし。多分、リマも好きだろうし、ティアとなんかは魔女の契約なんてものも交わしてる。まぁ、あの子はハッシュ一筋だから、そっちの道には外れないだろうけどね。)

 しんしんと雪が降り積もる日の家の中は、ストーブの炎が燃える音だけで温かい。
 クルガが落としていった雪玉の塊はあっという間に溶けて液体になり、次にリビングを訪れたものは滑って転ぶのだった。
 バレンタインを迎えるアルトフールは甘いチョコレートと同じようにふわふわとした優しく甘い雰囲気に包まれていく。


to be continued!
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 2014_02_14

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