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マナの聖バレンタイン②







 

「これで出来上がりです!あとは可愛くラッピングして好きな人に渡してください。」
 バレンタイン当日、アルトフールに住む女子たちはククを講師に迎えた手作りチョコレート教室に参加していた。アルトフールの家は甘ったるいチョコレートの香りが充満する。
 チョコレート講師ククは銘々にチョコレートをラッピングしていく女子たちを見て、一体誰にあげるのだろうかと類推した。
アルティは二つ作った。おそらくビカレスクとディレィッシュにあげるのだろう。ニタは男子全員分作った。ホワイトデーのお返しが楽しみらしい。ハクアは来なかった。ばかばかしいと言って、その日は部屋に引きこもってゲームをしていた。フィンは3つ作った。誰に渡すのだろう。その一人の中にハッシュは居るのだろうか、などなどククは色々考えた。
マナもチョコレートを沢山作った。ククはマナは料理が出来ないと思っていたが、意外と器用にこなしていたので驚きだった。
 ダイニングでチョコレート教室の後片付けをクク一人でやっているところに、マナが現れた。その手には手のひらサイズの小さな淡いピンクの小袋があった。
「クー、これ。」
 マナは相変わらず表情を変えることなく、ピンクの小袋を差し出す。ククが両手を差し出すと、マナはククの手の中にちょこんと小袋を載せると、「しゃがんで」と言って右腕を引っ張った。
 ククはマナに促されるまま中腰になる。マナの背丈と同じくらいにかがむと、マナはおもむろにククの頬に軽くキスをした。
 ククはびっくりしてマナを見つめる。
「ハクアが口にキスはしちゃダメだって。ほっぺなら良いって。」
「そう…。」
「チョコレートは、皆に作ったの。私、皆が好きだから。…皆を愛しているから。」
 無表情で愛を語るマナ。冷たい人形のような心を持つマナだが、本当は違う。本当の姿は、誰よりも深い愛情に満ちたアルトフールのリーダーである。ただ年長者だから、という理由だけでリーダーに選ばれたのではない。すべてを包括することが出来るから、彼女がアルトフールのリーダーを務めている。
 ククは、優しく微笑んで、マナの頬にキスのお返しをした。そして、ダイニングの隅っこに置いてあった紙袋から小袋を一つ取り出してマナに渡した。
「はい。私からもバレンタインチョコレート。マナのことが、大好きだよ。」
「クー、ありがとう。」
 マナは一瞬嬉しそうな表情を見せた、ようにククは感じた。マナが笑うことはめったにない。もしかすると奇跡の一瞬を見ることが出来たのかもしれないと思い、ククは嬉しくなった。
「チョコレート、皆に渡したの?」
「あとはクルガだけ。ハクアがクーの後に渡せって。」
 マナの答えにククは感心した。あんなに性格が悪いハクアでもやる時はやってくれるようだ。ククはいたずらっぽく笑いながら
「そう。じゃぁ、クルガにもほっぺにキスをしてあげるといいよ。キスした後は、ちゃんと私にもしたってことを伝えてね。」
と、マナに伝えると、マナはこくりと頷いた。そして、マナはダイニングを後にした。
 再び一人になったククは、後片付けを済ませてからチョコレートを配りに男性陣の各部屋を巡った。最後にハッシュの部屋を訪れたククだったが、ハッシュの部屋には先客がいた。
 フィンだった。
 フィンの3つのチョコレートのうち1つはハッシュに渡っていたみたいだ。
 ハッシュは、いつもより嬉しそうな表情でいた。
 二人のそんな様子を見ていられなかったククは、チョコレートを渡すとすぐにハッシュの部屋を出た。他の人よりも気合を入れて作った本命のチョコレート。しかし、きっとハッシュはそのチョコレートを本命だとは思っていないだろう。義理チョコのうちの1つとしか見てくれていないだろう。
 ククは悲しい気持ちに陥って、ニタの部屋に行きそのふかふかを愛でることに決めた。


******

 場所は変わってクルガの部屋。
 そこには顔を茹蛸の様に真っ赤にして頬を押さえているクルガと平然と無表情でいるマナがいた。
「マ、マナ、今何をしたの?」
「何って、キス。」
 クルガの頬には柔らかなマナの唇の感触が残っている。突然のことで、クルガの頭の中は、嬉しさと喜びと戸惑いとそしてこの感触を忘れないように留めておこうという思いがめちゃくちゃに混じり合って、混乱していた。
 チョコレートを貰えただけでなく、(頬に)キスまでしてもらえた。
 クルガはもう舞い上がらずにはいられない。
「この際、思い切って言うけど、俺もマナのこと」
「さっきね、クーにもキスした。ってことを君に伝えとけって。ククが言ってた。」
「ふぇ?」
「クーのこと、好きだから、キスしたの。」
「マナ、それ、本当なの?」
 マナはこくりと頷く。そして、言の葉を続ける。
「クルガのことも好きだし、アルティも好き。アルトフールの人達皆が好きだから、チョコをあげた。」
 クルガは急上昇した自分の体温が急降下していくのを感じた。結局自分は彼らのうちの一人にすぎない。
「でも、キスしたのはクーと君だけ。」
 クルガの体温は再び上昇する。
「クーもキスしてくれて、嬉しかった。」
「そ、そう。ククさんはどっちにキスしたの?」
 クルガに問われて、マナは「こっち」と言って左頬を指差した。クルガは「そう」と言って、ごくりと唾を呑むと、マナの右頬にキスをした。本当にわずかに唇が触れるくらいの小さなキス。
 クルガは顔を真っ赤にしてマナから視線を逸らした。マナの表情を見るのが怖かった。きっといつもの通り無表情であるが、もしかするとその無表情の中には侮蔑、軽蔑、冷徹といった厳しいものが含まれているのかもしれない。そう考えると、マナを見ることが怖くなった。が、マナは思いもよらない言葉を口にする。
「ありがとう。やっぱり嬉しい。」
 クルガはハッとしてマナを見た。一瞬そこには嬉しそうなマナの表情があったような気がした。だが、すぐに無表情のマナに戻っていた。自分の願望が創り出した幻だったかもしれないとクルガは不安になった。
「愛を感じた。私、もう一回全員にキスをしてくる。」
 そう言って立ち上がろうとしたマナだったが、クルガはマナの腕を掴んで「それはダメ。キスは簡単にするもんじゃない」と止めたため、マナがキス魔になることだけは阻止された。


 様々な愛に溢れたアルトフールのバレンタイン。
 愛はチョコレートに形を変えて、人々の心に届き行く。
 

Fin.
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 2014_02_14

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