あんな場面を目撃しても私はあなたを想うことを止められない。
ハッシュはハッシュが想う人と一緒にいるべきなんだと思う。だってそれがハッシュの幸せならば、私はそれを願わなきゃいけないでしょう。
ハッシュが幸せならば、私も幸せ。
だから、私は、この気持ちに終止符を付けなければならない。
ウミガメのネックレスが壊れたのもそういうことなんだ。
ククの恋愛大作戦最終章!
お題をお借りしております→chocolate sea
春が近づいて来ていて、風はまだ冷たいけど、ほのかに温かくなって来ている。
私はハッシュを呼び出した。
そして一緒に小川の畔を歩いていた。小川のせせらぎと鳶の鳴き声に包まれた畔は平穏そのものだった。
私はハッシュの前に立って、特に会話を交わさないまま、黙って小川の畔を遡上していく。
しばらくハッシュと会話を交わしていなかったから、今までどんな風に喋っていたのか忘れてしまった。後ろを着いて来てくれるハッシュに、そろそろ何か話しかけなきゃいけないはずなのに、どうしたらいいのか分からない。
会話の種を見つけることが出来ていないのに、私は歩みを止める。そして後ろを振り向く。何を言おう。
「ねぇ、ハッシュ、私、ハッシュのことがずっと、ずっと、好きだった。」
意外とするりと言いたかった言葉が出て来てくれた。…って、今言うべき言葉じゃないのに、今言っちゃった。本当はしばらく無視してしまったことを謝ったり、ビカレスク達と仲良くして意外と楽しかったこととかを話そうと思っていたのに。
そんな焦りを隠しながら、私はしっかりとハッシュを見つめる。
ハッシュは意表を突かれたように驚いた表情をしていた。
「クク、俺、…」
と一言呟いて顔を強張らせると、私から視線を外す。
ハッシュが好きなのはフィンなんだ。だから、いち旅の仲間である私なんかにこんなこと言われたら、ハッシュだって困っちゃうだろうな。
「うん。知ってるよ。ハッシュが好きなのはフィンだって、知ってる。けど、気持ちだけ伝えたかったの。知ってて欲しかったの。そしたら私、」
「ちょっと待って、ちょっと待って。」
「え?」
ハッシュが慌てた様子で話を遮る。そして、私の両肩を掴み、困惑した様子で
「何、それ、どういう意味?」
と質問してきた。私はハッシュの困惑の意味が分からず、混乱する。
「だって、ハッシュ見てれば分かっちゃうよ。好きな人に対する態度って、周りの人から見ると分かっちゃうんだよ。」
「クク、ちょっと落ち着いて。」
ハッシュが困った表情で、私を宥める。私の目を見て、一言一言ゆっくりと聞き取りやすいように喋ってくれる。
「俺は、いつ、フィンを好きだと言った?俺にとってフィンは、」
そう言ってハッシュは一瞬口を噤む。だが、何かを吹っ切るようにして言葉を続ける。
「フィンは、俺の乳母に似ているんだ。」
乳母。そうか、ディレィッシュが一国の主だったならば、その弟であるハッシュも王族の血を引くのは当然で、そんなやんごとなき身分の人間ならば、乳母の一人くらいいても不思議ではないだろう。
「でもさ、エリヤさん、その乳母の名前ね、政争の犠牲になって死んだんだ。まぁ、難しい話は端折らせてもらうけど、俺には力がなかったから、乳母は死んでしまった。どんな時も傍にいてくれた優しい乳母。エリヤさんは最期まで俺を大切にしてくれた。だから、俺はエリヤさんそっくりのフィンにあった時、すごく嬉しくて恩返しをしたいと思ったんだ。。」
ハッシュは私の両肩から手を離し、背を向けて川べりにしゃがみ込む。
「それだけだよ。もうどこかに行ってほしくなかった。エリヤさんに傍にいてほしかった、ただそれだけ。」
私もハッシュの隣にしゃがみ込む。ハッシュの横顔は、いつもの自信に満ち溢れた明るいものではなかった。とても寂しそうな横顔。
私はただ寄り添うことしかできなかった。
「…でも、最近ちょっとだけフィンのこと好きになりかけてたかもしれない。」
私はどきりとして、同時に食堂でハッシュとフィンがキスしていたことを思い出した。
「だから、キスしたの?」
「ん?」
ハッシュは首を傾げ、記憶を辿る。少し経ってから、「あぁ、」と声を上げた。
「やっぱりククは見てたんだな。あれ、誤解だよ。額とほっぺにキスされただけだよ。口はしてないよ。多分、ククのところからは口にしてるように見えてたと思うけど。」
確かに、私は二人の口がくっついたかどうかは見えていなかった。
「それに、俺にとってのフィンはやっぱりエリヤさんなんだ。だからあの時凄い違和感を感じた。キスとかするような存在じゃないってことを再確認できた。額とほっぺにキスされて、びっくりしたけど、それは逆にフィンにとっても俺は大切な友人でしかないってことだし。フィンは俺の憧れの幻影なんだ。」
そう言ってハッシュは屈託のない笑みを浮かべる。いつものハッシュだ。
「でも、ハッシュはフィンみたいに年上の女性が好みだって…。」
「それ、兄貴が勝手に言ったんだろ。フィンじゃなくて、多分エリヤさんのことを意識して言ってるんだろうけど。」
ハッシュは、その大きくて優しい手で、ぽんぽんと私の頭をなでる。
「それで、話は戻るけどさ、クク、俺、」
そうだった、私はハッシュに告白してしまったんだった。ハッシュがフィンを好きであることが私や皆の勘違いだという事実にほっと安心しすぎてしまっていた。
「俺、しばらくアルトフールを離れるんだ。ちょっと旅に出て来る。」
「な、なんで?」
「うん、ちょっとね。滅亡と再生の大陸を横断して、支配と文明の大陸まで戻るから、ちょっと長くなるかもしれない。一人で行くから、途中で死ぬかもしれない。」
「それじゃぁ、私も行く!私がハッシュを守るよ!今まで守ってもらったんだもの、今度は私がハッシュを守る番!」
ハッシュは嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「気持ちだけ受け取っておく。クク、お前はここにいて。」
「どうして?」
「返事、帰ってきたら言うから。」
「今、聞かせてくれないの?」
ハッシュは、真顔になってゆっくりと頷いた。
「うん。多分、今伝えたら、俺生きて帰ってくることは出来ないと思うから。でも、クク、俺がいない間、もし俺よりも好きになれる相手が現れたら、容赦なくそいつに乗り換えろ。ククが一生を添い遂げたいと思える相手なら、それはお前の幸せなんだ。」
嫌だ。私はきっとこの先一生ハッシュのことを想い続けるんだと思う。だから、私はハッシュが帰って来るのをいつまでも待つよ。と、思ったけど、私はその気持ちを言葉にしなかった。
「…死なないで、戻って来てね。」
「あぁ。そのつもりだ。」
小川のせせらぎと鳶の鳴き声に包まれる小川の畔。私たちは川辺にしゃがみ込んで、少しだけ心の距離を近くすることが出来た。
風はまだ冷たいけど、太陽の光はじわじわ温かい。確実に春は近づいて来ている。
別れの春かどうかは分からないけど、これから春がやって来る。
to be continued.
ハッシュはハッシュが想う人と一緒にいるべきなんだと思う。だってそれがハッシュの幸せならば、私はそれを願わなきゃいけないでしょう。
ハッシュが幸せならば、私も幸せ。
だから、私は、この気持ちに終止符を付けなければならない。
ウミガメのネックレスが壊れたのもそういうことなんだ。
ククの恋愛大作戦最終章!
お題をお借りしております→chocolate sea
春が近づいて来ていて、風はまだ冷たいけど、ほのかに温かくなって来ている。
私はハッシュを呼び出した。
そして一緒に小川の畔を歩いていた。小川のせせらぎと鳶の鳴き声に包まれた畔は平穏そのものだった。
私はハッシュの前に立って、特に会話を交わさないまま、黙って小川の畔を遡上していく。
しばらくハッシュと会話を交わしていなかったから、今までどんな風に喋っていたのか忘れてしまった。後ろを着いて来てくれるハッシュに、そろそろ何か話しかけなきゃいけないはずなのに、どうしたらいいのか分からない。
会話の種を見つけることが出来ていないのに、私は歩みを止める。そして後ろを振り向く。何を言おう。
「ねぇ、ハッシュ、私、ハッシュのことがずっと、ずっと、好きだった。」
意外とするりと言いたかった言葉が出て来てくれた。…って、今言うべき言葉じゃないのに、今言っちゃった。本当はしばらく無視してしまったことを謝ったり、ビカレスク達と仲良くして意外と楽しかったこととかを話そうと思っていたのに。
そんな焦りを隠しながら、私はしっかりとハッシュを見つめる。
ハッシュは意表を突かれたように驚いた表情をしていた。
「クク、俺、…」
と一言呟いて顔を強張らせると、私から視線を外す。
ハッシュが好きなのはフィンなんだ。だから、いち旅の仲間である私なんかにこんなこと言われたら、ハッシュだって困っちゃうだろうな。
「うん。知ってるよ。ハッシュが好きなのはフィンだって、知ってる。けど、気持ちだけ伝えたかったの。知ってて欲しかったの。そしたら私、」
「ちょっと待って、ちょっと待って。」
「え?」
ハッシュが慌てた様子で話を遮る。そして、私の両肩を掴み、困惑した様子で
「何、それ、どういう意味?」
と質問してきた。私はハッシュの困惑の意味が分からず、混乱する。
「だって、ハッシュ見てれば分かっちゃうよ。好きな人に対する態度って、周りの人から見ると分かっちゃうんだよ。」
「クク、ちょっと落ち着いて。」
ハッシュが困った表情で、私を宥める。私の目を見て、一言一言ゆっくりと聞き取りやすいように喋ってくれる。
「俺は、いつ、フィンを好きだと言った?俺にとってフィンは、」
そう言ってハッシュは一瞬口を噤む。だが、何かを吹っ切るようにして言葉を続ける。
「フィンは、俺の乳母に似ているんだ。」
乳母。そうか、ディレィッシュが一国の主だったならば、その弟であるハッシュも王族の血を引くのは当然で、そんなやんごとなき身分の人間ならば、乳母の一人くらいいても不思議ではないだろう。
「でもさ、エリヤさん、その乳母の名前ね、政争の犠牲になって死んだんだ。まぁ、難しい話は端折らせてもらうけど、俺には力がなかったから、乳母は死んでしまった。どんな時も傍にいてくれた優しい乳母。エリヤさんは最期まで俺を大切にしてくれた。だから、俺はエリヤさんそっくりのフィンにあった時、すごく嬉しくて恩返しをしたいと思ったんだ。。」
ハッシュは私の両肩から手を離し、背を向けて川べりにしゃがみ込む。
「それだけだよ。もうどこかに行ってほしくなかった。エリヤさんに傍にいてほしかった、ただそれだけ。」
私もハッシュの隣にしゃがみ込む。ハッシュの横顔は、いつもの自信に満ち溢れた明るいものではなかった。とても寂しそうな横顔。
私はただ寄り添うことしかできなかった。
「…でも、最近ちょっとだけフィンのこと好きになりかけてたかもしれない。」
私はどきりとして、同時に食堂でハッシュとフィンがキスしていたことを思い出した。
「だから、キスしたの?」
「ん?」
ハッシュは首を傾げ、記憶を辿る。少し経ってから、「あぁ、」と声を上げた。
「やっぱりククは見てたんだな。あれ、誤解だよ。額とほっぺにキスされただけだよ。口はしてないよ。多分、ククのところからは口にしてるように見えてたと思うけど。」
確かに、私は二人の口がくっついたかどうかは見えていなかった。
「それに、俺にとってのフィンはやっぱりエリヤさんなんだ。だからあの時凄い違和感を感じた。キスとかするような存在じゃないってことを再確認できた。額とほっぺにキスされて、びっくりしたけど、それは逆にフィンにとっても俺は大切な友人でしかないってことだし。フィンは俺の憧れの幻影なんだ。」
そう言ってハッシュは屈託のない笑みを浮かべる。いつものハッシュだ。
「でも、ハッシュはフィンみたいに年上の女性が好みだって…。」
「それ、兄貴が勝手に言ったんだろ。フィンじゃなくて、多分エリヤさんのことを意識して言ってるんだろうけど。」
ハッシュは、その大きくて優しい手で、ぽんぽんと私の頭をなでる。
「それで、話は戻るけどさ、クク、俺、」
そうだった、私はハッシュに告白してしまったんだった。ハッシュがフィンを好きであることが私や皆の勘違いだという事実にほっと安心しすぎてしまっていた。
「俺、しばらくアルトフールを離れるんだ。ちょっと旅に出て来る。」
「な、なんで?」
「うん、ちょっとね。滅亡と再生の大陸を横断して、支配と文明の大陸まで戻るから、ちょっと長くなるかもしれない。一人で行くから、途中で死ぬかもしれない。」
「それじゃぁ、私も行く!私がハッシュを守るよ!今まで守ってもらったんだもの、今度は私がハッシュを守る番!」
ハッシュは嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「気持ちだけ受け取っておく。クク、お前はここにいて。」
「どうして?」
「返事、帰ってきたら言うから。」
「今、聞かせてくれないの?」
ハッシュは、真顔になってゆっくりと頷いた。
「うん。多分、今伝えたら、俺生きて帰ってくることは出来ないと思うから。でも、クク、俺がいない間、もし俺よりも好きになれる相手が現れたら、容赦なくそいつに乗り換えろ。ククが一生を添い遂げたいと思える相手なら、それはお前の幸せなんだ。」
嫌だ。私はきっとこの先一生ハッシュのことを想い続けるんだと思う。だから、私はハッシュが帰って来るのをいつまでも待つよ。と、思ったけど、私はその気持ちを言葉にしなかった。
「…死なないで、戻って来てね。」
「あぁ。そのつもりだ。」
小川のせせらぎと鳶の鳴き声に包まれる小川の畔。私たちは川辺にしゃがみ込んで、少しだけ心の距離を近くすることが出来た。
風はまだ冷たいけど、太陽の光はじわじわ温かい。確実に春は近づいて来ている。
別れの春かどうかは分からないけど、これから春がやって来る。
to be continued.
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