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ククとハクアの惚れ薬①

Category: アルトフールの物語   Tags: *  

魔女の薬は一人のエゴイズムを満たすもの。
本当の幸せは訪れることはないけど、欲望を満たすために人々は魔女の秘薬を欲する。

強大な魔力を持った魔女なのに魔女であることを嫌がる平和主義者のクク
天才治癒術師だけどまるで魔女のよう狡猾で意地悪な性格のハクア

対照的な二人が協同で魔女の秘薬のうちの1つ『惚れ薬』を精製する。






 

 ハクアの本にまみれた部屋に表れたのは、ククだった。彼女は鬼気迫る表情をしている。
「ハクア、私に惚れ薬のつくり方を教えてほしいの。」
「この時を待っていたわよ。魔女クグレック。」
 口元にうすら笑みを浮かべてハクアは承諾する。
 ハクアはこれまで何度もククに惚れ薬精製の話を持ち掛けていた。だが、自分の恋愛に魔女の力を使いたくないというククの頑なな心を前に頓挫していた。魔女が作る本物の惚れ薬を販売すれば、高価で取引されるだろうと、常日頃から思っていたのだ。
「惚れ薬のレシピはそこの本に書いてあるから、読んで御覧なさい。」
 ハクアが指差した先にある書物を取り上げると、ククは一心不乱にその書物を読み始めた。
 魔女のレシピ集は料理のレシピ集のように分かりやすく書かれていない。どういうわけか古い言葉で詩のように記述されているから難解で理解するので一苦労だ。

『満月の光が想いを抱く。血が滴るような紅の薔薇の真髄を絞り出し、香しいその御香は月光落とし込まれた乙女の泉水を満たす。花の蜜壺と雪の糖蜜があの人を誘う。その眼差しはあなただけを見つめる。クピドを虜に満月の女神を降臨した時、アーユスとヴェヌスの粉を蜜に閉じ込めよ。女神に誓約せよ。希え。女神は月光の詩を所望する。熱情の空気に絶頂に達する詩を詠え。月光に湛えよ。さすれば夜明け前に、汝の望みは叶うだろう。』



「まぁ、作り方に関しては難易度はそんなに高くないわね。アンタのためにもノーヒントで行くから、自分で解読してごらんなさい。解読結果をまとめてくれたら、答え合わせをしましょう。一応、そこの本棚に辞典はあるから参考にしなさい。」
「分かった。」
 そうしてククはハクアの部屋を出て、レシピの解読に励んだ。
 魔女のレシピは慣れれば解読も楽になるらしい。だが、ククは魔女の知識の一切を忌み嫌って学んで来なかったため、そのコツが分からなかった。ハクアはククの魔女としての素質を買っているので、時々魔女に必要な知識が集約された書物をククに貸し出して読ませている。
 一週間後、ククは惚れ薬のレシピの解読に成功したので、答え合わせのために、ハクアの部屋を訪れた。ハクアはいつもの通り机に向かっていたが、ククが訪れると、静かに向き直り、口元に薄ら笑みを浮かべ、足を組んで居構える。
「来たわね、クグレック。答え合わせをしましょう。まずは材料から。」
 ククにはそんなハクアの様子が少しだけ嬉しそうに見えたが、ククには理解できなかった。
「薔薇の精油、上白糖、蜂蜜、湧き水、金粉、ムクナ豆の粉末、シナモンパウダー。」
 ククは淡々と答えた。
「他は?」
「…私が必要だと思ったのは以上だわ。」
「そう。残念。足りないわ。クピドと満月の女神の召喚方法と術式は?あと、乙女の泉水は理解できている?」
「えっと、エウロパの魔法陣を基盤にしてクピドと満月の女神の文言を融合する。確か、赤で魔法陣は作らなければならないはず。」
「まぁ、略式はそれでいいかな。でも、正式に行うならば、クピドは赤鉄鋼で、満月の女神はルビーで魔法陣を作る必要があるわ。」
「それは知らなかった。」
「で、乙女の泉水は?」
「それは理解できなかった。」
「これはまんま取りなさい。乙女の涙が必要ってことよ。乙女って何かわかる?」
「…分からない。」
「初潮を迎えて、処女を保ち続けた女性のことよ。ククの涙でも、大丈夫だと思うわ。」
「処女って何?」
「は?あんたそんなことも知らないの?本気?」
 知っていて当然でしょう?と言わんばかりに聞き返すハクアに、ククは不快な気持ちを抱いたが、こうやって人を挑発するような話し方をするのがハクアなのだ。ククは、ふうと一息吐いてもやっとした嫌な感情を吐き出した。
「私は世間知らずなところは沢山あるけどさ。」
「…まぁ、これに関してはおいおい話すわ。とりあえず今回はアンタの涙ね。とりあえず必要な材料は以上よ。3つ足りなかったわね。これくらいのレベルなら分かって欲しかったけど、まぁ、これから勉強していきましょうね。」
 ハクアは腹に何かを隠したような黒い笑みを浮かべる。「御免こうむる!」とククは拒否したかったが、ハクアの放つオーラに蹴落とされて、何も言うことが出来なかった。
「さぁ、じゃぁ、次は精製方法ね。どうだったかしら?」
「満月の夜に精製しなきゃいけない。湧き水に薔薇の精油を1滴加えて、あ、多分乙女の涙を加えた湧き水かな。で、その後上白糖と蜂蜜も加えてクピドと満月の女神の魔法陣に捧げる。そしてクピドと満月の女神の召喚儀式を行って更にシナモンパウダーとムクナ豆の粉末を加えて、女神に古代の劇の「エルピティウム」の一説を唱和して、一晩放置する。太陽が昇る前に回収することが出来れば、惚れ薬は完成。」
「そうね。正解。分量は大丈夫?」
「前に作った興奮薬の応用で良さそうだと思ったんだけど…。」
「正解。あと、エルピティウムの一説とは?」
「闇は何も隠さない。貴方は私の全てを照らす。闇を打ち消さずにあなたの輝きが私を魅了する。その柔らかな甘さで私を優しく噛んで頂きたい。」
「それ、古代ヘレニア語でね。」
「分かった。」
「まぁ、それでいいわね。じゃぁ、次の満月の晩から精製しましょう。材料の準備から全て満月の夜にやらなきゃダメだからね。薔薇の精油も満月の夜に行うのよ。温室に薔薇は育ててあるから、収穫は次の満月の時にやるわよ。時間がかかるかもしれないけど、やるわよ。」
 ハッシュが戻ってきたら、ククはハッシュにこの惚れ薬を使って、好きになってもらうのだ。ハッシュは戻ってきたら告白の返事をくれると言っていたが、それがククにとって嬉しい返事であるかどうかは分からない。ずるい手なのかもしれないが、ククはハッシュの傍にいたかった。
 
To be continued….
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 2014_05_17

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