嫉妬歓迎、焼餅をやかせてみよう大作戦⑥
Category: アルトフールの物語
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それから翌日。
ビカレスクの意見を呑んだ私は、ビカレスクと行動を共にする。
ビカレスクと共に、というよりも、ビカレスク一派と行動を共にする、と言った方が良いのかもしれない。ビカレスクとニタとアルティメットとただひたすら下らないことで笑い合ったりして過ごした。私は、ニタとは過ごすことがあったけど、アルティとビカレスクと過ごすことはあまりなかった。
子供の様に純粋な心を持った天使のアルティメットと悪魔のビカレスクと過ごしていると、なんだか心が洗われて来る。かつて私は彼らとは相対する立場にあったから、少し苦手意識を持ってあまり関わらないようにしていた。けど、そんなことはすべきじゃなかったな、と今は後悔している。
夕方、ニタとビカレスクとアルティメット達と夕食が出来上がるのを待つ。
「クク、今日はハッシュが来てもちょっとそっけない態度を取ってくれ。」
「…うん。」
ビカレスクに指示されて、私は渋々返事をする。本当は嫌だけど、これも作戦のうち。なんかビカレスクが私の肩に手を回して随分と馴れ馴れしいけど、これもきっと作戦のうち。
そこへ、ハッシュがやって来た。ニタが声をかけると、ハッシュは片手を上げて挨拶を返す。
何しに来たのかな、と思って、ハッシュを見ていると、ハッシュは私の前にやって来た。
「クク、木の実拾いすぎたから、やるよ。」
そう言って、ハッシュは袋一杯の木の実をくれた。こんなに沢山の木の実。何に使おう。パンにいれたりするのも良いかも。
なんだか嬉しくなって、ついつい顔を綻ばせてしまうけど、危ない。さっきビカレスクに素っ気ない態度を取るように言われたのだった。嬉しい気持ちを抑えながら、私は無表情を決め込み、ちらりとハッシュに視線を向けて「ありがとう」と一言だけ言った。ハッシュは少し残念そうな表情をしていた。
そしてハッシュはリビングを出て行った。
「ハッシュ、ククに会いに来たんだ。」
隣のビカレスクが呟くように言った。
「ハッシュ、多分まだ俺に対して怒ってた。多分肩に手を回したのが悪かったのかな?でも、…これは、相当上手く行ってる証拠だよ!あいつは、きっとククのこと意識してる。間違いない。」
そうだったらいいけど。周りのニタ、クルガ、アルティメットも何やら期待の眼差しを向けて来る。こうやって素っ気ない態度を取って、ハッシュに嫌われてなければ良いんだけどな。
ハッシュから貰った木の実は食堂のキッチンで保存しておこう。
私は立ち上がり、食堂へ向かう。
食堂からは美味しそうなシチューの匂いが漂ってきている。ミルクベースの優しそうなシチューの匂い。今日の食事当番は誰だったっけ?
などと色々考えながら、食堂の扉を静かに開ける。
ダイニングに先客がいた。
そういえば今日の食事当番はフィンとクライドだったことを私は思いだし、ダイニングにいるのがフィンであることを認識することが出来た。そして一歩進むとフィンの陰に隠れてもう一人誰かがいることが分かった。椅子に座って疲れた様子でフィンと話すハッシュだった。
フィンは椅子に座るハッシュと目線が同じになるまで腰をかがめる。そして、その顔をハッシュに近付ける。
ここからだと距離が合ってハッシュの表情を見ることは出来ない。けど、そのフィンの動きはまるでハッシュに口付けをしているようだった。フィンはゆっくり腰を起こすと、一歩だけ後ずさりしたので、ハッシュの表情を見ることが出来た。ハッシュは顔を赤くして放心したような表情でいた。
嘘だと良いんだけど。
間違いであると良いんだけど。
ただの思い込みであると良いんだけど。
でも、ハッシュはフィンのことが好きなのは事実で。
ふと私とハッシュの目が合う。ハッシュの表情は強張った。おそらく私を認識してしまったのだと思う。すぐに目を逸らされ、その視線はあなたが愛するフィンの元へ注がれる。
私は、木の実を持ったまま、そっと食堂を出た。そして、リビングには戻らず、自分の部屋へ戻った。
木の実が入った袋が、手元から滑り落ち、床一面に木の実が散らばった。
今は木の実がどうなろうと関係ない。私はベッドの縁に縋り付いて声を押し殺して泣いた。
いつかは来るだろうと思っていた時をどうやら私は受け入れることが出来なかった。
悪魔の言葉に縋り付くべきじゃなかったのかもしれない、とも考えるけど、悪いのはビカレスクじゃない。ごめんね。
嫉妬にやられるのは、彼じゃなくて、私の方だったみたい。
リビングで寛いでいたビカレスクは、ふと異変に気付いた。何か嫌な感覚が流れて来る。悲壮的で絶望的でなんとも苦しい感情だ。
ククと軽い共感覚を持ったビカレスクには、ククに何かがあったことをすぐに察知することが出来た。
嫌な予感がしてならなかったが、ふと気が付くと、ニタもこちらを見ていた。どうやらニタも何かを感じ取ったらしい。ニタとククの間には契約が結ばれているわけではないが、はじまりの旅から続く信頼の絆は特別な物らしい。
fin.
それから翌日。
ビカレスクの意見を呑んだ私は、ビカレスクと行動を共にする。
ビカレスクと共に、というよりも、ビカレスク一派と行動を共にする、と言った方が良いのかもしれない。ビカレスクとニタとアルティメットとただひたすら下らないことで笑い合ったりして過ごした。私は、ニタとは過ごすことがあったけど、アルティとビカレスクと過ごすことはあまりなかった。
子供の様に純粋な心を持った天使のアルティメットと悪魔のビカレスクと過ごしていると、なんだか心が洗われて来る。かつて私は彼らとは相対する立場にあったから、少し苦手意識を持ってあまり関わらないようにしていた。けど、そんなことはすべきじゃなかったな、と今は後悔している。
夕方、ニタとビカレスクとアルティメット達と夕食が出来上がるのを待つ。
「クク、今日はハッシュが来てもちょっとそっけない態度を取ってくれ。」
「…うん。」
ビカレスクに指示されて、私は渋々返事をする。本当は嫌だけど、これも作戦のうち。なんかビカレスクが私の肩に手を回して随分と馴れ馴れしいけど、これもきっと作戦のうち。
そこへ、ハッシュがやって来た。ニタが声をかけると、ハッシュは片手を上げて挨拶を返す。
何しに来たのかな、と思って、ハッシュを見ていると、ハッシュは私の前にやって来た。
「クク、木の実拾いすぎたから、やるよ。」
そう言って、ハッシュは袋一杯の木の実をくれた。こんなに沢山の木の実。何に使おう。パンにいれたりするのも良いかも。
なんだか嬉しくなって、ついつい顔を綻ばせてしまうけど、危ない。さっきビカレスクに素っ気ない態度を取るように言われたのだった。嬉しい気持ちを抑えながら、私は無表情を決め込み、ちらりとハッシュに視線を向けて「ありがとう」と一言だけ言った。ハッシュは少し残念そうな表情をしていた。
そしてハッシュはリビングを出て行った。
「ハッシュ、ククに会いに来たんだ。」
隣のビカレスクが呟くように言った。
「ハッシュ、多分まだ俺に対して怒ってた。多分肩に手を回したのが悪かったのかな?でも、…これは、相当上手く行ってる証拠だよ!あいつは、きっとククのこと意識してる。間違いない。」
そうだったらいいけど。周りのニタ、クルガ、アルティメットも何やら期待の眼差しを向けて来る。こうやって素っ気ない態度を取って、ハッシュに嫌われてなければ良いんだけどな。
ハッシュから貰った木の実は食堂のキッチンで保存しておこう。
私は立ち上がり、食堂へ向かう。
食堂からは美味しそうなシチューの匂いが漂ってきている。ミルクベースの優しそうなシチューの匂い。今日の食事当番は誰だったっけ?
などと色々考えながら、食堂の扉を静かに開ける。
ダイニングに先客がいた。
そういえば今日の食事当番はフィンとクライドだったことを私は思いだし、ダイニングにいるのがフィンであることを認識することが出来た。そして一歩進むとフィンの陰に隠れてもう一人誰かがいることが分かった。椅子に座って疲れた様子でフィンと話すハッシュだった。
フィンは椅子に座るハッシュと目線が同じになるまで腰をかがめる。そして、その顔をハッシュに近付ける。
ここからだと距離が合ってハッシュの表情を見ることは出来ない。けど、そのフィンの動きはまるでハッシュに口付けをしているようだった。フィンはゆっくり腰を起こすと、一歩だけ後ずさりしたので、ハッシュの表情を見ることが出来た。ハッシュは顔を赤くして放心したような表情でいた。
嘘だと良いんだけど。
間違いであると良いんだけど。
ただの思い込みであると良いんだけど。
でも、ハッシュはフィンのことが好きなのは事実で。
ふと私とハッシュの目が合う。ハッシュの表情は強張った。おそらく私を認識してしまったのだと思う。すぐに目を逸らされ、その視線はあなたが愛するフィンの元へ注がれる。
私は、木の実を持ったまま、そっと食堂を出た。そして、リビングには戻らず、自分の部屋へ戻った。
木の実が入った袋が、手元から滑り落ち、床一面に木の実が散らばった。
今は木の実がどうなろうと関係ない。私はベッドの縁に縋り付いて声を押し殺して泣いた。
いつかは来るだろうと思っていた時をどうやら私は受け入れることが出来なかった。
悪魔の言葉に縋り付くべきじゃなかったのかもしれない、とも考えるけど、悪いのはビカレスクじゃない。ごめんね。
嫉妬にやられるのは、彼じゃなくて、私の方だったみたい。
リビングで寛いでいたビカレスクは、ふと異変に気付いた。何か嫌な感覚が流れて来る。悲壮的で絶望的でなんとも苦しい感情だ。
ククと軽い共感覚を持ったビカレスクには、ククに何かがあったことをすぐに察知することが出来た。
嫌な予感がしてならなかったが、ふと気が付くと、ニタもこちらを見ていた。どうやらニタも何かを感じ取ったらしい。ニタとククの間には契約が結ばれているわけではないが、はじまりの旅から続く信頼の絆は特別な物らしい。
fin.
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