嫉妬歓迎、焼餅をやかせてみよう大作戦⑤
Category: アルトフールの物語
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3日前のあの夜、私はハッシュの前でビカレスクに現実を囁かれて、無様にもハッシュの前で泣いてしまった。
ハッシュが好きなのはフィンだということはもうずっと前から知っていたし、ハッシュが私のことをただの仲間以外に見ていないということだって知っていた。でも、改めてあんな風にきっぱり言われちゃうと、つらいじゃない。
その日の夜は、ビカレスクもハッシュも心配して、私の部屋を訪れたけど、どうにも会えるような精神状態ではなかったから、お引き取り願った。だけど、ビカレスクはともかくとして、ハッシュが心配して私の元を訪れてくれた時は、嬉しかった。
それから2日後の夜、私の部屋にニタと痣だらけの顔のビカレスクがやって来た。
「くーちゃん、このたびは不肖ビカレスクがクーちゃんに大変ご迷惑をかけて、大変申し訳ございませんでした。」
ニタとビカレスクは深々と頭を下げて謝罪した。まるで親子のような二人。そう考えるとなんだか笑えてきた。予期せぬ笑いをぷぷっと吹き出してしまう。
「ビカレスクのことは許せないけど、なんか用事があるんでしょ。上がって良いよ。」
そう言って私は二人を部屋に上げる。
座るなりニタはビカレスクの腰を叩いて正座を促す。ビカレスクは慌てて正座に直り、姿勢をピシッと正す。
「クーちゃん、話はビスクの阿呆から聞いたよ。クーちゃんの代わりに殴っといたから、これで勘弁してやってくれないでしょうか。」
ビカレスクの顔は一瞬誰なのか判別出来ないくらいにぼこぼこにされている。これはきっと痛かっただろう。
「ビスクも色々悪かったけど、ディレィッシュも悪かったとも思うから、あいつにはせめてあのネックレスを復元してもらうように既にビスクから依頼してるよ。念のためニタからもお願いはしてるけど。」
「本当に悪かったよ。」
二人の申し訳なさそうな様子と言ったら。いつもは自信満々で元気な二人だから、こんなに粛々としたニタとビカレスクは見たことがない。こんな姿は二人に似合わなさすぎて、滑稽だ。
「うん、二人ともその気持ちは分かったよ。ビカレスクに対しては、まだちょっと許せないところがあるけど…。」
ちらりとビカレスクを見ると、悲しそうに猫背になって身を小さくしていた。
「クク、ネックレスの件は本当に悪かったよ。ごめん。それで、俺、なんとか罪を償おうと思って、ククが一番喜ぶことをやろうとしたんだ。精一杯。」
私が一番喜ぶこと?ハッシュの前であんなことをしておいて、私が喜ぶとでも思っていたの?ハッシュを私から引き離そうとして…。
と、言いたい気持ちになったが、私はそれをぐっと抑えた。ビカレスクは怯えた様な表情をして、焦った様子を見せつつも話を続ける。
「クク、怒ってるよね。俺、あんなこと言っちゃったし。でも、俺がやりたかったのはそういうことじゃないんだ。ククと付き合うっていうのはいわば方便なんだ。」
「じゃぁ、何だっていうの?」
「俺が思うククが一番喜ぶこと、それはククとハッシュがくっつくこと。」
ビカレスクの血の様に赤い瞳はしっかりと私を見据える。私は思わず何も言うことが出来なかった。
「でも、今のままじゃ、どうしても無理だと思った。ハッシュは鈍感で、ククのことを「大切な仲間」以上に見ようとしていないから。だから、少しでもククを「恋する女の子」として認識してもらうように、あいつにククのことを意識させようとしたんだ。『嫉妬心』を煽って。」
「…」
「だから、俺はハッシュの前であんなことを言った。少しでもあいつがククのことを女として見てくれるように。ちょっと荒療治だったかもしれないけど。でも、まだ終わりじゃない。もっと駆け引きをしなきゃいけないんだ。それにはククにも事情を知ってもらわなきゃいけなくて…。」
正直、ビカレスクはお節介だと思う。
勝手に私とハッシュをくっつけようだなんて、頼んでもないのにそんなことされるのは、正直困る。
私は、ただ、ハッシュの傍にいられれば、もうそれでいい。
ハッシュが幸せならば、もうそれでいい。
でも、本当は違うのかもしれない。
もし、ハッシュとフィンが付き合うことになったら、私はそれでいいのかな。
ハッシュは幸せになるけど、私はハッシュの傍にいれなくなるし、愛してると思うことも憚れるようになる。それ、我慢できるかな、私。
私は、私の望みのために頑張らなきゃいけない。そして、今ならまだ頑張れる時なんだ。
「クーちゃん、ニタもビカレスクの作戦聞いたんだけど、クーちゃんが嫌なら耳を貸さなくたっていいと思う。ただ、ニタはクーちゃんが今までハッシュのこと好きで、一生懸命頑張ってるのを見て来たから、クーちゃんが幸せを掴みとって欲しいと思うんだ。絶対に上手く行くとは限らないけど、ビカレスクの言うことは一理あるし、ニタはちょっと頑張ってみてもいいと思う。くーちゃん次第だけど。」
気難しい一面を持つニタが、ビカレスクの肩入れをするのは珍しい。
ビカレスクも、頭がいいなぁ。よくニタを連れて来たと思う。
ニタに言われたら私、ビカレスクを信用せざるを得なくなるじゃない。
深呼吸をして、気持ちを整える。
「ビカレスク…、私はどうしたら良い?」
私がそう言った瞬間ビカレスクの表情が、少年の様に純粋にぱぁっと明るくなった。
「ククはしばらく俺と行動を一緒にしてくれ。多分あいつにとってククが俺と一緒にいることこそ気になることはないと思うから。あとは、少しだけハッシュとは距離を置いて。しばらく素っ気ない態度を取って。そして、少ししてからちょっとお話ししてみるんだ。『しばらく無視してごめんね。』って。ククはもう十分押したんだ。あとはちょっと引くのが良い。追いかけさせるんだ、ハッシュを。」
私は、首を縦に振らなかった。ビカレスクの言葉は悪魔の言葉。やっぱりまだ信用ならない。
ビカレスクの表情は少々強張りながらも、私のことをまっすぐ見据えて来る。魅惑の赤い瞳はちょっとした催眠効果もあるかもしれない。私はビカレスクの赤い瞳を見つめ返しながら「分かった」と返事をした。
to be continued.
3日前のあの夜、私はハッシュの前でビカレスクに現実を囁かれて、無様にもハッシュの前で泣いてしまった。
ハッシュが好きなのはフィンだということはもうずっと前から知っていたし、ハッシュが私のことをただの仲間以外に見ていないということだって知っていた。でも、改めてあんな風にきっぱり言われちゃうと、つらいじゃない。
その日の夜は、ビカレスクもハッシュも心配して、私の部屋を訪れたけど、どうにも会えるような精神状態ではなかったから、お引き取り願った。だけど、ビカレスクはともかくとして、ハッシュが心配して私の元を訪れてくれた時は、嬉しかった。
それから2日後の夜、私の部屋にニタと痣だらけの顔のビカレスクがやって来た。
「くーちゃん、このたびは不肖ビカレスクがクーちゃんに大変ご迷惑をかけて、大変申し訳ございませんでした。」
ニタとビカレスクは深々と頭を下げて謝罪した。まるで親子のような二人。そう考えるとなんだか笑えてきた。予期せぬ笑いをぷぷっと吹き出してしまう。
「ビカレスクのことは許せないけど、なんか用事があるんでしょ。上がって良いよ。」
そう言って私は二人を部屋に上げる。
座るなりニタはビカレスクの腰を叩いて正座を促す。ビカレスクは慌てて正座に直り、姿勢をピシッと正す。
「クーちゃん、話はビスクの阿呆から聞いたよ。クーちゃんの代わりに殴っといたから、これで勘弁してやってくれないでしょうか。」
ビカレスクの顔は一瞬誰なのか判別出来ないくらいにぼこぼこにされている。これはきっと痛かっただろう。
「ビスクも色々悪かったけど、ディレィッシュも悪かったとも思うから、あいつにはせめてあのネックレスを復元してもらうように既にビスクから依頼してるよ。念のためニタからもお願いはしてるけど。」
「本当に悪かったよ。」
二人の申し訳なさそうな様子と言ったら。いつもは自信満々で元気な二人だから、こんなに粛々としたニタとビカレスクは見たことがない。こんな姿は二人に似合わなさすぎて、滑稽だ。
「うん、二人ともその気持ちは分かったよ。ビカレスクに対しては、まだちょっと許せないところがあるけど…。」
ちらりとビカレスクを見ると、悲しそうに猫背になって身を小さくしていた。
「クク、ネックレスの件は本当に悪かったよ。ごめん。それで、俺、なんとか罪を償おうと思って、ククが一番喜ぶことをやろうとしたんだ。精一杯。」
私が一番喜ぶこと?ハッシュの前であんなことをしておいて、私が喜ぶとでも思っていたの?ハッシュを私から引き離そうとして…。
と、言いたい気持ちになったが、私はそれをぐっと抑えた。ビカレスクは怯えた様な表情をして、焦った様子を見せつつも話を続ける。
「クク、怒ってるよね。俺、あんなこと言っちゃったし。でも、俺がやりたかったのはそういうことじゃないんだ。ククと付き合うっていうのはいわば方便なんだ。」
「じゃぁ、何だっていうの?」
「俺が思うククが一番喜ぶこと、それはククとハッシュがくっつくこと。」
ビカレスクの血の様に赤い瞳はしっかりと私を見据える。私は思わず何も言うことが出来なかった。
「でも、今のままじゃ、どうしても無理だと思った。ハッシュは鈍感で、ククのことを「大切な仲間」以上に見ようとしていないから。だから、少しでもククを「恋する女の子」として認識してもらうように、あいつにククのことを意識させようとしたんだ。『嫉妬心』を煽って。」
「…」
「だから、俺はハッシュの前であんなことを言った。少しでもあいつがククのことを女として見てくれるように。ちょっと荒療治だったかもしれないけど。でも、まだ終わりじゃない。もっと駆け引きをしなきゃいけないんだ。それにはククにも事情を知ってもらわなきゃいけなくて…。」
正直、ビカレスクはお節介だと思う。
勝手に私とハッシュをくっつけようだなんて、頼んでもないのにそんなことされるのは、正直困る。
私は、ただ、ハッシュの傍にいられれば、もうそれでいい。
ハッシュが幸せならば、もうそれでいい。
でも、本当は違うのかもしれない。
もし、ハッシュとフィンが付き合うことになったら、私はそれでいいのかな。
ハッシュは幸せになるけど、私はハッシュの傍にいれなくなるし、愛してると思うことも憚れるようになる。それ、我慢できるかな、私。
私は、私の望みのために頑張らなきゃいけない。そして、今ならまだ頑張れる時なんだ。
「クーちゃん、ニタもビカレスクの作戦聞いたんだけど、クーちゃんが嫌なら耳を貸さなくたっていいと思う。ただ、ニタはクーちゃんが今までハッシュのこと好きで、一生懸命頑張ってるのを見て来たから、クーちゃんが幸せを掴みとって欲しいと思うんだ。絶対に上手く行くとは限らないけど、ビカレスクの言うことは一理あるし、ニタはちょっと頑張ってみてもいいと思う。くーちゃん次第だけど。」
気難しい一面を持つニタが、ビカレスクの肩入れをするのは珍しい。
ビカレスクも、頭がいいなぁ。よくニタを連れて来たと思う。
ニタに言われたら私、ビカレスクを信用せざるを得なくなるじゃない。
深呼吸をして、気持ちを整える。
「ビカレスク…、私はどうしたら良い?」
私がそう言った瞬間ビカレスクの表情が、少年の様に純粋にぱぁっと明るくなった。
「ククはしばらく俺と行動を一緒にしてくれ。多分あいつにとってククが俺と一緒にいることこそ気になることはないと思うから。あとは、少しだけハッシュとは距離を置いて。しばらく素っ気ない態度を取って。そして、少ししてからちょっとお話ししてみるんだ。『しばらく無視してごめんね。』って。ククはもう十分押したんだ。あとはちょっと引くのが良い。追いかけさせるんだ、ハッシュを。」
私は、首を縦に振らなかった。ビカレスクの言葉は悪魔の言葉。やっぱりまだ信用ならない。
ビカレスクの表情は少々強張りながらも、私のことをまっすぐ見据えて来る。魅惑の赤い瞳はちょっとした催眠効果もあるかもしれない。私はビカレスクの赤い瞳を見つめ返しながら「分かった」と返事をした。
to be continued.
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