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メーデーメーデー、救難せよ①

Category: アルトフールの物語   Tags: *  


「来てしまうのか、この日が。」
「うん。来ちゃうね。」
「大丈夫よ、胃薬や食中りの薬、作ってあるから。」
「てゆーか、お前の姉だろ、何とかしろよ。」
「それを言うなら、ククさんこそ未来の義兄っすよ。何とかして下さいよ。」
「え、そう言われちゃうと照れちゃうな。えへへ。」
「ねぇ、マナのリーダー権限であの二人を外すことは出来ないの?」
「彼らは作りたいと言っている。彼らの意志を尊重しなきゃ。」
「とはいえ、彼らの意志を尊重した挙句、アルトフールに危機が訪れて崩壊してしまったらどうするのさ。」
「…生きることは、必ずしも楽しいことばかりとは限らない。たまにある苦しみも、生きることのスパイスとなり、彩を添えるもの。…ふふっ。」
「あ、マナが笑った。」
「マナ、ぶっちゃけ楽しんでるでしょ…。苦しみって認識できているんだから…。」


chocolate sea 様よりお題をお借りしております。






 
 アルトフールの住人達は、当番表を見ながら戦々恐々としていた。
 なぜならば、明日の食事当番がアリスとディレィッシュだからだ。
 どうしてこの二人にアルトフールの住人たちが怯えるのか。その理由は、彼らの料理スキルの低さにある。
 まずアリスは味覚が常軌を逸している。美味しいものに対しては、間違いなく美味しいと味わうことが出来るものの、そうで無いものに対しても美味しいと認定することが出来る特別な舌の持ち主だ。どんなに生焼けであろうと、逆にどんなに焦げていようとも、塩辛くとも、苦くとも、茹ですぎていても彼女にとっては一種のアクセントとなり、美味に感じられる。
 そしてディレィッシュに関しては、アリス同様味音痴なところがあることに加えて、好奇心が人並み外れている。食材と食材の新たな組み合わせや、味付け、調理方法などが発明王とされる彼の頭脳の全力を用いて生み出される。アリスの常軌を逸した味覚は、彼のユニークな調理センスに火をつけ、更に前衛的な料理が展開される。
そんなアバンギャルドな料理に毎回被害を被るのは、そのほかの健全な舌を持つアルトフールの住人達だ。腹を壊すのは勿論のこと、常軌を逸した味に、錯乱する者、気絶する者、幼児退行する者、一時的記憶喪失になる者など、被害者は後を絶たない。
 では食べなければ良いのだが、そうも行かない。
 リーダー命令でこの二人が食事当番の際は全員食事を取らなければならないという横暴な決まりがあるのだ。
 だが、アルトフールの住人達は今回ばかりは立ち上がる。彼らの料理は生死に関わるから、自分たちの命を守るためにも、彼らの料理をどうにかしなくてはならない。

 そして、翌朝を迎えた。
 皆、青白い顔をして食堂に集まる。まるで通夜が明けた葬式会場だ。
「私、ここで気絶できたらいいな。そうしたら、お昼と夜を食べなくて済むもの。」
 と、クグレックが言う。ニタは「とんでもない!今日は戦うんだよ、勝つためにはクーちゃんの力が必要なんだから。」と言って、ククをなだめる。
 そうこうしているうちに、朝食が配膳された。
 ニタ達がその料理を目にした瞬間、まず目が痛くなった。そして、腐ったような粘っこい鼻につく異臭が辺りを包み込む。茶色と濃い緑色が混ざったペースト状の何かがボウル皿に入っており、脇にはスプーンが添えられている。
「う、またレベルが上がってるよ、殺人兵器の。」
「あれ、ニタ、なんか涙が出て来るんだけど、なんでかな?」
 ニタの向かい側に座るアルティメットが、目から涙を水道の様に激しく流し続けながら、呟く。天使にすら牙を向く、料理に擬態した殺戮兵器。
 ちょうどニタ達のテーブルを通りかかったディレィッシュが、アルティメットの様子を見て、感心しながら言う。
「おお、アルティ、俺達の料理に感激して涙を流しているだなんて!作った甲斐があるなぁ。」
 勘違いするのもほどほどにしろよ、とニタは心の中で思ったが、口には出さなかった。ニタは重要な任務に就いているので、余計なことに気を取られている場合ではない。ニタはじっと食堂の出入り口を見つめる。
 すると、マナがクルガと一緒に食堂にやって来た。
 ニタはその様子を捉えると、(クーちゃん、今だ。)と小さな声でククに合図する。
 ククは、目の前の朝食的なものに対するものから意識を離し、出入り口の二人に集中して何かをぶつぶつつぶやき始めた。傍らではアルティメットが朝食的なものを口に運び「あんまり美味しくないなぁ。」とぽつりと呟いた。「あんまり美味しくない」で済んでいるのはアルティメットだからであろう。
 一方、マナとクルガはニタ達から少し離れたテーブルに着いた。先に座って朝食を胃に流し込んでいたビカレスクと相席する形となっている。
 マナ達にも朝食的な物体が配膳される。マナは表情を変えることなくごく普通にその朝食的なものを口に入れる。一方のクルガは、一口朝食的な物体を口に含んだ瞬間、「うっ」と呻き出し、体をわなわな震わせ、椅子から滑り落ち床に倒れた。その表情は苦痛に歪んでおり、苦しそうだ。ゲホゲホと咳き込んでみれば、クルガは血を吐き出していた。咳き込むごとに吐血するクルガ。顔色は更に青くなり、次第にパタリと意識を失った。
 同席していたビカレスクが慌てて駆け寄る。
「おい、クルガ、大丈夫か?」
 と言って、ビカレスクはクルガの意識を確認し、脈を図る。その瞬間、ビカレスクは顔面蒼白となった。
「嘘だろ?」
 異常事態に、ククも近寄る。
「気絶?」
 そのククの問いかけに、ビカレスクは黙ってゆっくりと首を横に振る。
「まさか、…。」
 ククは最悪の事態を想定してしまい、体を小刻みに震わせる。
「あぁ、その、まさかだ。クルガの脈が、止まっている。クルガは死んだんだ。」
「嘘!」
 食堂にいる皆は、慌ててクルガの元へ駆け寄る。あんなに真っ青だったクルガの顔色は、今や土の様に生気がない。ニタもクルガの死を確認し、「うわぁぁぁぁぁ」と悲痛な叫び声を上げた。
 そんな中でも、マナは平然とした様子で、朝食的な物体を食べ続ける。クルガが死のうと我関せず、と言わんばかりの佇まいだ。そんな様子にニタはぶちぎれた。
「マナ!お前がディッシュとアリスの料理を強制的に食べさせでもしなければ、クルガは死ななかったのに!こんなゴミみたいなものを食べさせる決まり事なんか作るから…!クルガが死んだのは、マナのせいだ!どう責任を取るの!」
 ニタは声を荒らげて、マナに怒りをぶつける。が、マナは知らん顔で、朝食を食べ続ける。そして、すべて食べ終えた時、マナは立ち上がり、胸の前で複雑に指を絡め合わせて手を組んだ。マナはぶつぶつと譫言のように何かを呟く。再び、違う形で複雑に指を絡み合わせて手を組むと、パシン!と何かが割れる音がした。
「こざかしい。ククまで、一体何なの?」
 するとどうだろう、食堂の風景は、何事もなかったかのように元に戻る。クルガはちゃんとテーブルに着いて朝食的なものを涙を流しながら口にかきこんでいるし、ビスクもニタもククも、みんなきちんと席について朝食を取っている。
 だが、その瞬間、ニタのテーブルにいたククが倒れた。ニタがククを慌てて支える。
 ククはたった今マナに幻術をかけ、アリスとディレィッシュの料理を食べてクルガが死んでしまうという幻を見せた。傍に座っていたビカレスクを媒介としたので、強い幻術であるはずだったが、幻術に関して上手でであったマナにはすぐに見破られてしまい、幻術返しをされてしまったのだ。
 朝食的な物体を摂取して弱っていたククに幻術の反動が加わって、ククは倒れてしまったわけである。
「ごめ、ニタ、失敗しちゃった。ちょっと休ませて…。」
 そう言って、ククは眠るように意識を失った。ニタはククを部屋に連れて行き、ベッドに寝かした。
 ベッドですやすや寝息を立てるククを尻目に、ニタは、なんとしてもあのあの味音痴の食事係永久追放を完遂させなければならないことを再認識した。


to be continued...
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