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メーデーメーデー、救難せよ②


<Caution!>
まずい食事の表現を取り扱っていますので、食事中もしくは食事直後の方は閲覧を控えて頂くようお願いいたします。




 
 昼食の時間がやって来た。
 ニタはお腹が痛かった。ゴロゴロ唸っている。あのおぞましい殺戮料理によって仲間たちの3分の1はダウンした。
 ニタとアルティメットは席に着き、料理を待つ。
 問題のリーダーマナは既に席についていた。まだ料理は配膳されておらず、朝と同様にクルガと一緒に席についている。先ほどと異なるのは、相席しているのがビカレスクではなく紅髪の大女のハクアだった。
 ハクアはパステルピンクのマグカップに入った自家製ドリンクを啜っている。
「ハクア、それ何?」
 クルガが尋ねる。
「これ?これはハクア様お手製の自家製ドリンクよ。飲む?今日は悪いものばかり食べるからね、お口直しと体内補修。」
「うう、俺も飲んでみたいっす。…あ、マナも飲んでみる?」
 マナは首を横に振る。
「えぇ、そんなこと言わずに、一緒に飲もうよ。これもどんな味がするかわからないけど。」
「じゃぁ、あげる。ちょっと待っててね。」
 そう言って、ハクアはキッチンの台所から、ハクア特製オリジナルドリンクを注いできた。
 クルガとマナの前に二つのコップが並べられる。
 クルガは置かれるや否やコップの飲み物を一気に飲み干した。
「うー、美味しいとは言えないけど、今朝食べたあの味に比べれば、何倍もましかも。マナも飲んでみなよ。」
 クルガにそう促されて、マナは無表情でコップを見つめている。数秒後、マナはコップを手に取り、クルガの様に一気に特製ドリンクを飲み干した。
「あ、飲んだ。」
 マナはふうとため息を吐いた。
 それと同時に、昼飯が配膳された。
 昼飯はどうやら麺類のようだった。紫色の透明な液体に浸る幅2cmはあるオレンジの平麺。見るからに毒々しい。自慢げに説明するディレィッシュが言うには、この麺はキーマというじゃがいもに似た穀物から作ったものらしい。スープはヨルクジャクの骨から取った鶏がらスープらしい。
 クルガが一口麺を啜ってみると、途端にクルガは大きく咳き込んだ。
「ぶ、臭い!どぶのようなにおいがする!そして渋い!舌がひりひりする!」
 ハクアもクルガの様子を見た後に、顔をひきつらせながら麺を口に入れる。
「臭いし、麺の食感も気持ち悪い。ゴムみたいにぼそぼそしてるけど、すぐに切れる。うっ。」
 そう言ってハクアは口を押えて立ち上がるが、寸でのところで堪えた。体がその昼飯らしき物体を摂取するのを拒んだのだろう。
 二人の様子を見てから、マナは相変わらず平然とした様子で麺を口に運ぶ。
「?」
 マナは首を傾げながら、もぐもぐと麺を咀嚼する。ごくんと飲み込み、マナは不思議そうに昼飯らしき物体を見つめる。そして、しばらくすると、マナの頬を一筋の涙が伝った。
「…まずい。」
 そう一言だけ呟くと、マナは箸を置いた。
 傍にいたハクアとクルガは、マナのその言葉を聞き漏らすはずがなく、そして、想定外の言葉に驚いた様子で「え?」と聞き返した。
 すると、マナは返事を返す代わりに、何度か苦しそうに「うっ」と喉を詰まらせる仕草をして見せた。異常な状態に、クルガは呆然とする。が、ハクアは焦った様子で「マナ、吐くよ!」とクルガに向かって叫んだ。クルガはハッとして、「え、え、」と言いながら慌てて辺りを見回すが、受け止められるものはない。とっさの判断で、まだ一口しか手を付けていない自分の昼食の皿を差出、マナの吐瀉物を間一髪で受け止めた。
「ふう、危ない危ない。」
 そうクルガが安心したのも束の間、マナは吐き出すものを吐き切ると、気を失って倒れ込む。クルガは慌てて皿を置いて、マナを支えた。
「って、マナ?大丈夫?」
 マナからの反応は、ない。
 マナは大きく肩を動かして、気管からひゅうひゅう息を漏らしながら、意識を失っているようだ。もしくは眠っているのかもしれない。
「薬、強すぎたかも。」
 ハクアが申し訳なさそうに呟く。
「…これは、特製ドリンクに混ぜた薬のせいなんすかね。」
「わからない。けど…。マナは『まずい』って言ってた。薬はしっかり効いて、マナに味覚は戻ったのだと思いたい。」
「やっぱりマナは味覚をなくしていたのか。」
 ビスクとニタが近寄って来て、マナの様子を見る。
「正確には、必要ない、のでしょうね。味覚がないということは、毒を口にしても、体が危険と察知できないことなのだけど、マナの場合は不老長寿で、ちょっと化け物じみたところがあるの。その一つが、抗毒耐性なのだと思うわ。悪い物を食べても効かない、こと。あの子、ネクロマンシーやってて化け物じみてた時は平気で生肉やら腐った肉を食べていたはずだわ。」
「アリスやディレィッシュもそのコウドクタイセイってやつ持ってるんすか?」
「持ってないわよ。あの二人は普通にお腹下したりしてるわよ。ただ味音痴の人が作る料理って特徴があるの。教えてあげるけど、それは、味見をしないこと。だからあの子たちは自分たちが作った料理を提供できるわけ。」
「な、なるほど。」
「まぁ、アタシはマナはそうだと見込んで、劇薬を作らせてもらったわ。猛毒を持つ原料を使って味覚を一時的に回復させてみたわ!普通の人にとっては毒だけど、振り切れたマナには十分聞くと思うわ。」
「じゃぁ、これは、大成功なのか?」
 と、ビカレスクが問うと、ハクアは表情を曇らせる。
「…いや、凄く強い薬、というよりも劇薬だから、マナが無事かどうか分からないのよね…。」
「ん、てことは、マナが倒れたのは料理のせいではなく、薬のせい?」
「無きにしも非ずだけど…。」
 マナの容体が危機にさらされると知って、黙っていられないのはクルガだった。クルガはマナを抱きかかえ、「マナを部屋で安静にさせて来るっす!」と言って、不安げな面持ちで食堂を出て行った。そんなクルガにハクアは「水、たくさん飲ませて。」と声を送った。
「う~ん、でも、死にはしないと思うんだけどね。マナならば。」
 苦笑いを浮かべるハクアに一同は表情を暗くした。

 
*******


「許さない。ハクア、許さない。」
 マナの部屋にて、クルガは当惑していた。
 ハクアの予測通り、マナへの副作用は軽度で済み、マナはすぐに意識を取り戻した。
 だが、マナは目覚めてから、起き上がることもなくずっと天井の一点を見つめてハクアへの恨みの言葉を譫言の様に呟いている。瞳孔も開いており、相当やばい状態だ。マナが一体何に対して強い怒りを覚えているのか、見守るクルガには皆目見当もつかなかったのだが、久々にマナが怒りを露わにする様子をみて、喧々諤々としていた。
「マ、マナ、一体何をそんなに怒っているの?」
 恐る恐るマナに質問してみるクルガであったが、マナは「ハクア許さない」を譫言のように呟いている。
こわい、とクルガは感じたが、男の意地が、彼をそこから逃げさせようとしなかった。
「マナが許せないのは、ハクアがマナのことを貶めたこと?それとも、味覚を回復させてまで食べさせたのが、ディッシュとアリスの料理だったこと?」
 マナの呟きは止まった。クルガの声はマナに届いているのかもしれない。
「マナは、ずっと味が分からなかったの?」
 返事はない。
「もしも、本当にそうだったならば、皆、マナにはひどいことしちゃったかもしれないね。ハクアの薬のせいだけど、でも、あれは皆の意志だったから…。マナがあの二人の料理を食べれば、皆の気持ちを分かってくれるかなと思ったけど、でも、そういう問題じゃないよね。マナにとっては。」
 マナの譫言が止まり、それと同時にマナから発せられていた禍々しい雰囲気も掻き消えた。
 クルガは何ともなしにマナを見遣る。マナは相変わらず黙って天井を見つめているが、その人形のように白い頬には一筋の涙が伝っていた。クルガは当惑し、どのように声をかければいいのか分からなかった。マナの涙をクルガは初めて見た。
 きっとクルガがマナに質問したところで、マナは答えてくれるはずがないだろうと思い、クルガは不安げにただ黙ってマナを見つめることしかできなかった。マナ独特の朱い部屋に包まれながら静寂が流れる。
 すると、マナが再び譫言の様に言葉を発する。
「味が分からなくなったのはもう100年も前のこと。それから私は化け物となり、滅亡と再生の大陸をアンデッドとともに彷徨った。人間の肉や腐ったアンデッドの肉を食べてしまう位に化物になっていた。それでも私は故郷の味を覚えている。何も感じ取れない舌だけど、あの味は覚えている。」
 マナの目から、また一筋の涙が伝う。
「昔を後悔することは愚。だけど、久々に私の舌が味を感じた。すごく、嬉しかった。」
 クルガの心はマナにまずい料理を食べさせてしまった罪悪感に包まれる。
「みんなの食事は、いつも愛がこもってるから、心が満たされる。だから、好き。けど、味を感じることって、また違うこと。」
 マナは静かに目を閉じる。そして、しばらくすると、すー、すーと安心した寝息が聞こえて来た。クルガはそっとマナの頬の涙の跡を拭ってあげた。
 その日、マナが目を覚ますことはなかったが、クルガはずっとマナの傍に着いていた。

*******


 リビングに新しく当番表が貼りだされた。
 アルトフールの住人達は戦々恐々としながら、当番表を見つめる。
 当番表を作成するのは、マナの世話係であるアリスの役目だが、最終確認はマナが行う。だから、実質的にはマナが当番に関する権限を握っていた。
「な、ない!食事係にアリスとディレィッシュの名前がない!」
 当番表に集まる人だかりの中でどよめきが起こる。食事係からのアリスとディレィッシュの追放は皆願ってもやまないことだったが、いとも容易く完遂されているとは。
 しかもよく見ると、食事係の当番表の下の欄外に『アリスとディレィッシュはクグレックより調理技術を教わること。クグレックより承諾を得ない限りは食事当番なし』とマナの字で但し書きがされていた。
「ど、どういうこと?」
 当惑する住人達。その中の一人であるククも、事情がつかめずにいた。
「それはね。」
 後からリビングに現れたハクアが意味ありげに声をかけた。
「マナ、まずいものは食べたくないんだって。皆の料理は皆が作ってくれるから、喜んで食べてたけど、でも、それでもまずいのはダメだって。アリスとディレイッシュはこっぴどくマナにお説教されてたわ。」
 そう自信ありげに話すハクアは、目の下に真っ黒な隈を作っていて、やつれている。
「ハクア、クマ酷いけど、どうしたの?」
「え、これ?マナの味覚を回復させたのに、アリスとディレィッシュのゲテモノ料理を食べさせ、そして、味覚回復薬の副作用でマナを苦しめたことがどうやら彼女の逆鱗に触れたらしくて、アタシ、どうやらマナに呪われてみたいなの。いやー、もう毎晩金縛りとか幻覚幻聴も酷くてねー。昨日やっと許してもらえたのよ。」
 そういえば、アリスとディレィッシュの料理の一件以来、だれもハクアの姿を見ていなかった。あっけらかんとして事情を話すハクアに、皆困惑すると共にマナの怖さを思い知るのだった。
「因みに、アリスとディレィッシュも呪われてたみたいよ。、ま、アタシ達のリーダーへの抗議はしっかりと受理されたんだから、頑張った甲斐があるわよね。」
 ハクアの真っ黒なクマを見ながら、住人一同は心の中でハクアに感謝した。
 
 こうして、アルトフールの食事事情に平穏がもたらされた。
 犠牲は大きかったが、何とかしてアリスとディレィッシュの食事当番追放は認められたのだ。やはり食事は美味しいものを食べて、胃だけではなく心も満たすものなのだ。
 リーダーマナは、結局薬の効果は一時的で味覚は戻ることがなかったが、いつか味覚が戻るその時のことを心待ちにすることに決めた。


Fin.
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 2014_05_14

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