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作戦放棄、当たって砕けろ大作戦②



 
********

 そういうわけで、ハッシュの旅立ちの日。
 アルトフールの外れまで来て、皆でハッシュを見送ることとなった。
 ハッシュは「別に大したことないから、見送りなんて別に良いのに。」と照れ臭そうに言ったが、それではみんなの気が済まなかった。
 何せ滅亡と再生の大陸は非常に大きく、沢山の魔物の巣窟だ。更に未だかつて人が踏み入れたことのない未開の地が数多く存在するから、いくら多くの困難を乗り越えて来た手練れであっても、命の保証はない。だからみんな心配していた。
「しばらく早起きの会会員がいなくなるのは寂しいけど、早起きの会は存続させていくよ。しっかり帰ってこい!」
 とニタ。
「別に俺は早起きの会の会員ではないんだけどな。まぁ、しっかり帰って来るから、会長職、頑張れよ。」
 と、ハッシュはニタの肩をポンとたたく。
「ハッシュさん、本当に無事に戻って来てくださいよ。」
「あぁ、大丈夫だ。戻って来るから。」
 心配のあまり泣きそうな表情のクルガにハッシュは少し困りながら、子供をあやす様に、クルガの頭をぽんぽんとなでた。
「気を付けてね。」
 フィンからの激励には、ハッシュは穏やかな笑みを浮かべて「あぁ。」とだけ一言応えた。後ろにエリヤさんを感じるフィンにしか見せないハッシュの表情である。
「ディレイッシュから事情は聴いたよ。色々悪かった。頑張れ。」
 と、ビカレスクが言ってハッシュの背をぽんと叩いた。ハッシュは自信満々に大きく頷いたきり、何も言わなかった。が、何か言い忘れたのか、ハッとしてビカレスクに何かを耳打ちする。それは私には聞こえなかったけど、ビカレスクは「それは約束できねーよ!」と冗談ぽく言ってげらげら笑っている。ちょっと前の険悪な雰囲気は嘘のように、親しげな関係に変わったみたい。
「気をつけてなー。お前なら一人旅も慣れてると思うし、大丈夫だ。」
 兄のディレィッシュからの言葉は何ともゆるい言葉だった。弟のことは誰よりも知っているからこそ言える言葉なのかもしれない。
 私も言わなきゃ、せっかくお守りを作ったのに、渡せないのは嫌だ。
 と、思うんだけど、告白してしまった後だから、なんだか人前に出る勇気が出ない。
 一人でまごまごしていると、アルトフールのリーダーであるマナがハッシュに話しかける。
「ハッシュ、滅亡と再生の大陸はあなたが思っている以上に壮絶な場所。私もここで心を失って100年近く魔物のように彷徨い続けた。でも、あなたは無事にアルトフールまで戻って来なさい。そうじゃないと」
 唯一滅亡と再生の大陸出身でこの地を良く知るからなのか、珍しく饒舌なマナだったが、電池が切れたように口を閉ざす。ハッシュは、ごくりと唾を呑みこんでマナの次の言葉を待つ。間の溜め方が上手なのはリーダーたる所以だ。
 マナは相変わらずの無表情で口を開く。
「そうじゃないと、ククが悲しむ。」
「えぇ!?」
 私は思わず声を上げてしまった。恥ずかしくて顔が赤くなる。
 そんな様子の私を見て、皆笑った。皆に私の気持ちはバレバレだったけど、ハッシュにだけは気付いてもらえなかったという不思議。
「クク、ハッシュに渡すものがあるんでしょ。」
 マナに促されて、私はハッシュの前に出る。もしかして、前に出れずにいた私を気遣ってくれたのかな。マナは良く分からない子だ。
 ハッシュを見ると、頬が熱くなってくるのを感じる。告白して以来、上手くハッシュとお話出来なかったから、なんだかとても緊張しちゃう。
「あのね、えっと、ハッシュの旅の無事を祈って、お守りと、非常食と、特別な色んな薬を作ったの。ハクアと一緒に作ったんだ。何かあったら、使って下さい。」
 そう言って、色々なものが入った頑丈な麻袋をハッシュに渡す。ハッシュは「ありがとう」と言って受け取った。ハッシュは優しく落ち着いた表情で私を見つめる。
 当の私は緊張のあまり何も言えないでいる。もう、私の馬鹿。
 と、その瞬間、ハッシュは両手で私の頬っぺたを挟んできた。口がタコのようにすぼまって、変な顔になっちゃうのを見て、ハッシュはけらけら笑う。解放されてから、私はぷうと顔を膨らませた。
「ちょっと何するの!」
「いや、なんか緊張してるな、って思って。クク、笑った顔を見せてくれない?」
「え?」
「ほら」
 そう言ってハッシュは自身がにっこりと笑って見せた。私も釣られて、微笑んでしまう。
「うん。それでいい。」
「ふふ、変なの。…うん、ハッシュ、気を付けてね。ちゃんと、帰って来てね。」
「あぁ、必ず。じゃぁ、そろそろ行くよ。」
 ハッシュは荷物を背負って、皆に向き直る。そして大きな声で
「じゃぁ、みんなありがとう、行って来る。」
と言って、大きく手を振ると、皆に背を向け歩き始めた。荷物を背負い、特別なマントに身を包むハッシュの背中を、私や皆は、点となり見えなくなるまで見送り続けていた。
 しばらくすると、見送り式は解散となり、それぞれ帰路を辿る。
 ディレィッシュが私に話しかけて来た。
「クー、ハッシュはちょっと自分を探しに旅に出るみたいなんだ。理由はクーに話すことは出来ないんだけど、クーはクーで頑張るんだよ。ハッシュが帰ってきた時にいい女になれるように、頑張れ。」
 きっとディレィッシュは私が知らないハッシュのいろんな顔を知っているんだろう。信頼できる身内だからこそ、きっとハッシュはディレィッシュにいろんなことを打ち明けているのだと思う。きっとこの急な旅の理由もディレィッシュだけには話していたのかもしれない。このディレィッシュの言葉はしっかり心に留めておこう。
「あとさ、俺の機械のせいで壊れちゃったネックレス、直すことは出来なかった。復元する機械を作ることが出来たら、それは世紀の大発明なんだろうな。ごめんね。」
「うん、仕方ないよ。壊れちゃったものは仕方ない。」
 いいんだ、もう。だって、私はもうすでに無事にハッシュに想いを打ち明けることが出来たから。気持ちを知ってくれたことだけでも嬉しいんだ。一人で抱えていた頃よりも、私はすっきりしている。
 ハッシュからの返事は分からずじまいだけど、ハッシュは絶対返事を言いに帰って来てくれるから、その時を気長に待つよ。
 だから、死なないで帰って来てね。私の愛する人。

 私の恋愛大作戦はここでいったん終了。上手く行ってたのかどうかは良く分からないけど、もうこれ以上私に出来ることはないからね。ハッシュが戻ってきた時、もしかするとまた恋愛大作戦を決行しようかな、なんて思う。


fin.
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