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嫉妬歓迎、焼餅をやかせてみよう大作戦④



 
********

 食堂でハッシュとビカレスクが険悪になってから3日後のことだった。
 ハッシュはぼんやりしながら、近くの林の木の実を摘んでいた。
 あの食堂での一件があってククのことが心配になり、ククの部屋を訪ねてみたがドア越しに「大丈夫だから、心配しないで。」と言われ、面会を拒否された。それからも、ククと顔を合わせる時はあったが、気まずそうに視線を外してハッシュを避けるように逃げていく。
 ククはハッシュに合えばいつも必ず少し恥ずかしそうにしながら、優しく微笑んでくれた。
 でも、今はそれを見ることは出来ない。
 それがハッシュにとって悲しいことなのか、どうでもいいことなのか良く分からなかった。

――なぁ、ハッシュ、ククはお前のこと、好きなんだ。

 あの時のビカレスクの言葉を思い出すが、ハッシュは未だに理解できずにいた。
 ハッシュにとってククは大切な旅の仲間の一人にすぎなかった。今までそれ以上にククを思ったことはない。ククを一人の女性として見たこともなかった。良くて妹だったかもしれない。だからククを女性として見ることは、何か禁忌のようなことがして、いけないことの様に感じていた。
 しかし、ハッシュ自身は、少しずつククを女性だと意識しつつはあった。
 なにせ度重なるククの不思議な行動を気にせずにはいられなかったのだ。
 ただの妹みたいな存在が時に、可愛い年下の女の子に見えないこともなかった。
 しかし、ククをそういう対象として思うのはタブーなような気がしていたから、ハッシュはその雑念を一生懸命消していたところだった。
 ああ、分からない分からない。
 なんだってこんなにククのことが引っかかるのだろう。
 もやもやを抱えたまま、ハッシュは木の実を拾い続けていたが、気付くと籠は木の実で山盛りになっていた。籠半分くらい摘んでほしい、という今日の食事当番であるフィンからの依頼だったので、余った分はククにあげようかと考えた。これでお菓子でも作ると良いだろう。相手にしてくれるかどうかは分からないが。
 家に戻り、ハッシュはフィンに木の実を渡す。やはり籠いっぱいの木の実は必要なかったらしい。
「ククちゃんにでもあげて、木の実ケーキでも作ってもらいましょうよ。」
と、フィンからも提案された。エプロン姿のフィンに心を奪われながらも、その感覚に安心した。フィンの落ち着いた様子を見て、ハッシュの心も落ち着いた。フィンはハッシュにとって、まるで母親のような安心感がある。
「そうだな、じゃぁ、残りはククに渡してくるよ。」
 そう言って、ハッシュはククの部屋を訪れたが、ククは居なかった。リビングにいるかもしれないと思い、リビングに向かう。夕方のリビングは食事を待つ人々で賑やかだ。ニタやアルティメットがテレビを見て笑い転げている。マナも大人しくソファに座ってテレビを見ている。クルガもちゃっかりその隣に座ってテレビを見る。その中にククもいた。そして、隣には銀髪紅目の悪魔、ビカレスクがいた。ビカレスクは自然な様子でククの肩に手を回して、親しげにククと話をしている。
 ハッシュはざわざわと胸の内が煩くなるのを感じた。
「おう、ハッシュー、おっつー」
 ハッシュの姿を見つけると、ニタが声をかけて来る。ハッシュは「おう」と言って片手を上げる。そしてククの元へ行く。
「クク、木の実拾いすぎたから、やるよ。」
 ククの表情は一瞬嬉しそうにぱっと明るくなったが、すぐに不機嫌そうな表情に戻る。ちらりとハッシュを見て、一言だけ「ありがとう」と言って木の実を受け取った。
 隣のビカレスクが、ニヤニヤしながらハッシュを見つめる。
 ビカレスクとククの距離感にハッシュは当然のごとく嫌な表情をして見せたが、ビカレスクに声をかけることはなかった。
 ふと気づくと、さっきまでテレビに夢中だったみんなの視線がハッシュに集まっていた。まるでビカレスクとハッシュの関係を気にしているかのごとく。ハッシュが皆の視線に気が付くと、皆はすぐにテレビへと視線を戻す。何かおかしいな、と思いながら、ハッシュはリビングを出て、再び食堂へ戻った。
 それよりもハッシュが気になったのは、ククとビカレスクの距離感だった。つい3日前はビカレスクがレイプ未遂を行って、ククは本気で嫌がっていたと思っていたのに、この数日間の間に一体何があったというのだろう。自分にはつれない態度だったのに。ハッシュは動揺を隠せずにはいられなかった。
「あれ、ハッシュ、どうしたの?」
 台所からフィンが声をかける。
「いや、どうもしないんだけどね、ちょっとここで休ませて。」
「あら、そうなの?」
 料理がひと段落ついたらしく、フィンが台所からエプロンで手を拭きながら出て来る。
「あれ、ハッシュ、なんか疲れたような表情をしてるよ。なんかあった?」
「人間って難しいなって。」
「ハッシュも難しいこと考えるようになったのね。」
「まぁね。って、フィンは俺のことどう思ってるんだよ。」
「素敵な男性。好きよ。」
「え?」
 ハッシュは、フィンからの返事に耳を疑った。ハッシュ自身は、自分は難しい話を考える柄じゃないと暗にフィンに言われたと感じて、冗談のつもりで自分のことをどう思っているか聞いただけである。
 ハッシュは足が地についていないような心地を覚えながら、唾をごくりと飲み込んで「それって、どういう意味?」と真剣な眼差しで聞いてみる。フィンは微笑みを湛えたまま、小首を僅かに傾ける。真意は謎に包まれる。
「こういう意味。」
 フィンがゆっくりと瞬きをして見せると、まずはハッシュの額に口付けをした。そのままハッシュの唇に自身の唇を重ね合わせようとして見せたが、するりと抜けて、ハッシュの頬に口付けた。
 フィンのふんわりとした柔らかな唇を自身の頬に感じながら、ハッシュは顔を茹蛸のように顔を赤くさせる。ハッシュが驚愕した様子で見つめる先のフィンはいつもの微笑みを湛えている。視線を混じり合わせても、お互いの表情は変化しない。
 あまりの気恥ずかしさに、ハッシュはつい視線を逸らしてしまう。フィンの向こうの食堂の出入り口の扉へ視線を移すと、そこには一人の女性の姿があった。
すらりとスタイルの良い、黒髪ショートボブの女性。彼女は怯えた様な表情でこちらを見ている。
 天にも昇るような気持ちのハッシュの心は一気に地へと墜落した。なんとタイミングが悪いのか。
 ただのほっぺのキスを見られただけなのに、ハッシュは悍ましいほどの罪悪感に襲われた。ただの頬へのキスなのだ。フィン曰く、そういう意味のキスであるということをハッシュは理解していた。だから、扉近くの彼女に対して罪悪感を抱く必要はないのだ。
 しかし、目の前のフィンは「秘密だよ」と言わんばかりに人差し指を自分の唇に立てて、ウィンクをする。そして再び自分の仕事に戻る。
 ふと出入り口に視線をやると、そこには誰もいなかった。扉は半分開いていた。
食堂はシチューの美味しい匂いで満ちている。このシチューにはハッシュが採って来た木の実が入っている。この匂いにつられて、リビングで寛いでいる者たちがまもなくやって来るだろう。
 キッチンで盛り付けに勤しむフィンを、ハッシュは無心で見つめていた。
 ハッシュは王族出身で決して無教養ではない。フィンのキスの意味も理解することが出来る。
 それよりも何より、彼は不思議な違和感を感じていた。


to be continued.
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 2014_03_24

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