嫉妬歓迎、焼餅をやかせてみよう大作戦③
Category: アルトフールの物語
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風呂を上がったビカレスクは、髪をタオルで拭きながらまっすぐに食堂へ向かう。風呂上がりの牛乳は彼にとって欠かせない。牛乳はカルシウムが豊富だから骨を強くしてくれる。そして不思議なことに風呂上がりの牛乳は朝飲む牛乳よりも、寒い時に温めて飲むホットミルクよりも断然美味しい。
ちょっとだけハッシュにきつく言い過ぎたかな、と後悔しながら、ビカレスクはコップ一杯の牛乳を一気に飲み干す。口に着いた牛乳の白いひげを腕で拭き取り、「あーうめー」と一人で絶叫する。
コップをドンとシンクに置いて、さてどうしたら良いものか、とビカレスクは考えた。
今は自分を悪役にして、ハッシュにククのことを意識させること。それしか出来ないと彼は考えていた。だから、風呂場では敢えてハッシュの前でククの処女が欲しいということを言ってみた。ククは女の子なんだ、と言うことを意識させるために。
と、そこへ、誰かが入って来る。ビカレスクにはそれが誰なのかすぐに分かった。
ククである。
只今ビカレスクはククと仮契約を結んでいる状態だ。感覚が近くなっているので、ククのことは気配だけですぐに察知できる。
ククはビカレスクの姿を見ると、体をびくっとさせて、極力目を合わせないようにしてこちらに近付いて来る。冷蔵庫に用事があるらしい。
「クク、あの、」
ビカレスクは申し訳なさそうにククに声をかけるが、ククは完全に無視をして黙ってビカレスクの前を通り過ぎる。ビカレスクは思わずククの腕を掴んで引き止めた。
「やっ…!」
ククは思わず腕を振ってビカレスクの手を振りほどこうとするが、そう簡単に振りほどけるものではない。ククは黙ってビカレスクを睨み付けた。
「離してっ。やだ!」
「クク、ちょっと話を聞いて!」
「嫌っ!」
ククはビカレスクの話を聞き入れようともしないし、視線すら合わせようとしない。
しばらくひと悶着していると、ビカレスクと時間差で風呂を上がったハッシュが現れた。二人の様相を見てすぐに
「ビカレスク、何してるんだ!」
と、ハッシュは声を荒らげる。
ビカレスクはハッシュの登場を予期していなかったため思わず舌打ちしてしまった。ククにもう夢を見させてはいけない。
恋しそうにハッシュを見つめるククに対して、ビカレスクはやむを得ずククを後ろから抱きしめるようにして羽交い絞めにした。
「ハッシュ、近づくな。言っただろう?俺はククの処女が欲しいって。」
これでもかというほどの悪人のような面構えでビカレスクは語る。彼はそもそも悪魔だ。
「お前にとってククは所詮苦楽を共にした仲間に過ぎない。「ただの仲間」なんだろう?ならもうお前はもう二度とククに関わるな。お前は何もわかっちゃいない。このままだとお前はずっとククを苦しめることになる。」
ビカレスクはククの髪を梳きながら、そっと耳元に唇を近づける。そして甘い声で優しく
「なぁ、ククそうだろう?」
と囁く。ククの髪からはシャンプーの香りが漂う。
「クク、俺ならしっかりククのこと女として見て大切にするよ?どう?」
「嫌っ!何言ってるの?馬鹿じゃない?離して!」
即答されるビカレスク。ビカレスクはククの処女以外には興味がなかったが(彼にはアルティメットという大切な存在がいる)、ここまで拒否されると流石のビカレスクでも傷つく。しかもハッシュとは険悪な状態で、物凄く睨まれている。悪役を演じすぎて不本意ながらも両者から疎まれて、落ち込んでしまいそうになりながらも、ビカレスクは頑張る。
再びククの耳元に唇を近づけ、ハッシュに聞こえないくらいの小さな声で話しかける。
「ハッシュはククのことを女としては見ていないのくらい、気付いているだろう。あいつはお前のこと、妹、どころか娘の様にしか思ってないんだ。あいつは絶対お前のこと助けに来るだろうけど、それはお前が妹、娘の様に可愛いからだ。決して愛してるから、とか好きだから、とかそういう気持ちからじゃないんだよ。ククだって知ってるだろう?あいつはフィンのことが好きなんだ。なぁ、クク、お前はハッシュに何を望んでるんだ?言ってみろよ。」
まさに悪魔のささやき。ビカレスクはククを抱く自分の腕に水滴がぽたぽた落ちて来るのを感じた。ククは表情を変えずに泣いている。
「クク…!」
泣き出すククにハッシュはたじろぐがすぐに、ビカレスクに視線を向けなおす。
ビカレスクはやれやれというように手を上げると、ククはすぐにビカレスクの元を走り去っていった。ハッシュの横もそのまま素通りして、ククは食堂を出て行った。
「ビカレスク、お前、ふざけるなよ。」
怒りに包まれて低くなったハッシュの声。
「ふざけてなんかいないよ。俺はいたって本気だ。なぁ、ハッシュ、ククはお前のこと、好きなんだ。つまりククが処女を捧げたいのもお前なんだけどさ、知ってた?」
相変わらず悪人面をしているが、ビカレスクの内面は焦りに焦っていた。ククの気持ちなんかハッシュに伝えるつもりはなかったのに言ってしまった。更にククに貸しを作ってしまう。
「・・・え、何を言ってるんだ?」
きょとんとするハッシュ。
「説明なんかもうしねーよ。鈍感男。」
ビカレスクはにんまりと笑みを浮かべてハッシュの横を通り過ぎ、食堂を出て行った。
それから、ククの心のケアを行うために、急いでククの元へと向かった。この作戦を聞き入れてくれるかが心配だが…。だが、ビカレスクは諦めない。出来ることをやり尽すことと正義の悪魔であり続けることが彼のモットーなのだ。正義でありたいが故に、悪人になることに関しては凄く心苦しい。
矛盾を抱くヘタレ悪魔、それがビカレスク。
to be continued.
風呂を上がったビカレスクは、髪をタオルで拭きながらまっすぐに食堂へ向かう。風呂上がりの牛乳は彼にとって欠かせない。牛乳はカルシウムが豊富だから骨を強くしてくれる。そして不思議なことに風呂上がりの牛乳は朝飲む牛乳よりも、寒い時に温めて飲むホットミルクよりも断然美味しい。
ちょっとだけハッシュにきつく言い過ぎたかな、と後悔しながら、ビカレスクはコップ一杯の牛乳を一気に飲み干す。口に着いた牛乳の白いひげを腕で拭き取り、「あーうめー」と一人で絶叫する。
コップをドンとシンクに置いて、さてどうしたら良いものか、とビカレスクは考えた。
今は自分を悪役にして、ハッシュにククのことを意識させること。それしか出来ないと彼は考えていた。だから、風呂場では敢えてハッシュの前でククの処女が欲しいということを言ってみた。ククは女の子なんだ、と言うことを意識させるために。
と、そこへ、誰かが入って来る。ビカレスクにはそれが誰なのかすぐに分かった。
ククである。
只今ビカレスクはククと仮契約を結んでいる状態だ。感覚が近くなっているので、ククのことは気配だけですぐに察知できる。
ククはビカレスクの姿を見ると、体をびくっとさせて、極力目を合わせないようにしてこちらに近付いて来る。冷蔵庫に用事があるらしい。
「クク、あの、」
ビカレスクは申し訳なさそうにククに声をかけるが、ククは完全に無視をして黙ってビカレスクの前を通り過ぎる。ビカレスクは思わずククの腕を掴んで引き止めた。
「やっ…!」
ククは思わず腕を振ってビカレスクの手を振りほどこうとするが、そう簡単に振りほどけるものではない。ククは黙ってビカレスクを睨み付けた。
「離してっ。やだ!」
「クク、ちょっと話を聞いて!」
「嫌っ!」
ククはビカレスクの話を聞き入れようともしないし、視線すら合わせようとしない。
しばらくひと悶着していると、ビカレスクと時間差で風呂を上がったハッシュが現れた。二人の様相を見てすぐに
「ビカレスク、何してるんだ!」
と、ハッシュは声を荒らげる。
ビカレスクはハッシュの登場を予期していなかったため思わず舌打ちしてしまった。ククにもう夢を見させてはいけない。
恋しそうにハッシュを見つめるククに対して、ビカレスクはやむを得ずククを後ろから抱きしめるようにして羽交い絞めにした。
「ハッシュ、近づくな。言っただろう?俺はククの処女が欲しいって。」
これでもかというほどの悪人のような面構えでビカレスクは語る。彼はそもそも悪魔だ。
「お前にとってククは所詮苦楽を共にした仲間に過ぎない。「ただの仲間」なんだろう?ならもうお前はもう二度とククに関わるな。お前は何もわかっちゃいない。このままだとお前はずっとククを苦しめることになる。」
ビカレスクはククの髪を梳きながら、そっと耳元に唇を近づける。そして甘い声で優しく
「なぁ、ククそうだろう?」
と囁く。ククの髪からはシャンプーの香りが漂う。
「クク、俺ならしっかりククのこと女として見て大切にするよ?どう?」
「嫌っ!何言ってるの?馬鹿じゃない?離して!」
即答されるビカレスク。ビカレスクはククの処女以外には興味がなかったが(彼にはアルティメットという大切な存在がいる)、ここまで拒否されると流石のビカレスクでも傷つく。しかもハッシュとは険悪な状態で、物凄く睨まれている。悪役を演じすぎて不本意ながらも両者から疎まれて、落ち込んでしまいそうになりながらも、ビカレスクは頑張る。
再びククの耳元に唇を近づけ、ハッシュに聞こえないくらいの小さな声で話しかける。
「ハッシュはククのことを女としては見ていないのくらい、気付いているだろう。あいつはお前のこと、妹、どころか娘の様にしか思ってないんだ。あいつは絶対お前のこと助けに来るだろうけど、それはお前が妹、娘の様に可愛いからだ。決して愛してるから、とか好きだから、とかそういう気持ちからじゃないんだよ。ククだって知ってるだろう?あいつはフィンのことが好きなんだ。なぁ、クク、お前はハッシュに何を望んでるんだ?言ってみろよ。」
まさに悪魔のささやき。ビカレスクはククを抱く自分の腕に水滴がぽたぽた落ちて来るのを感じた。ククは表情を変えずに泣いている。
「クク…!」
泣き出すククにハッシュはたじろぐがすぐに、ビカレスクに視線を向けなおす。
ビカレスクはやれやれというように手を上げると、ククはすぐにビカレスクの元を走り去っていった。ハッシュの横もそのまま素通りして、ククは食堂を出て行った。
「ビカレスク、お前、ふざけるなよ。」
怒りに包まれて低くなったハッシュの声。
「ふざけてなんかいないよ。俺はいたって本気だ。なぁ、ハッシュ、ククはお前のこと、好きなんだ。つまりククが処女を捧げたいのもお前なんだけどさ、知ってた?」
相変わらず悪人面をしているが、ビカレスクの内面は焦りに焦っていた。ククの気持ちなんかハッシュに伝えるつもりはなかったのに言ってしまった。更にククに貸しを作ってしまう。
「・・・え、何を言ってるんだ?」
きょとんとするハッシュ。
「説明なんかもうしねーよ。鈍感男。」
ビカレスクはにんまりと笑みを浮かべてハッシュの横を通り過ぎ、食堂を出て行った。
それから、ククの心のケアを行うために、急いでククの元へと向かった。この作戦を聞き入れてくれるかが心配だが…。だが、ビカレスクは諦めない。出来ることをやり尽すことと正義の悪魔であり続けることが彼のモットーなのだ。正義でありたいが故に、悪人になることに関しては凄く心苦しい。
矛盾を抱くヘタレ悪魔、それがビカレスク。
to be continued.
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